不同意性交の時効は15年。公訴時効の計算と今後の対処法を弁護士が解説
2025年12月01日

不同意性交等罪の公訴時効は、2023年の法改正により従来の10年から15年に延長されました。この法改正は、過去の性犯罪に対する社会の厳しい目を反映し、被害者が声を上げやすい環境を整えることを目的としています。
一方で、加害者側として「時効が成立するまで逃げ切ればよい」と考えることは、現実的とは言えず、危険な発想です。
15年という長い期間、事件が発覚しないままでいることは容易ではなく、精神的にも大きな負担がかかります。現代の捜査技術の進歩や社会の変化を踏まえると、時効の成立を待つ間に逮捕される可能性は常に存在し、その結果、現在の生活や社会的地位を失ってしまうおそれもあります。
このような不安を抱えている場合、一人で悩みを抱え込まずに弁護士に相談し、示談や自首といった具体的な対処法を検討することが、今後の人生を立て直すための現実的かつ有効な方法です。
この記事では、不同意性交等罪の時効に関する基本的な知識と、不安を和らげるための具体的な対処法について、わかりやすく解説していきます。
不同意性交等罪の時効とは?刑事と民事の違いを解説
「時効」という言葉は日常会話でも使われますが、法律の世界では場面によって意味合いが大きく異なります。不同意性交等罪のような刑事事件については、
- 国が加害者を処罰するための「刑事の時効(公訴時効)」
- 被害者が加害者に損害賠償を求めるための「民事の時効」
という、性質の異なる2種類の時効が存在します。
これらの違いを正しく理解することは、自分の法的な立場や今後の見通しを把握するうえで非常に重要です。
刑事の時効(公訴時効)とは、ある犯罪行為から一定期間が経過すると、検察官がその犯人を起訴できなくなり、刑事裁判にかけられなくなるという制度です。つまり、刑罰を科すことができなくなる期間を指します。
一方、民事の時効は、被害者が受けた損害について、加害者に対して損害賠償を請求できる権利が消滅するまでの期間を意味します。刑事事件として処罰されなくなっても、民事上の責任が残る可能性があるため、両者を区別して理解しておく必要があります。
刑事事件の公訴時効は原則「15年」
不同意性交等罪における刑事上の時効は「公訴時効」と呼ばれ、原則として「15年」と定められています。これは、2023年7月13日に施行された改正刑法及び改正刑事訴訟法により、従来の10年から延長されたものです。
公訴時効とは、検察官が被疑者を裁判にかけるための手続き(公訴の提起)ができる期間を意味します。この15年という期間を過ぎると、検察官は被疑者を起訴できなくなり、刑事裁判にかけられることはなくなります。
ただし、公訴時効の計算には後述するいくつかの注意点があり、単純に「15年が過ぎれば安心」というものではありません。
民事事件の損害賠償請求の時効は「5年または20年」
刑事上の公訴時効とは別に、被害者が加害者に対して精神的苦痛や治療費などの損害賠償を請求する権利にも、「民事の時効」が存在します。民事の時効には、主に次の2つの期間が設けられています。
被害者が損害および加害者を知った時から5年
被害者が性交等の被害に遭い、「誰が加害者なのか」を認識した時点から5年以内に損害賠償請求を行わないと、その権利が消滅します。
不法行為の時から20年
被害者がすぐに加害者を特定できなかった場合でも、事件発生から20年が経過すると、損害賠償請求権が消滅します。
例えば、事件から長期間が経過した後、何らかのきっかけで加害者が判明した場合でも、被害者が加害者を知った時から5年以内であれば損害賠償請求が可能です。
また、公訴時効が完成して刑事罰を科されない場合でも、民事上の責任は残ることがあります。そのため、加害者にとっては、損害賠償請求のリスクが長期間続くことに注意が必要です。
公訴時効の計算方法と知っておくべき4つの注意点
不同意性交等罪の公訴時効は原則15年とされていますが、単にカレンダー上で15年を数えればよいわけではありません。
時効の計算には、
- いつからカウントが始まるのか(起算点)
- 2023年の法改正前の行為にどう影響するのか(経過措置)
- 被害者が未成年の場合の特別ルール(特則)
- 時効の進行が一時停止するケース(停止事由)
といった、複数の専門的な要素が関係します。
これらを理解していないと、「時効が成立した」と誤解してしまったり、「まだリスクが残っているのに見落としてしまう」おそれがあります。
ここでは、公訴時効の計算で特に重要となる3つのポイントを順番に説明します。
