墓じまいの基礎やトラブル対処法まで専門弁護士が徹底解説!
最終更新日: 2023年12月08日
墓じまいって聞いたことあるけど、どんなものなの?
墓じまいって、どんな流れで行うの?
墓じまいでトラブルになったら、どうすればいいの?
墓じまいという言葉自体は昔からあるものですが、近年、墓じまいの件数が非常に増えていることから各種メディアで取り上げられることが増えました。
そのため、墓じまいという言葉は聞いたことがあるけれども、よく分からない方は多いと思います。
墓じまいの基礎知識やその流れ、トラブルについて説明をしている記事はインターネット上にも多数見られますが、不正確な情報も見られます。
そこで、今回はお寺、お墓に関する法務を専門とする弁護士が墓じまいの基礎からトラブル事例まで徹底解説いたします。
墓じまいとは?弁護士が改葬との違いを解説
広辞苑(第7版)では、墓じまい(墓仕舞)とは、「参拝又は管理する人のいなくなった墓を撤去し、改葬すること」と定義されています。
法的には、墓じまいとは、墳墓に納められた遺骨を取り出し、墳墓を解体して更地にし、墓所区画の使用契約を終了させることと定義できます。
法律用語に「改葬」という言葉があります。 改葬は、墳墓や納骨堂に納められた遺骨を他の墳墓や納骨堂に移すことをいいます(墓地埋葬法第2条3項) 。
広辞苑の定義では、「・・・改葬すること」とありました。遺骨を取り出すという点では、墓じまいと改葬は同じなのですが、以下のとおり、両者は異なります。
- 違いその1
改葬は納骨堂から遺骨を取り出す場合も含みますが、墓じまいは墳墓から取り出す場合をいいます。 - 違いその2
改葬は、取り出した遺骨を他の墳墓や納骨堂に改めて納めます。墓じまいにはそのように改葬する場合も含みますが、自宅で手元供養をすることもあれば、散骨したりや樹木葬にする場合も含みます。
統計によれば、全国の改葬件数は2009年には7万2050件でしたが、2019年には12万4346件に大幅に増加しています。
納骨堂からの改葬は稀であることを考えますと、この改葬のほとんどが墓じまいと考えてよいでしょう。
このように近年、墓じまいの件数は非常に増加しています。
なぜ墓じまいをするの?
このように墓じまいとはお墓を取り壊して、墓地使用契約を終了させることをいいますが、なぜ、墓じまいをするのでしょうか。また、なぜ、近年、墓じまいが増えているのでしょうか。
墓じまいをする理由
墓じまいをする理由は様々ですが、以下のような理由が多いようです。
- 遠方にあるお墓を居住地の近郊に移したい
- 長年参拝していなかったのでお寺から墓じまいを求められた
- お墓を継ぐ人がいない
- 別々にあった祖父と父のお墓を合わせたい
墓じまいが増えている理由
先ほどのとおり、近年、墓じまいの件数は非常に増えています。
大きく分けると墓じまいをするケースは、以下のケースです。
- 自分が亡くなる前に墓じまいをするケース
- 父母が亡くなり遺族が墓じまいをするケース
1の墓じまいのケースは、生涯独身でお墓を継ぐ子孫がいない方が増えていることが増加の理由として考えられます。
2の墓じまいのケースは、若い人の都市部への集中、代々続いたお寺との関係に重きを置かない信仰心、価値観の変化が増加の理由として考えられます。
墓じまい後は遺骨はどうなる?
