歯科医院の監査までの流れは?対象になったら?専門弁護士が解説

最終更新日: 2024年05月14日

厚生局から監査実施通知が届いた!

監査に向けてどのような準備が必要なのか?

監査をされたら保険診療はできなくなってしまうのか?

ほとんどのケースでは、監査手続の前に個別指導を受けていますが、稀に個別指導を経ずに監査の実施通知が届く場合もあります。

いずれにしても、地方厚生局による監査を受ける場合、事態は深刻です。監査では半分のケースで保険医療機関の指定・保険医の登録の取消処分がなされているからです。

今回は、歯科医院に対する厚生局による監査に詳しい弁護士が、監査の制度やその対処法について解説します。

個別指導・監査に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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歯科医院への監査とは

まず、監査と個別指導との違い、監査に至るまでの流れ、そしてどのような場合に監査対象となるのかについて見ていきましょう。

個別指導と監査の違い

個別指導は保険診療や診療報酬請求について周知徹底することを目的とした教育的な手続です。

一方の監査は、保険診療の内容や診療報酬の請求について不正・不当がある場合に、保健医療機関の指定や保険医の登録について取消処分、戒告又は注意という行政上の措置を念頭に行われる手続きです。

制裁を目的とする手続きと言ってよいでしょう。

統計によれば、令和3年に保険医療機関(歯科)で個別指導の対象となったのは372件、監査対象となったのは24件、取消処分・取消処分相当となったのは14件でした。このように監査対象となると半数が取消処分・取消処分相当となります。

監査実施までの流れ

個別指導を経ずに監査から始まるケースは稀でほとんどのケースは個別指導から監査に移行します。個別指導において不正・不当が見受けられ、監査の必要性があると厚生局が判断した場合、個別指導が中止されます。

厚生局はレセプトなどの書面調査と患者等への実地調査を行います。調査の結果、監査を実施すべきとの判断に至った場合、個別指導が中止され、歯科医院に対して監査実施通知がなされ、監査手続が行われます。

個別指導が始まってから1年以上も経ってから監査実施通知が届くということもありますので、何も音沙汰がないので無事解決したのかと思っていたのに監査実施通知が届いて慌てることもあります。

ほとんどのケースでは個別指導を経て監査に移行しますが、刑事事件で有罪判決が出たことを報道などで厚生労働省が認知した場合、既に刑事裁判で不正の証拠は揃っているため個別指導は経ずに最初から監査を実施するケースもあります。

監査の結果、保険医療機関の指定や保険医の登録に対する取消処分がなされると、5年間は保険診療ができなくなります(健康保険法65条3項1号)。

監査の選定対象

監査対象となるのは以下のいずれかの場合です。

  • 診療内容に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  • 診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  • 度重なる個別指導によっても診療内容又は診療報酬の請求に改善が見られないとき
  • 正当な理由がなく個別指導を拒否したとき

診療内容・診療報酬請求の不正・不当の例

前記のとおり、診療内容や診療報酬請求に不正や著しい不当があった場合に監査対象となります。

診療内容の不正・不当とは専ら療養担当規則に反する場合です。例えば、診療録の未記載や不実記載、一部負担金の未収受や受領額の不当、非保険医や非医師に保険診療を行わせた場合などが診療内容の不正・不当に該当します。

診療報酬不正請求には以下のような類型があります。

架空請求実際には診療していないのに診療報酬を請求した場合
付増請求診療行為の回数、日数、数量等を実際よりも多く計上して診療報酬請求をした場合
振替請求実際に行った診療内容とは異なる、より保険点数の高い他の診療内容に振り替えて診療報酬請求をした場合
二重請求同一の診療について患者から自費で料金を受領するとともに、保険でも診療報酬請求をした場合
重複請求既に診療報酬を請求済みの診療について再度、診療報酬を請求した場合
その他施設基準を満たさない請求、無資格者に診療行為をさせた場合の請求、業務上の傷病についての保険請求、保険診療と認められないものの請求など

歯科医院への監査と事前調査

厚生労働省のマニュアルには監査は取消しありきで行うものではないと記載されてはいますが、現実は、取消処分を念頭に地方厚生局は準備してきます。

地方厚生局はまずは事前調査をして、その後、監査を実施します。以下順番に見ていきましょう。

事前調査

厚生局は監査実施決定の前の事前調査として、レセプトによる書面調査と患者等に対する実地調査を行います。

患者調査では、対象となっている保険医療機関が患者にわからないよう配慮するようにと厚生労働省のマニュアルに記載はされています(医療指導監査業務等実施要領(監査編)P14)。しかし、どの保険医療機関であるのか患者には察しがつきますので、何か問題を起こしたのではないかと自院の評判を落とす恐れがあります。