注意点:時効の起算点は「性交等が終わった時」から
公訴時効のカウントがいつから始まるのかという「起算点」は、刑事訴訟法第253条で定められています。これによると、時効は犯罪行為が終わった時から進行を開始します。
不同意性交等罪の場合、起算点は「性交等の行為が完全に終了した時点」と考えられます。
複数の行為が連続して行われた場合は最後の行為が終わった時点、行為が長時間に及んだ場合はその行為全体が終了した時点から時効のカウントが始まります。
注意点:2023年法改正前の行為にも延長された時効が適用される
2023年7月13日に施行された刑法改正により、不同意性交等罪の公訴時効は従来の10年から15年に延長されました。
この改正の重要な点のひとつが、施行日前の行為にも新しい時効期間が適用される可能性があるという「経過措置」です。
具体的には、改正法施行日(2023年7月13日)の時点で旧法の公訴時効10年がまだ完成していなかった事件については、新しい15年の時効期間が適用されます。
つまり、旧法での時効がまだ切れていない事件は、自動的に時効期間が15年に延びるということです。
ご自身のケースが経過措置の対象となるかどうかは専門的な判断が必要です。疑問がある場合は、弁護士に相談することが確実な方法です。
注意点:被害者が18歳未満の場合、時効の進行が停止・加算される
不同意性交等罪では、被害者が18歳未満であった場合、公訴時効の計算に特別なルールが適用されます。
これは、未成年者が性被害に遭った場合、心身の成長段階や周囲の影響などにより、すぐに被害を申告することが難しいケースが多いことを踏まえ、成人してからでも告訴できるようにするための配慮です。
刑事訴訟法第250条第4項に基づき、被害者が18歳に達するまでの期間は、公訴時効の期間に加算され、通常の15年の時効期間に加えて、「行為時から被害者が18歳になるまでの期間」が上乗せされる形になります。
過去の行為を振り返る際には、当時の被害者の年齢を考慮することが非常に重要です。
なぜ時効成立を待つのは危険なのか?加害者が知るべき3つのリスク
不同意性交等罪の時効は原則15年であり、状況によってはそれ以上に延びることもあります。
この長い期間を「何もせずにやり過ごせばよい」と考えるのは、現実的な対応とは言えません。
時間が解決してくれると受け身の姿勢でいることは、精神面・社会面の両方で大きなリスクを抱え続けることにつながります。
ここでは、時効成立を待つことが危険と言える理由を、3つのリスクに分けて確認します。
リスク:性犯罪は検挙率が高く、逃げ切るのは容易ではない
性犯罪は、他の犯罪と比べても検挙率が比較的高い傾向にあります。
「時間が経てば証拠は残らないだろう」という考え方は、現在の捜査環境とは合致しません。
現代の科学捜査技術は大きく進歩しており、時間が経過した事件であっても犯人特定に至るケースは少なくありません。具体的には、
- DNA鑑定技術の精度向上
- 街中に設置された防犯カメラ映像の解析
- スマートフォンやSNSなどのデジタルフォレンジック(通信記録・位置情報の解析)
といった手段により、数年前の事件でも客観的な証拠が残り続ける可能性があります。
そのため、性犯罪で逃げ切ることは非常に難しい状況になっているといえます。
リスク:忘れた頃に突然逮捕される可能性がある
時効が迫ったタイミングや、事件から長い年月が経過して加害者本人が過去の出来事を意識しなくなった頃に、突然逮捕されるケースもあります。
数年後、あるいは10年以上経ってから、加害者が新たな生活を築き、結婚や家庭、社会的な地位を得た段階で逮捕されることもあり得ます。その場合、
- 家族との関係
- 職場での信頼
- 社会的評価
など、それまで築き上げてきたものが一度に失われるおそれがあります。
逮捕の事実はインターネットなどで広く知られる可能性もあり、失った名誉や信用を取り戻すのは非常に難しいのが実情です。
時効を待つということは、不安定な土台の上に人生を積み重ねていくようなものであり、そのリスクの大きさを理解しておく必要があります。
リスク:「いつ捕まるか」という長期の精神的負担
不同意性交等罪の時効である15年(被害者の年齢等により実質的にそれ以上となる場合もあります)の間、「いつ逮捕されるかわからない」という不安を抱え続けることは、大きな精神的ストレスとなります。
このような慢性的なストレスは、仕事への集中力低下、対人関係の悪化、うつ状態など心身の不調といった形で、日常生活のさまざまな場面に悪影響を及ぼします。
