不貞慰謝料の二重取りは可能?配偶者と相手から満額もらう方法

2026年02月06日

不貞慰謝料の二重取りは可能?配偶者と相手から満額もらう方法

配偶者の不貞を知り、心に深い傷を負ったとき、多くの方が思い浮かべるのは「裏切った配偶者と、その不倫相手の両方から、できる限り多くの慰謝料を受け取りたい」という思いではないでしょうか。不貞慰謝料の「二重取り」という言葉を耳にすることがありますが、原則として法的に二重に受け取ることはできません。

しかし、この原則を理解した上で、適切な手順を踏み、法的な知識を活かせば被害を受けた方が感じている精神的苦痛に見合う「満額」、つまり適正な慰謝料を配偶者と不倫相手の双方から、あるいはどちらか一方から確実に受け取ることは十分に可能です。

この記事では、不貞慰謝料の法的な仕組みから、なぜ「二重取り」が原則できないのか、そしてどのようにすれば実質的に「満額」を確保できるのかについて、具体的な方法、法的な背景、そして注意点までを網羅的に解説していきます。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
宅地建物取引士

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目次

結論:不貞慰謝料の「二重取り」は原則不可!しかし満額獲得は目指せる

「不貞慰謝料の二重取り」という言葉でイメージされがちな、「配偶者と不倫相手からそれぞれ全額を受け取り、結果として慰謝料総額が2倍になる」という状態は、日本の法律では原則として認められていません。不貞行為によって被害者に生じた精神的苦痛という損害は一つであり、その損害に対する賠償金も一つと考えられているためです。

ただし、この原則を知ったからといって、すぐに諦める必要はありません。被害者が受けた精神的苦痛に見合う「満額」、つまり裁判になった場合に認められる適正な慰謝料額を、配偶者と不倫相手のどちらか一方から全額受け取ることも、あるいは交渉次第で両者から合算して受け取ることも、十分に可能です。大切なのは、法的な仕組みを正しく理解し、落ち着いて戦略的に交渉を進めることです。

この記事では、不貞慰謝料がなぜ「二重取り」できないのかという法的な背景から、ではどうすれば実質的に「満額」を手にできるのか、その具体的な方法までを詳しく解説します。本当に目指すべきは、表面的な「二重取り」ではなく、実際の損害に見合った「満額」の慰謝料を確実に獲得することだと言えます。

なぜ不貞慰謝料の二重取りはできないのか?法的仕組みを解説

不貞慰謝料について、「配偶者と不倫相手の両方から満額を受け取りたい」と考えるのは自然なことかもしれません。しかし、結論として、慰謝料の「二重取り」は法的に認められていません。この背景には、不貞行為が法律上どのように扱われるのか、そして慰謝料の支払いが片方からなされたときに、なぜもう一方の支払い義務にも影響するのかという、やや複雑な法的仕組みがあります。ここでは、不貞慰謝料の二重取りができない理由を、その根拠となる法律の仕組みを分かりやすく解説していきます。

不貞行為は配偶者と不倫相手の「共同不法行為」

不貞行為とは、配偶者以外の第三者と自由な意思で肉体関係を持つことを指します。この行為は、民法において「不法行為」に該当します。具体的には、貞操義務に違反した配偶者と、その不貞行為に加担した不倫相手の2人が、共同で夫婦間の平和な生活を侵害したと見なされるためです。

これにより、配偶者と不倫相手の2人は、被害者が受けた精神的苦痛に対する損害賠償責任、すなわち慰謝料の支払い義務を「連帯して」負うことになります。この「連帯して」という点が、慰謝料の二重取りができない理由の一つとなります。

慰謝料は受けた精神的苦痛全体に対する1つの賠償金

慰謝料とは、不貞行為によって被害者が被った精神的苦痛という「損害」を金銭によって償うものです。ここで重要なのは、不貞行為によって生じた精神的苦痛は「1つ」の損害として評価される、という点です。配偶者と不倫相手から、それぞれ別の精神的苦痛を受けたと評価されるわけではないため、慰謝料も別個に2つ発生することはありません。

例えば、精神的苦痛に対する慰謝料の総額が200万円と算定された場合、それは被害者が被った損害全体に対する賠償金であり、配偶者と不倫相手のいずれか、あるいは両方から合計で200万円を受け取る権利がある、ということになります。

