賃貸契約の更新拒絶!正当事由に該当・非該当の判例を紹介
最終更新日: 2022年06月29日
- 賃貸契約のオーナー側から更新拒絶をすることはできるのか
- どのような場合に賃貸契約の更新拒絶ができるのか
- 更新拒絶に関する判例を知っておきたい
賃貸契約のオーナー側から賃借人に対して更新拒絶を行なう場合、法律によって定められた正当事由が必要になります。正当事由がない限り更新拒絶ができず賃貸契約を結ぶ物件から立ち退きを要求することはできません。
今回は、賃貸借契約をオーナー側から更新拒絶することはできるのか、更新拒絶ができる正当事由とは何か、また更新拒絶の実際の判例を解説します。
賃貸契約の更新拒絶と正当事由の判例を読み込むための基礎知識
賃貸契約の更新拒絶と正当事由の判例を読み込むための基礎知識として、以下の2つの点から解説します。
- オーナーが更新拒絶できる正当事由とは
- 正当事由があれば更新拒絶できるのか
それでは、1つずつ見ていきましょう。
オーナーが更新拒絶できる正当事由とは
オーナーから賃貸借契約の更新を拒絶できる場合は、借地借家法第28条に定められています。借地借家法第28条では、契約更新が原則とされており「正当な事由がある場合にのみ更新を拒絶できる」としています。
借地借家法の趣旨は、それまで強かったオーナー側の権利を制限し、借りる側の不利益を是正することです。そのためオーナーからの更新拒絶に明確な規定が置かれ、一方的な更新拒絶は認められにくくなっているのです。
ただしオーナー側の「建物の使用を必要とする事情」と賃借人側のさまざまな事情を比較し、正当事由があればオーナーから契約更新を拒絶できることもあります。
オーナー側の「建物の使用を必要とする事情」の例には、下記のようなものがあります。
- オーナー自身または近親者による使用の必要性
- 売却・解体・新築・増改築や大修繕もしくは再開発などの必要性
- 物件売却の必要性
こういった事情が発生した場合、更新拒絶できる可能性があります。
正当事由があれば更新拒絶できるのか
オーナー側として「建物の使用を必要とする事情」があっても、賃借人の事情も考える必要があるため、一方的に更新拒絶できるとは限りません。当然、賃借人としても、生活や事業のために必要があるからこそ、その物件に対して賃料等を支払って利用していますから、賃借人の権利も保護する必要があります。
加えて借地借家法の条文のとおり「従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況」、「明渡しの条件としてまたは建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して「立退料」の支払いなどが考慮され、最終的な「正当事由」にあたるかが判断されることになります。
更新拒絶が認められるケースには、具体的には下記のようなものがあります。
- 建物の老朽化が進み耐震強度が弱いと診断され、取壊し・改築の必要がある場合
- 賃借人の滞納や無断改装が発覚した場合
- ペット禁止条項に違反してその程度が受忍限度を超える場合
- 隣人が退去せざるを得ないほどの騒音を、賃借人が発し続けた場合
たとえば以前、アパート内で飼っていた蛇が逃げ出して捜索隊が出動し全国的なニュースになったことがありました。そういったトラブルの場合も、オーナーからの更新拒絶の正当事由にあたる可能性があります。
賃貸契約の更新拒絶を行なうために知っておきたい正当事由に関する判例
賃貸契約の更新拒絶を行なうために知っておきたい正当事由に関する判例は以下の4つです。
- オーナー自身に物件を使用する理由が生じた場合
- 賃借人側の必要性が切実ではない場合
- 老朽化の進んだ建物の取り壊しのための更新拒絶の場合
- 土地の有効利用のために更新拒絶をする場合
それでは、1つずつ見ていきましょう。
オーナー自身に物件を使用する理由が生じた場合
1つ目は、オーナー自身に物件を使用する理由が生じた場合の判例です。
娘と同居するために、借家を改造し、現在居住している建物と一体のものとして利用することを理由とする倉庫賃貸借の解約申入れについて、立退料100万円で正当事由を満たしたと裁判所が判断したと判例があります。
建物のオーナー側の事情と賃借人側の事情とを詳細に認定した上、オーナー側のほうが建物を使用する必要性が大であるとして、約3年分の賃料である100万円の提供を条件に、借家法1条2項の正当事由を認めています。
参考:大阪地判昭和59年11月12日 判例タイムズ546号176頁
賃借人側の必要性が切実ではない場合
2つ目は、賃借人側の必要性が切実ではない場合の判例です。
自己使用の必要性等の理由から建物賃貸借契約の更新拒絶につき正当事由があるとされた事例を紹介します。
オーナー一家はしばらくアメリカで生活することから賃借人に部屋を貸していました。渡米のとき、オーナーと賃貸人は下記のような契約を結んでいました。
「将来帰国するなどして自己使用の必要が生じた場合には賃貸借契約を解約し、賃借人はオーナーに対し本件建物を明け渡す」
そもそもオーナーは、数年後には帰国して日本の学校に通うつもりでした。オーナー側には賃貸借契約を結んだ物件以外に所有する建物がなかったため、帰国後しばらくは親戚の家に身を寄せながら学校に通っていました。
しかし親戚の家は狭く、母とも同居したいと考えていました。これらのことから、オーナー側が主張する正当事由が認められたという経緯があります。
参考:東京地判昭和60年2月8日 判例時報1186号81頁
老朽化の進んだ建物の取り壊しのための更新拒絶の場合
3つ目は、老朽化の進んだ建物の取り壊しのための更新拒絶の場合の判例です。
老朽化はしていても、まだ使用可能な場合に賃料3年分となる4,000万円の立退料の提供によって正当事由が認められた事例を紹介します。
オーナーは、各種専門学校として設立し賃貸借契約のビルを使用していましたが、別校舎を建設し移転たことで空室ができました。そこで賃借人との間で賃貸借契約を締結することになります。また別の店舗としてそば屋も入居していました。
築後35年のビルで朽ちてきてはいるが、駅から徒歩数十秒という立地にあり売上なども考慮すると正当事由とするためには4,000万円が妥当という判決が出ています。
参考:東京地判平成8年5月20日 判例時報1593号82頁
土地の有効利用のために更新拒絶をする場合
4つ目は、土地の有効利用のために更新拒絶をする場合の判例です。
賃貸用ビルの建設計画に基づいて、その範囲の土地建物を順次取得を進めていたが、その地区において出版業を営む賃借人が立ち退きを拒否しました。しかし裁判所の判断は賃借人の継続利用の必要性の高さを認め、どれだけの立退料を支払ったとしても正当事由には足らないと判断しています。
参考:東京地裁判決平成元年6月19日 判例タイムズ713号192頁
まとめ
本記事では、賃貸借契約をオーナー側から更新拒絶することはできるのか、更新拒絶ができる正当事由とは何か、また更新拒絶の実際の判例を解説しました。
更新拒絶についての正当事由の存否は、オーナーと賃借人の事情を比較衡量して判断されます。実際には「信頼関係破壊の法理」という考え方があり、これまで通りの契約の継続が可能な信頼関係があるか、というところも判断基準になります。さらには、時代背景やそのときの政策によっても正当事由の判断基準は変化していくものです。
立退料を支払うことで円満に解決することもありますので、悩まずにまずは専門家に相談されることをおすすめします。
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