立退料の問題の対処法や弁護士費用について専門家弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月11日
「弁護士に相談したいが、かえって費用ばかりがかかってしまうのではないか」
賃貸人・賃借人のいずれの立場でも、立退料の交渉を弁護士に相談する際に最も懸念されているのが弁護士費用の問題と思います。
賃貸人の立場からすれば、弁護士に報酬を支払うぐらいなら、その金額を賃借人の立退料に上乗せした方が早いと考える方もいらっしゃるかもしれません。
他方、賃借人の立場からも、せっかく弁護士に高い報酬を支払ったにもかかわらず、立退料を増額できなければ、依頼した意味がないと考える方もいらっしゃるでしょう。
ここでは、弁護士費用をかけてでも、弁護士に立退料交渉を依頼すべきかどうかについて、金額の多寡だけではどうしても見えてこない、弁護士に依頼することのメリットを説明します。
弁護士はどのように立退料を交渉しているのか?
立退料交渉にあたる弁護士は、実際、どのように立退料交渉をしているのでしょうか。立退料交渉については、様々なケースが想定されますが、ここでは賃貸人から建物の老朽化によって立ち退いてほしいとの通知を受けた賃借人の立場で、具体的な流れを見ていきましょう。
- 弁護士から立退料交渉の通知書が届く
- 立退料の金額交渉
- 明渡しと立退料の支払い
弁護士から立退料交渉の通知書が届く
通常、立退料交渉は、賃貸人からの退去通知からはじまります。この退去通知については、一定額の立退料補償が明記されていればまだ良い方です。中には、一切の補償もなく、ただ一方的に出て行ってほしいという内容のものも少なくありません。
しかし、そのような退去通知だとしても、賃貸人から正式な退去通知を受け取った以上、退去を拒否できないものと誤解して、焦って退去に応じてしまう方もおられます。
建物の老朽化なと、賃貸人側にもやむを得ない事由がある以上、仕方のないことではあります。しかし、だからといって、一方的に生活の本拠から追い出されなければならない理由もありません。
借地借家法やこれまでの判例によれば、一方的な退去に応じる必要はない場合が圧倒的に多いですから、退去通知を受け取った賃借人としては、まずは冷静になって、専門家の意見を聞くべきです。
立退料の金額交渉
退去通知を受けた賃借人としては、まずは賃貸人の退去理由が法的に正しいものなのかを分析する必要があります。そして、立退料の支払いが必要な事案であれば、十分な立退料の提示がない限り、退去には応じない旨を明確に主張すべきです。
ただし、賃借人としても過度な要求は避けるべきです。賃貸人にも支払い可能な金額について限度がありますから、支払い不可能な金額を支払うことはできません。
賃貸人が立退料交渉を断念してしまえば、賃借人としても立退料の支払いを得る手段がなくなりますので、賃貸人の支払える金額を丁寧に探ることが必要です。
明渡しと立退料の支払い
立退料の金額について合意が得られれば、退去の手続きに進みますが、立退料の金額について合意できたからといって油断してはなりません。
賃貸人から口頭でかかった費用を支払うと言われて、退去を完了した後に、立退料の支払いを求めたところ、引っ越し代しか支払わないと言われることもあります。合意した内容は、書面にまとめておくのが基本ですが、立退料の金額のみならず、立退料の支払条件、原状回復の条件、明渡期限など様々な条件について合意内容を決めておくべきです。
立退き交渉にあたる弁護士としては、最後の詰めの部分まで、予想される法的リスクを検討します。
立退料交渉を弁護士に相談すべき理由
立退料交渉を弁護士に依頼する理由は、何も立退料を下げたり、上げたりするだけではありません。立退料交渉を弁護士に相談すべき理由について、具体的にみていきましょう。
- 立退料交渉はお金の問題だけだから弁護士は不要?
- 賃借人本人が立退料交渉をする難しさ
- 賃貸人本人が立退料交渉をする難しさ
立退料交渉はお金の問題だけだから弁護士は不要?