調査担当者は、治療内容、処方薬、一部負担金の支払などについて患者から聴取し、患者調査書にその内容をまとめて患者の署名をもらいます。厚生局は取消処分を念頭に準備をしていますので、担当者による誘導によって事実が歪曲され厚生局のシナリオに沿った内容の患者調査書が作成される恐れがあります。

患者調査は強制ではなく患者の任意の協力を求めて実施されますので、調査に協力しない方の方が多いようです。もっとも、監査対象となるのは患者調査が実施された患者だけではないので、レセプトなどの関係書類から不正を認定されることもあります。

指導・監査・処分取消訴訟支援ネット:医療指導監査業務等実施要領(監査編)

監査の流れ

事前調査の結果、監査を実施すべきとの決定がなされると、厚生局から保険医療機関へ監査実施通知が届きます。

監査実施通知は、監査日の1週間から10日前に届き、正当な理由なく欠席すると取消処分となってしまいます。監査は1回では終わらず、2、3か月おきに合計で5回から10回も開かれるケースはよくあります。

監査当日は、午前9時半頃から17時頃まで休憩を挟みながら行われます。厚生局側は7,8人が参加しますが、質問をしてくる担当者は2,3人でその他は書類の精査を行います。

質疑応答の内容は問答形式の聴取調書が作成され、その内容に間違いないかを確認の上、署名捺印を求められます。

また、患者に対する診療について患者個別調書が作成されます。不正・不当請求の内容、点数、金額を記載されており、その内容に誤りがないか確認をして、弁明欄へ弁明を記載することを求められます。

弁明欄は小さいため、欄内に収まらない場合は欄外や裏面に記載することも可能です。案外、患者個別調書の内容や金額は誤っていることが多いので、時間をかけても慎重にチェックして誤りがあれば弁明欄にしっかりと記載することが重要です。

厚生局はこれらの聴取調書、患者個別調書などの資料を根拠として、取消処分、戒告、注意のうちいずれの行政上の措置を行うべきか判断します。

留意点
  1. 弁護士は委任状を提出して帯同して保険医に助言は可能ですが、保険医の代わりに回答はできません。
  2. 保険医自身による指導内容の確認が目的と説明すれば、録音は認められます(医療指導監査業務等実施要領(監査編)P28)。必ず録音します。
  3. 個別指導とは異なり、厚生局には診療録、関係書類のコピーをする権限がありますのでコピーを拒否できません(健康保険法第78条)。

歯科医院への監査の結果

監査が終わると最終的に行政上の措置が決定されます。

監査の結果

取消処分が相当と判断されると聴聞手続に進みます。戒告、注意の場合にはその旨の通知を受けて手続は終了し、一定期間内に個別指導が実施されます。

取消処分

  • 故意に不正又は不当な診療を行ったもの
  • 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
戒告

  • 重大な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
注意

  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの

※故意とは、自分の行為が一定の結果を生じることを認識し、かつ、この結果を生ずることを認容することをいいます。また「故意」の認定は、聴取内容や関係書類の客観的事実をもって判断されます。

※「重大な過失」とは、医療担当者として守るべき注意義務を欠いた程度の重いものをいい、「軽微な過失」とは、その程度の軽いものをいいます。

※「不正」とは、いわゆる詐欺、不法行為に当たるようなものをいい、「不当」とは算定要件を満たさない(診療録に指導内容の記職が不十分である等)ものをいいます。

※「しばしば」とは、1回の監査において件数からみてしばしば事故のあった場合及び1回の監査における事故がしばしばなくとも監査を受けた際の事故がその後数回の監査にあって同様の事故が改められない場合をいいます。

聴聞手続

監査の結果、取消処分にすべき事実があると判断された場合、厚生労働省保険局長への取消に係る内議がなされます。その後、行政手続法の聴聞が厚生局の会議室などで実施されます。

聴聞に向けた準備として、内議資料送付書、内議書、社会保険医療担当者監査調査書、聴取調書、患者調査書、患者個別調書、弁明書を閲覧します。法律上は閲覧のみが認められており、コピーを許可するかどうかは各厚生局の裁量に委ねられています。

個別指導や監査では弁護士は代理人としての答弁はできませんでしたが、聴聞においては、保険医の代理人として答弁できます。手続きは原則非公開です。

厚生局側は10人以上が参加することもあります。不利益処分の原因事実が読み上げられた後、それについて保険医側は認否を述べ、意見や証拠書類の提出を行います。全く同じ手続が保険医療機関の開設者と保険医それぞれの立場で2回行われます。

厚生局は聴聞を実施する時点では既に取消処分とする方針をほとんど確定させているため、聴聞は形式的なセレモニーとして実施する傾向にあります。弁護士は意見書を提出して、患者個別調書の誤りを指摘したり、取消処分が相当でないことを主張します。特に患者個別調書の内容に誤りがあることは多いため、その点を指摘することが重要です。

