訪問介護の様々なトラブル事例と解決を専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月20日

訪問介護の様々なトラブル事例と解決を専門弁護士が解説

訪問介護とは、職員が利用者の自宅に来て、家事や入浴などの介護を行ってくれる介護サービスです。利用者にとっては、慣れ親しんだ自宅で介護を受けられるありがたいサービスです。ただ、利用者と事業者の間でトラブルが起きる事例も珍しくありません。

そこで今回は、介護トラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が、利用者と事業者それぞれの訪問介護トラブルについて、解決事例とともに解説します。

介護トラブルに強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

詳しくはこちら

訪問介護で利用者が巻き込まれたトラブルの事例

ここでは、訪問介護で利用者が巻き込まれたトラブルの事例を3つ解説します。

  • 介護中に利用者がケガ
  • ヘルパーの不誠実な対応
  • 職員による窃盗

それでは、1つずつ解説します。

介護中に利用者がケガ

利用者が巻き込まれたトラブルの事例、1つ目は介護中に利用者がケガをした事例です。

訪問介護中、ヘルパーは椅子と車椅子を入れ替えるため、利用者の女性につかまり立ちしてもらっていました。しかしそのとき、フットレストが利用者の足に接触して負傷しました。診断の結果、利用者は8針を縫う大ケガと診断されたのです。

このとき、ヘルパーは事務所に介助ミスを報告しました。また事務所は365日稼働しており、交代制でスタッフが休む体制を取っていました。しかし、サービス提供責任者が休みで利用者の家族への報告・対応を行わなかったこともあり、問題が大きくなったのです。

その後、利用者の主人から事務所に苦情の電話が入り、所長とサービス提供責任者が急いで謝りに行きました。また、事故報告のときヘルパーが介助ミスによって「利用者の足に傷がついた」という情報を伝えていなかったことも判明し、後に、ヘルパーは正しい事故報告を行うように指導を受けました。

今回の事例では、ヘルパーの報告の仕方や事務所の体制の不備が問題点と考えられます。

ヘルパーの不誠実な対応

利用者が巻き込まれたトラブルの事例、2つ目はヘルパーが不誠実な対応をした事例です。

一人暮らしの利用者は、脳梗塞の後遺症で近所のお店まで歩くことも困難な状況でした。介護認定の要介護2を受けていた利用者は、ケアマネージャーに相談し、訪問介護の利用を開始しました。

問題が起きたのは、訪問介護のヘルパーが初めて来た際のことでした。夕方頃、利用者は寒さを感じてきたため、ヘルパーに上着を着たいと伝えました。しかし、ヘルパーは窓が開いていることが原因だとし、その場では上着を着せませんでした。

その後、利用者の意向から窓を開けたままにしますが、上着を着せることなく帰ってしまいました。利用者は、ヘルパーの態度に大きなショックを受け、恐怖心を抱いたことからヘルパーの利用を中止しました。

今回のような問題を解決するときは、ケアマネージャーやサービス提供責任者・第三者機関の中から、話しやすい相手に相談するのがおすすめです。第三者機関は、特に問題が解決しないときに活用するとよいでしょう。

職員による窃盗

利用者が巻き込まれたトラブルの事例、3つ目は職員による窃盗の事例です。職員による窃盗には、下記のような事例があります。

・介護施設で勤務していた介護士が、入居している利用者のキャッシュカードを使って現金を不正に引き出し、逮捕された
・職員が利用者の自宅を訪れたときに、現金と貴金属を盗んだ罪で逮捕された

今回は訪問介護トラブルの記事ですので、2番目の事例からお話しますが、その職員は認知症の利用者を狙い、犯行に及んでいました。

他方、介護施設内で盗難が起きる理由として、「入居者の家族のふりをしやすい」「居室に鍵が無い場合が多い」「夜間のセキュリティが弱い」などが挙げられるでしょう。

盗難の対策としては、下記のような対策があります。

・現金や貴重品を置いておかない
・貴重品は金庫で保管する
・防犯カメラを導入する

各介護施設でトラブルを防ぐためには、セキュリティ強化への取り組みが必要です。

訪問介護で事業者が巻き込まれたトラブルの事例

ここでは、訪問介護で事業者が巻き込まれたトラブルの事例を2つ解説します。

  • 家族からの過剰な指図
  • 利用者からのセクハラ

それでは、1つずつ解説します。

家族からの過剰な言動

事業者が巻き込まれたトラブルの事例、1つ目は家族からの過剰な言動を受けた事例です。

ケアマネージャーAさんは、ある利用者を担当することになりました。しかし、同居している利用者の息子から厳しい言葉を浴びせられ、ストレスで動悸や息切れなど身体に異変が生じるようになったのです。Aさんは、自らの危機を感じ事業所に相談しました。事業所と利用者の間には、利用契約書が交わされています。

事業者がケアマネージャーAさんの相談を受けたときに取れる対応は、以下の3つです。

・別の担当者に変更する
・利用者の息子さんと話し合いを行い、改善を求める。改善しなければ、契約解除を行う
・利用者の息子さんの言動は、カスタマーハラスメント(お客さんからのクレームや嫌がらせなど)に該当するため、契約解除の通知を送る

上記の中で、「別の担当者に変更する」「話し合いを行い、改善を求める」といった選択肢で解決すればよいですが、改善が見られないときには、契約解除の手続きを進める必要があります。

利用者からのセクハラ

事業者が巻き込まれたトラブルの事例、2つ目は利用者からのセクハラを受けた事例です。

訪問介護中、あるヘルパーは脳梗塞の後遺症で治療している利用者からセクハラを受けました。

利用者はヘルパーに上体を起こしたいと伝え、手助けを求めます。しかしそのとき、ヘルパーを抱き締めたり、キスをしたりなどの行為に及んだのです。ヘルパーは身動きが取れず、約30秒間セクハラを受けます。