他の墳墓や納骨堂に改葬をするのが一番多いケースですが、自宅の仏壇で手元供養するというケースも多くみられます。
また、近時は供養方法が多様化しており、件数は多くはありませんが、海洋散骨をしたり、樹木葬をするというケースもみられるところです。
墓じまいの流れや費用について
次に、どのようにして墓じまいをするのか、その方法や墓じまいにかかる費用についてみて行きましょう。
墓じまいを決めるのは祭祀承継者
例えば、父親が亡くなった場合、遺族には母親や長男、次男、叔父や叔母などの親族がいる場合があります。そのうちの一部の方は墓じまいをしたいが、他の方はそれに反対するかもしれません。
このような場合、誰に墓じまいを決定する権限があるのでしょうか。
父親が亡くなると相続が発生しますが、相続人とお墓を継ぐ人は必ずしも一致しません。お墓を継ぐのは相続人ではなく、祭祀(さいし)承継者です(民法第897条)。
この祭祀承継者は、被相続人の指定や慣習、これらで決まらないときは家庭裁判所が決定します。
このように、他の親族が反対したとしても祭祀承継者が墓じまいを決定したときは、墓じまいを進めることができます。
とはいえ、先祖の遺骨をめぐって親族で争うことは極力さけたいところですから、できる限り話し合いで親族間の合意を取り付けるよう努めるべきでしょう。
なお、祭祀承継者ではない方が勝手に墓じまいをした場合、祭祀承継者に対して損害賠償責任を負う可能性がありますので、注意が必要です。
墓じまいの流れ
墓じまいの流れは以下のとおりです。
- 離檀の申し入れ(寺院墓地の場合)
- 墓地・納骨堂の管理者から埋蔵証明書の交付を受ける。
- 移転先(改葬先)の墓地・納骨堂の管理者から受入証明書の交付を受ける。
- 埋蔵証明書と受入証明書とともに改葬許可申請書を現在遺骨がある地の市区町村の長のに提出して改葬許可証の交付を受ける。
- 閉眼供養
- 墓石の解体、撤去、遺骨の取り出し
- 改葬先の墳墓、納骨堂に納骨
上記の流れは、墓じまいをした後に改めて墳墓や納骨堂に改葬することを前提としていますが、先ほどもご説明しましたとおり、墓じまいをした後に、必ずしも改葬するとは限りません。
手元供養や散骨など改葬をしない場合に必要となる手続きは上記のうち、離檀の申し入れ(1)閉眼供養(5)、墓石の解体、撤去、遺骨の取り出し(6)のみです。
墓じまいにかかる費用
お墓は高いというイメージがありますがので、墓じまいする際にもどれくらいの費用がかかるのかは気になるところです。
墓じまいの際にかかる主な費用は以下のとおりです。
- 墓石の解体、撤去費用 10万円/1㎡ほど
- 閉眼供養のお布施 3万円から10万円ほど
- 離檀料(寺院墓地の場合) 10万円から30万円ほど
平均的な墓所区画の広さは1㎡から1.5㎡ですから、墓石の解体撤去費用は10万円から15万円ほどとなります。遺骨の取り出しについて、1体あたり3万円から5万円の費用を設定している業者もあります。
なお、墓じまい後に他の墳墓や納骨堂に改葬する場合の行政手続の代行も含めて20万円から30万円にて対応している業者もあるようです。
墓じまいすると永代供養料は返還される?
お墓を建てる場合、墓地と墓地使用契約を交わし、永代供養料(永代使用料)を納めます。
永代にわたって使用する前提で永代供養料(永代使用料)を支払ったのですから、墓じまいをして途中解約のような形になった場合、永代供養料(永代使用料)を返してもらうことはできるのでしょうか。
この点は、墓地使用契約・規則の内容、解釈によって結論が異なる可能性があります。
もっとも、一般的には、墓地使用を開始するにあたり一括払いで支払われる永代供養料(永代使用料)は墓地使用期間に対応した墓地使用の対価ではなく、墓地使用権の設定に対する対価と考えられています。
したがって、墓じまいをしても、永代供養料の返還請求は認められない可能性が高いといえます。
墓じまいの解決事例
墓じまいをする際には親族やお寺、石材店とトラブルになることがあります。
ここではそれぞれ、どのようなトラブルになることがあるのか、その事例と対応方法についてご説明します。
- 親族とのトラブル
- お寺とのトラブル
- 石材店とのトラブル
親族とのトラブル
お墓にお参りをする親族は一人ではありません。そのため、墓じまいをする際に親族で意見が対立しトラブルになっているというご相談はよくあります。
ここではそのような親族とのトラブルとその解決方法についてみていきたいと思います。
墓を壊すことへの反対
墓地に使用者、承継者として届けられるのは遺族のうち祭祀承継者は一人だけですが、納骨された先祖に関わる親族は一人だけではありません。
そして、供養に関する考え方は人によって様々です。
そのため、祭祀承継者が墓じまいを決めた場合に他の親族から反対意見が出ることはしばしばあります。
墓じまいをする理由が、子供がおらずお墓を継ぐ人がいないということや、管理費やお布施などの金銭的な負担にある場合には、反対する親族に墓地使用者を交代してもらうことを相談することが考えられます。
通常お寺は墓地規則でお墓を承継できる親族の範囲を制限していますが、無縁墓になる可能性がありますので、例外を認めてくれる余地はあるでしょう。
反対する親族が墓地使用者になることを拒否し、親族のために引き続き管理することを求めてくるような場合には、祭祀承継者の権限で墓じまいを強行することも考えられます。
