労災の損害賠償|請求方法と流れを弁護士が徹底解説
2026年05月13日

業務中や通勤中の事故で怪我を負ったり、過労で病気になったりした場合、「労災保険を使えばすべての損害が補償される」と思っていませんか?実は、労災保険からの給付だけでは精神的苦痛に対する「慰謝料」は考慮されていないため、実際の損害に対して補償が不十分になるケースが少なくありません。
怪我や後遺障害、休業による本来の損害をしっかりとカバーするためには、労災保険の申請とは別に、会社に対して損害賠償請求を行う必要があります。しかし、会社に対してどのように責任を問えばいいのか、具体的な請求方法や手続きの流れが分からず、泣き寝入りしてしまう労働者も少なくありません。
この記事では、労災における損害賠償の基礎知識から、会社に賠償を求めるための法的根拠、請求できる項目の内訳、そして発生から解決までの具体的な請求方法と流れを弁護士が徹底解説します。適正な賠償金を受け取り、安心して今後の生活を再建するための参考にしてください。
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労災の損害賠償請求とは?労災保険だけでは不十分な理由
業務中や通勤中に怪我をした場合、まず思い浮かぶのが「労災保険」の利用です。しかし、労災保険だけでは被災した労働者の損害をすべてカバーできるわけではありません。ここでは、労災保険給付と会社に対する損害賠償請求の違いや、労災保険だけでは不十分な理由について解説します。
労災保険給付と損害賠償請求の違い
労災保険は、労働者の業務上の災害に対して迅速に最低限の補償を行う国の制度です。労働者に過失があっても原則として給付が受けられるメリットがあります。一方、損害賠償請求は、会社(使用者)に安全配慮義務違反などの落ち度があった場合に、民法に基づいて不足分の損害を請求する手続きです。労災保険はあくまで「定型的な補償」、損害賠償は「実際の損害全額の補填」を目的としている点に大きな違いがあります。
労災保険だけでは補償されない損害
労災保険では、治療費は全額補償されますが、休業補償は基礎給付額の約8割(特別支給金を含む)にとどまります。さらに最も重要な点として、精神的苦痛に対する「慰謝料」は労災保険からは一切支払われません。つまり、重い後遺障害が残ったり、死亡事故が起きたりした場合、慰謝料や将来の減収分(逸失利益)の不足分を回収するには、会社への損害賠償請求が必要不可欠となります。
会社に損害賠償請求できる法的根拠
会社に対して損害賠償を請求するためには、法的な根拠が必要です。単に労災が発生したという事実だけでは足りず、会社側に以下のいずれかの責任が認められる必要があります。
安全配慮義務違反
労働契約法第5条により、会社は労働者が生命や身体の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。例えば、危険な機械の安全装置を外して作業させていた、長時間労働を放置して過労死を招いたなど、会社が適切な安全対策を怠っていた場合には、安全配慮義務違反として損害賠償を請求できます。
使用者責任
民法第715条に定められている責任で、従業員(被用者)が業務の執行において第三者に損害を与えた場合、会社(使用者)もその賠償責任を負うというものです。例えば、同僚が運転するフォークリフトに轢かれて怪我をした場合など、加害者である同僚だけでなく、会社に対しても使用者責任を追及して損害賠償を請求できる可能性があります。
工作物責任
民法第717条に基づく責任です。会社の建物や設備(工作物)の設置や保存に欠陥があり、それが原因で労働者が怪我をした場合に認められます。老朽化した足場が崩落した、工場の機械の不具合で事故が起きたといったケースでは、会社や施設の占有者・所有者に対して賠償を求めることができます。
労災で請求できる損害賠償の内訳と金額の相場
会社への損害賠償請求では、労災保険でカバーされない損害を具体的に算定して請求します。主な内訳は以下の通りです。
治療費・通院交通費など
労災指定病院であれば治療費は労災保険から直接支払われますが、労災保険が適用されない自費診療や、個室ベッド代、通院のための交通費(タクシー代など)が実費としてかかった場合、必要かつ相当な範囲で会社に請求できるケースがあります。
休業損害
労災保険の休業補償給付では、給付基礎日額の60%(特別支給金20%を含めると80%)しか支給されません。残りの40%(特別支給金は損益相殺の対象外となるため)の不足分について、会社に対して休業損害として請求することが可能です。
