自分から先に別居して不利になるケースとならないケースを解説
最終更新日: 2024年01月28日
- 夫との愛情が冷めてしまい別居したいが、離婚に向けた話し合いで不利とならないか?
- 離婚を冷静に話し合いたいので、配偶者とはある程度距離をとりたい。このような別居も認められるだろうか?
- 別居するときに忘れずに行っておくべき手続きは、どのようなものがあるか?
夫婦関係が冷え切り離婚前に別居する場合や、何となく一人になりたくて別居する場合など、別居をする動機は様々です。
ただし、夫婦には法律で同居義務が定められているので、別居をした場合に何らかの責任が問われないかと、不安を感じる方もいるでしょう。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、離婚前の別居で不利になるケース、不利にならないケース等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 特段の理由もなく別居してしまうと、夫婦の「同居義務違反」に問われるおそれがある
- 配偶者からDVやモラハラ等を受けた場合の別居は、やむを得ない行動として同居義務違反にならない可能性が高い
- 別居するときは、忘れずに住所変更や郵便物転送、支援措置等の諸手続きを済ませておく
先に別居すると不利になるのか
法律では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています(民法第752条)。
離婚が成立していないにもかかわらず、夫婦の一方が家を出て別居してしまうと、基本的に夫婦の同居義務に違反します。
この同居義務に違反したとしても、たとえば「同居義務に違反した配偶者は罰金〇万円」というペナルティがあるわけではありません。
ただし、調停離婚や裁判離婚で夫婦の問題解決を図るときに、配偶者から「勝手に家を出ていった」と主張され、自分に不利な状況となる可能性もあります。
先に別居して不利になるケース
離婚合意前に夫婦の一方が別居して、離婚成立を目指す場合に不利となってしまうケースは、主に次の2つです。
別居が一方的
配偶者に何も告げず、突然別居するケースが該当します。 この場合は同居義務違反に問われる可能性があります。
同居義務違反があっただけでは、別居した側が重いペナルティを受けるわけではありません。ただし、配偶者との関係修復を望むにしても、離婚をするにしても不利な状況となります。
たとえば、夫婦仲が悪くないにもかかわらず別居すれば、「悪意遺棄」と配偶者が主張し、離婚の訴えを提起する可能性があります(民法第770条)。
一方、別居した側は悪意の遺棄をしたとして「有責配偶者(離婚の原因をつくった配偶者)」になってしまい、自分の方から離婚の訴えを提起できなくなる場合もあるので注意が必要です。
証明できない場合
別居の理由が配偶者からDVを受けた、モラハラを受けた等、やむを得ない場合でも、別居した側がそれを証明できなければ、離婚に不利となってしまいます。
裁判離婚になると、離婚当事者(原告・被告)の主張だけでなく、それを裏付ける証拠の提出が重視されます。
そのため、配偶者が原因であるという証拠を収集したうえで、別居した方が無難です。
先に別居しても不利にならないケース
離婚合意前に別居しても、常に別居した側が不利になるわけではありません。不利とならないケースとして、次の4つがあげられます。
夫婦仲が破綻している
夫婦関係がもはや修復不可能な状態に達しているケースです。
別居するときに修復不可能である証拠を集めておけば、同居義務違反に問われない他、有利に離婚手続きを進められます。
たとえば、配偶者の不貞行為が理由で別居する場合は、事前に次のような証拠を集めておきましょう。
- 配偶者と浮気相手の不貞行為に関してのやり取り:SNS、メール、LINE等
- 配偶者と浮気相手がラブホテル等に出入りする画像や動画
- 配偶者が不貞行為を自白した声が録音されたテープ
これらの証拠があれば、調停や裁判が行われても別居はやむを得ないと判断されます。
夫婦間で合意している
夫婦間で事前に合意していれば、同居義務違反に問われません。また、無断で別居した後に配偶者が別居を追認した場合も同様です。
配偶者と適度な距離をとりながら、冷静に離婚の話し合いができるのであれば、別居も有効な方法の1つといえます。
DV・モラハラ
配偶者からDVやモラハラ(言葉の暴力等)を受け、婚姻関係が継続できない深刻な事態となっているケースです。
別居するときに証拠を集めておけば、同居義務違反が問われない他、有利に離婚手続きが進められます。
事前に次のような証拠を集めておきましょう。
- DVの場合:配偶者が暴力を振るう動画や画像、ケガやあざの写真、医師の診断書等