立退料の金額交渉ということであれば、弁護士でなくても自分で交渉できるのではと考える方もいらっしゃいます。
確かに、金額の高い・低いという問題だけであれば、法律の専門的知識も不要なので、弁護士を入れなくとも、ご本人の交渉によって立退料を増減させることはできるかもしれません。しかし、金額だけが争点という単純な事案はそれほど多くあるわけではありません。
賃借人本人が立退料交渉をする難しさ
賃借人において立退料を支払うよう求めても、一切、立退料の支払いに応じない賃貸人がいます。
この場合、いくら賃借人本人が立退料の支払を求めても、交渉は一向に進まないでしょう。
また、賃貸人から退去しないなら訴訟をすると言われた場合、賃貸人の請求が認容されるかどうか、訴訟後の見通しを見極めることも非常に重要です。
賃貸人本人が立退料交渉をする難しさ
賃貸人が立退料交渉をする上で最も避けなければならないのは、賃借人がかたくなに居座ることになるような場合です。
最悪の事態としては、賃貸人から賃借人に対して、明渡しの訴訟を提起してこれに勝訴することに加え、強制執行による明渡しの断行までしなければなりません。この場合、立ち退きに成功したとしても、実現までにかける費用や、時間も膨大になることは明らかでしょう。
そのような最悪の事態にならないよう、賃貸人として気を付けなければならないのは、法的に正しい手続を踏みつつ、かつ、賃借人に対して適切な対応を取ることです。この観点を欠いたまま一方的な退去を要求すれば、賃借人としては当然に反発してくるので、交渉は難航します。
とはいえ、法的に正しい手段をとるということは、法律に詳しい弁護士でなければ、判断が難しいでしょう。また、賃借人に対してどのような対応が適切なのかは、日常的に立退料交渉に携わっている弁護士でなければ、匙加減もわからない難しい問題でもあります。
【賃借人】立退料交渉をする弁護士が気を付ける3つのポイント
賃借人側で交渉にあたる弁護士として気を付けるべきポイントは3つあります。
- 債務不履行があると立退料が支払われない
- 賃貸人に立退料を支払えるだけの経済力がない
- 立退き不動産の将来性
それぞれ、具体的に見ていきましょう。
債務不履行があると立退料が支払われない
賃借人に賃料不払いや、用法違反など債務不履行がある事案では、立退料が支払われる可能性が低くなります(仮に支払われたとしても相当低額になります。)。というのも、賃貸人としては、立退料を支払わずとも、賃借人の債務不履行を理由として賃貸借契約を解除して、強制的に退去を実現させることができるので、無理に立退料を支払う理由がないからです。
また賃貸人としては、債務不履行までされたにもかかわらず、さらに立退料を支払ってでも出てもらうという発想になりづらいため、交渉は難航しやすいといえるでしょう。
もっとも、単に賃借人側に債務不履行があるというだけで契約解除をすることはできず、実際には、賃貸人との信頼関係を破壊すると言えるような債務不履行の事実が必要となります。たとえば、賃料の滞納が3カ月分溜まってしまったというような場合がこれに該当しやすいと言われています。
したがって、賃借人としては、債務不履行が軽微なものであれば、賃貸借契約の解除を争う方法によって、できる限りよい条件を引き出す交渉をする余地もあります。とはいえ、債務不履行がある以上は、賃貸人としても訴訟に踏み切りやすいため、賃借人の心構えとしては、訴訟を覚悟した上で方針決定をしなければなりません。
賃貸人に立退料を支払えるだけの経済力がない
当然のことですが、賃貸人に立退料を支払えるだけの十分な経済力がなければ、立退料の交渉は進みません。退去を求めてきた賃貸人が不動産業者などであれば、潤沢な資金を持っているので、相応の支払いを期待できるので、賃貸人が不動産業者かどうかという視点は、まず重要といえます。
次に、個人の賃貸人であっても、十分な資金力をお持ちの方がいます。ちなみに、他に賃貸物件を持っている賃貸人の場合には、立退料交渉もうまく進めやすい事例が多いです。
他方、賃貸人(またはその家族など)が経済的に困窮したため、賃貸に出している物件に転居しなければ生活が成り立たないなどの理由で、立ち退きを求められる事案の場合、賃貸人側が経済力に困窮している以上、立退料交渉は上手く進まないことが多いです。
立退き不動産の将来性
賃貸人としては、可能な限り早く賃貸人を退去させ、古い賃貸目的物を有効利用したいと考えています。特に、立ち退き対象となっている不動産が、人気の立地に位置している場合には、当該物件を1カ月利用できないことの不利益が大きいため、数百万円の立退料を支払ってすぐに退去してもらった方がよい場合があります。
このことから、将来性のある物件が対象となっている場合には、賃借人としても立退料の交渉を有利に進めることができます。
【賃貸人】立退料交渉をする弁護士が気を付ける3つのポイント
賃貸人側で交渉にあたる弁護士として気を付けるべきポイントは3つあります。
- 解除理由が立退料交渉において最も重要
- 立退料の減額につながる重要ポイントの検討
- 交渉決裂を想定した準備も重要
それぞれ、具体的に見ていきましょう。
解除理由が立退料交渉において最も重要
