覚せい剤の初犯で起訴されたら、実刑となるのか?

覚せい剤の初犯で起訴されたら、実刑となるのか?

2020年01月05日

今回は、覚せい剤事犯で逮捕・起訴された場合の刑事手続について、ご説明いたします。覚せい剤事件については、厳格な刑事処分を受けるというイメージが大きいかと思いますが、執行猶予判決を獲得できる場合があることについても、合わせてご説明したいと思います。

1 覚せい剤取締法の処罰範囲と処罰内容について

覚せい剤取締法で刑事処罰が予定されている行為類型の中で代表的なものとしては、覚せい剤所持、使用、譲受け、譲り渡し、製造、輸入があります。

これらいずれの行為についても、営利目的による処罰加重が定められています。

覚せい剤取締法には、これらの他に、覚せい剤製造業者・施用機関・研究者の指定違反行為についての罰則が規定されておりますが、実務上、問題となることは多くありません。

今回は、上記覚せい剤所持、使用、譲受け、譲り渡し、製造、輸入(いずれも営利目的を含む)の中で特に実務上問題となることが多い、覚せい剤所持・使用の罪について、ご説明いたします。

なお、覚せい剤所持・使用の罪は、懲役刑、または、懲役刑と罰金刑を併科することが法律上予定されており、刑事処分が罰金刑のみとなることはありません。

したがって、上記被疑事実により捜査が開始されてしまうと、不起訴処分とならない限りは、罰金刑の宣告のみである略式手続によることはなく、公判手続となります。

以下、覚せい剤の所持・使用の罪の捜査手続・裁判手続についてご説明いたします。

2 覚せい剤取締法違反の被疑事実(所持・使用)で捜査が開始された場合

覚せい剤取締法違反事件(所持・使用)の被疑者として捜査が開始されることになるには、路上での職務質問による所持品検査や、職務質問に伴う尿の任意提出によることが一般的です。

⑴ 覚せい剤所持の罪について

覚せい剤取締法の所持罪については、被疑者ないし被告人が、自己の占有すなわち物理的支配下に、覚せい剤と認識しつつ覚せい剤を所持している場合に、問題となってまいります。

ここで、自己の占有下に覚せい剤を所持していた場合には、原則として、覚せい剤取締法の所持罪が成立してしまう可能性が高いです。

もっとも、自己の所有物としてではなく、他人から預かっていた物である、または覚せい剤と認識せず他の物であると明確に認識して所持していた場合など、被疑者が覚せい剤を所持していたことについての合理的理由がある場合には、覚せい剤取締法の所持罪が成立しないことも考えられます。

そこで、覚せい剤取締法の所持罪のみが問題となる事案では、被疑者の捜査機関への供述内容いかんによって処分の帰趨が大きく変わることから、捜査機関の取調べに対する初動対応が重要となってきます。

もし仮に、被疑者が自己の意思で覚せい剤を所持していなかったような場合でも、捜査機関による取り調べに対して自らの犯罪を認める旨の供述をしてしまうと、後にその供述を翻すことは困難になってしまいます。

覚せい剤取締法の単純所持罪の被疑者として逮捕、勾留されてしまった場合には、早い段階で覚せい剤の刑事弁護に精通した弁護士に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。

⑵ 覚せい剤使用の罪について

覚せい剤取締法の使用罪については、被疑者の尿中から覚せい剤成分が検出されたという事実それ自体から、被疑者が自己の意思に基づいて覚せい剤を使用したことが強く推認されるという傾向にあります。

すなわち、被疑者が提出した尿から覚せい剤成分が検出されたのであれば、被疑者が自己の意思に基づいて覚せい剤を使用したものと考えることが自然であると捉えられているのです。

したがって、被疑者が、自己の尿から覚せい剤成分が検出された理由について、合理的な説明をすることができなければ、覚せい剤取締法の使用罪について、有罪判決が下される可能性は高いものといえます。

3 初犯の覚せい剤取締法違反では執行猶予が付く可能性が高い

覚せい剤取締法の単純所持罪、単純使用罪については、いずれもその法定刑は、「十年以下の懲役に処する」と規定されています。

一般的に、覚せい剤取締法違反被告事件に限らず、大麻取締法違反被告事件や麻薬及び向精神薬取締法違反被告事件などの薬物犯罪においては、薬物犯罪以外の他の犯罪に比べて、定型的な判断が下される傾向にあります。

覚せい剤取締法の単純所持罪・単純使用罪で逮捕起訴された場合には、被告人が初犯であれば、一般的に、懲役1年6か月~2年に刑の執行猶予3年程度を付した有罪判決が下される可能性が高いです。

したがって、前科前歴のない初犯の被告人が、覚せい剤取締法の所持・使用の罪で有罪判決を受けたとしても、すぐに刑務所に行かなければいけない実刑判決を受ける可能性は、低いということができます。

もっとも、一度、覚せい剤取締法の使用・所持の罪で有罪判決を受けてしまうと、執行猶予期間中に再度覚せい剤取締法違反で逮捕・起訴され有罪判決を受けた場合には、先行する執行猶予付き判決と、後の有罪判決の懲役期間を合算して刑務所に行かなければなりません。

のみならず、執行猶予期間の満了から5年ほどで、再び覚せい剤取締法違反によって起訴されてしまうと、執行猶予付きの判決が下される可能性は極めて低くなります。

後行する犯罪が、覚せい剤取締法違反ではなく、大麻取締法違反や麻薬及び向精神薬取締法違反などの薬物犯罪で有罪判決を受けた場合であっても、同様に執行猶予付き判決が下される可能性は低くなります。

このように、覚せい剤取締法違反被告事件においては、覚せい剤の単純使用・所持の罪を初めて犯した場合には執行猶予付き判決が下されることが多い一方で、二度目、三度目の刑事裁判となってくると、執行猶予期間の満了から10年ほどの年月が経たなければ執行猶予付き判決が下される可能性は低いといえます。

4 再犯防止のために

覚せい剤取締法違反事件の再犯率は非常に高いです。

そして、初犯であれば執行猶予が付く可能性が高いものの、再犯の際には実刑判決となる可能性が高いです。

そのため、初犯の段階で、二度と薬物に手を出さないための対策がその後の人生を大きく左右することになります。

そのような対策として最も効果的なのは専門の依存症治療を受けることです。初犯であっても保釈直後からこのような治療を受けることをお勧めします。

なお、精神科であればどこでも良いというわけではありませんので、薬物事件に詳しいの弁護人から助言を受けて適切な医療機関を受診するようにしてください。

5 最後に

覚せい剤事犯においては、捜査段階で、捜査機関に対し不必要な供述をしないことを心掛けることで、自らのやっていない犯罪事実についての刑事処分を回避することが重要です。

また、起訴され有罪判決を受けてしまった場合には、被告人は、その後の人生で、二度と覚せい剤を含む違法薬物に手を出さないことを肝に銘じなければなりません。

もっとも、執行猶予判決を受けてしまった後に、再度、同様の薬物犯罪により起訴されてしまった場合であっても、執行猶予期間満了後の年数・犯行動機・犯行態様・事件後の治療の有無などにより、執行猶予判決を獲得することが可能な場合もあります。

覚せい剤事件の捜査対象となって対応にお困りの方は、刑事事件の経験が豊富な弁護士へ、お早めにご相談ください。

この記事を書いたのは

弁護士酒井 編
第一東京弁護士会 所属
経歴
中央大学法科大学院 卒業
春田法律事務所 入所

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