発信者情報開示請求に身に覚えがない!対処法を弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月29日
- 発信者情報開示請求書の意見照会書が来たが身に覚えがない!
- 身に覚えがないのに個人情報が開示されてしまうの?
- 身に覚えがない権利侵害について責任を負わされるの?
近時、インターネット上の名誉毀損や著作権侵害などを理由に、その加害者を特定するためになされる発信者情報開示請求が非常に増えています。しかし、主張されている権利侵害行為に全く身に覚えがない(覚えていないではありません)という方もおられるでしょう。
今回は、このように身に覚えがない発信者情報開示請求を受けた場合の対処法について専門弁護士が解説します。
発信者情報開示請求に身に覚えがない!?
まずは、身に覚えがないのに何故、発信者情報開示請求が来ることがあるのかについてご説明します。
なぜ身に覚えがない請求が来る?
発信者情報開示請求を受けたことを知るのはプロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が送られてきたときです。
権利を侵害されたと主張する人は、加害者が投稿などの権利侵害をした際に使用したIPアドレスを特定し、そのIPアドレスを保有するプロバイダに対して加害者の氏名や住所などの発信者情報を開示するよう請求します。
つまり、権利侵害と主張されている行為にご自身の契約するインターネット回線が使用されたことから身に覚えがなくとも発信者情報開示請求がされるのです。
身に覚えがないケース
では、ご自身の契約するインターネット回線が使用されたにもかかわらず、身に覚えがないケースとはどのようなケースがあるのでしょうか。
ご自宅で契約する回線であれば、同居人や同居の家族が権利侵害と主張されている行為をした可能性があります。また、ご自宅に遊びに来ていた友人がインターネット回線を使用していた際に当該行為をした可能性もあります。会社のインターネット回線であれば従業員が当該行為をした可能性があります。
このようにインターネット回線の契約者が直ちに問題となっている行為をしたということにはならないのです。そのため、発信者情報開示請求が来ても身に覚えがないというケースが発生します。
このAV作品はダウンロードした覚えがない
さらに、近時件数が増えているトレントソフトによるAV(アダルトビデオ)の違法ダウンロードのケースにおいて、確かに、違法ダウンロードはしていたものの、発信者情報開示請求の対象となっているAVについては覚えがないという方もしばしばおられます。
トレントによる違法ダウンロード(違法アップロード)については、調査会社の信頼できる調査結果を証拠として発信者情報開示請求をしてきています。そのため、契約しているインターネット回線においてAVのアップロードがなされたことは間違いありません。
AVについては多数の作品がダウンロードされることが多く、タイトルまで覚えている方は稀です。そのため、当該作品について覚えがないという方のほとんどは、確実にダウンロードしていないことを覚えているというわけではなく、ダウンロードしたかもしれないが覚えていないという方です。
発信者情報開示請求に身に覚えがないのに開示される?
では、身に覚えがないのにご自身の氏名や住所などの情報が開示されてしまうのでしょうか。
結論としては、発信者情報開示の要件が認められる限り、身に覚えがなくとも開示されてしまいます。
なぜなら、権利侵害が明白であることは発信者情報開示の要件ですが、権利侵害をしたのがご自身であることは発信者情報開示の要件とはなっていないからです。
身に覚えがないのにご自身の個人情報が相手に知られてしまうことを避けるためには、次にご説明するような対応が必要となります。
発信者情報開示請求に身に覚えがない場合の対処法
次に、身に覚えがない発信者情報開示請求がされた場合に、プロバイダから届く「発信者情報開示請求に係る意見照会書」にはどのように対応するべきか、また発信者情報開示がなされた場合にはどのように対応するべきかについてご説明します。
- 同意する
- 不同意にする
- 無視する
- 身に覚えがないのに責任を負うの?
同意する
早期にご自身が加害者ではないことを説明するためには、発信者情報開示に同意した方が良いのではないかと考える方もおられるかもしれません。
しかし、同意をせずとも誤解を解くための説明はできますし、相手が納得しなかったときはその後に民事訴訟などの法的措置を取られます。
したがって、早期に誤解を解くという理由では同意をするべきではありません。
他方、権利侵害の事実が明白であり、かつご自身が加害者ではないことを裏付けることが困難であるときは、後の民事訴訟でも敗訴する可能性が高いため、発信者情報開示に同意をした上で和解交渉を始めることも合理的な対応といえます。
不同意にする
発信者情報開示に同意すべきでない、不同意とすべき場合とは、ご自身が加害者ではないことを説得的に主張立証できる場合です。
この場合、プロバイダへの回答書において、ご自身が加害者ではないことを証拠とともに説得的に説明することで、請求者はその後の発信者情報開示請求訴訟の提起を断念することを期待できます。
また、請求者の主張では違法な権利侵害が認められないと判断できる場合も、発信者情報開示には不同意とすべきです。
この場合、違法な権利侵害が認められないことについて法的主張を回答書に記載することで、請求者は発信者情報開示請求訴訟の提起を断念する可能性がありますし、訴訟提起をされても裁判所は発信者情報開示を認めない可能性があります。
無視する
3つ目の対応として、プロバイダから届いた書類を無視して何も回答しないという対応が考えられます。
しかし、無視という対応はしてはいけません。
なぜなら、何も回答しないと、特に言い分は無いとみなされ、請求者の言い分だけを考慮して発信者情報を開示するかどうか判断されてしまうからです。そうすると、請求者の主張から権利侵害の事実が明白と判断される限り、発信者情報は開示されてしまいます。
身に覚えがないのに責任を負うの?
最後に、身に覚えがないにも関わらず発信者情報が開示されてしまった場合です。
この場合、相手は民事裁判や刑事告訴をしてきます。
プロバイダの契約者が加害者であることは相手が証明しなければなりませんが、単に身に覚えがない、ハッキングされた、VPNでIPアドレスを偽装されたなどの主張をするだけでは不足です。
身に覚えがないことについて説得力のある主張立証ができなければ、民事、刑事の責任を負わされる恐れがあります。
まとめ
以上、身に覚えがない発信者情報開示請求を受けた場合の対処法について解説しました。
発信者情報開示請求に係る意見照会書を受け取ったときは、同意するべきか、不同意とするべきか、相手の主張内容を法的観点から検討して、適切に対処する必要があります。
発信者情報開示請求に係る意見照会書への回答期限は短いです。一日も早く専門の弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。