介護トラブルでの訴訟提起には時効があるのか!?弁護士が解説!

最終更新日: 2022年11月02日

介護トラブルでの訴訟提起には時効があるのか!?弁護士が解説!

  • 介護トラブルから時間が経過しているがやはり訴訟をしたい
  • 介護トラブルにも時効があるのか
  • 介護トラブルの訴訟を時効前に行うための知識が欲しい

介護中の事故などの「介護トラブル」により利用者に損害が生じてしまったのに、介護施設との争いごとを避けるために裁判を起こすことを思いとどまってしてしまったり、裁判のはん雑な手続き方法がわからずに時間が経過してしまい裁判を諦めてしまったりするケースは少なくなりません。

しかし、たとえ時間が経過していても、介護施設で事故などのトラブルが起きたのであれば、損害を受けた利用者がその補償を求めることは法的に認められた権利です。

今回は、介護事故などの介護トラブルに詳しい専門弁護士が、時効前に訴訟を起こすための基礎知識・介護トラブルの訴訟に関連する時効・介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときのポイントなどについて解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護トラブルでの訴訟を時効前に起こすための基礎知識

介護事故などの介護トラブルでの訴訟を時効前に起こすための基礎知識として、以下の2つを解説します。

  1. 介護トラブルの種類
  2. 介護トラブルの責任は誰が負うのか

1つずつ、見ていきましょう

介護トラブルの種類

介護トラブルの種類として以下の4つが考えられます。

  • 送迎中の事故
  • 転倒・転落
  • 誤嚥・誤飲
  • 入浴介助時の事故

送迎中の事故

介護トラブルの種類1つ目は、送迎中の事故です。
デイサービス施設側が利用者を自宅まで送迎するとき、送迎車の乗降時に足をひっかけて転落したり、自宅内まで移動させるときにつまづいて転倒したりなどといったトラブルがよく見られます。

また送迎車が交通事故に遭ってしまい巻き込まれてしまう場合もあるでしょう。こうした送迎中の事故が起きたとき、シートベルトはしっかりと締められていたのか、車椅子はしっかりと固定されていたのかなどが問題となります。

さらに、利用者の自宅内までの移動は送迎に含まれるのかなど、微妙な状況でのトラブルに対応する為にも、デイサービス施設との契約書はしっかりと確認しておく必要があります。

転倒・転落

介護トラブルの種類2つ目は、転倒・転落です。
デイサービスなどの介護施設において最も多い事故は転倒・転落によるもので、全体の60%を占めています。

また、転倒事故の中でも、介護施設の職員が他の利用者を介助しているわずかな間にトラブルが発生してしまうケースが、全体の約36%を占めています。

利用者は職員に遠慮して1人で行動することが多く、誤って転倒・転落してしまいトラブルになるケースがよく見られます。高齢者は筋力や反射神経が衰えていることが多いので、とっさの動作が難しくなります。このため転倒・転落による骨折事故が起きてしまうのです。

なぜ転倒・転落してしまったのか。転倒・転落を防ぐための対策は充分にされていたのか。介護トラブルが起きたときには、こうしたポイントをおさえてしっかりと状況把握しておくことが重要です。

誤嚥・誤飲

介護トラブルの種類3つ目は、誤嚥・誤飲です。
介護施設では食事介助は重大な事故につながる恐れがあるため、充分に配慮して行われています。しかし、それでも事故は少なくありません。

誤嚥・誤飲事故は、通常の食事をしている最中はもちろん、施設内でイベントを行ったときに、充分な誤嚥対策をしないまま食事が提供されておきる場合があります。

介護施設側は、利用者が日頃からどのように食事をしているのかをしっかりと把握しておくことが必要不可欠です。施設側は利用者の状態にあわせて安全に飲み込める食材の選択や調理方法をとり、適切な食事介助を行うために充分な配慮をしなければなりません。

また、誤嚥が起きたときに、すぐに食べ物を吐き出させることができるよう職員に対して充分な対策指導を行っていたのかもポイントです。誤嚥・誤飲事故が起きてしまった場合には、施設側から説明を受けることはもちろん、食事介助の記録などの資料も提供してもらいましょう。

入浴介助時の事故

介護トラブルの種類4つ目は、入浴介助時の事故です。
入浴中は浴場内での転倒やヒートショックなど、重大な事故を起こす可能性があります。そのため施設では充分な対策がとられている場合がおおいといえますが、それでも浴室内での転倒したり、浴槽内で溺れてしまったりする事故が後を断ちません。

入浴介助時に事故が起きてしまった場合は「職員は何人体制だったのか」「入浴介助は利用者の状態に応じて適切だったのか」などトラブル時の具体的な状況がわかるように施設から説明してもらうことが重要です。

