歯科への個別指導や新規指導は油断禁物!専門弁護士が解説
最終更新日: 2024年05月14日
地方厚生局による個別指導とは何をするのか?
保険診療はできなくなるのか?
個別指導にはどのように対処したら良いのか?
個別指導の実施通知はある日突然送られてきます。研修程度のものであろうと軽く考えてしまう先生もおられるようですし、不安で一杯になりながらも然るべき相談先がわからず日々が過ぎてしまうという先生もおられるようです。
個別指導はただの研修ではありません。しっかりとした対策をとらなければ保険医療機関の指定、保険医の登録を取り消される恐るべき手続きです。
今回は、歯科に対する個別指導に詳しい弁護士が個別指導について徹底解説します。
歯科に対する個別指導や新規指導とは?
個別指導の法的位置付けは行政手続法の行政指導です。歯科医院、歯医者に対する地方厚生局による指導には、以下の4種類があります。
- 集団指導
- 集団的個別指導
- 個別指導
- 新規指導
以下、それぞれについて簡単に説明します。
集団指導
集団指導とは、新規指定を受けてから概ね1年以内の全ての歯科医院に対して実施される指導です。また、診療報酬改定時や保険医療機関の指定更新時、保険医の新規登録時にも指導の目的、内容を勘案して対象者が選定され、実施されます。
集団指導は、保険診療や診療報酬請求事務について講義方式で行われます。出欠は確認されますが、他の指導とは異なり、欠席したとしても特にペナルティはありません。
このように講義形式の集団指導については特に事前に準備すべきことや対策はありません。
集団的個別指導
集団的個別指導とは、レセプト1件あたりの平均点数が高い歯科医院を対象に実施される指導です。
選定対象の要件は以下2点です。
- レセプト1件当たりの平均点数が都道府県の平均点数より1.2倍(病院は1.1倍)を超え
- 前年度及び前々年度に集団的個別指導又は個別指導を受けた保険医療機関を除き、類型区分ごとの保険医療機関の総数の上位より概ね8%の範囲
平均点数は自院を管轄する地方厚生局のホームページに掲載されています。また、開設者・管理者が電話で問い合わせると、地方厚生局は自院の点数について回答してくれることになっています(医療指導監査業務等実施要領(指導編)P55)。
集団的個別指導は、講習方式で行う集団部分と、少数のレセプトに基づき面接懇談方式で行う個別部分で構成されています。しかし現在は、ほとんどのケースで約2時間の集団部分だけが実施されています。
前記のとおり集団指導は欠席をしてもペナルティはありませんが、集団的個別指導は正当な理由なく拒否すると、個別指導の対象となります。欠席の正当理由にあたるか否かは厳しく判断されます。集団的個別指導が実施された翌年度も高点数の場合、翌々年度には個別指導がなされます。
集団的個別指導も集団部分のみの場合は、集団指導と同様、特に事前準備や対策の必要はありません。
都道府県個別指導
以上のとおり、集団指導と集団的個別指導については、取消処分を受ける可能性はほとんど考える必要はなく、恐れる必要はありません。十分な準備と対策が必要となるのは都道府県個別指導と新規指導です。
都道府県個別指導とは、以下の理由によって選定された歯科医院に対して実施される指導です。都道府県個別指導は、元職員や患者からの情報提供(下記1点目)がきっかけのケースが多いようです。
都道府県個別指導は正当な理由なく拒否すると、監査の対象となります。指導方法や指導結果については後の項目で説明します。
- 支払基金等、保険者、被保険者等から診療内容又は診療報酬の請求に関する情報の提供があり、都道府県個別指導が必要と認められた保険医療機関
- 個別指導の結果、「再指導」であった保険医療機関等又は「経過観察」であって、改善が認められない保険医療機関
- 監査の結果、戒告又は注意を受けた保険医療機関
- 集団的個別指導の結果、指導対象となった大部分の診療報酬明細書について、適正を欠くものが認められた保険医療機関
- 集団的個別指導を受けた保険医療機関のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険医療機関に該当するもの(ただし、集団的個別指導を受けた後、個別指導の選定基準のいずれかに該当するものとして個別指導を受けたものについては、この限りでない。)
- 正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した保険医療機関
- その他特に都道府県個別指導が必要と認められる保険医療機関
新規指導(新規個別指導)
新規指導とは、新規指定から概ね6か月経過後1年以内に実施される指導です。