遠方へ行ってしまうことへの反対
都市部に居住しており、田舎にあるお墓のお参りや管理が十分にできないことを理由に、墓じまいをして居住地の近郊にお墓を改葬するケースはよくあります。
この場合、田舎に住む親族は都市部までお墓参りに行かなければならなくなりますので、反対されることがあります。
この場合もまずは話し合いですが、どうしても同意が得られないときは、祭祀承継者の権限で墓じまいを強行することも考えられます。
あるいは、納骨された遺骨を分骨して、田舎のお墓はそのままに、都市部に設けたお墓に分骨された遺骨を納骨するという方法も考えられます。
費用負担への反対
墓じまいをすることに親族に異存はない場合にも、誰がその費用を負担するのかについて揉めることがあります。
遠方へ墓じまいをすることに反対した親族の意向をのんで、近場の永代供養墓に改葬したのに、その親族が費用負担はしてくれないというご相談を受けたこともあります。
先ほどご説明しましたとおり、墓じまいには数十万円の費用がかかります。高額な費用ですから、できれば自分は負担したくないという思いもあるでしょう。親族が皆お参りをするお墓なのだから、皆で費用を負担すべきだという考えもあるでしょう。
もっとも、法的には、祭祀承継者として墓地に届けられている方に費用の負担義務があります。
お寺とのトラブル
お墓が公営墓地ではなく寺院墓地にある場合、墓じまいにあたり、墓地管理者である住職とトラブルになるケースはよくあります。
ここではどのようなトラブルがあるのか、その対応についてもみていきたいと思います。
高額な離檀料の請求
しばしばメディアで見聞する問題に、墓じまいの際に住職から200万円、300万円の離檀料を求められたというものがあります。
この点については、後ほど詳しくご説明します。
遺骨を引き渡さない
高額な離檀料の請求はないけれども、墓じまい、離檀に反対して住職が墓じまいに協力をしてくれず、遺骨の引き渡しを拒否するというトラブルもしばしば見聞します。
この点も、高額な離檀料と同様の妨害行為ですから、後ほど詳しくご説明します。
未納管理費等を遡って請求
墓じまいをするケースの中には、長年管理費の支払いもなくお墓が放置されており、お寺から墓じまいを求められるというケースは結構あります。
この場合、高額な離檀料の請求や、遺骨の引渡拒否はなくとも、滞納していた数年分の管理費を一括で支払うよう求められることはよくあります。
墓地管理費は支払期日から5年間を経過することで消滅時効にかかりますので、法的には、それ以前まで遡って支払う義務はありません。
もっとも、後腐れなく墓じまいをするためには、消滅時効にかかわらず、滞納していた管理費を支払うことも検討されてよいでしょう。
石材店とのトラブル
親族やお寺とのトラブルほど多くはありませんが、石材店に関わるトラブルに巻き込まれてしまうこともあります。
以下、石材店に関わるトラブルについてみていきましょう。
高額な工事費の請求
墓じまいのためにお墓の解体、撤去を依頼する石材店は自分で探して依頼する場合もありますが、寺院墓地の場合にはお寺の指定石材店に依頼することになるのが通常です。
指定石材店制度は独占禁止法違反なのではないかという意見もありますが、多数の石材店があり、中には粗悪な業者もありますので、墓地の適正管理のために石材店を指定することに合理性があります。
墓じまいをする場合、お寺と指定石材店が結託して、相場よりも高額な工事費を請求し、代金の一部をお寺がキックバックとして受け取る事例があります。
このような場合、他社の費用感を説明して減額を求める、それに応じてくれないときは消費者センターや弁護士に相談をしましょう。
ずさんな工事や不法投棄
指定石材店に依頼をする場合にはこのようなトラブルはないでしょうが、自分で見つけて依頼をした石材店の場合には、工事が雑で他の墓所や墓地の共用部に損害を与えてしまうことがあります。
また、搬出した墓石を産業廃棄物として処理せず山中に不法投棄するケースもみられます。
もちろん、これらのトラブルについて墓地使用者が関わっていないのであれば法的に責任を問われることはありませんが、面倒な問題に巻き込まれてしまう可能性があります。
そこで、自分で石材店を選定するときは、価格だけを基準とはせずに、優良石材店の指定の有無などを確認するようにしましょう。
墓じまいと離檀料
近年墓じまいが増加していることにともない、墓じまいの際にお寺とトラブルになるケースが非常に増えています。
その多くの場合が、離檀料にかかわるトラブルです。ここでは、離檀料に関して基礎からご説明します。
- 離檀料とは
- 離檀料の相場
- 離檀料を支払う法的義務はある?
- 高額な離檀料を請求された場合の対応
- 高額な離檀料を請求した寺院の法的責任
離檀料とは
離檀料とは、寺院墓地のお墓を墓じまいし、お寺との檀家関係を解消する場合に、檀家からお寺に支払うお布施のことをいいます。
お世話になったお寺に対する謝礼のようなものと考えてよいでしょう。
離檀料の相場
離檀料の金額は、お寺によって異なりますし、檀信徒における立場やお寺との付き合いの長さなどによっても金額は異なることがあります。
離檀料の相場は、概ね10万円から30万円ほどです。
離檀料を支払う法的義務はある?
