労災の過失相殺とは?割合の仕組みと適正な補償を得る手順

2026年05月18日

労災の過失相殺とは?割合の仕組みと適正な補償を得る手順

労災(労働災害)に遭った際、「自分にも落ち度があったのではないか」と不安に感じる方は少なくありません。

労災事故において、労働者側にも不注意などの過失があった場合、損害賠償額が減額される「過失相殺」が行われることがあります。

この記事では、労災における過失相殺の仕組みや、過失割合がどのように決まるのか、そして適正な補償を得るための手順について詳しく解説します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
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目次

労災における過失相殺とは?2種類の補償の違いを解説

労災事故が起きた場合、労働者が受け取れる補償には大きく分けて「労災保険からの給付」と「会社に対する損害賠償請求」の2つがあります。この2つでは、労働者の過失(落ち度)の扱いがまったく異なります。

労災保険からの給付|労働者に過失があっても原則減額されない 

労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者を保護するための制度です。そのため、業務中や通勤中の事故であれば、労働者本人に不注意や過失があったとしても、原則として給付額が減額(過失相殺)されることはありません。治療費や休業補償などは、過失割合に関係なく全額支給されます。ただし、労働者の故意または重大な過失(犯罪行為など)による事故の場合は、例外的に給付が制限されることがあります。

会社への損害賠償請求|労働者の過失分が減額される(過失相殺)

 労災保険からの給付とは異なり、会社に対して損害賠償(慰謝料や労災保険でカバーされない休業損害など)を請求する場合、民法のルールが適用されます。会社側に安全配慮義務違反などの責任があっても、労働者側にも過失があったと認められる場合、その過失割合に応じて請求できる損害賠償額が減額されます。これを「過失相殺」と呼びます。

労災の過失割合はどのように決まる?判断基準と相場

過失相殺が行われる際、「労働者と会社の過失割合をどう決めるか」が非常に重要なポイントになります。ここでは、過失割合を決める判断基準と、一般的な相場について解説します。

過失割合を判断する2つの基準 

過失割合は、会社側の義務違反の程度と、労働者側の落ち度の程度を比較考量して総合的に判断されます。

会社側の要因:安全配慮義務違反の有無 

会社は労働者が安全に働ける環境を整える「安全配慮義務」を負っています。機械の安全装置を設置していなかった、十分な安全教育を行っていなかった、危険な作業を一人でさせていたなど、会社の安全配慮義務違反が重大であるほど、会社の過失割合が大きくなります。

労働者側の要因:危険回避義務違反の有無 

労働者にも、自らの安全を守るための注意義務(危険回避義務)があります。会社が定めた作業手順を守らなかった、保護具を着用しなかった、不注意で危険な場所に立ち入ったなど、労働者自身のルール違反や不注意があった場合、労働者側の過失割合が大きくなります。

ケース別の過失割合の目安と裁判例 

実際の労災事故において、過失割合は過去の裁判例などを参考に決められます。

労働者の過失が10%~30%程度と判断されるケース 

会社が安全対策を怠っていたものの、労働者にも軽度の不注意があった場合です。例えば、機械の安全カバーが外れている状態を知りながら、労働者が少しの不注意で手を入れてしまったケースなどでは、労働者の過失が10〜30%程度とされることがあります。

労働者の過失が40%~50%以上と判断されるケース

労働者のルール違反や著しい不注意が事故の主な原因となった場合です。例えば、会社が再三にわたりヘルメットの着用を指導していたにもかかわらず、労働者が意図的に着用せずに作業を行いケガをした場合などは、労働者の過失が50%以上と重く判断される可能性があります。

労働者の過失が低いまたは否定されるケース 

労働者が決められた作業手順を完全に守っており、不可抗力や会社側の設備の重大な欠陥によって事故が起きた場合、労働者の過失は0%(過失なし)と判断されます。新入社員で十分な指導を受けていなかった場合なども、労働者の過失が低く見積もられる傾向にあります。

過失相殺で賠償金はいくら減る?損害賠償額の計算方法

過失割合が決まると、実際に会社から受け取れる損害賠償額が計算されます。どのような項目が請求でき、どのように減額されるのかを見ていきましょう。

会社に請求できる損害賠償の内訳 

労災事故で会社に請求できる主な損害項目は以下の通りです。

治療費・通院交通費 

ケガの治療にかかった実費や、通院のための交通費です。(労災保険から支給された分は除きます)

休業損害 

ケガで仕事を休んだために得られなかった収入です。労災保険の休業補償給付では本来の収入の約8割(特別支給金含む)しか補償されないため、不足する分を会社に請求します。

慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料) 

労災保険からは支給されない精神的苦痛に対する賠償です。入通院の期間に応じた慰謝料や、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料があります。

