いくら貰える? 立ち退き料の計算方法
最終更新日: 2023年06月13日
立ち退き料の金額の決め方
巷では「立ち退き料は家賃6か月分」などといった独自の算定基準が横行しています。おそらくインターネットサイトでそのような情報が出回っているのだと思われます。
仮に、「立ち退き料は家賃6か月分」という基準によるならば、たとえば、家賃8万円のアパートの場合、得られる立ち退き料は50万円にも満たないものになります。新規契約に仲介手数料がかからない場合や、引っ越し代の安い単身者などであれば、赤字にならないかもしれません。
しかし、別の大家と賃貸借契約を結ぶためには、礼金、仲介手数料、その他経費が当然かかってきます。実際に入居者が立ち退くためには、家族全員分の荷物を移転先へ引っ越すことになり、その引っ越し代だけで数十万円を要することもあります。
立ち退き料とは、何の非もない入居者を定住地から立ち退かせるために支払われる費用なのですから、謝礼程度の金額では極めて不十分であることは間違いありません。
そこで、実際の立ち退き紛争において、立ち退き料がどのように算定されているのか、具体的な裁判例を交えながら、以下で詳しく説明します。
居住用家屋の場合
立ち退き料の内容は、以下のように分類されます。
- 移転経費
- 新規契約金
- 前家賃との差額
- 敷金との差額
- 借家権価格
- 居住権の補償
- 再開発利益の配分額
- 転居による慰謝料
- その他の名目
基本的には、1と2は立ち退きによって必ず賃借人側(借家人)にかかってくる費用であり、最低限の補償金額となります。これに③ないし⑨の金額のうちどれかが認められて最終的な立ち退き料が計算されます。
立ち退きの交渉において、よく問題となる考慮要素としては、3前家賃との差額です。3については、家賃差額を補償する期間が問題となります。一般的には、1~3年間の範囲内で賃料差額を補償しており、この期間については、賃貸人側の正当事由がどの程度認められるかによって変わってくるでしょう。
そして、最低限の補償である1と2に、3の家賃差額(1~3年分)を加えた金額が一般的な相場とされています。
この算定基準を計算式として表すと、以下のようになります。
【立ち退き料=(新規賃料―現行賃料)×1~3年+移転費用+新規契約金】
賃料の差額や補償期間にもよりますが、居住用物件の立ち退き料としては、150~200万円が認められるケースが多いです。
さらに、賃貸人側の正当事由が、相対的に低い事案においては、不要不急の立ち退きに応じざるを得ない賃借人側(借家人)の保護が必要になると考えられますから、その他の算定根拠も加味して、立ち退き料が算定されます。
主張し易いのは⑧の慰謝料ですから、算定根拠の一つとして主張しておくべきです(もっとも、立ち退きが面倒という抽象的な理由では、法的な算定根拠とし難いと思われますので、具体的な事象を基に説得的な説明が必要となります。)。
近年増加している再開発を理由とした立ち退きにおいては、7が認められることがあり、相場よりも高額な立ち退き料が支払われることもあります。
なお、5の借家権価格を基準として立ち退き料を算定する裁判例もかつては存在しました。しかし、現在は、借家権価格を念頭に置いた取引慣行が少なくなっていることから、借家権価格を参照する事案は極めて少なくなっています。
営業用建物の場合
営業用借家の場合、居住用借家に比べると、算定要素が多様に存在し、明確な基準を提示するのは困難です。
一般的には営業用借家の立ち退き料の内容は、以下のように分類されます。
- 移転費用
- 新規契約金
- 前家賃との差額
- 借家権価格
- 数年分の賃料補償
- 営業補償
- 再開発利益の配分
- 転居による慰謝料
- 工作物補償
- 業種ごとの費用
営業用借家が、居住用借家と明らかに異なる点は、⑥の営業補償が生じるという点でしょう。立ち退きにより、賃借人側には、大きな営業損失が生じることもあるため、居住用借家と比べ、立ち退き料は高額化する傾向にあります。
ただし、どの項目が重視されるのかは、事案によって異なってきます。また、営業用借家は、業種によっても、賃借人側に生じる損害は大きく変わってくるので、業種ごとの特徴を踏まえて立ち退き料を算定する必要があります。
立ち退き料の内訳、内容
先ほど列挙しました立ち退き料の内容について、以下個別にご説明します。
居住用家屋
引っ越し費用(引っ越し代)
建物から立ち退くにあたっては、当然、引っ越し業者に依頼して、建物内の家具や残置物等を別の場所に移転させる費用がかかります。
ただし、立ち退きをしなければ、実際にかかる引っ越し費用はわかりませんので、家族構成に応じて、暫定的に最低限かかるであろう引っ越し費用を賃借人側は請求し、受け入れてもらうことが通常です。引っ越し費用の見積書を提出することはあまりありません。
仲介手数料、礼金
新たに移転先となる物件を契約するためには、不動産仲介業者などに支払う仲介手数料や、新たな賃貸人側に支払う礼金等の契約金が必要となります。
立ち退きがなければ当然、負担する必要のなかった費用であるため、認められやすい項目です。
実務上は、新規契約先の賃料を想定した上で、その1か月分、あるいは2カ月分を立ち退き料の算定に加えることが多いです。
敷金は含まれない
敷金とは、賃貸借契約から生じる賃借人側の債務を担保するための金銭です。賃借人側が、賃貸人側に対して特段の債務を負担しない限り、原則として全額返還されます。