介護トラブルの責任は誰が負うのか

介護トラブルが発生してしまったとき、必ずしも介護施設側が責任を負うわけではない、ということは非常に重要なポイントです。

介護サービスを提供する介護施設には安全配慮義務が課せられますが、それは常に職員が利用者の介助をしなければならない、という意味ではありません。利用者はできるだけ自力で生活することが求められてもいるからです。

介護事故において、介護施設側が追うべき法的責任には不法行為責任と契約上の責任である安全配慮義務違反があります。いずれにおいても責任の有無を判断するにあたっては、事故が発生することを予想できたかという「予見可能性」と、予想に対しての対策が十分であったかという「結果回避可能性」の有無により決められます。この予見可能性と結果回避可能性が認められたとき、介護施設側は介護トラブルの賠償責任を負うことになります。

「予見可能性」と「結果回避性」の判断には、利用者の状態や過去の転倒の有無、事故現場の状況などを具体的に加味する必要があります。この判断には専門的な知識を要することが多いので、弁護士に相談することをおすすめします。

介護トラブルの訴訟に関連する時効

介護トラブルの訴訟に関連する時効を、争点にわけて解説します。

  1. 安全配慮義務違反
  2. 注意義務違反

1つずつ、見ていきましょう。

安全配慮義務違反

介護トラブルの訴訟に関連する時効の1つ目は、安全配慮義務違反です。
安全配慮義務違反による債務不履行の損害賠償の請求は、10年で時効になります。

介護施設は利用者に介護サービスを提供する場合、準委任契約に基づいた介護サービス利用契約を締結しています。このサービス利用契約の締結により準委任契約に基づいた安全配慮義務が施設側に求められるようになります(民法415条)。安全配慮義務とは、施設が利用者の生命や身体の安全を確保して適切なサービスを提供する義務をいいます。

介護施設側がこの安全配慮義務という債務を履行していれば賠償責任は認められません。反対に介護施設がこの安全配慮義務を果たさなかったために損害が発生した場合は、債務不履行として損害を賠償しなければなりません。上述のように安全配慮義務の判断は、予見可能性と結果回避可能性の有無によって決められます。

注意義務違反

注意義務違反には、以下の2つがあります。

  • 介護施設職員の「注意義務違反」
  • 施設側の設備に問題

それぞれについて解説します。

介護施設職員の「注意義務違反」

注意義務違反の1つ目は、介護施設職員の注意義務違反です。
介護職員の不法行為である注意義務違反、施設の使用者責任による損害賠償請求は、損害が発生してから3年で時効になります。

介護施設の職員が介護をしているときに、職員の故意や過失、すなわち注意義務違反により介護事故が発生し利用者に損害が生じた場合は、介護施設職員が不法行為責任を負い、利用者の損害を賠償する法的責任が発生します。(民法709条)。

ただし悪質なものでない限りは、職員が実際に損害賠償責任を負わされることはほとんどありません。

また介護施設職員に不法行為責任が生じれば、介護施設はその損害について使用者責任により損害を賠償する義務が生じます(民法715条)。
使用者責任とは、従業員の仕事上のミスで第三者に損害を与えてしまった場合、その雇用者が損害賠償責任を負う制度です(民法715条)。

使用者責任が認められるのは、従業員が第三者に不法行為責任を負うこと・使用者と被用者に使用関係があること・従業員の不法行為が雇用者の事業の執行について行われたこと、の3つの要件が必要になります。

使用者責任は、職員に過失が認められる限り、たとえ施設側で職員に適切な監督指導をしていた場合においても介護施設に発生する責任です。また施設側が利用者に損害賠償をした後、職員にその賠償金の全額の支払いを求めることはほぼ不可能と言えます。

施設側の設備に問題

注意義務違反の2つめは、施設側の設備に問題がある場合です。
施設側の設備に問題がある場合の注意義務違反は、不法行為責任の特則なので、不法行為責任と同様に損害が発生してから3年で時効になります。

工作物の設置や保存に不備があり、それにより他人が損害を負ったときには、その工作物の所有者が損害賠償の責任を負う制度を工作物責任といいます(民法717条)。
介護施設内のバリアフリーが不完全であったり、転倒しそうな構造であるような場合、すなわち施設の物的設備に瑕疵がある場合は、利用者はこの工作物責任により施設側に損害賠償を請求できます。

介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときのポイント

介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときのポイントについて、以下の3つを解説します。

  • 裁判に必要な証拠を集める
  • 証拠保全手続の検討
  • 専門家に相談する

1つずつ、見ていきましょう。

裁判に必要な証拠を集める

介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときの1つ目のポイントは、裁判に必要な証拠を集めることです。

