秘密管理性とは?営業秘密として認められる要件・具体例・裁判例を弁護士が解説
2026年05月22日

秘密管理性とは、不正競争防止法(2条6項)が定める「営業秘密」の3要件の1つで、情報が秘密として管理されていることを指します。
具体的には、
①会社が情報を秘密として管理しようとする意思(秘密管理意思)が、
②アクセス制限やマル秘表示などの管理措置によって従業員に明確に示されており、
③従業員が「この情報は秘密だ」と認識できる状態(認識可能性)が確保されていることが必要です。
3要件の中で訴訟で最もよく争われる要件であり、体制の整備と実際の運用の両立が不可欠です。
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営業秘密の3要件と秘密管理性の位置づけ
不正競争防止法2条6項は、「営業秘密」を「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義しています。
この定義から、営業秘密として法的保護を受けるには、以下の3要件をすべて満たす必要があります。
- 秘密管理性:情報が秘密として管理されていること
- 有用性:事業活動に有用な情報であること
- 非公知性:公然と知られていないこと
このうち、実際の訴訟で最もよく争われ、企業側が敗訴する主因となるのが「秘密管理性」です。有用性・非公知性は比較的認められやすい要件ですが、秘密管理性は「どの程度の管理が必要か」という判断が難しく、要件を満たしているかどうかが訴訟の帰趨を左右するケースが少なくありません。春田法律事務所においても、企業からの相談の中でこの秘密管理性の問題に直面するケースが多く見受けられます。
秘密管理性とは――法的な定義と判断基準
経済産業省「営業秘密管理指針」が示す基準
秘密管理性の要件を理解するうえで最も参考になるのが、経済産業省が公表している「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日策定・令和元年1月23日最終改訂)です。同指針は、秘密管理性について次のように示しています。
秘密管理性が認められるための核心は次の2点です。
- 秘密管理意思:
会社がその情報を秘密として管理しようとしていること - 認識可能性:
管理措置を通じて、従業員が「この情報は秘密だ」と認識できる客観的状態が確保されていること
重要なのは、会社が「秘密だと思っている」という主観的な意思があるだけでは足りず、客観的に認識可能な措置が実際に講じられていることが求められるという点です。
必要な管理措置の程度は一律ではない
具体的にどの程度の管理措置が必要かについて画一的な基準はなく、「企業の規模、業態、従業員の職務、情報の性質その他の事情」によって異なるとされています(同指針)。大企業では厳格な統一的セキュリティ体制が求められる一方、中小企業であれば限られたアクセス権者を対象にしたシンプルな体制でも要件を満たすことがあります。近年の裁判例では、以前に比べてフレキシブルな判断がされるようになってきており、企業規模・業態に応じた合理的な管理措置があれば認められる傾向にあります。
秘密管理措置の具体例
経済産業省「営業秘密管理指針」では、媒体の種類に応じた秘密管理措置の具体例として以下が挙げられています。
媒体の種類 | 具体的な管理措置の例 |
紙媒体 | 文書・ファイルへの「マル秘」表示、施錠可能なキャビネット・金庫への保管 |
電子媒体 | 電子ファイル・フォルダへのパスワード設定・アクセス制限、「秘」「Confidential」の表示付記 |
物件(設備・製品等) | 「関係者以外立入禁止」の掲示、入館ゲート・警備員の設置、写真撮影禁止の表示 |
媒体がない場合 | 対象情報の範囲・カテゴリーをリスト化し、文書等に記載・周知する |
複数媒体にまたがる場合 | 原則、各媒体ごとに秘密管理措置が必要。ただし一方の措置で認識可能であれば他方を省略できる場合もあり |
参考:経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上に向けて~」(令和6年2月最終改訂)
具体的な情報資産管理の方法とセキュリティ対策については、以下の記事で実務的な観点からまとめています。
秘密管理性が「否定」されやすい落とし穴
実務上、次のような状況では秘密管理性が否定されるリスクが高まります。
- 就業規則に「一切の秘密情報を漏洩しない」という包括的な定めがあるだけで、何が秘密情報かが具体的に特定されていない
- IDやパスワードが複数の従業員間で共有されており、実質的に誰でもアクセスできる状態にある
- 重要情報と一般情報が混在して保管されており、どれが秘密情報か判別できない状況になっている
- 規程やシステムは整備されているが、実際の運用が伴っていない
- 退職後の秘密保持義務が就業規則・誓約書に明示されていない
特に4.は見落とされがちなポイントです。どれだけ厳格な就業規則やアクセス制限を設けていても、実際の運用において誰でもアクセスできる状態が続いていたり、重要性を区別せず雑多に情報を管理していたりすると、裁判で秘密管理性が否定される可能性があります。制度の整備と実際の運用が一致していることが不可欠です。
裁判例から見る秘密管理性の判断
秘密管理性が認められた例
施錠付きサーバー室内に一元管理・保存され、承認を受けた特定の従業員のみがIDとパスワードを用いてアクセスできる状態で管理されていた顧客情報データについて、秘密管理性が認められた事例があります。電子媒体でのアクセス制限と、情報の合理的区分管理の組み合わせが評価されています。情報の一部が従業員の記憶に残っていたり、プリントアウトして社外に持ち出されたりしていた場合でも、電子データ上の管理措置によって秘密管理意思が十分に認識可能であるとして秘密管理性が肯定されています。