利用者はヘルパーが大声を上げたことで行為を止めますが、冗談だと軽くあしらわれました。ヘルパーから報告を受けた事業所は、利用者の家族に連絡します。今後、同じことが起きた場合には契約解除をすることを伝えました。

ヘルパーが受けるセクハラ行為には、「卑猥な発言」やキスを迫るなどの行為があります。利用者からセクハラを受けたときに取るべき対応を、以下に示します。

・事業所に相談
・職場の同僚に相談
・利用者の家族に相談
・都道府県労働局雇用均等室に相談
・同性の介護士が対応

セクハラを受けた方は一人で抱え込まず、第三者に相談することをおすすめします。

訪問介護で発生したトラブルが原因で裁判になった事例

ここでは、訪問介護で発生したトラブルが原因で裁判になった判例として、東京地裁平成27年8月6日判決について、以下の順に解説します。

  • 原告(家族)の訴え
  • 被告(事業所)と原告(家族)の主張
  • 裁判所の見解

それでは、1つずつ解説します。

原告の訴え

まずは、原告の訴えについて解説します。

訪問介護サービスを提供する事業所は、派遣しているヘルパーから「利用者の家族から暴力を受けた」と報告を受けました。その報告を受けて、その利用者に対して契約解除とサービスの停止の措置を取りました。

しかし、原告側の利用者家族は「解除の理由が無い」、「予告期間が無く停止は違法」などと反論します。さらに、サービスが停止したことで、利用者が脳出血を発症し亡くなったと訴えたのです。

利用者の家族は事業所に対し、1600万円の損害賠償を求めました。また、サービスの停止と亡くなったことに関係性が無かったときでも、サービスの停止による精神的苦痛を受けたと主張し慰謝料300万円を請求しています。

事業所と家族の主張

次に、事業所と家族の主張について解説します。

事業所は利用者の家族から暴力行為があったと主張しました。内容は、サービスの提供責任者が利用者の家族から塩を投げつけられ、提供責任者含めて職員全員が恐怖感と身の危険を感じたというものです。

別の職員も、家族から約1時間怒鳴り続けられたこともあったと明かしました。そのため事業所は、訪問介護契約書に記載している「継続しがたい背信行為」に該当するため、本契約を終了すると通知したのです。

利用者の家族は、ヘルパーに塩を撒いたことを認めました。ただし、ヘルパーが強引に自宅を訪問し、身体を寄せてくる行為があったことから不快を感じたと主張します。そのため、ヘルパーに対し塩を撒いたと反論しました。

裁判所の判断

最後に、裁判所の判断について解説します。

裁判所の出した判決は、契約解除の有効性を認めるものでした。ヘルパーは、利用者の家族から怒鳴られながらも、これを諫めるような行動を取っていました。他方、ヘルパーが身体を寄せてくる行為は考えにくいと判断されました。

また、利用者の家族が塩を投げつけた行為は暴力に該当します。さらに、利用者の家族はサービスへの協力姿勢や対応にも問題があります。

裁判所は、本契約が以下のことから継続が難しく、解除事由があるとして被告の主張を認めました。また、利用者の家族が塩を撒いた行為に対し、「暴行罪に該当する」と明言しました。

今回は、裁判所が認定する「信頼関係が失われる」ことや、「サービスの提供が困難」であることに該当します。そのため、解除が有効と認められることとなりました。

訪問介護で発生したトラブルの事例

さらに2つの解決事例(ただし、実際の事例に適宜変更を加えています)を解説します。

事例1

訪問介護事業所の職員は、週2回ほど利用者の自宅を訪れていました。ある日、職員が利用者の自宅のタンスから、現金や金属類を盗む事件が起こしました。職員は現金や金属類を盗んだ理由として、魔が差したと後に語っています。

この事件は、利用者の家族が異変に気付き、訪問介護事業所に相談したことで発覚しました。相談を受けた後、内部調査を行った結果職員の犯行が分かりました。

本件のような窃盗事件を解決するには、調査結果を報告して謝罪することが必要です。また、被害品の弁償を行う必要もあります。本件では、弁護士が加入し交渉を重ねた結果示談が成立しました。

事例2

あるデイサービス利用者の自宅の風呂や台所がリフォームされました。しかし、利用者は認知症が進んでいる状況で、リフォームの有無も把握していない状況でした。ある日、利用者の親族がリフォームに気付いてデイサービスセンターに相談し、デイサービスセンターから相談を受けた弁護士が対応することとなったのです。

今回の案件では、リフォーム業者との契約書類を見つけたことから、リフォーム業者との交渉を行うことができました。

弁護士は契約書類の杜撰な部分を見つけ、特定商取引法や消費者契約法における問題を指摘しました。そして、利用者は契約の無効の確認と代金の一部の返金を受けとることができたのです。

まとめ

今回は、利用者と事業者それぞれの訪問介護トラブルについて、解決事例とともに解説しました。

訪問介護のトラブルを防ぐためには、まずは事業所と家族が納得するまで話し合いを行うことが大切です。また、訪問介護のトラブル事例を知っておくことで、同じようなトラブルが起こったときにはスムーズに対応できる可能性が高まるでしょう。

それでも介護訪問のトラブルが解決できないときは、当法律事務所に相談してください。介護トラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が解決のお手伝いをいたします。

介護トラブルに強い弁護士はこちら

介護トラブルのコラムをもっと読む