要注意!片方が払うともう片方の支払い義務も減る「不真正連帯債務」

不貞行為が共同不法行為と見なされる場合、配偶者と不倫相手は「不真正連帯債務」の関係にあります。この「不真正連帯債務」とは、債務者の一方が慰謝料を支払うと、その支払い額の分だけ、もう一方の債務者の支払い義務も減るという法律上の性質を指します。

具体例で考えてみましょう。不貞行為によって算定された慰謝料の総額が200万円だったとします。もし配偶者が先に100万円を支払った場合、不倫相手に対して請求できる慰謝料の金額は、残りの100万円に減額されます。仮に配偶者が慰謝料全額の200万円を支払えば、不倫相手に対する慰謝料の請求権は消滅します。

このように、どちらか一方が慰謝料を支払えば、その支払い額の範囲で、もう一方の支払い義務も消滅するため、被害者が総額以上の慰謝料を二重に受け取ることは法的に認められていません。これが、不貞慰謝料の厳密な意味での「二重取り」ができない直接的な理由です。

実質的な二重取り!配偶者と不倫相手から満額を受け取る3つのケース

不貞慰謝料の「二重取り」は法的な原則として認められませんが、工夫次第で実質的に精神的苦痛に見合う満額、あるいは相場以上の金額を受け取ることは十分に可能です。

ここでは、法的な仕組みを理解した上で、示談交渉の進め方や合意内容を調整することで、結果的に配偶者と不倫相手の双方から納得のいく支払いを得るための具体的な3つのケースをご紹介します。これらの戦略を知ることで、慰謝料請求を有利に進められる可能性があります。

ケース1:配偶者からの支払いを「離婚慰謝料」「解決金」とする

配偶者から金銭を受け取る際、その名目を「不貞慰謝料」としないことで、不倫相手に対する不貞慰謝料請求権が減額されるのを防ぐことができます。特に離婚に至るケースでは、配偶者から受け取る金銭を「離婚慰謝料」や「解決金」として整理することが有効です。

離婚慰謝料には、不貞行為による精神的苦痛だけでなく、離婚に至ったこと自体による精神的苦痛(結婚生活の破綻、財産分与など)も含まれるため、慰謝料の内訳を明確に分けることが法的に認められています。

具体的には、配偶者との間で取り交わす示談書や合意書に、「配偶者から受け取る金銭は、不貞行為に対する慰謝料ではなく、離婚に伴う解決金または離婚慰謝料として支払われるものである」という旨を明記することがとても重要です。この名目の明確化によって、不倫相手に対しては、不貞行為によって受けた精神的苦痛に対する「不貞慰謝料」として、別途満額を請求することが可能になるケースがあります。

例えば、示談書に「甲(請求をする側)が乙(配偶者)から受領する金員は、不貞行為に関する慰謝料ではなく、離婚成立に伴う解決金及び離婚慰謝料として支払われるものとする」といった文言を盛り込むことで、法的に不倫相手への請求権を保全できます。これにより、精神的苦痛全体に対する適切な賠償を得られる可能性が高まります。

ケース2:当事者双方との合意(示談)で相場以上の慰謝料を受け取る

裁判で認められる慰謝料額は一定の相場に基づきますが、当事者間の「合意(示談)」であれば、必ずしもその相場に縛られるわけではありません。交渉次第では、相場を超える金額での解決も十分に可能です。これは、相手方が裁判による解決を避けたい、あるいは自らの非を深く反省しているといった事情がある場合に特に有効です。

例えば、不倫相手が社会的地位の高い人物で、不貞行為が公になることや裁判沙汰になることを強く恐れている場合、被害者側は相場以上の慰謝料を提示し、それに応じてもらうよう交渉できる可能性があります。また、配偶者が自身の不貞行為を深く反省し、関係修復のために相場以上の金額を支払う意思がある場合も同様です。

このように、当事者双方の事情や意向によっては、それぞれが相場に近い金額を支払うことで、結果的に被害者が受け取る慰謝料の総額が一般的な相場を上回ることもあります。示談交渉はあくまで当事者間の話し合いに基づきますので、相手方の状況を把握し、冷静かつ戦略的に交渉を進めることが満額獲得の鍵となります。

