立ち退き料100万円でどう?金額が妥当か専門弁護士が解説!
最終更新日: 2023年11月27日
「賃貸人から立ち退き料100万円を支払うから、月末までに出て行ってほしいと言われた」
「賃借人に立ち退きを求めたが、100万円も立ち退き料を要求された」
立ち退き交渉の中で、一方から提示された立ち退き料の金額に対し、もう一方が疑問を感じたとき、立ち退き料の交渉が始まります。賃貸人としては、立ち退きにかかるコストをできる限り下げたい思惑があるでしょうし、賃借人としても、退去に協力するためには多くの費用がかかりますから、できる限りの立ち退き料を得たいことでしょう。
それでは、立ち退き料の交渉をする当事者は、自分が希望する金額に近づけていくために一体どのように交渉すべきなのでしょうか。多くの立ち退き交渉を解決してきた専門弁護士が、この問題について解説します。
立ち退き料100万円は高いのか、安いのか?法的根拠をご紹介
立ち退き交渉において、たとえば「立ち退き料100万円」という金額の妥当性が問題になることがあります。法律上、100万円という金額はどのように算出されるのでしょうか。まずは立ち退き料の法的根拠から見ていきましょう。
- 立ち退き料の法的根拠
- 立ち退き料の算定方法
- 100万円の立ち退き料をどのように計算しているのか
立ち退き料の法的根拠
実は、賃借人の権利として、立ち退き料を正面から認めたは法律はありません。立ち退き料は、借地借家法28条において、正当事由の考慮要素のひとつとして紹介されているだけで、これを権利として定めてはいないのです。
すなわち、条文では、「解約の申し入れは・・・・財産上の給付をする旨の申し出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」としか言及されておらず、賃借人に立ち退き料請求権を与える法律上の根拠はどこにも存在しないのです。
実際にも、賃貸人が、その都合によって賃貸借契約を解除したい場合において、賃借人の協力を得やすいように、賃貸人の方から提示される金銭が立ち退き料ですから、賃借人の当然の権利として積極的に請求できる性質のものではありません。賃借人が、賃貸人に対して、立ち退き料を支払えと裁判所に提訴したとしても、立ち退き料を認める法的根拠がない以上、賃借人による当該請求は棄却されます。
それにもかかわらず、立ち退き料の交渉が発生するのは、上記の借地借家28条の規定があるため、無償で賃借人を立ち退かせることは難しいという現実があるからです。賃貸人としては、本来であれば立ち退き料など払いたくないところ、借地借家法28条がある以上、早く賃借人を退去させるには、ある程度相手の納得する立ち退き料を支払うしかないのです。
立ち退き料の算定方法
先ほど、立ち退き料には法的根拠がないと述べましたが、賃貸人が一定の立ち退き料の支払いを提案しつつ賃借人に対して明渡訴訟を提起した場合、裁判所は、借地借家法28条を適用して、適切な立ち退き料の金額を算定して、引換給付判決を出すことができます。
なお、引換給付判決とは、裁判所が、賃借人に対して、「立ち退き料の支払いを受けるのと引き換えに、建物を明け渡せ」という特殊な判決をいいます。
多数の立ち退き事案の裁判例が蓄積することによって、立ち退き料の算定方法はある程度は定まっています。ここでは、比較的算定方法が単純な、居住用賃貸物件の算定方法を前提にみていきます。建物の明渡しの際、基本的に発生するものと考えられているのが下記の費用であり、裁判でも、最低限これらの費用が立ち退き料として考慮されるのが通常です。
なお、前家賃との差額が認められる期間は、概ね1年分から3年分であり、立ち退き料以外の正当事由との兼ね合いで補償年数が決まることが多いです。
100万円の立ち退き料をどのように計算しているのか
それでは、具体例として100万円の立ち退き料が算定された場合、どのような計算がなされているのでしょうか。たとえば、以下のような事例が考えられます。
まず、引越しの見積をとったところ、搬出する荷物の量や、移動距離を踏まえて、15万円程度との見積書が発行された事案を想定します。なお、引越代は見積書の提出がなくとも、最低10万円ほどは認定されることが多いようです。