秘密管理性が否定された近年の裁判例
大阪地裁令和5年2月21日判決
従業員に秘密保持義務が課されていないことを理由に、客観的認識可能性がないとして秘密管理性が否定された事例。就業規則等による秘密保持義務の付与が、秘密管理性の認定にとって重要な要素となることが改めて示されました。
大阪高裁令和6年2月9日判決
従業員に秘密保持義務が課されていなかったことを理由に、非公知性が否定された事例。秘密管理性の問題は、非公知性の判断にも連動することが示されています。
これらの裁判例は、従業員への秘密保持義務の付与と秘密管理性・非公知性が密接に関係することを示しています。就業規則や入退職時の誓約書において、対象となる秘密情報を具体的に特定したうえで秘密保持義務を課すことが、法的保護の前提条件となります。
秘密保持義務(NDA・就業規則)との関係
秘密情報を法的に保護するルートは、不正競争防止法による営業秘密としての保護と、就業規則・秘密保持契約(NDA)による契約上の保護の2つがあります。この2つは無関係ではなく、相互に深く連動しています。
秘密保持義務が課されていないと、営業秘密の秘密管理性や非公知性が否定されやすくなります(前述の裁判例参照)。逆に、就業規則に秘密保持義務の定めがあっても、秘密管理性を満たすレベルの管理体制が伴っていなければ、「何が秘密情報か特定されていない」として秘密保持義務違反自体が否定されるリスクがあります。
また、退職後の秘密保持義務が就業規則に明示されていない場合、退職に伴う情報持ち出しに対して十分な法的対応が取れないおそれがあります。退職時に「退職後も」秘密情報を漏洩しない旨を明記した秘密保持誓約書を取得することが重要です。
業務委託先や外部パートナーとの契約に盛り込むべき機密保持条項については、こちらの記事で詳しく解説しています。
秘密管理性確保のためのチェックリスト
自社の情報管理体制が秘密管理性の要件を満たしているかどうか、以下の項目で確認してみてください。
□ 秘密情報にアクセスできる者を限定しているか(アクセス制限・ID/パスワード管理)
□ 紙媒体・電子データに「マル秘」「Confidential」等の表示をしているか
□ 重要情報と一般情報を区分して管理しているか(「厳秘」「秘密」「社内限り」等のレベル分け)
□ 就業規則・秘密保持契約で、対象情報が具体的に特定されているか
□ 退職後も秘密保持義務が継続することを明示しているか
□ 退職時の秘密保持誓約書を取得しているか
□ 実際の運用が規程と一致しているか(IDの共有・情報の雑多な管理がないか)
□ 情報セキュリティに関する社内研修を定期的に実施しているか
必要な管理措置の程度は企業の規模・業態・情報の性質によって異なります。自社の体制が十分かどうか不安な場合は、専門家への相談をお勧めします。
秘密管理性が問題になる典型的なトラブルシーン
退職した元従業員が顧客リストを持ち出した
営業担当者が退職する際、在職中にアクセスしていた顧客データをコピーして競合他社へ転職した、というケースは頻繁に発生します。このとき、当該顧客情報が「営業秘密」として保護されているかどうかは、秘密管理性が認められるか否かにかかっています。
技術情報が元従業員を通じて競合他社に流出した
製品の製造ノウハウや開発中のソースコードが、退職した技術者を介して同業他社に渡るケースも深刻です。情報が営業秘密として保護されていなければ、差止めや損害賠償請求が難しくなります。
業務委託先が受領した秘密情報を自社に流用していた
外部の委託先・協力会社に共有した技術情報や企画資料が、その後、相手方の事業に無断で利用されるケースもあります。委託契約での秘密保持義務と、社内での秘密管理体制の両輪が必要です。
いずれのケースでも、「情報を秘密として管理していた」という事実を客観的に立証できるかどうかが、法的措置の可否を左右します。
退職者や内部犯行による情報漏洩の具体的な脅威と対策については、以下の記事もあわせてご覧ください。
情報漏洩が発覚した場合の法的手段
営業秘密の不正取得・使用・漏洩が認められる場合、不正競争防止法に基づき次の法的手段を講じることができます。
情報漏洩が発覚した際に企業がまず取るべき行動については、こちらの記事でも手順を解説しています。
【民事的措置】
- 差止め請求(不競法3条)
不正競争行為の停止・予防を求める - 損害賠償請求(不競法4条・5条)
損害額の推定規定が設けられており、通常より立証負担が軽減される - 信用回復措置請求(不競法14条)
謝罪広告の掲載や取引先への謝罪文発送を求める
顧客情報が流出した場合の企業責任・損害賠償・信用回復については、以下の記事で詳しく解説しています。
【刑事的措置】
- 営業秘密侵害罪(不競法21条)
10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金。法人には5億円以下の罰金が科される場合がある - 刑事告訴を検討することで、捜査機関を通じた証拠収集が可能になるほか、相手方への強力なプレッシャーとなる
ただし、これらの措置を有効に活用するためには、「自社の情報が営業秘密の要件(とりわけ秘密管理性)を満たしている」ことを事前に確認しておくことが不可欠です。トラブルが発生した後に管理体制を急いで整備しても、過去の時点での秘密管理性が否定されてしまうおそれがあります。
よくある質問(FAQ)
Q:秘密管理性とはどういう意味ですか?