ケース3:不倫相手が複数いる場合

特殊なケースとして、配偶者の不貞相手が複数人いた場合それぞれの不貞行為は個別の「共同不法行為」として扱われる可能性がありますつまり、Aさんとの不貞行為、Bさんとの不貞行為はそれぞれが独立した損害を生じさせたと評価され、それぞれの相手に対して慰謝料を請求できる場合があります。

この場合、被害者は配偶者とAさんに対して、Aさんとの不貞行為に対する慰謝料を請求でき、さらに配偶者とBさんに対して、Bさんとの不貞行為に対する慰謝料を請求できる、という構造になります。これにより、結果的に受け取る慰謝料の総額が、一人の不倫相手に対する請求よりも高くなる可能性が出てきます。

ただし、それぞれの不貞行為によって生じた精神的苦痛が、法的に完全に別個の損害と評価されるか、それとも全体として一つの大きな損害と見なされるかはケースバイケースです。単純に不倫相手の人数分だけ慰謝料が増えるわけではありませんが、複数の不倫相手がいた場合は、請求戦略を慎重に検討することで、より多くの慰謝料を受け取れる可能性が高まります。

不貞慰謝料の相場はいくら?満額請求の基準

不貞行為による慰謝料の請求を検討する際、多くの方が疑問に感じるのが「いったいいくら請求できるのか」という点ではないでしょうか。慰謝料には法律で定められた定価というものはなく、不貞行為に至った経緯や、それによって受けた精神的苦痛の程度など、様々な事情を総合的に考慮して判断されます。

過去の裁判例や示談交渉の傾向から、おおよその「相場」は存在します。二重取りを検討する際も、まずはこの「総額としての相場」を知っておくことが重要です。

  • 離婚しない場合: 一般的に50万円~100万円程度
  • 離婚する場合: 一般的に100万円~300万円程度

この金額はあくまで「不貞行為全体に対する損害額」の目安です。例えば相場が200万円のケースで、配偶者からすでに200万円を受け取っている場合、原則として不倫相手にはそれ以上請求できません。しかし、慰謝料額は婚姻期間の長さや不貞行為の期間、子どもの有無などによって増減します。

自分のケースで具体的にいくら請求できそうか、より詳しい相場や計算方法については、以下の記事で解説しています。

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また、相場よりも低くなってしまうケースについても知っておくと、交渉での失敗を防げます。

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慰謝料を満額請求するための具体的な4ステップ

不貞行為の慰謝料請求は、感情的になりがちな状況ですが、冷静かつ戦略的に進めることが成功の鍵を握ります。個人で対応するには精神的な負担も大きく、法的な知識がなければ不利な状況に陥る可能性もあります。

このセクションでは、慰謝料をできるだけ確実に満額に近い形で獲得するために踏むべき具体的な4つのステップを解説します。「証拠収集」「請求相手の決定」「交渉」「裁判」という一連の流れを理解することで、より効率的かつ有利に手続きを進められるでしょう。それぞれのステップで何に注意すべきか、具体的な方法を詳しく見ていきます。

ステップ1:不貞行為の証拠を確実に集める

慰謝料請求において、非常に重要であり、その成否に大きな影響を与えるのが「証拠収集」です。確かな証拠がなければ、相手方が不貞行為の事実を認めなかったり、慰謝料の支払いを拒否したりする可能性が高まります。

有効な証拠となり得るものは多岐にわたります。

  • 肉体関係があったことを示すLINEやメールのやり取り
  • ラブホテルに出入りする写真や動画
  • 性行為があったことをうかがわせる音声データ
  • クレジットカードの利用明細、探偵の調査報告書、GPSの記録

これらの証拠は、単体ではなく複数を組み合わせることで、より証明力が高まります。ただし、証拠の集め方には法的な注意点もあります。違法な手段で集めた証拠はリスクとなることもあるため、注意が必要です。

詳しくは以下の記事で解説しています。

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ステップ2:請求相手と請求の順番を決める

不貞慰謝料の請求は、配偶者と不倫相手という共同不法行為者に対して行います。この際、誰に、どのような順番で請求するかという戦略が非常に重要になります。考えられる請求パターンはいくつかあります。