新規指導は教育的指導とはいえ、同じく新規指定後に実施される集団指導とは異なり、指導内容によっては監査手続に移行し、保険医療機関の指定、保険医の登録を取り消されるケースがあります。開業したばかりで保険診療のルールに無知な状態だと、開業早々に保険診療ができなくなり廃業に追い込まれる恐れがありますので油断は禁物です。
なお、医科で新規指導の対象となる医療機関は30%ほどであるのに対し、歯科は90%以上が新規指導の対象となっていますので、自院も新規指導の対象となると考えた方が良いでしょう。
歯科に対する個別指導の流れと結果
次に、歯科医院、歯医者に対する個別指導の流れ、個別指導の結果について説明します。
個別指導の流れ
個別指導の流れは以下のとおりです。
実施通知~指導日
個別指導日の約1か月前に実施通知が届きます。そして、個別指導日の1週間前に20人分の、前日の正午までに10人分の指導対象患者名がFAXで通知されます。
指導日当日
個別指導は地方厚生局の会議室で行われます。厚生局と都道府県の職員が5人前後と歯科医師会から派遣される立会歯科医師が参加します。
指導日当日は、原則、指導日の概ね6か月前の連続した2か月分の診療報酬明細書について面接懇談方式で、つまり口頭の質疑応答で行われます。指導時間の長さは2時間です。
事前に厚生局から依頼されていた資料を持参しなかったり、対象患者の保険診療等について十分な回答がなされなかった場合や、診療内容などに不正・不当の疑義が生じた場合などには、予定時間内に指導を終えることができないとして、その日では終結せずに個別指導を中断され、後日再開されることになります。
また、個別指導する中で、診療内容や診療報酬請求について明らかに不正又は著しい不当が疑われる場合には、個別指導が中止され、必要に応じて患者調査を実施の上、監査に移行されてしまいます。
指導担当者は、個別指導が終了すると、保険医療機関に対し、口頭で指導の結果を説明します。
- 弁護士は委任状を提出して帯同できますが、代理人として保険医の代わりに回答することはできません。
- 保険医自身による指導内容の確認が目的であると説明すれば、録音は認められます(医療指導監査業務等実施要領(指導編)P68)。必ず録音します。
- 厚生局に診療録のコピーをする権限はなく、保険医療機関に応じる義務はありません。不利な材料を見つける機会を提供するだけですから、決してコピーに応じてはいけません。
指導日以降
指導の結果と指導後の措置について、原則として指導日から1か月以内、遅くとも概ね2か月以内には、地方厚生局は文書によって保険医療機関に通知することとなっています。
そして、保険医療機関は指導結果の通知後1か月以内に改善報告書を提出します。指導対象となったレセプトのうち返還が生じるもの及び返還事項に係る全患者の指導月前1年分のレセプトについて、自主点検の上、返還をします。
新規指導と都道府県個別指導の比較
対象患者の通知 | 新規指導 | 指導日の1週間前に10名分を通知 |
個別指導 | 指導日の1週間前に20名分、前日に10名分を通知 | |
指導時間 | 新規指導 | 1時間 |
個別指導 | 2時間 | |
自主返還 | 新規指導 | 対象レセプト分のみ |
個別指導 | 指導月以前1年分 | |
正当な理由なく拒否 | 新規指導 | 個別指導へ |
個別指導 | 監査へ |
個別指導の結果
前記のとおり、個別指導日から1か月ほどで地方厚生局より指導結果の通知が届きます。指導結果は、「概ね妥当」、「経過観察」、「再指導」、「要監査」の4つのうちいずれかです。ただし、監査が必要と判断された場合には個別指導が中止されるのが通例のため、指導結果の通知において「要監査」の結果が通知されることは通常ありません。
いずれの措置とするかについては、診療の内容及び診療報酬の請求に対する理解の程度、請求根拠となる記録の状況、請求状況等を確認し、次の4つの観点を中心に、総合的に判断されます(医療指導監査業務実施要領(指導編)P70)。
- 診療が医学的に妥当適切に行われているか。
- 保険診療が健康保険法や療養担当規則をはじめとする保険診療の基本的ルールに則り、適切に行われているか。
- 『診療報酬の算定方法』等を遵守し、診療報酬の請求の根拠がその都度、診療録等に記録されているか。
- 保険診療及び診療報酬の請求について理解が得られているか。
概ね妥当 | 指摘事項の内容及び返還事項が軽微である等、4つの観点のうちいずれの観点においても特筆すべき問題点が認められない場合
概ね妥当の結果を得ることは容易ではなく、次の経過観察を目指します |
経過観察 | 4つの観点のうち、問題が認められる観点はあるが多岐にわたるものではなく、かつ、内容が重大でない場合