仮に最終的に時効が成立したとしても、それまで長期間にわたって受けてきた精神的な負担は取り戻せません。
時効を待つことは、貴重な時間を大きな不安の中で過ごす選択であることを意識する必要があります。
時効を待たずに今すぐできる3つの対処法
不同意性交等罪の嫌疑をかけられている状況で、ただ時効の成立を待つだけの受け身の対応は、精神的にも法的にも大きなリスクを伴います。
不安を抱えたまま時間だけを過ごすのではなく、自ら行動を起こすことで、逮捕や起訴といった最悪の事態を回避したり、刑罰を軽くできる可能性があります。
ここでは、ご自身の将来を守るために検討したい具体的な対処法を3つご紹介します。
対処法:弁護士に相談し、今後の見通しと最適な解決策を知る
不同意性交等罪のような重大な刑事事件に関わる可能性がある場合、まずは刑事事件に詳しい弁護士に相談することが非常に重要です。
弁護士は、
- 事件の具体的な内容
- 証拠の有無や内容
- 被害者の意向
などを踏まえて状況を客観的に分析し、今後の法的な見通しを整理してくれます。
そのうえで、逮捕の可能性や起訴されるリスク、仮に有罪となった場合の刑罰の種類や重さなどについて、専門的な立場からわかりやすく説明します。
また、弁護士は個別事情に応じて、
- 被害者との示談交渉を進めるべきか
- 自首を検討すべきか
- その他の防御方針をどう組み立てるか
といった具体的な解決策を一緒に考えます。
刑事事件では、初動の対応がその後の結果を大きく左右することも少なくありません。不安を一人で抱えるのではなく、弁護士への相談を第一歩として行動を起こすことが大切です。
対処法:被害者との示談交渉を進める
不同意性交等罪の刑事手続きにおいて、「示談」は非常に重要な意味を持つ手続きです。示談とは、加害者が被害者に謝罪し、金銭的賠償を行うことで和解を図ることをいいます。
示談が成立し、被害者が「処罰を望まない」という意思(宥恕意思)を示した場合、逮捕を免れたり、検察官が起訴を見送る(不起訴処分)可能性が高くなることがあります。
ただし、不同意性交等罪の性質上、加害者本人が直接被害者に連絡を取ることは原則として避けるべきです。
被害者は加害者に対して強い恐怖心や嫌悪感を抱いていることが多く、直接の接触は被害感情を悪化させたり、脅迫や証拠隠滅と受け取られるおそれもあります。
そのため、示談交渉は必ず弁護士を通じて行うことが重要です。
弁護士であれば、
- 被害者の心情に配慮した連絡・謝罪の方法
- 示談金の相場や支払い方法
- 示談書に盛り込むべき内容
などを踏まえて、円滑な交渉を目指すことができます。
対処法:自首して刑の軽減を目指す
自首とは、捜査機関にまだ犯罪事実が広く認知されていない段階で、自ら警察に出頭して犯行を申告することをいいます。
刑法第42条により、自首をした場合には、裁判で刑が減軽される可能性があります。
自首は、反省の態度を示す重要な事情として扱われ、情状面で有利に評価されることが期待できます。
もっとも、
- 自首をしたからといって必ず逮捕されないわけではないこと
- その後の取調べへの対応が非常に重要であること
などにも注意が必要です。
自首を検討する場合には、事前に弁護士とよく相談したうえで判断することが大切です。
弁護士に依頼すれば、いわゆる「自首同行」という形で警察署まで一緒に行ってもらうこともでき、精神的な負担を軽減しながら、不利な供述を避けるための助言を受けることができます。
不同意性交等罪で弁護士に相談すべき3つのメリット
不同意性交等罪のような重大な嫌疑をかけられたとき、不安や将来への心配を強く感じるのは自然なことです。
このような状況では、ご自身だけで問題を抱え込まず、速やかに刑事事件に精通した弁護士に相談することがとても重要になります。
弁護士は、法律知識を提供するだけでなく、法的なリスクをできる限り軽減し、精神的な負担を和らげ、最終的により良い解決を目指すための支えとなります。
ここからは、弁護士に相談することによって得られる3つの主なメリットについて見ていきます。
メリット:逮捕・起訴のリスクを最小限に抑える弁護活動
不同意性交等罪の疑いをかけられた場合、逮捕や起訴は生活を一変させる大きな出来事です。
弁護士は、これらのリスクをできる限り抑えるために、さまざまな弁護活動を行います。
とくに重要なのが、被害者との示談交渉を早期に進めることです。示談が成立し、被害者が被害届の提出を見送ったり、すでに提出された被害届・告訴を取り下げたりしてくれた場合、逮捕を回避できたり、逮捕されても早期釈放につながる可能性があります。
