建設アスベスト給付金の対象になる?専門家が解説
最終更新日: 2024年05月09日
建設アスベスト給付金制度の対象になるだろうか
給付金を受けられる要件を知りたい
対象外や減額される可能性はあるだろうか
過去に石綿にさらされる作業に従事したことを原因として現在、重い疾病に苦しんでいる被害者は多数おられます。仕事ができず、経済的にも不安定な生活を強いられている方もおられます。
このような被害者に速やかに補償をするべく、令和4年(2022年)1月から建設アスベスト給付金制度が施行されました。令和6年4月までに延べ6500件以上の給付金の認定がなされています。
本コラムではアスベストの補償について詳しい弁護士が、建設アスベスト給付金のポイントについて分かりやすく説明をします。
建設アスベスト給付金の対象となるには?
まずは建設アスベスト給付金の対象となるための要件について説明します。
従事していた業務内容と時期
建設アスベスト給付金の対象となるためには下記①から③に該当する必要があります。
アスベストによる疾病は潜伏期間が20年から40年と非常に長いため、石綿ばく露作業に従事していた当時の作業内容について証言してくれる事業主や同僚を確保することに苦労するケースもあります。
※土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業、これらの作業の準備作業に係る業務又はこれに付随する業務
②①の従事期間が下記の期間であること
・石綿の吹付け作業に係る建設業務:
昭和47年(1972年)10月1日から昭和50年(1975年)9月30日
・一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務:
昭和50年(1975年)10月1日から平成16年(2004年)9月30日
③事業所に使用されている労働者、中小事業主、一人親方、家族従事者であったこと
下記の職種は通常屋内作業ですから、屋内作業場で行われた作業に従事していたと判断する審査方針となっています(下記認定審査会議事録参照)。
ただし、屋内作業と認定する職種を下記職種に限定する趣旨ではありません。
大工(墨出し、型枠を含む。)、左官、鉄骨工(建築鉄工)、溶接工、ブロック工、軽天工、タイル工、内装工、塗装工、吹付工、はつり、解体工、配管設備工、ダクト工、空調設備工、空調設備撤去工、電工・電気保安工、保温工、エレベーター設置工、自動ドア工、畳工、ガラス工、サッシ工、建具工、清掃・ハウスクリーニング、現場監督、機械工、防災設備工、築炉工
対象となる疾病
建設アスベスト給付金の対象となるためには下記いずれかの疾病にかかっていることが必要です。
肺がん
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
石綿肺(じん肺管理区分が管理2から4又はまたはこれに相当するもの)
良性石綿胸水
これらの疾病のうち中皮腫を発症する方が増えており被害は特に深刻です。中皮腫は腹膜などにできる悪性腫瘍(ガン)です。中皮腫のほとんどはアスベストが原因と言われています。根治が難しく、発症からわずか1、2年で死亡してしまうケースも多いのが現状です。
喫煙歴がある場合、肺がんの原因は喫煙と判断され、アスベストの原因を見落とされることが多いようです。そのため、過去にアスベストにばく露する作業に従事していた方は専門医療期間の受診もするべきです。
建設アスベスト給付金の対象となる請求権者
アスベストの被害者本人が建設アスベスト給付金を請求できるのは当然ですが、本人が死亡した場合にはその遺族が請求できます。
請求できる遺族は、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹です。配偶者が最先順位で、配偶者がいない場合には子が請求権者となります。
なお、同順位の請求権者が複数人いる場合には、特段の事情がない限り、そのうち一名が代表して給付金を請求して支給を受けます。その場合、受領した給付金は他の請求権者のためにも受領したものとみなされます。
建設アスベスト給付金の認定通知を受けるまでに請求者が死亡した場合、請求は無効となってしまい、遺族が改めて請求し直す必要があります。
多数の請求が係属していることから審査に時間を要しており、申請から認定までに1年以上もかかるケースも多く、その間に請求者が死亡してしまうケースも発生しています。
もし請求権者となる遺族もいない場合には、当該被害については建設アスベスト給付金の支給がなされずに終結してしまいますから、審査業務の迅速化が求められています。
請求期限
建設アスベスト給付金には下記のとおり請求期限があります。初日は算入で、請求期限末日が休日の場合には翌開庁日が期限となります。
又は
石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日
のうちいずれか遅い日から20年以内
②石綿関連疾病により死亡した日から20年以内
建設アスベスト給付金の対象にならない?減額される?