逸失利益 

後遺障害が残ったり死亡したりしたことで、将来得られるはずだった収入が減ってしまったことに対する補償です。

損害賠償額の計算手順(過失相殺と損益相殺) 

損害賠償額を計算する際は、まず総損害額を算出し、そこから労働者の過失割合分を減額(過失相殺)します。その後、すでに労災保険から受け取った給付金(慰謝料などの対象外のものを除く)を差し引きます。これを「損益相殺」と呼びます。

【計算例】過失割合20%の場合のシミュレーション 

  • 総損害額:1,000万円
  • 労働者の過失割合:20%
  • 労災保険からの既払金:300万円
  1. 過失相殺:1,000万円 × (100% – 20%) = 800万円
  2. 損益相殺:800万円 – 300万円 = 500万円 最終的に会社に請求できる金額は「500万円」となります。

労災で過失を問われたら?適正な補償を得るための3ステップ

会社側から「君にも落ち度があったから賠償金は払えない(減額する)」と言われた場合、泣き寝入りしてはいけません。適正な補償を得るためには、以下の手順を踏みましょう。

事故状況の証拠を収集・保全する 

過失割合を争う上で、客観的な証拠が不可欠です。事故現場の写真、機械の状態、作業マニュアル、同僚の証言、労働基準監督署の調査報告書などを可能な限り集めましょう。

「自分の過失が大きい」と安易に認めない 

会社や保険会社から提示された過失割合の書面に、安易に署名・捺印してはいけません。一度認めてしまうと、後から覆すのは非常に困難になります。自分の過失を問われても、まずは保留にしてください。

労災問題に詳しい弁護士に相談する 

適正な過失割合を判断し、会社と対等に交渉するためには、法律の専門知識が必要です。できるだけ早い段階で、労災問題や損害賠償請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

労災の過失相殺を弁護士に相談するメリット

労災トラブルを弁護士に依頼することには、多くのメリットがあります。

会社側が提示する過失割合の妥当性を判断できる

会社側は、賠償額を抑えるために労働者の過失を不当に大きく主張することがあります。弁護士は過去の裁判例などに基づき、その過失割合が法的に妥当かどうかを正確に見極めることができます。

会社との交渉や法的手続きをすべて任せられる

治療中に会社と示談交渉を行うのは、肉体的にも精神的にも大きな負担です。弁護士に依頼すれば、証拠収集や会社との煩雑な交渉、必要に応じた労働審判や裁判などの法的手続きをすべて代行してくれます。

最終的に受け取れる賠償金が増額する可能性がある 

弁護士が介入することで、不当な過失相殺を防ぎ、裁判所基準(弁護士基準)で慰謝料などを再計算するため、会社からの当初の提示額よりも大幅に賠償金が増額するケースが非常に多くあります。

よくある質問(FAQ)

Q:労災保険の給付にも過失相殺は適用されますか? 

A:いいえ、原則として適用されません。

労災保険からの給付(治療費、休業補償、障害補償など)は、労働者を救済するための制度であるため、労働者側に不注意などの過失があったとしても、過失相殺によって給付額が減額されることはありません。

ただし、会社に対して別途損害賠償請求(慰謝料や不足分の休業損害など)を行う場合には、民法のルールに従って過失相殺が行われ、労働者の過失割合分が賠償金から差し引かれます。

Q:会社から「お前の不注意だから労災にならない」と言われましたが本当ですか? 

A:それは間違いです。業務中や通勤中に起きた事故であれば、労働者本人に不注意があったとしても労災として認められます。

「労働者の過失が大きいから労災隠しをする」「労災申請をさせない」といった会社の行為は違法となる可能性があります。

会社が協力してくれない場合は、労働者自身で直接労働基準監督署へ労災申請を行うことが可能です。

Q:通勤中の交通事故による労災の場合、過失割合はどのように決まりますか? 

A:通勤中の交通事故(第三者行為災害)の場合、過失割合は一般的な交通事故の基準(別冊判例タイムズなどに記載された基準)に沿って、加害者側の保険会社との間で決定されます。

この場合も、労災保険からの給付自体は過失相殺によって減額されませんが、加害者へ請求できる損害賠償額(慰謝料など)については、決定した過失割合に応じて過失相殺が行われます。交通事故と労災の両方が絡むケースは複雑になるため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

労災事故における過失相殺は、会社に請求する損害賠償額に大きな影響を与えます。

労災保険からの給付は過失に関わらず受け取れますが、会社に対する損害賠償請求では過失割合が厳しく問われます。 会社側から高い過失割合を提示されたとしても、それが必ずしも適正とは限りません。

「過失相殺で賠償金が減らされるかもしれない」と不安に感じた場合は、決して一人で抱え込まず、安易に示談に応じる前に労災問題に詳しい弁護士へ相談し、適正な補償を受け取るためのサポートを受けましょう。

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