使用貸借で立ち退きは可能?進め方と賃貸人・賃借人が取るべき対応を徹底解説
最終更新日: 2024年12月16日
- 無償で建物を貸している。この場合、自由に賃借人に退去を求められるだろうか?
- 使用貸借で建物を借りていたが、退去を要求された。立退料を請求できるだろうか?
- 使用貸借で立ち退きを進めるとき、弁護士に相談した方がよいのだろうか?
使用貸借には借地借家法は適用されません。基本的に賃貸人の都合で立ち退きを要求できます。
ただし、ケースによっては賃借人が立ち退きを拒否でき、立退料を請求できる可能性もあります。
そこで今回は、不動産トラブルの解決に携わってきた専門弁護士が、使用貸借における立ち退きの手順や注意点等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 使用貸借の場合、賃貸人から立ち退きを要求された場合、基本的に賃借人は要求に従わなければならない
- 賃貸人と賃借人が合意した使用期間中に賃貸人が立ち退きを要求した場合は、賃借人は要求を拒否できる
- 立ち退き要求でトラブルが起きそうなときは、弁護士のアドバイスを受け解決を図った方がよい
使用貸借における立ち退きとは
使用貸借とは、賃貸人の所有する建物や土地を無償で賃借人に貸すことです。
使用貸借には借地借家法が適用されません。賃貸人は、契約で使用貸借の期間や使用・収益の目的を定めなかったときは、いつでも賃借人との使用貸借契約を解除し、立ち退きを要求できます(民法第598条第2項)。
ただし、契約で次のように取り決めていれば、立ち退き要求は制限されます(民法第597条)。
- 使用期間を定めているとき:期間が満了するまで基本的に要求できない
- 使用・収益の目的を定めたとき:賃借人が目的に従い、使用・収益を終えるまで基本的に要求できない
使用貸借で立ち退きを要求できるのか
賃貸人と賃借人が使用貸借契約を締結した場合、賃貸人の都合だけで常に賃借人に立ち退きを要求できるわけではありません。
立ち退きを要求できるケース、できないケースをそれぞれ説明します。
要求できるケース
使用貸借契約の場合、使用期間や使用・収益目的を定めず、単に建物等を貸しただけの場合は、賃貸人の都合で賃借人に立ち退き要求できます。
賃借人は、賃貸人の要求に従い退去しなければなりません。
ただし、賃借人が退去の準備に手間取りそうなときは、賃貸人に申し出て、話し合いにより退去期間の猶予を取り決めてもよいでしょう。
賃貸人・賃借人が互いにトラブルを避け、穏便に退去する方法を検討することをおすすめします。
要求できないケース
使用貸借契約で使用期間を定めている場合、賃貸人は使用期間中は、基本的に賃借人へ立ち退きを要求できません。
ただし、賃借人が同意すれば使用期間中でも立ち退き要求は可能です。使用期間中の立ち退きの場合は、賃借人は賃貸人に対し立退料を請求できる場合があります。
また、使用の目的が決められているときは、目的の達成前に立ち退きを要求された賃借人は要求を拒否できます。
たとえば、自宅を建築する目的で、一時的に賃貸人が所有する建物を使用貸借し居住しているケースです。
自宅がまだ完成していなければ、賃借人は賃貸人の要求を拒否できます。この場合、立ち退き要求に応じる代わりに、立退料を請求できる可能性もあるでしょう。
使用貸借で立ち退きを進める方法
使用期間や使用目的を定めずに使用貸借した場合も、期間や目的を定めて使用貸借した場合も、立ち退きを要求されれば、賃借人は生活の拠点を失う可能性があります。
賃貸人が立ち退きを要求する場合は、賃借人と大きなトラブルにならないよう配慮しつつ、手続きを進める必要があります。
交渉
立ち退きを要求する場合は、賃借人に前もって電話・メール・SMS・手紙等で、使用貸借契約の解約または契約の終了を伝えましょう。
使用期間や使用目的を定めていない場合も、定めている場合も同様です。