喫煙が原因で肺がんになった場合は建設アスベスト給付金の対象となるのでしょうか。建設アスベスト給付金以外にも何らかの給付を受けている場合には対象にならないのでしょうか。
ここではこれらの点について説明します。
給付金の金額
建設アスベスト給付金の対象となった場合の給付金額については下記表のとおりです。まずはこの点を確認しておきましょう。
下記表のうち同じ区分に複数回該当したとしても給付金の支給を受けられるのは1回だけです。例えば、良性石綿胸水で給付金を受けた後、びまん性胸膜肥厚になっても追加で給付金の支給を受けられません。
しかし、異なる区分に該当することになった場合には追加請求ができます。例えば、肺がんで1150万円の給付金の支給を受けた後に死亡した場合には、遺族は1300万円との差額150万円を追加請求できます。
喫煙歴があると対象外?
肺がんになったアスベストの被害者に喫煙習慣があっても建設アスベスト給付金の対象となりますが10%減額されます。
その他、下記のとおりアスベストへのばく露期間が所定の期間未満の場合にも10%減額されます。両方の減額事由に該当すると合計19%の減額となります。
・短期ばく露:10%減額
肺がん、石綿肺:10年未満
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚:3年未満
中皮腫、良性石綿胸水:1年未満
なお、請求者の申告が無い限りは原則として喫煙習慣はなかったものと判断されますが、診療録、健康診断記録等の資料から確認された場合には喫煙習慣はあったと判断されます(下記認定審査会議事録参照)。
他の給付などを受けている場合
労災保険給付や石綿健康被害救済制度の給付を受けていても、建設アスベスト給付金の対象となりますし、特に支給調整はありません。
しかし、国や企業から損害賠償金、和解金などの支払いを受けている場合、これらは建設アスベスト給付金と同様に損害賠償金の性質であることから、建設アスベスト給付金の金額は減額調整される可能性があります。
建設アスベスト給付金の対象外と即断しない
アスベストによる疾病について労災認定または石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金の支給決定を受けている場合、「労災支給決定等情報提供サービス」を利用できます。これを利用することで建設アスベスト給付金の申請書類が大幅に省略できます。
申請をすると3か月から6か月ほどで必要な情報を記載した通知書が送られてきます。一方、労災認定の際の調査結果では建設アスベスト給付金の要件に該当しない場合には提供すべき情報がないという通知を受けます。
しかし、労災認定の要件と建設アスベスト給付金の要件は異なりますから、提供すべき情報がないという通知を受けたとしても、必ずしも建設アスベスト給付金を請求できないということではありません。
例えば、1975年10月1日以前は労災保険に加入して屋内で石綿ばく露作業に従事し、それ以降も同様の作業に従事していたものの労災保険に加入していなかったというケースがあります。
このケースだと、建設アスベスト給付金の要件である作業従事期間である1975年10月1日以降は労災保険に加入していないことから、提供すべき情報は無いという通知を受けます。しかし、同日以降も石綿ばく露作業に従事していることから、建設アスベスト給付金の要件に該当する可能性があります。
このように労災支給決定等情報提供サービスを申請して情報なしの通知を受けたとしても、建設アスベスト給付金の対象とならないと即断しないようご注意ください。
まとめ
以上、建設アスベスト給付金制度について説明をしました。
建設アスベスト給付金制度で速やかに支給を受けるためには、審査担当者が認定をしやすい証拠と書類を作成することが重要となります。
建設アスベスト給付金制度の利用をお考えの方は、アスベストの補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。