- モラハラの場合:配偶者の暴言を録音した動画やテープ等
これらの証拠があれば、調停や裁判でも別居はやむを得ないと判断されるでしょう。
介護
親等の介護のために夫婦の一方が別居しなければならない場合は、同居義務違反にはなりません。
夫婦の関係が良好であっても、悪化していても、やむを得ないケースといえます。
ただし、介護による長期間の別居状態は、介護する側に大きな負担です。
この場合はケアマネージャーと相談し、要介護者を介護施設に入所させるなどの対応策を検討した方がよいです。
先に別居しても不利にならないための手続き
離婚合意の前に別居したときは、別居後、予想外のトラブルに発展する可能性もあります。その場合に不利にならないよう、次の手続きを忘れずにしておきましょう。
住所変更
配偶者のいる住居に戻る予定がない場合、離婚を前提とした別居の場合は、速やかに住所の変更を行いましょう。
住所変更のためには次の手続きが必要です。
- 転出届:他の市区町村に住所を移す場合に必要。転出届を提出すれば転出証明書が発行される。
- 転入届:他の市区町村から住所を移した場合に必要。引越し日から14日以内に転入届と転出証明書を、引越し先の市区町村役場へ提出する。
- 転居届:同じ市区町村内で住所を移した場合、引越し日から14日以内に転居届を提出する。
ただし、配偶者のDVやモラハラから逃れるため別居した人は、配偶者に住所を知られてしまうおそれがあります。
トラブルを防ぐため、新しい住所のある市区町村役場に支援措置の申し出を行いましょう。
郵便物転送
引越し先の住所が決まったときは、速やかに郵便局へ転送届を提出しましょう。
転送届を行わないと、以前住んでいた住所に郵便物が送付されてしまいます。見られたくない書類等を、配偶者が勝手に開封し、中身を見られてしまう可能性があるので注意が必要です。
手続きは郵便局の窓口の他、インターネットでも可能です。
支援措置
支援措置とは、DVや児童虐待等による被害者保護のため、加害者に対して、被害者の住所探索を目的として住民票の写し、戸籍の附票の写しの取得を制限する制度です。
支援措置を利用する場合は、次の手順で進めていきます。
- 最寄りの相談機関(警察署等)に被害を相談
- 支援が必要と判断された場合、相談機関に「住民基本台帳事務における支援措置申出書」に意見の記載・押印をしてもらう
- 市区町村役場に支援措置申出書と本人確認書類(例:運転免許証等)を持参して、支援措置を申し出る
なお、支援措置の期間は1年間であり、延長の申し出は、支援措置終了日の1か月前から受付けが可能です。
出典:住民基本台帳制度におけるDV等被害者への支援措置 | 警察庁
児童手当の変更
児童手当は、0歳から中学校卒業までの児童がいる家庭に給付されます。
自分と共に子どもも配偶者と別居する場合、配偶者から自分へ、児童手当の受取人の変更を行いましょう。新たに手当を受ける人が、お住まいの市区町村役場に申請(変更)手続きを行います。
先に別居しても不利な状況にならないためのポイント
配偶者との婚姻関係の継続が困難となり、別居を検討しているのであれば、DVやモラハラ、児童虐待等のような深刻な場合を除き、慎重に準備を進める必要があります。
こちらでは、別居の準備を進める2つのポイントについて説明しましょう。
理由の明確化
直ちに配偶者のもとを離れなければ、自分や子どもに危害が及ぶような事態でないときは、別居前に別居の理由を整理しておきましょう。
別居の理由を明確化し、配偶者と話し合わなければ、後日夫婦間でトラブルが発生するおそれも出てきます。
どうしても配偶者の同意なしに家を出る場合は、別居がやむを得ないと判断できる証拠も収集しておきましょう。
弁護士への相談
別居を決意したときは、前もって離婚問題に詳しい弁護士へ相談しておきましょう。
弁護士は主に次のようなアドバイスを行います。
- 夫婦の状態を考慮し、別居がやむを得ない方法か否か
- 別居するときに必要な準備
- 同居義務違反や悪意の遺棄に問われないような理由や証拠が揃っているか
- 別居後の離婚の進め方
弁護士に代理人を依頼すれば、別居後の配偶者との交渉を任せられるので、スムーズに離婚手続きを進められます。
まとめ
今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、別居しても離婚で不利とならないような準備や対策等について詳しく解説しました。
子どもを連れて別居するのであれば、DVや児童虐待等の深刻な事態を除き、配偶者から事前に同意を得ておきましょう。
別居をするかどうかで悩むときは、まず弁護士と相談し、今後の対応の仕方を話し合いましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。