賃借人の立場からしますと、自身に家賃の不払いなどの債務不履行があるかどうかによって、退去を強制された場合のプレッシャーは大きく違ってきます。
契約解除が認められますと、立退料の支払いを受けらずに無条件で明渡しに応じなければならないという敗訴リスクがあります。債務不履行のある賃借人の弁護士としては、このようなリスクを背負いながら訴訟に臨むわけですから、弱気になっていることも多いです。
そのため、賃貸人側の弁護士としては、強気の解決金提示であっても、有利に交渉や裁判を進めることができるようになります。
立退料の減額につながる重要ポイントの検討
賃借人に債務不履行がない場合であっても、賃貸人の建物利用の必要性を基礎づける「正当事由」がある場合には、立ち退きの協力を得やすいといえます。
よくある理由としては建て替えが挙げられますが、何となく古くなったというだけでは不十分です。賃借人にもある程度の納得をいただくには、具体的に老朽化・建物の危険性の問題を指摘することが重要です。
他には、賃貸人において、その物件を使用する必要があることを理由に挙げることも多いです。ただし、こちらも何となく使いたくなったので退去してほしいというだけでは逆効果です。切実な事情を訴えることが必要ですし、代替物件を手配する姿勢を示すなどの丁寧な対応を心掛けることが、結果的に立退料の金額を抑える結果につながります。
交渉決裂を想定した準備も重要
残念ながら、賃貸人においてどれほど気を付けたとしても、中には全く交渉にならない賃借人もいます。このような賃借人を退去させるためには、訴訟など法的手続は避けられない手段となります。
そのため、交渉が難航しそうな賃借人に対する立ち退きについては、明渡訴訟にかける費用と時間とを比較しながら、落としどころを探る必要があるでしょう。
弁護士費用は高い?立退料交渉を依頼する費用について
立ち退き交渉の弁護士費用は、法律事務所によって様々です。ただ、当事務所では、なるべくお客様のご負担にならないような料金設定をご提案させていただいております。具体的に、当事務所で採用している報酬体系について、見ていきます。
賃借人側の弁護士費用
当事務所では、着手金はいただかずにご依頼をいただき、成功報酬として得られた20万円と立退料の10~20%をいただく報酬体系としています。たとえば、100万円の立退料を得られれば、30万円ほどが弁護士費用となります。
もし、立退料が得られなかった場合は、成功報酬は発生しませんので事務手数料のみのご負担となります。
賃貸人側の弁護士報酬
賃貸人側で、賃借人を退去させる場合の弁護士報酬は、着手金は20万円から設定しております。事案の難易度や対象物件の個数によって都度見積をさせていただきます。
支払う弁護士費用に見合うのか?立退料への影響は?
弁護士報酬を負担してもそれ以上の経済的利益が見込めるケースは多くあります。当事務所の弁護士が担当して、立退料の増額に成功した事案を見ていきましょう。
賃借人側で立退料を増額させた事案
本事案は、元々、賃貸人と賃借人の折り合いが悪く、そのような状況で賃貸人から一方的な退去を伝えられた立ち退き紛争です。賃貸人と賃借人の双方で感情的な対立が激しく、交渉は難航するのではないかと予想されました。
当事務所は、賃借人の弁護士として担当し、賃貸人に対して、法的に立退料の支払いがなければ明渡しを強制することができないこと、交渉決裂となれば裁判までする必要があることを粘り強く説明しました。
これに対し、賃貸人は、感情的な対立が強かったため、当初は、一切、立退料を支払わないとの回答でしたが、時間の経過により全く退去が実現できないことを悟ったのか、最終的には当方が求める立退料の支払いに応じていただけました。
賃借人側で立退料を増額させた事案
本事案は、オーナーチェンジをきっかけとして立ち退き要求があったものの、新所有者からは、数十万円程度の立退料の提示しかなく、これでは退去に応じられないとして、弊所が賃借人の立場で担当した事案です。この事案では、不動産業者があえて当該建物を購入しており、かつ、好立地に位置する不動産であったことから、開発をして利益を得る計画があるのだろうと推測されました。
そこで、賃借人にとって必要十分な立退料の支払いがなければ一切の立ち退きに応じない旨を明確に示しながら交渉を続けたところ、最終的には数百万円の立退料の支払いを得ることができました。
まとめ
弁護士に依頼しなくとも立退き交渉がうまくいく場合もあります。しかし、賃貸人・賃借人のどちらかが大きな損をしていることに気づいていないから、うまくいったように見えているのかもしれません。
本来、立退き交渉は、弁護士でもさじ加減の判断が難しい部分があり、双方納得のいく合意点を見つけることは容易ではありません。下手に交渉をした結果、交渉決裂という事態になれば、賃貸人は明渡訴訟を余儀なくされますし、賃借人は立退料の支払いを受けられなくなるという不利益を受けます。
当事者間では解決困難となった事案において弁護士を入れるメリットが大きいことはもちろんですが、これから立退料交渉が始まる事案についても、まずは弁護士の意見を聞いて、交渉の適切な進め方を知るということは非常に重要です。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。