改善報告書受理後の数か月問、レセプト又はその他必要に応じ保険医療機関から提出を求める書類により改善状況を確認し、改善が認められないと次年度の個別指導の対象となってしまいます。
しっかりとチェックされていますので油断は禁物です。 |
再指導 | 4つの観点のうち、多岐にわたる観点において問題が認められる、又は、重大な問題が認められる場合
・次年度の個別指導の対象となる。 |
要監査 | 指導の結果、「監査要綱」に定める監査要件に該当すると判断した場合
・後日速やかに監査を行う。なお、前記のとおり、個別指導中に診療内容又は診療報酬の請求について、明らかに不正又は著しい不当が疑われる場合は、指導が中止され、監査に移行されます。 |
歯科への個別指導の対処法
以上の説明によって歯科医院、歯医者に対する個別指導の概要を掴んでいただけたかと思います。では個別指導の実施通知を受けたらどのような準備、対策をすれば良いのでしょうか。ここからはこれらの点について説明します。
個別指導はしっかりと準備、対策を行えば多くのケースで監査移行を回避できます。
実施通知を受けた後の準備
まずは何が理由で個別指導の対象として選定されたのか、先ほどの選定対象の一覧を見ながら推測します。
個別指導の対象として選定される契機は主として、①レセプト1件あたりの高点数か②元従業員や患者などの第三者からの情報提供です。
集団的個別指導の対象となったことがあった場合には、レセプトの高点数が選定理由である可能性が高いでしょう。高点数を理由として個別指導の対象とならないためには、支払基金から返戻されたレセプトに付いた付箋の内容をよく確認して、二度と同じ過ちを繰り返さないようにすることが大切です。
高点数が選定理由とは考えられない場合には、揉めてやめた従業員がいなかったか、患者から不審なカルテ開示の請求がなかったかなどを思い出し、第三者からの情報提供を疑います。誰から、どのような情報提供があったのかについて推測することができれば、厚生局からの指摘を想定して、的確な回答を準備することができます。
とはいえ、なぜ個別指導の対象に選定されてしまったのか原因を特定できないことも多くあります。
そこで、個別指導日の概ね6か月前の連続する2か月のレセプトが指導対象とされますから、指導日の1週間前に指定された20名の患者全員が来院している連続した2か月を特定し、その2か月の20名の診療録を確認することで指摘事項を推測し、それに対する回答方針、回答内容を準備することが有意義です。
指導日当日の注意点
個別指導の当日は以下の点に注意しましょう。いずれも至ってシンプルですが、これらを徹底するだけでも監査移行のリスクは相当低下させることができます。なお、後ほど改めて述べますが、個別指導には弁護士を帯同させましょう。
指示されたものは漏れなく持参する
まず基本的なことですが、持参するよう指示されていた書類は漏れなく準備して持参しましょう。持参書類に不足があると1回で指導が終わらず、2回、3回と指導日が実施される恐れがあります。そのように個別指導が続くと粗探しをされて監査に移行すべき材料を集められる恐れがあります。
したがって、余裕をもって準備を開始して指示されたものは漏れなく持参しましょう。
感情的にならない
指導担当の技官も同じ歯科医師であるのに、現場の実際を考慮せずに咎めるような発言をされて苛立ってしまうこともあります。そして感情的になって、不用意な回答をしてしまい、不利な判断の材料を与えてしまうことがあります。
終始冷静に落ち着いてよく考えた上で簡潔に回答することが大切です。
迷ったら発言しない
個別指導では複数人の担当者を前にして2時間も質疑応答を行うため、肉体的にも精神的に相当疲弊します。そのため、後半以降に油断をして中途半端で不利な回答をしてしまうこともあります。質問の意味をよく咀嚼して、迷ったら回答しないことが大切です。
休憩を申し出て、トイレや控室で冷静になって回答内容を整理しましょう。
個別指導をクリアするための診療録等に関するポイント
過去に実施された個別指導における主な指摘事項については、厚生労働省のホームページや各地方厚生局のホームページに掲載されています。この過去の指摘事項を参照しながら、自院で不十分であった点を洗い出し、指導日当日の回答方針や回答内容の準備をすると良いでしょう。
以下、過去の指摘事項の具体例をいくつか見ていきましょう。
診療録
診療報酬請求の根拠となるので、診療録は診療の都度、遅滞なく必要事項を十分に記載する必要があります。
記載が無かったり、不十分な記載ですと無診察治療を疑われるおそれがあります。また、診療録は診療報酬請求の根拠となるものですから、記載が不十分ですと不正請求を疑われるおそれもあります。