このように、敷金は、賃借人側に原則として返還されるべき金銭であることから、立ち退き料の算定に含まれません。ただし、新たな移転先となる物件の敷金との差額が生じる場合において、賃借人側がそれを負担できない場合には、認められる余地があります。
家賃差額
立ち退きを余儀なくされる賃借人側としては、できれば生活環境を大きく変えたくないと考えるのが通常です。
しかし、実際問題として、ほとんど現在の生活環境を変えることなく、新たな物件を契約する場合、かなり物件選択の条件が限られてくるため、従前家賃よりも高額になることが通常です。
賃借人側によっては、家賃が数万円でも増えてしまうと、生活が成り立たなくなることもありえるので、賃借人側の生活保障のために、家賃差額を認めることが一般的です。
もちろん、新たな物件の家賃が高すぎるとして、家賃差額が争われ、賃貸人側から新たな物件の候補が出されることもあります。
しかし、条件が従前の物件よりも劣悪であったり、そもそも条件が全く異なっていたりした場合、賃貸人側が一方的に押し付けていた物件の賃料額を基に、家賃差額を算定するのは酷といえます。
築年数、間取り・広さ、立地条件が同程度のものであれば、基本的にはその物件の賃料によって比較されるのが通常です。
また、家賃差額を認める期間は、1~3年分といわれています。この期間については、賃貸人側の正当事由が影響しており、正当事由が強ければ短期間、正当事由が今一つであれば長期間認められる傾向にあります。
借家権価格
借家権の取引慣行が認められる事案において、借家権価格が立ち退き料の算定根拠となる事案があります。
居住権の補償
居住用借家には、賃借人側及びその家族以外にも、同居人が存在することがあります。同居人は、事実上、借家に住んでいることから、借家権があるわけではありません。ただ、立ち退きによって、その同居人にも不利益が生じることから、居住権の補償が問題となることがあります。
基本的な考え方としては、賃借人側に支払われる立ち退き料の中で、同居人の損失も補償されるべきですから、居住権の補償は原則としてありません。
迷惑料 慰謝料
立ち退きは、賃貸人側の一方的都合により、賃借人側にとって住み慣れた建物を出ていくわけですから、賃借人側の被る負担は、かなり大きいものです。
実際、立ち退きがなかった場合に発生するはずもなかった費用の補償に加えて、何らかの経済的メリットがなければ立ち退きに応じる賃借人側はいないと思われます。
賃貸人側の正当事由が比較的劣後する事案においては、迷惑料・慰謝料という言葉を用いるかどうか別として、一定の上乗せ金額が認められる傾向にあります。
もちろん、賃貸人側において、不法行為に該当しうる立ち退きの強要行為が見られる場合には、立ち退き料とは別に慰謝料が認定されることもあります。
営業用建物
引っ越し費用(引っ越し代)
営業用借家についても、居住用借家と同様、引っ越し費用が認められています。
ただし、営業用の場合には、重い機材や什器の搬入もあるため、専門業者による運搬が必要となる場合もあります。
その関係で、営業用建物における引っ越し費用は、居住用に比べて高額になるのが通常です。
仲介手数料、礼金
居住用と同様、営業用建物の場合にも、仲介手数料、礼金などの新規契約金は、立ち退き料において補償されています。
他方、営業用借家の場合、保証金を積むよう求められることがあります。敷金と同様に、原則として賃借人側に返還される性質のものであるとすると、算定根拠に含め難いでしょう。
家賃差額
居住用と同様、営業用建物においても、家賃差額が立ち退き料の算定根拠として用いられます。補償の期間については、正当事由に応じて、1~3年とすることが多いようです。
借家権価格
居住用と同様、営業用建物においても、借家権価格での取引慣行が認められる場合、借家権価格を立ち退き料の算定根拠とすることがあります。
営業補償(休業補償)
営業用借家の場合、賃借人側は、立ち退きを開始してから、移転先への引っ越しが完了するまで、休業を余儀なくされるので、収入が途絶えます。
営業補償の内容には、以下のものがあります。
- 収入源の補償
- 固定経費の補償
- 従業員に対する休業手当相当額の補償
- 得意先損失の補償
- 移転に伴う損失の補償
営業補償については、これを1~4まで全て認めると莫大な金額になることもあるため、全額補償されるわけではありません。
2、3のような固定費については発生する金額も明確なので補償の対象となりやすいので、前年度あるいは直近の状況から想定金額を算出します。
5は、従前の物件の内装工事費用や、移転によって破棄せざるを得なくなった資産、器具等の補償が該当します。ただ、これまでに投じた費用全額が補償対象となるのではなく、減価償却分を控除し、残存価値相当額が補償対象となるのが通常です。
改装工事費用
営業用借家の場合、移転先での営業を継続するためには、荷物の引っ越しだけでは不十分で、物件の内装工事も当然必要となります。改装工事費用は相当高額になります。
賃貸人側の一方的都合によって退去を迫られた上、移転先の内装工事費を支払えないため、廃業を余儀なくされるという事態があってはならないでしょう。
改装工事費用も、賃借人側にとって、突然の明渡請求がなければ支払う必要のなかった費用ですから、実務上、認められることが多い項目です。
迷惑料 慰謝料
居住用と同様、営業用建物においても、迷惑料ないし慰謝料のような名目での上乗せ金が支払われることがあります。
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