賃貸の更新拒否は許されるの?抑えておきたい法的知識を専門弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月24日
- 退去して欲しいから賃貸を更新拒否できないだろうか
- 大家に更新拒否をされたが、有効なのだろうか
- 適法に更新拒否をする方法があるなら知りたい
賃貸物件の老朽化で立て替えたい、自己使用したいなどの理由で大家が入居者に賃貸借契約の期限満了をもって終了、つまり次回は更新しないと通知するケースがあります。このように大家は自由に更新拒否をできるのでしょうか。
今回は、賃貸借契約の更新拒否の基本的な説明から、更新拒否の可否や適法な更新拒否の方法などについて専門弁護士が解説します。大家側だけでなく借主側にとってもためになる内容となっておりますので、借主の方もご一読ください。
更新拒否の基礎知識
賃貸借契約には普通借家契約と定期借家契約があります。多くの普通借家契約は2年の契約期間となっており、2年が経つとその後も契約が更新されていきます。更新拒否とは、この普通借家契約の契約更新を大家が拒否することを言います。他方、定期借家契約は、賃貸期間の満了をもって当然に契約は終了し更新はありませんので更新拒否は問題になりません。
賃貸借契約の更新拒否をする場合、賃貸期間満了の1年前から6か月前の間に契約を更新しない旨を通知する必要があります(借地借家法第26条第1項)。このように法律上、更新拒否の通知ができる期間も決まっており、いつでも更新拒否の通知ができるわけではありません。
大家からの更新拒否は可能なのか
上記のとおり普通借家契約の更新拒否をするには事前に通知が必要とされています。しかし、通知をすれば必ず賃貸借契約は更新されずに終了となるのではありません。むしろ、原則は更新拒否は認められず、賃貸借契約は継続されることになります。
借地借家法は、更新拒否に正当事由がなければ更新拒否はできないとしており、この正当事由の認定のハードルは相当高く設定されています。容易に物件を追い出されるような事態を防ぎ、賃借人を保護するためです。
このように、大家が賃貸借契約を更新拒否すること自体は法律上可能ではありますが、容易には認められないのです。
更新拒否が可能な4つのケース
上記のとおり、大家が賃貸借契約を更新拒否するためには借地借家法の定める正当事由が必要です。
では、どのような場合に正当事由が認められるのか。以下4つのケースを見てみましょう。
- ケース1:大家自身が建物の使用を必要とする
- ケース2:入居者に債務不履行がある
- ケース3:建物の老朽化
- ケース4:財産上の補償をする
1つずつ見ていきましょう。
ケース1:大家自身が建物の使用を必要とする
更新拒否が可能なケースの1つ目は、大家自身が建物の使用を必要とするケースです。
生活の困窮などにより、大家が対象建物を使用する必要性が高い場合には正当事由が認められて更新拒否ができる可能性があります。
居住する場合で必要性が認められた過去のケースでは、大家が高齢で身体の不調によって家族と同居して老後の面倒を見てもらうために、対象建物への入居が必要であると認められた判例があります。(東京地判平成21・3・12)
また、営業行為で使用するケースでも、大家が獣医医院の開業を検討しており、動物を扱うため対象建物以外の場所での開業が事実上不可能であることが認められたケースや(東京地判昭和55・8・15)、大家が経済的に困窮しており、収入を確保するために対象建物でパチンコ営業をする必要がある場合などがあります(東京高判昭和60・4・19)。
ケース2:入居者に債務不履行がある
更新拒否が可能なケースの2つ目は、入居者に債務不履行があるケースです。賃貸借契約の債務不履行、つまり契約違反の事実も正当事由の判断において賃借人に不利に考慮されます。
たとえば、入居者が家賃を何度も滞納しているという事実によって正当事由が認められて更新拒否ができる可能性があります。また、借主が無断で建物を改装したり、近所に著しく迷惑をかけているという事情も債務不履行となり更新拒否ができる可能性があります。
なお、契約違反の程度が信頼関係を破壊する程度に至っている場合には、賃貸借契約の解除が可能ですからそもそも更新拒否の必要はありません。例えば、家賃を3か月以上滞納しているような場合には賃貸借契約の解除が認められる可能性が高いでしょう。
ケース3:建物の老朽化
更新拒否が可能なケースの3つ目は、建物の老朽化が著しい場合です。
倒壊の危険性があるような著しく老朽化が進んでいるような場合は、入居者の安全のためにも建て替えの必要性が認められ、正当事由があるとして更新拒否ができる可能性が高くなります。