賃借人が無理なく立ち退きできる日程や条件等を話し合いましょう。賃貸人の強引な立ち退き要求は、賃借人との深刻なトラブルに発展するおそれがあります。
賃借人が自主的に退去できるよう、賃貸人は賃借人の希望をよく聞いて、立ち退きの日程・条件を調整した方がよいです。
裁判
立ち退き交渉がうまくいかない場合や、使用期間が経過しても賃借人が貸した物件に居座っている場合は、裁判所に明け渡し請求訴訟を提起しましょう。
訴えの提起先は、使用貸借している物件の所在地を管轄する裁判所です。
賃貸人の主張が認められれば、裁判所は賃借人に物件の明け渡しを判決で言い渡します。
明け渡しを命じられても、賃借人が判決日の翌日から2週間以内に控訴せずに、物件に居座り続けているときは、賃貸人は強制執行を申立て賃借人を強制退去させることも可能です。
使用貸借での立退料の有無
賃借人が次のような状況で立ち退きを要求された場合は、立退料を請求できる可能性があります。
- 使用期間中の立ち退き:(例)5年の使用期間で契約したのに、賃貸人から2年経過後に立ち退きを要求された
- 使用目的達成前の立ち退き:(例)自宅の完成まで物件を利用できると契約したのに、賃貸人から完成前に立ち退きを要求された
立退料について、法律に規定があるわけではありません。賃貸人と賃借人の間で自由に取り決めが可能です。ただし、新しい物件を借りる場合の賃料や引越し代をを考慮した方がよいでしょう。
使用貸借で立ち退きしてもらうために賃貸人がすべきこと
賃貸人だからといって、賃借人への強引な立ち退き要求をすれば、大きなトラブルに発展する可能性があります。
まずは契約書を確認し、話し合う用意を整えたうえで、賃借人に立ち退きを要求しましょう。
契約書に沿った対応
使用貸借契約書の内容を確認しましょう。契約した内容に従い、立ち退きの準備を進めていきます。
期間や目的を定めた使用貸借の場合は、賃借人の使用期間が満了しそうか、目的が達成したかを把握しましょう。
使用期間が満了しそうな場合は、期間満了が近づいている旨を伝えましょう。使用目的を定めていた場合は、目的が達成したかどうかを賃借人に尋ねます。
賃貸人が賃借人の使用期間や使用目的達成前に立ち退きを要求する場合は、賃借人が自主的な退去に応じられるような条件を考慮する必要があります。
契約終了理由の提示
立ち退きを要求する場合、契約終了理由を明示しましょう。
使用期間や使用目的を定めず使用貸借した場合、賃貸人の都合で立ち退きを要求できます。一方、期間や目的を定めた使用貸借であれば、使用期間満了や使用目的達成が契約終了理由となります。
ただし、使用期間の途中や使用目的未達成の段階で立ち退きを要求する場合、次のような理由がなければ、賃借人は退去に応じない可能性が高いでしょう。
- 自宅が自然災害で倒壊し、使用貸借している建物を住居として利用したい
- 賃貸人の生活が困窮し、やむなく居住中の不動産を売却、使用貸借している建物を住居にしたい 等
もちろん、賃借人にとっては想定外の立ち退き要求です。賃貸人は立退料の支払いの他、新たな生活拠点となる賃貸物件の紹介も必要になるでしょう。
内容証明郵便による通知
使用期間や使用目的の定めがない使用貸借契約で立ち退きを要求したものの賃借人が応じない場合や、使用期間の満了・使用目的を達成したのに賃借人が居座っている場合、まず内容証明郵便で立ち退きを催告しましょう。
催告書には「〇月〇日までに立ち退かなければ、裁判所に訴えを提起する」等と記載します。
内容証明郵便は郵便物の内容・差出人・宛先を郵便局が証明するサービスです。
内容証明郵便自体に法的な強制力はありません。しかし、内容証明郵便を利用すれば、裁判のときに「事前に賃借人に退去するよう要求した」という事実の証明となります。
内容証明郵便が届いた賃借人は裁判に発展する事態をおそれ、交渉申込みや、退去準備を開始する可能性があります。