逸失利益(後遺障害・死亡)
逸失利益とは、労災事故がなければ将来得られたはずの収入のことです。後遺障害が残って労働能力が低下した場合や、死亡により将来の収入が絶たれた場合に請求します。年齢、事故前の収入、後遺障害等級などをベースに算出されるため、数千万円から1億円以上という非常に高額になるケースもあります。
慰謝料
慰謝料は、怪我や後遺障害、死亡によって受けた精神的苦痛に対する賠償金です。前述の通り、労災保険からは1円も支給されません。入通院期間に応じた「入通院慰謝料」、後遺障害等級に応じた「後遺障害慰謝料」、死亡した場合の「死亡慰謝料」があり、裁判基準(弁護士基準)で算定することで高額な請求が可能になります。
将来の介護費用や雑費
重度の後遺障害(寝たきりなど)が残り、将来にわたって介護が必要になった場合、将来の介護費用を請求できます。また、車椅子の購入費、自宅のバリアフリー改修費、紙おむつなどの将来の雑費についても、必要性が認められれば損害賠償の対象となります。
労災の損害賠償請求|発生から解決までの流れを5ステップで解説
会社へ損害賠償を請求する場合の具体的な手順と流れを解説します。適切なタイミングで行動することが重要です。
証拠の収集・保全
事故発生直後から証拠を集めることが最も重要です。事故現場の写真や動画、使用していた機械や道具、シフト表やタイムカード(過労死の場合)、同僚の証言、メールやLINEの履歴など、会社の過失(安全配慮義務違反など)を証明できる資料を確保します。会社が証拠を隠滅する前に動く必要があります。
労災保険の申請と治療
まずは労働基準監督署へ労災保険の申請を行い、治療に専念します。労災認定を受けることで、事故が業務に起因するものであるという証明にもなります。医師の指示に従い、怪我が完治する、あるいはこれ以上治療しても改善が見込めない状態(症状固定)になるまで、しっかりと通院を継続してください。
症状固定と後遺障害等級の認定
治療を続けても症状が残ってしまった場合、主治医に後遺障害診断書を作成してもらい、労働基準監督署へ障害補償給付の申請を行います。ここで認定された「後遺障害等級」は、損害賠償額(逸失利益や慰謝料)を算定するための極めて重要な基準となります。
会社との示談交渉
損害額の全容が確定した段階で、会社(または会社が加入している使用者賠償責任保険の保険会社)に対して、内容証明郵便などで損害賠償請求書を送付し、示談交渉を開始します。会社側が法的責任を認め、賠償額について双方が合意できれば、示談書を作成して解決となります。
交渉不成立の場合は裁判手続きへ(労働審判・訴訟)
会社が責任を否定したり、提示された賠償額が低すぎて合意できなかったりする場合は、裁判所を介した手続きに移行します。比較的短期間で解決を図る「労働審判」や、厳密な証拠調べを行う「民事訴訟(裁判)」を起こし、適切な損害賠償の獲得を目指します。
損害賠償請求で知っておくべき3つの注意点
労災の損害賠償請求を行う上で、知っておかなければならない法的な注意点やルールがあります。
労災保険給付との調整(損益相殺)
損害賠償請求において、二重取りを防ぐためのルールがあります。労災保険からすでに支給された給付(療養補償、休業補償、障害補償など)については、会社に請求する損害賠償額から差し引かれます。これを「損益相殺」と呼びます。ただし、労働福祉事業の一環として支払われる特別支給金は控除の対象外です。
労働者側の過失による減額(過失相殺)
事故の原因が労働者自身の不注意(マニュアル違反や安全確認の怠りなど)にもある場合、その過失割合に応じて損害賠償額が減額されます。これを「過失相殺」といいます。会社側は賠償額を減らすために労働者の過失を強く主張してくることが多く、過失割合の判断は非常に争いになりやすいポイントです。
損害賠償請求権の消滅時効
損害賠償請求には期限(消滅時効)があります。安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく請求の場合、原則として「権利を行使できることを知った時から5年」または「権利を行使できる時から10年」(※人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の場合は20年)です。不法行為(使用者責任など)に基づく場合は「損害及び加害者を知った時から3年」(※人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は5年)または「不法行為の時から20年」となります。時効が成立すると請求できなくなるため、早めの対応が必要です。
