特養の悪質なクレーマーはどうする?退所させず解決するポイントと退所させるときの注意点を弁護士が解説

最終更新日: 2023年11月29日

特養の悪質なクレーマーはどうする?退所させず解決するポイントと退所させるときの注意点を弁護士が解説 特養(特別養護老人ホーム)は、在宅での生活が困難になった要介護の高齢者が入居できる施設です。特養で生活する利用者は毎日平穏に暮らしている方がほとんどですが、中には悪質なクレーマーもいます。

悪質なクレーマーの存在は介護職員や他の利用者に悪影響を及ぼすため、事業所は適切に対応する必要があります。ひどいときには、退所してもらうことを検討する必要もあるかもしれません。

そこで今回は、介護業界におけるトラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が、特養の悪質クレーマーを退所させずに解決するポイントと、退所させるときの注意点を解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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特養の悪質なクレーマーを退所させるときには退去要件が必要

事業所が特養利用者を退所させたいときには、入居契約書に記載されている退去要件に該当しているか否かがポイントになります。各特養によって退去要件は異なりますが、主に以下の4つが退去要件として定められています。

  • スタッフや他の利用者への迷惑行為
  • 利用者に重度の医療対応が必要
  • 利用者の長期入院
  • 支払いの滞納

悪質なクレーマーは、上記のうち「スタッフや他の利用者への迷惑行為」に該当する可能性があります。悪質なクレーマーを放置すると、対応した職員がメンタルを病んだり退職に追い込まれてしまうかもしれません。

また、退職した職員が特養に対して労働契約上の安全配慮義務違反として損害賠償請求を起こすケースもあります。そのため、特養は迷惑行為をする利用者には適切に対処しなければなりません。

特養の悪質なクレーマーを退所させずに解決する4つのポイント

ここでは、特養の悪質なクレーマーを退所させずに解決する4つのポイントを紹介します。

  • クレーム内容の事実確認と内容整理を最初に行う
  • 話し合いの記録は録音やメモなどで残す
  • 複数人で冷静にクレーム対応する
  • 明確に責任範囲を決める

それでは、1つずつ解説します。

クレーム内容の事実確認と内容整理を最初に行う

解決するポイントの1つ目はクレーム内容の事実確認と内容整理を最初に行うことです。

クレームには、通常のクレームと理不尽なクレームの2つがあります。通常のクレームであれば利用者の正当な言い分となる可能性があり、特養は真摯に対応しなければ信用問題に関わります。また、正当な言い分は、特養の業務の質を改善するためにも重要です。

そのため、クレーム内容の事実確認をした上で内容整理を行い、特養に非があれば何かしらの行動を取らなければなりません。

客観的に慎重な検討を加えたうえで、誰にも非が見られないと判断されたときには、特養利用者の言い分は理不尽なクレームであると考えて対応しましょう。

話し合いの記録は録音やメモなどで残す

解決するポイントの2つ目は話し合いの記録は録音やメモなどで残すことです。

利用者が悪質なクレーマーだったときには、特養側は法的措置を取らなければならないこともあります。法的措置を取るときには証拠が必要なので、話し合いの記録を録音やメモで残すようにしましょう。

警察や弁護士に相談するときには、話し合いの記録は重要な証拠と認められる可能性が高いからです。

複数人で冷静にクレーム対応する

解決するポイントの3つ目は複数人で冷静にクレーム対応することです。

悪質なクレーマーの中には、問題解決以外の目的をもつ方や、職員に対して恫喝・威圧を行う人もいます。そのようなクレーマーに対して1人で対応してしまうと、スタッフが精神的ストレスを抱えてしまう恐れがあります。

また、感情的になって悪質なクレーマーと言い争ってしまうと、新たなトラブルの原因になるかもしれません。

そのため悪質なクレーマーに対応するときには複数人で冷静に対応して、相手にしっかり話したいことを話してもらうよう心がけましょう。

明確に責任範囲を決める

解決するポイントの4つ目は明確に責任範囲を決めることです。

クレーム内容によっては特養側にも非があることがあります。ただ、そのときには非がある部分について謝罪すれば足り、非がないと判断できる部分に対しては謝罪をする必要はありません。どこに非があるか判断するには、責任範囲を明確に線引きすることが必要です。

それでも不合理な要求をされたときには、法的根拠をもって断りましょう。たとえば、スタッフや他の利用者に危害を加える旨の発言をしたら「脅迫罪」、実際に殴ってきたり物を投げてきたりしたときには「暴行罪」、「傷害罪」等に問われる可能性があると伝えましょう。

特養の悪質なクレーマーを退所させるときの3つの注意点

特養の悪質なクレーマーを退所させずに解決する道を模索しても、どうしても解決できないこともあります。そのときは、悪質なクレーマーを退所させることも検討しなければなりません。

ここでは、特養の悪質なクレーマーを退所させるときの3つの注意点について解説します。

  • すぐに退所させることはできない
  • 入居金の返却が必要になる場合がある
  • 原状回復を求めることができる場合がある

それでは、1つずつ解説します。

すぐに退所させることはできない

注意点の1つ目は、すぐに退所させることはできないことです。

多くの場合、特養は利用者を退去させるまでの猶予期間を設けていますので、契約書にのっとり猶予期間経過後に退去を求めることとなります。

また、利用者の次の転居先探しをサポートする必要もあります。転居先が退去予告期間を過ぎても決まらなかったときには、退去期間を延長して滞在させる必要が出てくる可能性もあるでしょう。

入居金の返却が必要か明確にする

注意点の2つ目は、入居金の返却が必要か明確にすることです。

多くの特養では、入居するときに入居金を支払う必要があります。入居金には償却期間が設定されており、期間中は1か月ごとに償却されていきます。

償却期間を過ぎていれば、利用者に入居金の返却をする必要はありません。ただし退去日が償却期間内であれば、特養は入居金の返却額を計算した上で、それを返却する必要があります。

原状回復が必要か明確にする

注意点の3つ目は、原状回復が必要か明確にすることです。

多くの特養の入居契約書には、賃貸物件と同じく利用者が退所するときに原状回復の義務を負わせる旨が記載されています。

一般的には、自然劣化による損傷は特養側が負担し、故意や過失による損傷は利用者が負担することになっています。ただ、原状回復が必要か否か判断することが難しいケースも珍しくありません。原状回復についてはトラブルが多く、ため、ガイドラインが設けられているため、参考にしてください。

まとめ

そこで今回は、特養の悪質クレーマーを退所させずに解決するポイントと、退所させるときの注意点を解説しました。

特養の利用者やその家族と日頃からコミュニケーションを取ることがおすすめです。関係性を強化すれば、利用者が悪質なクレーマーになることを防止できる可能性があります。また契約書や重要事項説明書の内容を明確にして、利用者とすれ違いがないようにすることも大切です。

それでも悪質なクレーマーによるトラブルが発生し、その解決に難航したときには、当法律事務所に相談してください。介護業界におけるトラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が対応するため、早く確実に解決できる可能性を高められるでしょう。

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