とはいえ、築40年くらいでも木造でなく新耐震基準の建物であれば老朽化の一事情だけで正当事由が認められる可能性は低く、相応の立ち退き料の支払いがあって初めて正当事由が認められるでしょう。他方で、老朽化が著しくその事情だけで正当事由が認められるようなケースでは立ち退き料の支払いも不要となることがあります。
ケース4:財産上の補償をする
更新拒否が可能なケースの4つ目は、財産上の補償、つまり立ち退き料の支払いをするケースです。
上記で説明してきたような老朽化、大家の自己使用の必要などの事情だけでは正当事由が認められない場合に、立ち退き料の支払いによって正当事由が補完されることになります。このような補完材料ですから、全く立ち退きの必要性がないのに立ち退き料だけで正当事由が認められることはありません。
また、金銭的な補償以外にも、大家の方から明渡し請求に際して対象建物に代わる代替不動産を用意している場合などは、正当事由が認められやすくなります。
更新拒否をスムーズに行なうための方法
更新拒否をスムーズに行なうための方法は以下の3つです。
- 法律で定められた期間に更新拒否の通知を送る
- 更新拒否に該当する正当事由を十分に検討し慎重に進める
- 更新拒否の交渉に慣れている弁護士に依頼する
1つずつ見ていきましょう。
法律で定められた期間に更新拒否の通知を送る
1つ目は、法律で定められた期間に更新拒否の通知を送ることです。
更新拒否が法律上の効力を発揮するためには、前提として法律で定められた期間に入居者へ通知を送る必要があります。
以下、賃貸借契約の期間が定められている場合と定められていない場合に分けてご解説します。
期間の定めのある契約
契約に期間の定めがある場合は、契約期間満了日の1年前から6か月前に「契約を更新しない」旨の通知を借主に送る必要があります。この期間に通知を送らなかった場合は契約が法定更新されることになるため注意が必要です(借地借家法第26条1項)。
なお、更新拒否の通知は、確実に通知したことの記録を残すため、配達証明付きの内容証明郵便を利用して行ないます。また、更新拒否の通知を行なった場合でも、契約期間満了後に借主が継続して建物を使用しているときは、大家は遅滞なく反対の意思表示を行なう必要があります(借地借家法第26条2項)。
期間の定めのない契約
契約に期間の定めがない場合は、原則としていつでも解約の申入れが可能です。もちろん、解約申し入れには、大家側の正当事由が必要です。
正当事由があれば解約申入れを行なってから6か月経過した時点で契約が終了することになります(借地借家法第27条1項)。なお、契約の期間に定めがある場合と同様に、契約期間満了後に借主が継続して建物を使用している場合は、大家は遅滞なく反対の意思表示を行なう必要があります(借地借家法第27条2項)。
更新拒否に該当する正当事由を十分に検討し慎重に進める
2つ目は、更新拒否に該当する正当事由を十分に検討し慎重に進めることです。
更新拒否を行なうときには「正当事由」が必要になりますが、借地借家法第26条は借主保護の観点が強いルールであるため、大家側の正当事由を主張するためには現状が十分な事由にあたるのかどうかを慎重に検討していく必要があります。
基本的には、大家側と入居者側のそれぞれにおいて、その建物を使用する必要性がどれくらいあるのかを検討した上で正当事由にあたるかどうかを判断されます。
そして、その比較だけではどちらの必要性が重いか判断できない場合に、立ち退き料など、その他の補充的な要因を加えて検討されることが一般的です。
更新拒否の交渉に慣れている弁護士に依頼する
3つ目は、更新拒否の交渉に慣れている弁護士に依頼することです。
立ち退き問題の専門弁護士は多数の同種案件を対応してきた経験があります。正当事由が認められる可能性についての検討を踏まえて、どのような交渉をしていくのが最適か戦略を立てます。
大家と賃借人の当事者同士ですと無用に感情的な対立が生じて、立ち退き交渉が難航するケースはよくあります。専門弁護士であれば対立を避けてスムーズな立ち退きを実現するための交渉を行ってくれます。大家側も賃借人側もいずれの立場でも専門弁護士に相談、依頼が可能です。
まとめ
今回は、賃貸借契約の更新拒否、正当事由などについて解説しました。
適法な更新拒否は簡単ではなく、大半のケースでは正当事由が認められない状況下での立ち退き交渉が必要となります。更新拒否をしたい大家側、更新拒否をされた借主側いずれの立場の方も、更新拒否が問題になったときはまずは専門弁護士に無料でご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。