まず、「1.不倫相手にのみ請求するケース」。これは、配偶者との関係修復を目指したい場合に選択されることが多いです。次に、「2.配偶者にのみ請求するケース」。配偶者の経済力が不倫相手よりも高い場合や、不倫相手との関わりを避けたい場合に有効です。「3.両方に同時に請求するケース」。これは比較的一般的なパターンで、双方にプレッシャーをかけ、早期解決を目指す場合に選択されます。最後に、「4.まず不倫相手に請求し、次に配偶者に請求(またはその逆)するケース」です。

これらの選択肢の中から、自身の状況に最も適した戦略を選ぶ必要があります。例えば、不倫相手の資力が乏しい場合は、配偶者へ先に請求することを検討するかもしれません。反対に、配偶者との関係をこれ以上悪化させたくない場合は、不倫相手から優先的に慰謝料を回収することを目指すことも考えられます。

それぞれのパターンにはメリットとデメリットがあり、夫婦関係の今後や、それぞれの支払い能力などを総合的に考慮して決定することが求められます。この段階で弁護士に相談することで、法的な観点から最適な戦略を立ててもらうことが可能です。

ステップ3:内容証明郵便で請求し、示談交渉を行う

証拠が集まり、請求相手と戦略が決まったら、具体的な請求アクションに移ります。口頭での請求では「言った言わない」のトラブルになりがちで、相手が真剣に対応しない可能性もあります。そのため、書面で請求することが非常に重要です。

その手段として有効なのが「内容証明郵便」です。内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を誰から誰へ差し出したのかを郵便局が公的に証明してくれるサービスです。これにより、相手に慰謝料請求の意思と具体的な内容が伝わったことを客観的に証明でき、相手に心理的なプレッシャーを与え、本気度を示すことができます。また、時効の進行を一時的に止める効果もあります。

内容証明便について、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

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内容証明郵便を送付した後、相手方との間で示談交渉が始まります。この交渉では、慰謝料の金額だけでなく、支払い方法(一括払いか分割払いか)、支払い期日、口外禁止条項、そして特に重要な「求償権の放棄」など、様々な条件を取り決める必要があります。

示談交渉で合意に至った場合は、その内容を「示談書」として書面に残すことが必須です。示談書は、後のトラブルを防ぐための重要な証拠となりますので、詳細かつ正確な内容を盛り込むよう注意しましょう。

ステップ4:交渉が決裂したら裁判(訴訟)を検討する

もし示談交渉が不成立に終わってしまった場合、次の手段として「裁判(訴訟)」を提起することを検討します。裁判は、当事者間の合意では解決できない場合に、裁判所が法に基づいて判断を下す最終的な解決手段です。

裁判のメリットとしては、裁判所という第三者が介入することで、精神的苦痛に見合う適正な慰謝料額が法的に判断される点が挙げられます。また、相手が判決に従って支払いに応じない場合には、強制執行などの法的措置を取ることが可能になります。

一方で、裁判は一般的に解決までに時間がかかり、精神的負担も少なくありません。弁護士費用も発生するため、経済的な負担も大きくなります。また、必ずしも望んだ通りの結果になるとは限らない点にも注意が必要です。

示談交渉がまとまらない状況になったら、すぐに訴訟に踏み切るのではなく、改めて弁護士に相談し、これまでの経緯や証拠、見込まれる費用対効果などを総合的に判断してもらい、訴訟を提起すべきか否か、またその場合の勝算やリスクについてアドバイスを受けることが大切です。

裁判の流れや費用については、以下の記事も参考にしてください。

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慰謝料請求で失敗しないための注意点

慰謝料請求は、一見するとシンプルな手続きに見えるかもしれませんが、実際には多くの法的知識と交渉術が求められる複雑なプロセスです。これまで具体的な請求のステップについて解説してきましたが、ただ手順を踏むだけでは、思わぬ落とし穴にはまってしまったり、将来的に新たなトラブルが生じたりするリスクがあります。特に、不貞慰謝料の場合、請求相手が配偶者と不倫相手の複数にわたることも多く、その関係性ゆえに注意すべき点がさらに増えます。

このセクションでは、慰謝料をできるだけ確実に、そして将来の不安を減らしながら満額に近い金額を獲得するために、特に知っておくべき重要な3つの注意点について詳しく解説します。「求償権」の問題、「慰謝料の名目」の明確化、そして「時効」という、法的に重要な要素を理解し、適切な対策を講じることが、安心と権利を守る上で大切になります。

