テナントをスムーズに退去させたい!賃貸人と賃借人それぞれの対応策を徹底解説
2024年11月12日
- 建物を新築するのでテナントには退去してもらいたい。穏便に解決できる方法はないか?
- テナントに退去してもらう場合、立退料はどれくらいかかるのか?
- 賃貸人から退去要求を受けた。弁護士に相談した方がよいのだろうか?
土地の再開発や建物の老朽化等で、テナントに退去を要求したい賃貸人は多いでしょう。
しかし、テナントは営業活動ができなくなってしまうので、賃貸人は立退料を支払う必要があります。
そこで今回は、退去トラブルの解決に携わってきた専門弁護士が、テナントを退去させる手順等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- テナントを退去させるには立退料を支払うだけでなく、正当な事由も必要
- 賃貸人とテナントが交渉し、自主的な退去を図った方がよい
- 賃貸人もテナントも弁護士に相談し、退去の条件等について話し合おう
テナントを退去させたいときの必須知識
賃貸人とテナントが賃貸借契約を締結した以上、みだりにテナントとの契約を解除し、退去の要求はできません。
賃貸人が退去を要求するときは、やむを得ない理由や立退料の支払いが必要です。
借地借家法
借地借家法は借家人の権利を保護するための法律です。借家人には個人の他、テナントも含まれます。
テナントとの賃貸借契約の場合には同法が適用され、原則として賃貸人からの一方的な退去要求は認められません。
テナント側は、次のような重大な契約違反をしていなければ、退去要求を拒否できます。
- 借りている物件で犯罪行為をしている
- 無断で原状回復が不可能なほど増築・改築を行った
- 3か月以上も賃料不払いを継続している 等
賃貸人がテナントに退去を求めたいなら、「正当な事由」と「立退料」が必要です。
正当な事由
正当な事由とは、賃貸人がテナントに退去を求めても、やむを得ないと判断される事由を指します(借地借家法第28条)。
たとえば土地の再開発で建物を撤去しなければいけない、建物の老朽化が激しく建て替えを要するというケースです。
ただし、次のようなケースでは、正当な事由なしに退去を要求できる可能性があります。
- 定期借家契約:前もって決められた期間が経過すると、更新なしで賃貸借が終了する契約だった(借地借家法第38条)
- 一時使用目的の賃貸借:イベント開催中の期間に限定し借りる契約をした(借地借家法第40条)
- ケース貸し:デパートやスーパーの一区画を使用する契約だった
立退料の相場
立退料は店舗の立地やスペース、店舗の種類・業種をはじめ、契約内容や条件、退去理由等を考慮し、ケースバイケースで決定されます。
法律で「賃貸人がテナントに退去を要求する場合、一律〇〇〇万円を支払う。」とは規定されていません。
商業施設のテナントの場合は、年間家賃の約100倍が立退料の目安といわれています。退去を求めるとき、賃貸人は高額な金額を支払わなければいけない可能性があります。
テナントを退去させたい3つの主な理由
賃貸人がテナントに退去を要求する主な理由として、土地の再開発、経済活動の活性化、建物の老朽化があげられます。
いずれも退去を求めるとき、正当な事由に該当する可能性があります。
土地の再開発
賃貸人が所有する建物が、再開発の対象となる地域に該当する場合です。
賃貸人が土地の再開発に理解を示し、建物を取り壊すときは、まずテナントを退去させる必要があります。
テナントには次の提案を行い、退去の同意を図ります。
- 権利変換:テナントにいったん退去してもらい、再開発後の新たな建物内に借家権を取得し、元の場所で再び事業を行う方法。
- 立退料の支払い:テナントに立退料を支払い、別の場所で事業を行ってもらう方法。
テナントに立退料を支払うのは、主に再開発の施行者側です。施行者側は立退料の他、営業損失の補償等の支払いにも応じます。
経済活動の活発化
再開発以外に、賃貸人が自身の経済活動の活性化を図るため、所有する建物を建て替える場合です。
たとえば現在の3階建ての建物から、より多くのテナントを入居させられるよう、高層ビルに建て替えるケースが該当します。
ただし、賃貸人側は基本的に立退料・それ以外の補償等を、全て負担する必要があるでしょう。
また、テナントが退去に難色を示し、交渉がスムーズに進まない可能性もあります。
建物の老朽化
建物の老朽化を理由に、テナントへ退去を要求できる場合があります。
建物が古くなり建て替えをしないと、耐久性や耐震性を十分に確保できないケースが該当します。
ただし、老朽化していれば必ず正当な事由に当たるとは限りません。たとえば外壁を補強すれば耐久性や耐震性が確保できる場合、退去は認められない可能性が高いです。
テナントを退去させたいときの流れ
賃貸人が退去を要求する場合、テナントとなるべく円滑に話し合いが進められるよう、事前の情報収集や準備が必要です。
ただし、話し合いがまとまらない場合、最終的には訴訟で解決を図ります。
情報収集
賃貸人所有の建物を借りているテナント数について把握しましょう。
多くのテナントと契約しているならば、それだけ長期間の交渉や、立退料が多額になる可能性もあります。