次に、新たな移転先との賃貸借契約を締結するため仲介手数料10万円、礼金10万円の合計20万円がかかったとしましょう(厳密には、その他、諸費用が発生しますが、ここではわかりやすく簡略化しています。)。
そして、新規契約した物件の家賃が、現行の物件よりもプラス2万円になる場合を想定します。
以上みてきた費用や経費を整理すると以下のとおりとなります。
しかしながら、この83万円という金額は、あくまで退去によって賃借人が被る経済的負担をゼロに戻すものにすぎません。本来であれば、退去の必要もなかったところ、賃貸人の都合によって退去を強制されるわけですから、若干の上乗せもないのに退去に協力させることは酷でしょう。
そこで、転居によるプラスアルファの慰謝料あるいは迷惑料名目で、調整金が認定されることが通常です。具体例において紹介したような事案では、20万円程度の調整金が加算され、結果、少なくとも100万円程度の立ち退き料が算定されます。
以上のとおり、「立ち退き料100万円」という金額は、実際のところ相場に照らしますと、一応、妥当な金額と言えそうです。もっとも、実際の交渉では上記と同様のケースで200万円や300万円の立ち退き料となるケースもあります。
【賃貸人側】立ち退き料を100万円も支払えない!減額のポイント
賃貸人の方からすれば、自分が貸している物件を返してもらうのに、100万円近い立ち退き料を賃借人に支払わなければならないことに驚かれるかもしれません。賃借人にはすぐに退去して欲しいのに、100万円も現金がないから、立ち退きができず途方に暮れる方もおられるかもしれません。
しかしながら、賃借人を退去させるにあたり、必ずしも高額な立ち退き料を支払わなければならないものではなく、工夫次第で立ち退き料を減額することも可能です。そのポイントを見ていきましょう。
賃貸人の正当事由
前述の立ち退き料の計算方法は、あくまで賃貸人側の正当事由が一定程度認められるものの、基本的には正当事由が足りないという場合を前提としたものです。
もちろん、賃貸人に正当事由が認められるのであれば、立ち退き料を大きく減額することも可能です。
実際のところ、賃貸人側に正当事由が強いほど、立ち退き料の金額も減額となるので、賃貸人側の正当事由が賃借人よりも明らかに優越しているのであれば、立ち退き料ゼロで退去を強制することも可能なのです。
また、賃借人の心情としても、立ち退きの協力を求めるだけのやむを得ない事情があった方が、その理解を得やすく、立ち退き交渉もスムーズになります。
逆に、一方的に退去を強要しては、賃借人の反感を買うだけで結果的に高額な立ち退き料が必要になる危険が高くなります。もちろん、そのような方法をとって上手くいくこともありますが、具体的に退去を求めるだけのやむを得ない事情を考えておくだけでも、交渉が難航するリスクを大きく減らすことができるのです。
賃貸人の正当事由を基礎づける具体例として、たとえば、建物が相当老朽化していること、家族の介護が必要であること、賃借人のために代替物件の手配をすることなどが考えられます。
賃借人の正当事由
いくら賃貸人の正当事由を主張しても、賃借人の正当事由が同程度あるなら、立ち退き料を大きく減額することは難しいといえます。しかし、賃借人の正当事由を否定する事情があるなら、それは立ち退き料の交渉において大きな要素になるでしょう。
すなわち、賃借人において、賃料の不払いがあること、用法違反が認められることなどが考えられます。
賃料の不払いは、債務不履行ですから、別途、賃貸借契約を解除する理由ともなりえますが、不払いが1度あったというだけで即解除は難しいと言われています。しかし、即解除の理由としては使えなくとも、債務不履行の事実は正当事由の考慮要素とはなります。
また、賃借人において、そもそも賃貸建物にほとんど住んでいないといった事情も賃借人の正当事由を否定する要素として使われています。
賃貸人が交渉を有利に進めるワザ
このように正当事由についてみてきましたが、実際には、賃貸人の正当事由が明らかに賃借人よりも優越しているという事案はなかなか見られません。そのため、多くの事案において、賃貸人は、まとまった立ち退き料を用意しておく必要があります。
しかしながら、どのような賃貸人も、常に、潤沢な資金を用意できるわけではありません。立ち退きを求めたいものの、全く立ち退き料を支払えないという賃貸人の方もおられます。このような場合、どのようにして、賃借人を立ち退かせるのがよいのでしょうか。