また、捜査が進んだ後であっても、弁護士は検察官に対し、
- 示談が成立していること
- 被疑者が反省していること
- 再発防止に向けた取り組み(治療やカウンセリングなど)
といった事情をまとめた意見書を提出し、不起訴処分を求める活動を行います。
これにより、裁判を避け、前科が付くことを防げる可能性が高まります。
メリット:被害者の感情に配慮した示談交渉を任せられる
性犯罪に関する示談交渉は、非常にデリケートで専門性の高い分野です。
被害者は、加害者に対して強い恐怖心や怒り、嫌悪感を抱いていることが多く、加害者本人やその家族が直接連絡をとろうとすると、かえって状況が悪化するおそれがあります。
この点、弁護士が間に入ることで、被害者の感情に十分配慮した示談交渉を進めることが可能になります。
弁護士は、
- 被害者が連絡に応じやすい方法やタイミング
- 謝罪の伝え方
- 示談金額の相場や支払い方法
などを踏まえて、被害者側にとっても受け入れやすい形で交渉を進めます。
加害者側としても、弁護士に交渉を任せることで、感情的な行き違いや誤解によるトラブルを避けながら、誠実な対応を示すことができるというメリットがあります。
メリット:自首への同行など、精神的な不安を軽減できる
不同意性交等罪の疑いをかけられたり、過去の行為について不安を感じ続けたりする状態は、大きな精神的ストレスを伴います。
逮捕されるかもしれないという不安や、家族・職場への影響への心配などが重なり、日常生活に支障が出ることも少なくありません。
弁護士は、このような状況にある方に対して、
- 現在の状況や今後の見通しを整理・説明する
- 取るべき行動と取らないほうがよい行動を具体的に示す
- 必要に応じて、自首の同行や、取調べ前後の助言を行う
といった形で、精神的な負担を軽減する役割も担います。
一人で不安を抱えたままでいるよりも、今の状況を整理し、これから何をしていくかを一緒に考えてくれる専門家がそばにいることで、心の負担は大きく変わってきます。
不同意性交の時効に関するよくある質問(FAQ)
Q:証拠がなくても不同意性交等罪で逮捕される可能性はありますか?
はい、証拠がないように見える場合でも、逮捕される可能性はあります。
性犯罪の特徴として、目撃者や物証が限られるケースが多く、被害者の供述そのものが非常に重要な証拠となります。
被害者の供述が、
- 具体的である
- 一貫している
- 他の状況と照らして不自然でない
と捜査機関や裁判所に判断されれば、有力な証拠として扱われることがあります。
また、直接的な物証がなくても、
- 事件前後のメッセージやSNSのやり取り
- 通信記録や位置情報
- 第三者の目撃・間接証言
などの状況証拠が、被害者供述を補強する証拠として集められる場合もあります。
このような証拠が積み重なることで、逮捕・起訴に至る可能性は十分あり得ます。
Q:不同意性交等罪の示談金の相場はいくらですか?
不同意性交等罪の示談金について、一律の「相場」が決まっているわけではありません。
一般的には、100万円〜500万円程度が一つの目安として語られることもありますが、事案の内容によって大きく変動します。
示談金額に影響する主な要素としては、例えば次のような点が挙げられます。
- 行為の態様や悪質性(暴力・脅迫の有無、継続性など)
- 被害者の精神的苦痛の程度(通院や診断の有無・期間)
- 加害者の社会的地位や経済力
- 被害届や告訴の有無・被害者の処罰感情
これらを総合的に考慮したうえで、弁護士が被害者側と交渉して金額を決定していくのが通常の流れです。
具体的な金額の目安を知りたい場合は、個別の事情を整理したうえで弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ:不同意性交等罪の時効は15年。不安な方は時効を待たずに弁護士へ相談を
ここまで見てきたとおり、不同意性交等罪の公訴時効は原則として15年であり、被害者が未成年であった場合や、国外滞在など特別な事情がある場合には、さらに長期間にわたって刑事責任を問われる可能性があります。
この長い期間を、「時効が成立するまで何とか過ごせばよい」と考えることは、現実的な対応とは言えません。
もし今、過去の行為に関して不安を抱えているのであれば、時効の成立をただ待つのではなく、早めに弁護士に相談することを検討するのが最善の道です。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。