聴聞の後、厚生局は地方社会保険医療協議会に諮問し、答申を得て、速やかに地方厚生局長が取消処分を決定し、取消処分の決定通知書が保険医療機関へ送付され、通知書の到達時に取消処分の効力が発生します。聴聞期日から1か月ほどで処分の通知がされます。

通知・公表

戒告・注意の場合は公表されませんが、取消処分の場合は記者発表され、健康保険組合連合会、医師会等へ通知されます。

経済上の措置

監査の結果、診療報酬請求に不正・不当が認められた場合、当該事項について監査開始日の前月から5年前以降の分の5年間分について返還する必要があります。不当とされたものは実額を不正とされたものは1.4倍を返還しなければなりません。

歯科医院への監査の対処法

以上で監査という制度についてお分かりいただけたかと思います。では、監査対象になったら、いかに対処すれば良いのでしょうか。

監査対象になると半分のケースで取消処分になってしまいますが、取消処分にならないためにはどのように対処すれば良いのでしょうか。

以下、監査の対処法のポイントについて説明します。

個別指導の対策をしっかりと行うこと

ほとんどの場合、個別指導を経て監査に移行しています。つまり、個別指導から監査に移行しなければ取消処分は回避できるのです。そのため、何より監査に移行しないよう、個別指導の対策をしっかり行うことが最も重要です。

悪質なケースでなければ弁護士に依頼をして十分な対策を行えば、多くのケースで個別指導から監査への移行は回避できます。

指示されたものは漏れなく持参する

個別指導とは異なり監査で持参を指示される書類はカルテ一式など膨大です。監査実施通知が届くのは監査日の7日から10日ほど前ですからあまり時間がありません。監査の実施が見込まれる場合は、実施通知が届く前から準備を始めるべきです。

書類の修正、訂正をしっかりと行う

監査で作成される聴取調書、患者個別調書は最終的な処分を決めるための重要な根拠資料となります。そのため、ニュアンスも含めて記載内容は慎重に確認し、必要があれば行政側に遠慮することなく修正を求めることが重要です。

感情的にならない

担当者からは咎められるような指摘や高圧的な言動をされて苛立つこともあります。しかし感情的になってしまうと、冷静さを欠き、自身に不利な発言をしてしまう恐れがあります。

常に冷静に落ち着いて対応しましょう。

迷ったら発言しない

担当者の質問の意図がわからない、回答すべきか、いかに回答すべきかわからないということもあります。

このように迷った場合に、そのまま回答してしまうことは控えるべきです。それが大きく不利になる恐れもあるからです。回答に少しでも迷ったときは帯同している弁護士に相談しましょう。弁護士は必要と判断すれば休憩を申し出て、別室で回答方針について打合せをしてくれます。

厚生局による歯科医院への監査で弁護士に依頼するメリットと費用

以上説明をしてきましたとおり、監査においても弁護士を付けることが取消処分を回避するために重要となります。最後に、監査において弁護士へ依頼するメリットや弁護士費用について説明します。

監査で弁護士に依頼するメリット

まず、厚生局が不正・不当と考えている点を想定して、監査日における回答の準備をしっかりと行うこが監査対策で重要となります。弁護士はこのような準備に協力してくれます。

次に、監査日における厚生局側の厳しい追及を抑止できる点があります。
帯同した弁護士は、捜査機関による取り調べかと思われるような厳しい追及や十分に弁解する機会を与えないような不適切な手続きを防止して、十分な防御を可能としてくれます。

3点目として、不利な回答を防止して適切な回答ができるようサポートしてくれます。長時間の監査では油断をして不用意な発言をしてしまうことがあります。弁護士が帯同することで、そのような不利な発言を防止して取消処分の可能性を低下させます。

弁護士費用

当事務所の弁護士費用は以下のとおりです。

帯同のみ
  1. 個別指導 22万円
  2. 監査 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
個別指導対応
  1. 着手金 33万円
  2. 要監査にならずに終結した場合の報酬 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
監査対応
  1. 着手金 55万円
  2. 取消にならなかった場合の報酬 110万円

まとめ

以上、歯科医院への監査に詳しい弁護士が解説しました。

いかに対応すべきかわからず十分な準備ができなかったために個別指導から監査に移行してしまったという歯科医の先生もおられます。そして、監査においては行政側のペースで手続きが進んでしまい、あっという間に取消処分となってしまったというケースもあるようです

個別指導の段階から弁護士が入って対策を行えば取消処分を回避できる可能性は高まります。監査に移行してからであっても、早期の段階で弁護士が入れば戒告や注意で終われる可能性は高まります。

個別指導や監査の実施通知を受けた歯科医院の方は、一日も早く弁護士にまずは無料でご相談ください。

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