使用貸借で立ち退きを求められた賃借人がすべきこと
賃借人が立ち退き要求を受けたときは、慌てずに冷静な対応が必要です。
立ち退きの必要性の確認や準備に不安があるときは、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。
契約書の確認
まず使用貸借契約書の確認が必要です。使用期間や使用目的を定めて契約した場合、期間満了・目的達成までは基本的に立ち退き要求を拒否できます。
ただし、今の段階で「立ち退いても構わない」「立退料の請求に応じてくれるなら立ち退きを検討したい」と考えるのであれば、賃貸人と交渉するのもよいでしょう。
なお、立ち退くか拒否するかは、家族の意見も聞いて決めた方がよいです。
立ち退きに応じると、あなたと同様に家族も生活の拠点を失う事態となります。事前に家族の理解を得ておけば、後々家族間で意見が割れる心配もありません。
賃料の有無の確認
使用貸借契約は、賃借人が無料で建物や土地を使用できる契約ですが、賃料に相当する支払いがないかを確認しましょう。賃貸人からの立ち退き要求を拒否できるのは、借地借家法の適用を受ける賃貸借契約だけです。
使用貸借契約書で「賃料の代わりに固定資産税を払う」と規定し、賃借人が契約通りに固定資産税を払ってきたケースもあるでしょう。
この場合、裁判所は、たとえ賃借人が賃貸人の代わりに固定資産税を納税しても、特段の事情がなければ、賃貸借ではなく使用貸借に当たると判断しています。
賃借人は固定資産税の納税を理由に、立ち退きの拒否はできません。
立退料請求可否の確認
使用期間や目的を定めて使用貸借契約したが、期間満了前や目的未達成にもかかわらず賃貸人から立ち退き要求を受けた場合、立退料の請求が可能な場合があります。
立退料に関する詳細は賃貸人・賃借人が話し合い、お互いの納得のもとで、金額や支払期日・支払方法を決定します。
なお、使用貸借契約書に「賃貸人が使用期間満了前(または目的未達成時)に立ち退きを要求した場合、家賃6か月分および引越し代を負担する」と明記していれば、その定めに従います。
原状回復義務
立ち退きをするときは、賃借人に原状回復義務が発生します。
たとえば、土地を使用貸借している場合に、倉庫のような建物を建築している場合もあるでしょう。
立ち退きを要求されたときは、基本的に賃借人が建てた倉庫を撤去したうえで、土地を返還する必要があります。
ただし、立ち退きのときに、賃貸人が倉庫を取り壊さなくてもよいと意思表示した場合は、倉庫を残したまま立ち退きが可能です。
弁護士への相談
賃貸人から立ち退きを要求された場合、不安や不明な点があれば、不動産トラブルの解決の実績が豊富な弁護士へ相談してみましょう。
弁護士は賃借人の現状をヒアリングしたうえで、次のようなアドバイスを行います。
- 契約内容が本当に使用貸借か否か
- 立ち退きを拒否できるか、できないか
- 立退料を請求可能か、請求する場合のポイント
- 立ち退きを拒否すると、裁判に発展するおそれがあるか
- 弁護士に交渉を任せる有効性
弁護士に代理人を委任すれば、あなたの代わりに賃貸人へ立ち退き期間の猶予を提案したり、立退料の交渉も行ったりできます。
使用貸借での立ち退きにお困りなら弁護士にご相談を
今回は不動産問題の交渉や裁判に携わってきた専門弁護士が、使用貸借で立ち退きを進める手順等について詳しく解説しました。
使用貸借契約の締結時に、しっかりと契約内容を書面化し、使用期間や使用目的を決めておきましょう。また、途中で立ち退きを要求したときに、賃借人の救済方法をどうするかについても明記しておいた方がよいです。
法律事務所の中には、初回相談を無料で受け付けているところもあります。使用貸借の立ち退き問題で悩むときは、まずは気軽に弁護士と相談し助言を求めてみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。