介護事故の裁判では証拠の存在が重要です。裁判に必要な証拠には、以下の5つがあります。

  • 介護記録
  • 診療録
  • 要介護認定調査票
  • 介護保険主治医意見書
  • 介護時効報告書

介護記録
介護記録は、利用者の個人情報・身体情報・介護計画書・介護経過記録・事故報告書などをいいます。

診療録は、いわゆるカルテを指します。利用者の損害が介護事故によるものか否か、因果関係を証明しなければならない場合などは、この診療録が重要になります。

要介護認定調査票
要介護認定調査票は、利用者がどのような介護が必要であるかが記録されています。安全配慮義務違反が問題になる場合に必要になります。

介護保険主治医意見書
介護保険主治医意見書は、利用者の主治医が作成する意見書です。これも安全配慮義務違反が問題になる場合に重要な書類となります。

事故報告書
事故報告書は、介護サービス提供時に起こった事故の詳細を報告するための書類です。介護保険法に基づいて、報告が必要な事故の基準が定められています。介護事故の裁判には不可欠な書類です。

証拠保全手続の検討

介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときの2つめのポイントは、証拠保全手続の検討をすることです。

介護トラブルによる訴訟を起こす場合に必要な証拠は、基本的には利用者が開示を請求すれば施設はこれに応じて開示しなければいけません。しかし、損害賠償責任を負わされたり、行政指導を受けたりする可能性もあるので、こうした証拠の開示を拒んだり、あるいは証拠を改ざんする悪質な介護施設もいます。

こうした事態に備え、裁判所に証拠保全手続きを申し立てることにより、これらの証拠を現状のまま保全しておくことが可能になります。

証拠保全手続を申請する場合は、どのような証拠が裁判に必要であり、保全する必要のある証拠はどのようなものかをきちんと確認することが重要です。この保全手続には専門的な知識が必要となるため、弁護士に相談することをおすすめします。

専門家に相談する

介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときの3つめのポイントは、専門家に相談することです。

介護トラブルによる訴訟の手続きや交渉は複雑なうえ、膨大な量であるため、素人には難しく精神的なストレスにもなりかねません。利用者のほうで今後も同じ施設を利用する可能性があれば、今後のことを考え平和的解決を進めることも重要です。

また、証拠を収集すると言っても、どのような証拠を集めるべきか、証拠を集めるために具体的に何をすればよいのか、専門的な知識が必要になります。

そこで、介護トラブルを解決するときには、過去に介護トラブルによる訴訟を数多く担当した経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

介護トラブルの訴訟には時効前に弁護士に相談することがおすすめ

介護トラブルの訴訟には、時効前に早めに弁護士に相談し、時効の中断をするなどの法的措置が不可欠です。そのためには以下の2つのポイントが大切です。

  • 早めに介護トラブルの相談をする
  • スピーディーに時効の中断をする

1つずつ、見てみましょう。

介護トラブルの相談は早めがおすすめ

介護トラブルによる訴訟を考えているのであれば、初動の迅速性が重要になります。
しかし、実際にどのような行動をするべきか個人で判断することは難しいでしょう。また、介護トラブルにより利用者がけがを負っている場合などでは、治療と同時並行して訴訟提起の準備をするのは、困難でしょう。

特に、介護トラブルにより利用者が亡くなってしまったような場合には、請求したい損害賠償額も高額になるため、必要な証拠や手続き方法も複雑になります。
そのため、裁判を行う場合は専門的知識を有する弁護士に依頼することが重要です。介護トラブルの解決に知見のある弁護士であれば、スピーディーな解決が期待できます。

時効の中断はスピーディーに

介護トラブルによる訴訟を考えているのに、すでに時効直前であることがわかった場合は、
時効の中断手続きが必要になります。

時効は、裁判所に訴状を提出することで中断が可能です。時効直前で訴状を出すのは、訴訟手続きに慣れている弁護士であっても難しいことです。訴訟を起こすためには、違法性の確認・訴状の作成など、手続きが複雑なため素人では困難と言えます。

このような手続きは、専門弁護士の力を借りることが必須と言えるでしょう。

まとめ

今回は、介護トラブルでの訴訟を時効前に起こすための基礎知識・介護トラブルの訴訟に関連する時効・介護トラブルが時効を迎える前に訴訟を起こすときのポイント・介護トラブルの訴訟には時効前に弁護士に相談することがおすすめであること、について解説しました。

介護トラブルにも様々な種類があり、その対応はさまざまです。お世話になっている施設でもめ事はなるべく避けたいものですが、それでも利用者に重大な損害が生じたのであれば、やはり補償を求めることが重要です。

どのような補償が可能なのか・時効になりそうなトラブルでも裁判はできるのか、このような場合には、まず介護トラブル専門の経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

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