A:不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるための要件の一つで、情報が秘密として管理されていることを指します。具体的には、会社の秘密管理意思がアクセス制限やマル秘表示などの管理措置によって従業員に明確に示されており、従業員が「この情報は秘密だ」と認識できる状態(認識可能性)が確保されていることが必要です。
Q:マル秘表示を貼るだけで秘密管理性は認められますか?
A:マル秘表示は秘密管理措置の一つですが、それだけで十分とは限りません。表示に加えて、アクセスできる人を限定したり、適切に区分管理したりするなど、従業員が実際に秘密情報として認識できる状態を確保することが重要です。
Q:中小企業でも秘密管理性は認められますか?
A:認められます。必要な管理措置の程度は企業規模に応じて異なり、中小企業では比較的シンプルな管理体制でも秘密管理性が認められることがあります。大切なのは、規模に見合った合理的な措置を実際に運用していることです。
Q:就業規則に秘密保持義務を定めていれば十分ですか?
A:就業規則への記載は重要な第一歩ですが、それだけでは不十分です。「一切の秘密情報」という包括的な定めに加えて、具体的にどの情報が秘密情報にあたるかを従業員が認識できるようにする必要があります。また、制度と実際の運用が一致していることも求められます。
Q:口頭の指示だけで秘密管理性を満たせますか?
A:難しいと考えるべきです。口頭での指示は客観的な証明が難しく、従業員が秘密情報であることを認識していたかどうかを裁判で示すことができません。文書化・可視化された管理措置を講じることが不可欠です。
Q:退職者に情報を持ち出された場合、まず何をすればよいですか?
A:アクセスログ・メール記録等の証拠の保全を最優先に行い、早急に弁護士へ相談することをお勧めします。差止め仮処分の申請など、迅速な法的対応が被害の拡大防止に直結します。
情報セキュリティリスクへの対応を弁護士に相談するメリットや弁護士の選び方については、こちらをご覧ください。
まとめ
秘密管理性は、営業秘密としての法的保護を受けるための最大のハードルです。要点を整理します。
- 秘密管理性が認められるには「従業員の認識可能性」が鍵。会社の秘密管理意思が管理措置を通じて客観的に示されていることが必要
- 規程やシステムの整備だけでなく、実際の運用が伴うことが不可欠
- 就業規則・秘密保持契約との連携により、不正競争防止法と契約上の保護の両面から実効性が高まる
- トラブルが起きてから対応するのではなく、予防的な体制整備こそが重要
秘密管理性の要件を満たすには、社内情報セキュリティ規程の整備、就業規則・雇用関係契約書への秘密保持条項の明記、取引先との契約書におけるセキュリティ条項の確認など、法律と実務の両面にわたる対応が必要です。「自社の体制が要件を満たしているか確認したい」「規程や契約書を整備したい」「情報漏洩トラブルへの対応が必要」といった場合は、早期に専門家へ相談することをお勧めします。
春田法律事務所では、情報処理安全確保支援士の国家資格をもつ弁護士と経験豊富なIT人材が連携し、中小企業の情報セキュリティ対策を法律・技術の両面からサポートしています。社内情報セキュリティ規程のレビューと整備、就業規則・雇用関係契約書の秘密保持条項チェック、取引先との契約書のセキュリティ条項確認まで、秘密管理性の要件を満たす体制づくりを一貫して支援します。ご相談は土日祝日も24時間受け付けています。
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