発信者情報開示請求とは?請求されたときの対応も徹底解説!
最終更新日: 2023年01月10日
- 発信者情報開示請求をすると言われたけど、どのようなもの?
- 発信者情報開示請求をされるとどうなるの?
- 発信者情報開示請求をされた場合の対応はどうするべき?
近年、SNSでの投稿やファイル共有ソフトでの権利侵害について発信者情報開示請求がなされるケースが増加しています。とはいえ、発信者情報開示請求を何度も受けている方は稀で、大抵は初めての経験で上記のような疑問や不安を持たれることでしょう。
そこで今回は、専門弁護士が発信者情報開示請求の基礎から対応まで徹底解説します。
この記事を監修したのは

- 代表弁護士春田 藤麿
- 愛知県弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
発信者情報開示請求とは
「インターネット上で誹謗中傷に晒されている」、「インターネット上で自分の権利を侵害する情報が流通している」という弁護士への相談は非常に増えています。
しかし、このような場合に、加害者である発信者がどこの誰であるかがわからないことが通常です。
このように自身の名誉権など権利を侵害されたと主張する方は、民事上の損害賠償請求や刑事告訴をするために加害者である発信者を特定しようと考えます。
発信者情報開示請求とは、加害者である発信者の特定することを可能とするためにプロバイダ責任制限法が認めている手続きです。
以下では、発信者情報開示請求がどのような場合に認められるのか、手続きの流れはどうなっているのか、開示請求が認められた後にできる損害賠償請求や刑事告訴とはどのようなものかについて説明していきます。
発信者情報開示請求が認められるための要件
発信者情報開示請求という手続きがあるとはいえ、開示請求はいかなる場合にでもできるものではありません。
無条件に発信者情報の開示を認めてしまうと、本来正当であるはずの情報発信を委縮させたり、発信者に対して不当な攻撃がなされる恐れがあるからです。
プロバイダ責任制限法(以下では、単に「法」といいます。)は、以下の要件が全て認められる場合にのみ、発信者情報開示を認めています。実務上問題となるのは大半が「権利侵害の明白性」です。
この点について弁護士以外の一般の方が適切に主張や立証を行うことは困難を極めます。
- 特定電気通信による情報の流通
- 自己の権利を侵害されたとする者
- 権利が侵害されたことが明らかであること
- 開示を受けるべき正当な理由
- 「開示関係役務提供者」に該当すること
- 「発信者情報」に該当すること
特定電気通信による情報の流通
「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信」と定義されています(法2条1項)。インターネット上で行われる情報発信のうち誰でも閲覧可能なものがこれに当たります。
例えば、「メールやDMでの発信」、「企業のウェブフォーム(の中でも特定の担当者にしか送信内容の閲覧ができないもの)での誹謗中傷」等は、閲覧できる人が限られているため、この要件を満たしません。
自己の権利を侵害されたとする者
発信者情報開示請求をする者のことです。個人だけではなく、会社や趣味のサークルであっても発信者情報開示請求をすることが可能です。
インターネットに関する事件の被害を受けている者であれば誰でも請求ができます。
権利が侵害されたことが明らかであること
実務上、「権利侵害の明白性」と呼ばれる要件です。名誉権侵害、プライバシー権侵害、著作権侵害等の一定の権利侵害の事実があることに加えて、「違法性阻却事由」と呼ばれる事情が存在しないことが必要となります。
例えば、名誉権侵害であれば、当該発信に公共性があり、発信者が主観的にも公益目的をもって発信しており、なおかつ当該発信が真実である場合には発信は違法性はありません。
開示を受けるべき正当な理由
正当な理由がない開示請求が認められてしまうと、発信者への不当な攻撃が行われてしまうなどの問題があります。
しかし、通常は被害者側には損害賠償請求を行うため・刑事告訴をおこなうため等正当な理由があることが想定されます。そのため、裁判においてこの要件が争いになることは稀です。
「開示関係役務提供者」に該当すること
前記の特定電気通信の用に供する設備を提供している者をいいます。サーバー管理者・インターネット掲示板の開設者、携帯電話回線や自宅wifiにおいてインターネットサービスを提供しているプロバイダ等がこれに当たります。
開示請求において一応争いとなることもある要件ですが、弁護士が介入しているケースにおいてこの要件が問題となって開示ができないということはほぼありません。
「発信者情報」に該当すること
「発信者情報」に当たるものとして、法の委任を受けた総務省令が定めている情報は以下のとおりです。開示の対象となる情報は総務省令の改正によって増えています。
- 発信者の氏名
- 発信者の住所
- 発信者の電話番号
- 発信者のメールアドレス
- 発信者のIPアドレス及びIPアドレスと組み合わされたポート番号
- インターネット接続サービス利用者識別符号