示談書には必ず「求償権放棄」の条項を入れる

不貞慰謝料の請求において、特に注意すべき点のひとつが「求償権」です。償権とは、共同不法行為者の一方が、本来もう一方の加害者が支払うべき負担分を超えて慰謝料を支払った場合に、その超えた部分をもう一方の加害者に対して請求できる権利のことを指します。

例えば、精神的苦痛に対する慰謝料総額が200万円と算定され、被害者が不倫相手にのみ200万円全額を請求し、相手がそれを支払ったとします。この時、もし不倫相手と配偶者の負担割合が等しい(50:50)と見なされる場合、不倫相手は「本来配偶者が支払うべき100万円を自分が支払った」として、配偶者に対して100万円の支払いを求めることができるのです。これが求償権の行使です。

このような事態が起きると、不倫相手から受け取った慰謝料が、結果的に配偶者へと流れてしまうことになり、当事者の意図とは異なる結果を招く可能性があります。特に、配偶者との関係修復を考えている場合、不倫相手から配偶者へ求償権が行使されることは、関係をさらに悪化させかねません。

この求償権の問題を避けるためには、示談書に「求償権放棄」の条項を盛り込むことが重要です。具体的には、「乙(不倫相手)は甲(請求をする側)の配偶者に対し、本件に関する一切の求償権を放棄する」といった文言を明記することで、不倫相手から配偶者への請求を法的に封じることができます。この条項がない示談書を交わしてしまうと、後で大きなトラブルに発展する可能性があるため、十分な注意が必要です。

慰謝料の「名目」を明確にして二重払いを防ぐ

配偶者と不倫相手の両方から金銭を受け取る場合、それぞれの金銭が「何に対する支払いなのか」を明確にしておくことが非常に重要です。もし金銭の名目が曖昧なままだと、後から相手方の一方が「すでに配偶者(または不倫相手)から慰謝料を受け取っているのだから、これ以上の支払いはしない」と主張してくるリスクがあります。これは、被害者側が慰謝料を「二重取り」しようとしていると誤解されるだけでなく、法的な交渉においても不利になる可能性があります。

この問題を避けるためには、示談書や合意書に金銭の「名目」を正確かつ具体的に記載することが不可欠です。例えば、配偶者から受け取る金銭については「離婚に伴う解決金として」「財産分与として」などと明記し、これが不貞行為のみに対する慰謝料ではないことを明確にします。これにより、不倫相手に対しては「不貞行為に対する慰謝料」として請求する権利を保全し、それぞれから適正な金額を受け取ることが可能になります。

名目を明確にすることは、単に二重払いを防ぐだけでなく、それぞれの相手が「何に対していくら支払うのか」を正確に認識した上で合意形成をすることにもつながります。これにより、将来的な争いの種を減らし、比較的スムーズな解決に結びつけることができます。

慰謝料請求権には時効がある(損害及び加害者を知った時から3年)

慰謝料請求には期限が設けられており、これを「時効」といいます。不貞行為のような不法行為に基づく損害賠償請求権の時効は、原則として「損害および加害者を知った時」から3年間です。

配偶者の不貞を知り、さらにその不倫相手が誰であるかを明確に認識した日から3年が経過すると、原則として不倫相手に対して慰謝料を請求する権利が消滅してしまいます。時効が迫っている場合の対処法など、詳細は以下の記事をご確認ください。

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不貞慰謝料の二重取りに関するよくある質問

不貞慰謝料の請求は、法的な知識と感情が絡み合う複雑なプロセスです。これまで解説してきた法的な仕組みや具体的な請求方法を踏まえても、実際に直面すると様々な疑問が湧いてくることでしょう。

ここでは、多くの方が抱きがちな具体的な疑問の中から、特によく寄せられる3つの質問を取り上げ、分かりやすく解説していきます。慰謝料請求を進める上での不安や疑問の解消に役立ててください。

Q. 離婚しない場合でも、不倫相手だけに満額請求できますか?

はい、離婚しない場合でも不倫相手だけに慰謝料の満額を請求することは可能です。不貞行為によって受けた精神的苦痛という損害に対して、被害者は配偶者と不倫相手のどちらか一方、または両方に対して全額を請求する権利を持っています。そのため、配偶者との関係修復を望むのであれば、不倫相手にのみ慰謝料を請求するという選択も十分に考えられます。