※なお、雇用契約の時期や債務不履行または不法行為の時期が2020年(令和2年)4月1日より前である場合、消滅時効の期間が異なる場合がございますのでご注意ください。
労災の損害賠償請求を弁護士に相談するメリット
労災問題は複雑な法律知識を要するため、労働者個人で会社と対等に交渉するのは困難です。弁護士に依頼することで以下のメリットが得られます。
適切な損害賠償額を算定・請求できる
弁護士は、過去の裁判例に基づいた「裁判基準(弁護士基準)」を用いて損害額を算定します。会社側が提示してくる見舞金や示談金は本来受け取れる額より低いケースがほとんどですが、弁護士が介入することで、逸失利益や慰謝料などの項目を漏れなく正確に計算し、正当で高額な賠償金を請求することが可能になります。
会社との交渉や法訴続きをすべて任せられる
証拠の収集、法的根拠に基づく主張の組み立て、会社や保険会社との煩雑な示談交渉、そして必要に応じた労働審判や民事訴訟の手続きまで、すべて弁護士が代理人として行います。専門家が間に入ることで、会社側も適当な対応ができなくなり、真摯に交渉に応じる可能性が高まります。
精神的な負担が軽減される
怪我の治療や将来への不安を抱えながら、自分に落ち度を指摘してくるかもしれない会社と直接交渉することは、想像を絶するストレスです。弁護士が窓口となることで、労働者やご家族は会社と直接やり取りをする必要がなくなり、安心して治療や生活再建に専念することができます。
労災の損害賠償請求に関するよくある質問(FAQ)
Q:労災の損害賠償請求は、会社を退職した後でも可能ですか?
A:はい、退職後であっても損害賠償請求は可能です。 在職中に会社とトラブルになることを避けるため、退職してから請求手続きを始める方は少なくありません。ただし、損害賠償請求には「時効」がある点に注意が必要です。退職後であっても、時効が完成する前に早めに弁護士に相談し、手続きを進めることをお勧めします。
Q:パートやアルバイト、派遣社員でも会社に損害賠償を請求できますか?
A:はい、雇用形態に関わらず請求可能です。 パート、アルバイト、契約社員、派遣社員であっても、労働者である以上、会社は安全配慮義務を負っています。したがって、会社の安全管理体制の不備などで労災事故に遭った場合は、正社員と同様に損害賠償を請求できます。派遣社員の場合、派遣元企業だけでなく、実際に作業の指揮命令を行っている派遣先企業に対しても損害賠償を請求できるケースが多くあります。
Q:会社が「労災にしないでほしい(健康保険を使ってほしい)」と言ってきた場合はどうすればよいですか?
A:会社の指示に従わず、必ず労災保険の申請を行ってください。 業務中の事故であるにもかかわらず健康保険を使うことは違法(健康保険法違反)であり、いわゆる「労災隠し」という犯罪行為に該当する可能性があります。労災保険を使わないと、治療費の自己負担が発生するだけでなく、後遺障害が残った場合の補償や、その後の会社への損害賠償請求における証拠としても極めて不利になります。会社が協力してくれない場合でも、労働者自身で労働基準監督署に直接申請することができます。
Q:後遺障害が残らなかった(完治した)場合でも、損害賠償請求はできますか?
A:はい、請求可能です。 後遺障害が残らなかった場合、逸失利益や後遺障害慰謝料の請求はできませんが、入院や通院にかかった期間に応じた「入通院慰謝料」や、労災保険でカバーされなかった休業損害の不足分(約40%部分)などを会社に請求できる可能性があります。怪我の程度や治療期間によっては請求額がそこまで高額にならないケースもありますが、会社に安全配慮義務違反がある場合は正当な権利として請求を検討すべきです。
まとめ
労災事故に遭った場合、労災保険の給付だけでは慰謝料や将来の減収分が補償されず、十分な救済とは言えません。会社に安全配慮義務違反などの法的責任がある場合は、損害賠償請求を行って不足分を回収することが重要です。
しかし、証拠の収集から損害額の算定、会社との厳しい交渉、複雑な裁判手続きまで、個人で対応するには非常に高いハードルがあります。消滅時効のリスクや過失相殺の争いもあるため、事故が発生したらできるだけ早い段階で、労災問題に精通した弁護士に相談することを強くおすすめします。弁護士のサポートを受けることで、適正な賠償金を獲得し、新たな一歩を踏み出すための強力な後押しとなるでしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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