- SIMカード識別番号
- 侵害情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)
発信者情報開示請求の手続き
次に、発信者情報開示請求の具体的な手続について説明します。
現行法では二段階の手続きが必要
現在施行されている法律に基づく開示手続きでは、二段階の手続きが必要となっています。
例えば、インターネット掲示板の例を見ると、インターネット掲示板の開設者は通常投稿者の個人情報(氏名・住所等)を保有していません。ツイッター・インスタグラム等のSNSも同様です。
もっとも、これらのサイトは発信者が発信を行った際に用いていたインターネット回線のIPアドレスや、アカウントにログインした際のIPアドレスを記録しています。そのため、被害者はまずはこれらのサイトの運営者に対してIPアドレスの開示を求めることになります。このIPアドレスの開示には、通常、裁判所での裁判手続きを経ることが必要となります。
IPアドレスが開示されれば、次は当該IPアドレスを提供しているインターネットプロバイダに対して改めて発信者情報開示請求を行います。この請求は、発信者情報開示請求訴訟で提起して判決を得ることが一般的です。
インターネットプロバイダは契約者の情報として発信者の氏名や住所を保有していますから、インターネットプロバイダから発信者情報の開示を受ければ開示手続きは完了となります。
改正法の手続き
近年、プロバイダ責任制限法が改正され、近く改正法が施行されることになっています。前記のとおり、現行法では、IPアドレスの開示を受けた上で、インターネットプロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟をしなければなりません。
訴状等の裁判書類を二度作らいないといけず、2人の裁判官に開示を認めてもらう必要があります。
改正後は、この二段階の手続が「発信者情報開示命令」という名前の制度に一本化され、IPアドレスの開示命令申立と同時に、当該IPアドレスを提供しているインターネットプロバイダの情報を提供するように求めることができるようになります。
インターネットプロバイダ情報の提供を受けた請求者は、同じ手続の中でインターネットプロバイダに対して開示命令申立を行うことで、一つの手続きの中で、同じ裁判官に発信者情報開示請求の可否を判断してもらうことが可能になります。
2022年の秋頃から新しい発信者情報開示命令の手続が利用できるようになると言われており、裁判所や弁護士の間で調整が進んでいます。
発信者情報開示請求をしたい請求者が、今よりも短い期間で開示請求が認められることになることが期待されており、請求者にとっては有利な改正であるということができそうです。
開示までに要する期間
発信者情報開示には早くても3か月は必要です。二段階の手続きを経ないといけないことが主な理由です。多くのケースでは半年から9か月程度を要しています。
発信者としては忘れていたころに開示請求が行われていることについて知り、事態の重大さに驚くということにもなります。
法改正により、開示に要する時間は今よりも短くなるものと期待されていますが、それでも3か月程度はかかるのではないかと言われています。
開示手続きに要する費用
発信者情報開示手続きは原則として裁判手続を利用しないといけません。裁判手続きを利用するための手数料のほか、弁護士費用や実費、担保金というような様々な費用がかかります。
以下のとおり、発信者情報開示のためには相当な費用がかかりますが、事業への悪影響を回避するため、平穏な生活を取り戻すために費用を度外視して発信者情報開示請求に臨む方は多いです。
裁判手続を利用する手数料
裁判手続の利用には印紙代が必要となります。IPアドレスの開示のために2000円、発信者情報開示請求訴訟のために13000円が必要です。
弁護士費用
対応を弁護士に依頼した場合、弁護士費用が必要になります。弁護士費用は依頼する弁護士によって様々ですが、50万円から100万円程度の費用が掛かるのが一般的です。
実費
発信に用いられているサイトの運営者が海外の場合、海外の法人登記を取得したり、海外に裁判書類を郵送する必要があります。具体的な金額はケースバイケースですが、実費だけで10万円程度を要することもあります。
担保金
IPアドレスを開示する際に担保金を裁判所に納めることを求められることがあります。具体的な事案により様々ですが、10万円から20万円程度の担保金が必要になるケースが多いようです。
裁判せずに開示されることも?
ここまで見てきましたように、発信者情報開示のためには原則として裁判手続が必要です。確かに、裁判手続を利用しなくとも発信者情報の開示を請求すること自体は可能です。
しかし、IPアドレスを保有しているサイトや、住所氏名を保有しているインターネットプロバイダが任意請求に応じて発信者情報を開示することは一般的ではありません。
例外的に、裁判手続によらずに発信者情報開示に応じているサイトやプロバイダがあります。この場合、安価に速やかに発信者情報の開示を受けることができます。
自分で開示請求はできる?