ただし、ここで重要な注意点があります。不倫相手が慰謝料の全額を支払った場合、その不倫相手は「共同不法行為者」である配偶者に対して、自分の負担分を超えて支払った分の金銭(通常は半額)を請求する「求償権」を行使できるのが原則です。もし不倫相手が求償権を行使すれば、結果的に配偶者がその金銭を支払うことになり、夫婦関係に再び影響が生じる可能性があります。

このような事態を避けるためには、示談の際に不倫相手との間で「配偶者に対する求償権を放棄する」という条項を盛り込む交渉が非常に重要になります。この条項を入れることで、不倫相手が配偶者に金銭を請求することを法的に制限することができます。弁護士に相談し、適切な示談書を作成してもらうことが望ましいでしょう。

Q. 不倫相手に「配偶者からもらってくれ」と言われました。どうすればいいですか?

不倫相手から「配偶者からもらってほしい」と言われるケースは少なくありません。しかし、これは法的に見て妥当な主張とはいえません。不貞行為は配偶者と不倫相手の「共同不法行為」であり、被害者はそのどちらに対しても慰謝料の全額を請求できる権利を持っています。この支払い義務は「不真正連帯債務」という性質を持っており、被害者が、どちらの加害者からいくら受け取るかを自由に決めることができます。

したがって、不倫相手のこの要求に応じる法的な義務はありません。「誰に請求するかは被害者側が決めることです」といったスタンスで交渉に臨むことが大切です。相手の言葉に惑わされず、自分にとって望ましい形で慰謝料請求を進める必要があります。もし交渉が難しいと感じる場合は、弁護士に相談し、代理人として対応してもらうことで、このような不当な要求を冷静に退けることができます。

Q. 配偶者と不倫相手、どちらに先に請求するのが有利ですか?

配偶者と不倫相手のどちらに先に請求するのが有利かという問いに対しては、「ケースバイケースであり、一概にどちらが有利とは言えない」というのが答えになります。置かれている状況や、今後の関係性に関する希望によって最適な戦略は異なります。

判断の基準となる視点はいくつかあります。まず、「今後の夫婦関係をどうしたいか」が挙げられます。もし夫婦関係の修復を目指すのであれば、不倫相手から先に慰謝料を受け取り、配偶者にはその負担を求めないという形を取ることで、関係修復の道を探りやすくなるかもしれません。一方で、離婚を考えているのであれば、両方から、または資力のある方から優先的に請求することを検討できます。

次に、「相手の資力(支払い能力)」も重要な判断基準です。支払い能力が高い方から先に請求することで、慰謝料を確実に回収できる可能性が高まります。また、「交渉のしやすさ」も考慮すべき点です。深く反省しており、穏便に解決したいと考えている相手から先に交渉を進めることで、スムーズな解決が期待できることもあります。

これらの要素を総合的に判断し、状況に合わせた最適な戦略を立てることが重要です。判断に迷う場合は、弁護士に相談して、専門的な見地からアドバイスを受けることをおすすめします。

慰謝料を確実に満額獲得したいなら弁護士への相談が近道

不貞慰謝料の請求は、法的な知識と交渉のテクニックが複雑に絡み合うデリケートな手続きです。個人で対応しようとすると、その精神的な負担は大きく、さらに法的な落とし穴にはまってしまう可能性も少なくありません。

できるだけ確実に、かつスムーズに精神的苦痛に見合う満額の慰謝料を獲得するためには、専門家である弁護士のサポートが有効な手段となります。ここからは、弁護士に相談することで得られる具体的なメリットを3つご紹介します。

ケースに合った最適な請求戦略を立ててくれる

慰謝料請求は、一律の対応で全てが解決するわけではありません。証拠の具体的な内容、配偶者との関係(離婚するのか、しないのか)、不倫相手の性格や社会的地位、経済状況など、ケースによって考慮すべき点は多岐にわたります。弁護士は、これらの個別の事情を総合的に分析し、誰に、いつ、どのような内容で請求するのが最も効果的か、というオーダーメイドの戦略を立ててくれます。

