老人ホームにおける金銭トラブルと対策は?金銭管理と契約の観点から弁護士が解説
最終更新日: 2023年12月05日
老人ホームの利用者やその家族が巻き込まれやすいトラブルの1つが、金銭トラブルです。老人ホームにおける金銭トラブルは、大きく分けると金銭管理におけるトラブルと契約におけるトラブルの2つに分けられます。
いずれも金銭が関わるだけに、解決に難航することも珍しくありません。そのため、金銭トラブルの事例とその対応策を事前に理解して、なるべく不要なトラブルは避けたいものです。
そこで今回は、介護関連トラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が、老人ホームにおける金銭トラブルの事例や適切な金銭の管理方法・トラブル対策について解説します。
老人ホームでよくある金銭トラブルと対策
ここでは、老人ホームでよくある3つの金銭トラブルとその対策について解説します。
- 金銭トラブルの例
- 適切な金銭管理方法
- 成年後見制度の活用も検討
それでは、1つずつ解説します。
金銭トラブルの例
まず、金銭トラブルの例をご紹介します。
老人ホームで起こりうる代表的な金銭トラブルは、下記のとおりです。
- 悪質商法や詐欺などの消費者トラブルに巻き込まれる
- 家族が代わりに金銭管理をし、親族間トラブルが発生
- 本人の預金が引き出せず、医療費・介護費を家族が立て替えなければならなくなる
- 他の利用者の金品を間違えて持ち帰ってしまう
- 利用者が所持する現金に不足が生じて職員が補填せざるをえなくなる
- 利用者もその家族も老人ホームの利用料を支払えず、退去を迫られる
- チラシなどに記載されていない料金が老人ホームから請求される
老人ホームの職員と利用者間だけでなく、利用者と家族間でも金銭トラブルは起こりうることに注意が必要でしょう。
適切な金銭管理方法
次に、適切な金銭管理方法について解説します。
始めに、利用者家族側における金銭管理方法についてです。老人ホームの利用者の判断能力は、急に低下することもあります。そのため、あらかじめ家族間で利用者の金銭管理について話し合いをして、方針を決めておきましょう。
また利用者が金銭管理が難しい状態になっても、本人の自尊心を傷つけないよう、あえて少額の金銭や財布を利用者にもたせるとよいでしょう。
次に、老人ホーム側における金銭管理方法について解説します。老人ホームにおいては、利用者が使う金銭は、小口現金として管理して後日精算するか、定額費用として徴収して管理することが一般的です。
老人ホームが利用者に代わって金銭管理できる契約書を作成することや、ロッカーや金庫などの金銭管理をしやすい環境を整えることも、トラブル回避には有効でしょう。
成年後見制度の活用も検討
最後に、成年後見制度の活用について解説します。
成年後見制度とは、認知症などで金銭管理が困難な人に代わって後見人等が金銭管理を行う制度です。
本人に判断能力がないときには、家庭裁判所に選任された後見人等が財産を管理する「法定後見」か、本人の判断ができるうちに将来に備えて後見人等となる人を自ら決める「任意後見」の2つを選択できます。
将来の金銭トラブルを回避するために、成年後見制度の活用は有効です。しかし、一度後見人等が選任されると簡単には除外できません。
後見人に権限が一任されると、他の家族や本人の意向が反映されづらくなるため、慎重に考えることが必要です。
また成年後見制度の他にも、日常生活自立支援事業のサポートや、資産承継信託の利用といった手段もあるため、あわせて検討しましょう。
契約に起因した老人ホームの金銭トラブルと対策
ここでは、兄弟間で行う親の介護で発生しうるトラブルを4つ紹介します。
- 月額費用に関するトラブルの例
- 入居一時金に関するトラブルの例
- 短期解約特例(90日ルール)
- 重要事項説明書
それでは、1つずつ解説します。
月額費用に関するトラブルの例
1つ目は、月額費用に関するトラブルの例です。
「事前にパンフレットをみて想定していた金額と実際に請求された金額が違った」など、有料老人ホームでは月額費用に関する金銭トラブルが多く発生しています。
その理由は、月額費用に含まれる内容が有料老人ホームによって異なることが挙げられます。
老人ホームに入居すれば、家賃や食費・光熱費だけでなく、おむつ代・日用品・レクリエーション代など、生活に伴い負担する費用が増えるものです。さらに、老人ホームによっては食費が別請求になる施設もあります。
事前に、月額費用には何が含まれているのか、その他負担する費用はないかなどを、事前に確認しておくことでトラブルを防止できるはずです。
入居一時金に関するトラブルの例
2つ目は、月額費用に関するトラブルの例です。
入居一時金とは、月額料金とは別に有料老人ホームに入居するときに一括で支払う料金のことです。ほとんどの有料老人ホームで入居一時金が徴収されていますが、契約内容は施設ごとに決められています。
入居一時金は、賃貸マンションの敷金のように、退去時に一部返還されることが大半です。しかし、急に退去が決まったときは、短期間の入居であっても返還されないこともあります。また、返還率や計算方法などは施設によって異なります。
退去時に慌てないためにも、事前に入居一時金は返還されるのか、返還される金額はいくらかなどを確認しておきましょう。
短期解約特例(90日ルール)
3つ目は、短期解約特例(90日ルール)です。
入居一時金は、ある程度の期間内(償却期間)の退去であれば、償却分を除いた金額が返還されることになっています。
しかし、償却期間内の退去にもかかわらず入居一時金が全く返還されないなど、入居一時金に関わるトラブルが消費生活センターに報告される事例が相次ぎました。
そこで有料老人ホームの利用者が何らかの事情で90日以内に退去する場合、実際にかかった諸経費分の金額を除いた入居一時金が返還される短期解約特例が設けられたのです。
当初は法律で義務付けられていませんでしたが、平成24年度に法律で義務付けられました。法的効力をもった現在では、トラブルを防ぐための重要なルールとなっています。
重要事項説明書
4つ目は、重要事項説明書です。
重要事項説明書とは入所に関する説明文書のことで、施設や働く人員の概要やサービス内容・かかる費用などが記載されています。
老人ホームが利用者と契約するときには、利用者本人や家族に対して、重要事項説明書に沿って説明をすることが義務付けられています。
そのため、重要事項説明書の内容を契約前に十分に確認しておくことで、トラブルを防止できることでしょう。
ここで、重要事項説明書で特に確認すべきポイントを2つ紹介します。
1つ目は、料金改定の項目です。社会情勢の変化により、老人ホームの利用料は増減することがあります。料金改定の項目を理解しておけば、不当に利用料を値上げしていないか確認できるでしょう。
2つ目は、90日ルールの記載の有無です。重要事項説明書に90日ルールが記載されておらず、職員からも説明を受けなかったときは、90日ルールが適用されるか確認しましょう。
他にも不明点などがあるときは、その場で質問して、万一に備えて音声を録音しておくと安心でしょう。
老人ホームでの金銭トラブルが難航したときには弁護士に相談
今回は、老人ホームにおける金銭トラブルの事例や適切な金銭の管理方法・トラブル対策について解説しました。
老人ホーム側が入居者の金銭管理をする体制がないときには、弁護士など外部の専門家と財産管理委任契約を結ぶ方法もあります。また、老人ホームで金銭トラブルが起こって解決に難航したときには、当法律事務所にご相談ください。
当事務所には、介護業界におけるトラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が多数所属しています。弁護士に相談することで、トラブルを早く確実に解決できる可能性が高まるでしょう。