また、テナントの中に賃貸借契約期間が満了する店舗、近々退去予定の店舗がないかもよく確認しましょう。
賃貸借契約期間が満了しそうな店舗から交渉を開始し、期間の更新をせず、退去に同意するよう求めていきます。
交渉
賃貸借契約期間の満了が近づいたテナントに、契約の更新拒絶通知を送付します。
ただし、更新拒絶通知は契約期間満了日の6か月前〜1年前に行わなければいけません。
通知後にテナント側と日程を調整し、交渉を開始します。
- 正当な事由の説明
- 退去日の調整
- 退去条件の取り決め:立退料や営業損失の補償等の金額
- 原状回復の有無
原状回復とはテナント側が入居したときと同じ状態に戻す方法です。テナントの都合で退去するとき、設備や備品等の撤去および損傷個所の修復に関する費用は、テナント側で負担するのが一般的です。
ただし、建物の取り壊しや建て替えによる退去ならば、撤去費用は賃貸人側で負担すると決めた方がよいでしょう。
立退料の計算・支払い
賃貸人が希望する立退料をテナントに提示します。逆に、テナント側から「これくらい立退料はもらわなければ困る。」と、立退料の提案を受けるケースもあります。
立退料を計算するとき、次の費目を合わせて算出されるのが一般的です。
- 移転費用:移転する店舗と現店舗との家賃の差額分の補償、移転先の礼金、仲介手数料、内装費用、引越し費用、広告宣伝費用等
- 営業補償:休業で失われる営業利益の補償、スタッフの休業手当、損失補償等
- 借家権価格:借りる側の地位自体に認められる財産的価値
立退料の金額は毎月の賃料が約8万円ならば、800〜1,200万円が目安です。
なお、支払い日に明確な決まりはなく、賃貸人とテナントとの話し合いで決定します。退去前に支払う旨を決めてもよいですし、退去後の支払いでも構いません。
立ち退きの実行
テナント側が退去に同意した場合、退去の手続きを進めていきます。
双方が取り決めた退去の内容・条件は、「合意書(2通作成)」に漏れなく記載し、それぞれ1通ずつ取得、大切に保管しましょう。
合意書を作成していれば、双方が退去の内容・条件を忘れる心配もありません。
合意書に明記された期日までに、テナント側は新たな店舗に移転を開始します。ただし、双方の交渉が決裂した場合は裁判所に訴訟を提起し、解決を図っていきます。
訴訟
テナント側が退去を拒否し店舗に居座っている場合、賃貸人は訴訟提起や、強制執行の申し立てが可能です。
まずは内容証明郵便をテナントに送付し、退去を要求します。内容証明郵便に退去を強制する効果はないですが、訴訟前に退去を要求したという証拠となります。
内容証明郵便を送付してもテナント側が何らの対応もとらなければ、賃貸人は建物の所在地を管轄する裁判所に、明け渡し請求訴訟の提起が可能です。
賃貸人の主張が認められれば、裁判所が判決でテナント側に店舗の明け渡しを命じます。テナントが明け渡しを命じられても退去しない場合、強制執行の申し立てを行いましょう。
最終的には裁判所の執行官・専門業者が店舗へ向かい、店舗の設備や備品等を強制的に撤去します。
賃貸人に退去してもらいたいと言われた場合の対応策
建物の賃貸人があなたに退去を要求した場合、慌てたり感情的になったりせず、冷静に対応しましょう。
弁護士と相談し、退去の内容・条件をともに確認後、交渉の準備を進めていきます。
弁護士への相談
賃貸人との交渉に不安を感じたら、不動産トラブルに詳しい弁護士に相談してみましょう。
弁護士は賃貸人からの賃貸借契約の更新拒絶の通知や、店舗の現状をよく聴き、次のようなアドバイスをします。
- 賃貸人の退去要求が正当な事由に当たるか
- 提示された立退料は妥当な金額か
- 提示された退去日に無理はないか
- 賃貸人との交渉ポイント
- 交渉が決裂した場合のリスク
- 合意書を作成する必要性
- 弁護士に交渉を依頼する有効性
弁護士は訴訟による解決を図る場合だけでなく、賃貸人との交渉役としてサポートの依頼が可能です。
事前に弁護士はあなたと話し合い、退去の条件をとりまとめたうえで、賃貸人と交渉を開始します。
弁護士を間にたて、退去の条件を調整するため、理性的かつ円滑に双方が合意できるでしょう。
立退料の計算
あなたの店舗の現状に見合った立退料を計算してみましょう。
賃貸人が提示する立退料は、金銭的な負担を軽減するため、金額が低めに設定されている可能性もあります。
あなたの店舗の事業経営が好調の場合、退去時に休業を余儀なくされると、損失は大きくなります。よって、提示された立退料の上乗せを要求してみましょう。
弁護士に立退料の交渉を依頼すれば、上乗せを希望した理由について、賃貸人へわかりやすく説明し理解を求めることができます。
テナントを退去させたいなら弁護士にご相談ください
今回は賃貸物件のトラブル解決に詳しい専門弁護士が、退去を要求するときのポイント等について詳しく解説しました。
賃貸人が退去を要求するときは正当な事由が必要です。一方、テナント側は借地借家法に則った要求かどうかを確認します。
店舗の退去問題に悩んだら、弁護士と相談し有益なアドバイスやサポートを受けてみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。