発信者情報開示請求は弁護士に依頼することが通常で、弁護士以外の一般の方が自分で行うことは難しいのが現状です。
まず、発信者情報開示請求にはほぼ全てのケースで裁判手続を利用することが不可欠で、裁判手続は、法律に精通した弁護士でなければ利用することが困難です。また、開示判決を得る方向で裁判所を適切かつ十分な主張立証が必要となります。
加えて、インターネットプロバイダにおいて通信の記録(通信ログと言います)を保存している期間が決まっており、通信ログの保存期間が過ぎてしまうとそもそも発信者情報開示請求はできませんので、スピーディーな対応が不可欠です。
これらのことから、自分で発信者情報開示請求を行い、開示を受けることは極めて困難です。
発信者を特定できないケース
以上、発信者情報開示がなされるための手続きについてご説明をしてきましたが、稀に、発信者情報開示請求を進めたとしても発信者の特定ができないケースもあります。
詳細は割愛しますが、技術的な理由から、インターネットプロバイダが保有している通信ログを確認しても発信者を特定の一人に絞れないようなケースがあります。
このようなケースでは、発信者情報開示を受けても加害者である発信者を特定できないという結果となります。
発信者情報開示請求を通知された場合の対応
発信者情報開示請求が行われた場合、発信者が契約しているインターネットプロバイダから契約者に対して、「発信者情報開示請求に係る意見照会書」というタイトルの書類が郵送されます。
これは、プロバイダ責任制限法が発信者情報開示請求を受けたインターネットプロバイダ等に対して、開示に同意するか同意しないかを契約者に確認することを義務付けているためです。
では、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた場合、具体的にどのような対応をすべきなのでしょうか。
以下、回答方法や回答後の流れについて見ていきましょう。
- 同意する回答
- 不同意の回答
- 回答しない
同意する回答
発信者情報開示に同意する回答をした場合、プロバイダは請求者に対して発信者情報を開示します。
不同意の回答
他方、不同意の回答をすれば、開示の可否はプロバイダが決めることになります。権利侵害の事実が明白と判断した場合には、プロバイダは発信者情報開示を開示します。
もっとも、安易に開示しますと契約者から損害賠償請求を受ける可能性があるためプロバイダは自身の判断で開示することには消極的です。
そのため、不同意の回答をした場合、請求者はプロバイダに対して発信者情報開示訴訟を提起することになります。訴訟では、請求者とプロバイダが各自、主張立証し、裁判所が開示の可否を判断します。
ただし、発信者情報開示請求は通常弁護士が依頼を受けて対応していますので、弁護士からみて裁判所が開示を認める可能性が非常に低いケースについては、不同意の回答があった段階で発信者情報開示を断念することも多いです。
回答しない
発信者情報開示請求に係る意見照会書に対して回答をしない、無視する方もしばしばおられます。
回答期間内に回答がなかった場合に、「合理的な理由のない不同意」として取り扱うプロバイダが多いようです。そのため、前記の不同意の回答があった場合と同様の流れとなります。
ただし、このように無視をしますと、請求者の感情を害してしまい和解が困難になります。また、権利侵害が認定されるか微妙なケースでは、しっかりと法的反論を回答書に記載しておけば発信者情報開示を回避できたのに開示されてしまうという結論になりかねません。
したがって、回答しないという態度はお勧めできません。
発信者情報開示請求をされた後の損害賠償等
ここまでの長い道のりを経て、ようやく請求者は開示情報を得ます。そして、その後に発信者に対して損害賠償請求や刑事告訴を進めていきます。
以下、損害賠償の内容について、慰謝料、著作権侵害の損害賠償、調査費用の順に見ていきましょう。
なお、刑事告訴については、今回は触れませんが、近年、インターネット上での誹謗中傷が社会問題となっており、捜査機関は積極的に捜査、起訴を行っています。
- 慰謝料
- 著作権侵害の損害賠償
- 調査費用
慰謝料
慰謝料についてはわかりやすいと思います。
違法な発信によって精神的苦痛を受けたとして求める損害賠償です。日本の裁判所が認容する慰謝料の金額はさほど高額ではありません。被害者が一個人にすぎない場合は、概ね10万円から30万円程度が慰謝料の相場です。
もっとも、被害者が会社の場合や、個人事業主やインフルエンサー等事業性を有する場合においては、違法な発信によって被った損害が大きいことを主張することができますので、30万円から50万円程度の慰謝料が認められるケースが多いようです。
著作権侵害の損害賠償
著作権侵害については著作権法に損害額の推定規定があります。ファイル共有ソフトで違法に著作権侵害をした場合には、販売利益×ダウンロード回数という計算式で算定されますので、損害賠償額は数百万円、数千万円にのぼることもあります。
調査費用
先程みたように、発信者情報開示請求をするためには、弁護士に依頼することが事実上、必要不可欠です。そのため、弁護士費用や開示請求に要した実費の損害賠償が認められます。未だ最高裁判所の判例はありませんが、弁護士費用の全額の賠償を認める高等裁判所の裁判例もあります。
そのため、発信者としては最終的に100万円を超える調査費用の損害賠償を負うケースも決して珍しくはありません。
参考記事:発信者情報開示請求を受けたら直ぐに専門弁護士に無料相談!
まとめ
以上、発信者情報開示請求の基礎から対応まで解説しました。
発信者情報開示請求という制度がある以上、インターネット上に匿名ということはなく、開示請求がされてしまえば高額の賠償義務を負ってしまうばかりか、刑事責任の追及がなされ前科がついてしまうということも珍しくはありません。
近時では、侮辱罪の厳罰化についても予定されており、インターネット上でのトラブルに対しては社会的に厳しい対応がなされる傾向があります。
もし発信者情報開示請求を受けてしまった場合には、重い結果となることを避けるために、一刻も早く専門の弁護士にご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明な点があるときやもっと詳しく知りたいときは、下にある「LINEで無料相談」のボタンを押していただき、メッセージをお送りください。弁護士が無料でご相談をお受けします。