改竄となってしまいますから、もちろん個別指導の実施通知が来た後の追記や変更は厳禁です。
指摘例
- 傷病名に P、G、C、Pul、Per の略称病名で病態に係る記載がない。
- 診療行為の手順と異なる記載、不適切な診療録の訂正及び追記
- 確定診断の後に遅滞なく病名を変更していない。
診療報酬明細書・一部負担金
診療報酬明細書は、事務スタッフに一切を任せてしまうのではなく、審査支払機関へ提出する前に、保険医において自ら点検しましょう。事務スタッフが作成いたので自信はわからないという弁解はもちろん認められません。
指摘例
- 一部負担金を徴収すべき者から適切に徴収していない。管理簿を作成していない。
- 主傷病名と副傷病名を区別していない。
- 主傷病名は原則1つとされているところ、非常に多数の傷病名を主傷病名としている。
診療料
- 指摘例
- 自費診療(検診等)当日に行われた保険診療に対し、初診料を算定している例 が認められたので改めること。
- 再診相当であるにもかかわらず、初診料を算定している例が認められたので改めること。
- 再診相当であるにもかかわらず、初診料を算定している例が認められたので改 めること。
一部負担金等
- 指摘例
- 一部負担金について従業員や家族など受領すべき者から受領していない。
- 未収の一部負担金に係る管理簿を作成していない。
- 領収証に消費税に関する文言がない。
検査
- 指摘例
- 1歯ごとに診療録に記載されていない(歯周ポケット測定、歯の動揺度検査)。
- 臨床所見、診療所見等から判断して、必要性の乏しい又は必要性の認められない検査を実施している例が認められたので改めること。
保険外診療
- 指摘例
- 保険診療から保険外診療(自費)に移行した場合には、その旨を診療録に記載す ること。
- 矯正治療に関連した抜歯手術に係る一連の費用について、自費で請求すべきとこ ろを誤って、保険診療で請求していた例が認められたので改めること。
歯科への個別指導で弁護士に依頼するメリットと費用
弁護士なんかをつけたら、やましいことがあると思われるのではないか、担当者の心証を害するのではないかとかと不安に思う歯科医師の先生もおられるかもしれません。
しかし、昨今では個別指導の際に弁護士が帯同することは珍しくありません。現に、厚生局のマニュアルにも弁護士が帯同する場合の手続きについて記載されていますので、上記のような心配は無用です。むしろ単独で対応することのリスクの方がはるかに大きいといえます。
以下、個別指導で弁護士をつけるメリットと弁護士費用について説明します。
個別指導で弁護士に依頼するメリット
まず、弁護士は、個別指導の対象として選定された理由を推測して、回答方針、回答内容についての準備を手伝ってくれます。個別指導をクリアできるかどうかは、間違いなく事前の十分な準備にかかっています
次に、個別指導当日の厚生局側の高圧的、強権的な対応を防止することができます。弁護士がいるだけで厚生局側の対応は全然違います。
3点目として、プレッシャーや誘導尋問によって不利な供述をとられる事態を防ぐことができます。帯同した弁護士は歯科医師の先生の横に座って適切な回答ができるよう、適宜助言したり、必要と判断すれば休憩を挟むなどして監査移行の可能性を低下させます。
弁護士費用
最後に、当事務所の弁護士費用について確認をしてきましょう。
- 個別指導 22万円
- 監査 33万円
- ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
- 着手金 33万円
- 要監査にならずに終結した場合の報酬 33万円
- ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
- 着手金 55万円
- 取消にならなかった場合の報酬 110万円
まとめ
以上、歯科医院、歯医者に対する個別指導に詳しい弁護士が個別指導について解説しました。
研修くらいの感覚で軽く見てしまったり、どうすればよいのかわからずそのまま個別指導当日を迎えてしまったりして、為す術もなく監査に移行してしまうケースが多々あります。
個別指導はしっかりと準備、対策をとれば乗り切れるものですが、そうでなければ簡単に指定・登録の取消の結果となる恐れるべき手続きです。もしも個別指導の対象となった場合には、指導日当日までに万全の準備、対策をするべきです。
地方厚生局から個別指導の実施通知を受けた歯科医院の方は、一日も早く個別指導に詳しい弁護士にまずは無料でご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。