墓地使用契約や墓地規則に離檀料の定めがない限り、離檀料を支払う明確な法的根拠はありません。
離檀料は慣習的に納められているもので、契約や規則に記載しているケースは稀でしょう。
したがって、離檀料の支払う法的義務はなく、お寺がその支払いを法的に強制することはできません。
ただし、この点については判例が未だなく、訴訟になった場合に離檀料の支払いを命じられるのかどうかは不確かです。
相場の範囲内の離檀料であれば、訴訟では、慣習や条理を法的根拠としてその支払いを法的に強制される可能性もあります。
高額な離檀料を請求された場合の対応
墓じまいは墓地使用者が自由に行えるものです。
ところが、離檀を申し入れたところお寺から高額な離檀料を請求され、それを納めない限り埋蔵証明書は交付しない、遺骨を引き渡さないという対応をとられるというケースがしばしばあります。
埋蔵証明書がなければ原則として改葬はできませんし、改葬はせず手元供養をする場合も遺骨を引き渡してもらえなければそれもできません。
住職と話し合った結果、納得のいく離檀料の金額に落ち着いたとしても、指定石材店がお寺の意向を組んで相場よりも高額なお墓の解体費用を請求してくることがあります。
このような妨害にあった場合に、住職に事前に通知することなく、自身で依頼した石材店に工事を強行してもらうことはできるのでしょうか。
墓地使用者には墓地の通行権がありますし、墓石や焼骨の所有権は墓地使用者にあります。
そのため、このような強硬手段をとったとしても基本的に違法行為にはなりませんが、工事の際に寺院側とトラブルが発生する可能性がありますのでお勧めはできません。
適正な手続きで対応するには、弁護士に依頼をして交渉をする、それでも寺院が応じない場合には、遺骨返還請求訴訟を提起することが必要となります。
高額な離檀料を請求した寺院の法的責任
墓地使用者には信教の自由があります。
高額な離檀料を求め、埋蔵証明書を交付しない、遺骨を引き渡さないという対応は、墓地使用者の信教の自由を侵害する不法行為となり、損害賠償責任が発生しかねませんのでお寺としても注意が必要です。
埋蔵証明書に代わる書面の提出
改葬するときは、原則として、お寺から埋蔵証明書を交付してもらう必要があります。
もっとも、お寺がそれに応じてくれない場合には、埋蔵証明書に代わって、「市町村長が必要と認めるこれに準ずる書面」(墓埋法規則第2条2項1号)を提出することが認められています。
どのような書面が必要になるかは市町村によって異なりますので、市区町村役場の担当部署に確認しましょう。
ただし、このように法律上、埋蔵証明書に代わる書面の提出が認められており、また行政の通達でも同様に解釈されているにもかかわらず(昭和30.2.28衛環第22号)、役所の担当者があくまで埋蔵証明書を提出するよう求めるケースがしばしばあります。
なぜお寺とのトラブルが多発しているのか?
墓じまいをしようとしたら、お寺から高額な離檀料を請求された、遺骨を引き渡してくれないといったトラブルが近年、多発しています。
昨今、お寺の経済事情が厳しいので、お寺が収入源を失う墓じまいに抵抗しているというような論調も見られます。
確かに、そのような考えも全くないとは言い切れませんが、このようなトラブルの主たる原因は、お寺と檀信徒との付き合いに関する考え方のギャップにあります。
若い世代は、お寺との付き合いを大切にしてきた祖父母の世代とは信仰心、価値観が大きく異なります。
そのため、お盆にもお寺に顔を出さず、お墓は放置され、管理費も滞納されているというケースが多々あります。
長年お寺に足を運ばず、墓地の管理費も滞納が続いていたところ、突如、墓じまいをしたいと言われれば、お寺としてもそんな非礼なことはないだろうと思うのは当然でしょう。
また、代々、先祖を供養してきたお寺に対して何ら感謝の気持ちを示すことなく、マンションの解約のようにドライな対応をされればお寺としても快くはないでしょう。
お寺と檀信徒、いずれが他方の考え方に歩み寄るべきなのかは一概には言えません。
弁護士の立場から言えることは、無用なトラブルを回避するために、檀信徒としては、お寺に理解を示し、長年、先祖を供養してくれたことに対する感謝を示しつつ、墓じまいのお話を進めるべきでしょう。
墓じまいに関するトラブルは弁護士に相談
墓じまいの件数は年々増加しており、この増加傾向は、当面変わることはなさそうです。
それに比例して、墓じまいに関わるトラブルも増加していくでしょう。先祖の遺骨をめぐってお寺と争うことは誰しも避けたいことでしょう。
そのためには、本記事でご説明しました法的知識やトラブルの原因について理解をした上で、お寺と墓じまいのお話をしましょう。
それでもトラブルになってしまったときは、お墓のトラブルに詳しい弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。