例えば、求償権放棄条項の盛り込み方や、金銭の「名目」をどうするかといった専門的な視点から、その状況に最適な示談条件を設計してくれるため、不必要なリスクを回避し、できるだけ多くの慰謝料獲得へと導いてくれます。

精神的に辛い交渉をすべて任せられる

不倫をした配偶者やその不倫相手と直接交渉することは、被害者にとって非常に大きな精神的負担を伴います。裏切られた怒りや悲しみの中で、冷静に法的な話をすることは容易ではなく、ストレスは相当なものになります。また、相手から心ない言葉を浴びせられたり、交渉が長引いたりすることで、さらに心の負担が増してしまう可能性もあります。

弁護士に依頼すれば、直接相手と顔を合わせたり、連絡を取ったりする必要は基本的になくなります。弁護士が代理人として交渉の窓口となり、全てのやり取りを代行してくれます。これにより、精神的な負担を軽減し、自身の心のケアや今後の生活再建に集中しやすくなるという大きなメリットがあります。

後々のトラブルを防ぐ法的に有効な示談書を作成できる

慰謝料請求において、当事者同士の口約束や不備のある示談書は、後々「言った言わない」の争いや、新たなトラブルの原因となりがちです特に、求償権の問題や金銭の名目の記載方法を誤ると、せっかく受け取った慰謝料が減額されたり、知らないうちに配偶者が不倫相手から請求されるといった事態も起こり得ます。

弁護士は、将来のリスクをなるべく減らすための「求償権放棄条項」や、不倫相手との接触を禁じる「接触禁止条項」、不貞の事実を他言しない「口外禁止条項」など、法的に有効で抜け漏れのない示談書を作成してくれます。

また、示談書を公正証書にする手続きも代行できるため、万が一相手の支払いが滞った場合でも、裁判を経ずに強制執行が可能となり、慰謝料をより確実に回収するための手段となります。

弁護士費用が気になる方は、費用の相場やメリットについて解説した以下の記事も参考にしてください。

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まとめ

不貞慰謝料請求は、多くの方が「配偶者と不倫相手の両方から二重に慰謝料をもらいたい」と考える一方で、「本当にそんなことが可能なのだろうか」という疑問を抱きやすいものです。厳密な意味での不貞慰謝料の「二重取り」は法的には認められませんが、だからといって被害者が泣き寝入りしなければならないわけではありません。

不貞行為は、配偶者と不倫相手の「共同不法行為」であり、その結果生じた精神的苦痛という損害に対して「一つの慰謝料」が算定されます。この慰謝料は、共同不法行為者である配偶者と不倫相手のどちらか一方、あるいは双方から満額を受け取る権利があります。重要なのは、「不真正連帯債務」という仕組みを理解し、一方が支払えばその分だけもう一方への請求額が減る、という原則を踏まえることです。

もっとも、この法的な仕組みを踏まえた上で、戦略的に交渉を進めることで、実質的に満額以上の支払いを受けることも可能です。例えば、配偶者からの支払いを「離婚慰謝料」や「解決金」とすることで、不倫相手に対する不貞慰謝料請求権を減額させずに済ませることができます。また、交渉次第では相場を超える金額での示談が成立したり、複数の不倫相手がいる場合にはそれぞれに請求したりすることも考えられます。

不貞慰謝料請求を適切に進めるためには、確実な証拠収集、請求相手と請求順序の戦略的な決定、そして内容証明郵便を用いた示談交渉が重要なポイントとなります。万が一交渉が決裂した場合には、裁判を検討することになります。

特に注意すべき点として、「求償権」の問題があります。不倫相手が慰謝料を支払った後、配偶者に対して支払った分の一部を請求する権利を行使する可能性があるため、示談書には「求償権放棄」の条項を盛り込むことが望ましいといえます。また、慰謝料の「名目」を明確にすること、そして「時効」の存在も忘れてはなりません。

これらの手続きや交渉は、法的な知識や経験がないと負担が大きく、専門家のサポートがあるかどうかで結果が変わることも少なくありません。できるだけ確実に満額を獲得し、将来的なトラブルを避けるためには、弁護士への相談が現実的で安心な近道となります。一人で抱え込まず、まずは専門家へ相談することから始めてみてください。

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