まずは、賃借人の正当事由を失わせるような証拠を作る方法が考えられます。
「証拠を作る」と言うと、何か書類を作成することをイメージされるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。あえて、賃料を受け取らないようにすることによっても、賃借人が賃料を支払わなかった事実を作ることができます。
また、賃借人が自発的に出ていきたいと思わせるように、賃貸人においてあの手、この手を使い、退去を求める事案もみられます。
具体的には、賃貸人において、賃借人が早く出ていきたいという心理にさせるため、賃貸借契約の違反にならない程度で物件の管理・清掃などの質を落とすという対応もよく見られるところであります。
【賃借人側】立ち退き料100万円では足りない!増額のポイント
賃貸人から立ち退き料として100万円を提示されたものの、賃借人が退去するにはまだまだ足りないという場合、どのようにして増額すればよいのでしょうか。賃借人側において、立ち退き料の増額交渉をする場合のポイントをご紹介します。
賃借人が絶対にしてはいけないこと
賃借人の立場で、立ち退き料を交渉するにあたり、絶対にしてはいけないポイントがあります。
まず一つ目は、立ち退き料が支払われる前、あるいは立ち退き料の支払い合意をする前に、賃貸物件を明け渡すことです。
はじめにご説明したとおり、賃貸人が、自己の都合で、賃貸借契約を解除したい場合において、賃借人の協力を得るため、賃貸人からやむなく提示される金銭が立ち退き料であり、賃借人には、立ち退き料を請求する権利は存在しません。
そのため、立ち退き料の支払い合意すらせず、先に賃貸物件を明け渡してしまいますと、賃貸人としては、もはや立ち退き料を支払う動機が全くなくなります。
また、賃借人に立ち退き料を請求できる権利がないことから、賃貸物件を明け渡した後になって、賃借人から賃貸人に対して立ち退き料を請求しても、支払う法的義務がないものを支払ってもらえる可能性は低いでしょう。
次に、賃借人としては、賃料不払いなどの債務不履行をしないということも重要です。
賃貸人が、賃貸借契約を終了させる手段としては、更新拒絶と債務不履行解除があります。後者の債務不履行解除による場合、賃借人の責めに帰すべき事由があることから、一切、立ち退き料の補償を受けることができなくなります。
そのため、立ち退き料の交渉をするためには、賃借人において絶対に債務不履行をしないことが必要となります。もっとも、普通に建物を利用し、決まった期日までに賃料を支払っている限り、債務不履行に問われることはありませんから、特に難しいことを要求しているわけではありません。
立ち退き料を加算する要素
既に立ち退き料の算定方法と算定要素についてご説明しているところでありますが、場合によっては、別途発生した経費や費用(発生する可能性があるものも含め)を計上することにより、さらに立ち退き料の金額を増加させることもできます。
と言いますのも、既にご紹介した算定方法は、ほぼ全ての事案で発生する費用を取り上げただけで、実際には、それ以外にも様々な費用・出費が生じ得ます。
よくあるご相談としては、新たに物件を借りたばかりのところで、いきなり退去を求められた事案であったり、更新したばかりのところで、いきなり退去を求められた事案があります。
特にわかりやすいのが、新たに物件を借りたばかりという事案です。多額の費用を費やして、新しい物件に引っ越しを行い、新生活が始まったところに、急な退去要求となれば、賃借人が被る経済的・心理的負担は相当なものです。
更新したばかりという事案であっても、通常、更新料や、火災保険などの費用を支払ったばかりのはずですから、十分な補償を求めたいと考えるのも当然でしょう。
このように、入居直後であることや、更新直後であることは、立退料を増額させる事情として積極的に主張します。
また、容易に退去できないという事情も、賃借人にとって有利に働くことがあります。たとえば、自身が高齢者であるため引越しすること自体が難しい場合、同居の家族が複数おり代替物件がほとんど見つからない場合といった事情です。
このような事案においては、家賃差額の部分の上乗せであったり、引越しのためのバリアフリー工事の費用、見舞金の増額などを狙いやすい傾向にあります。
賃貸人の予算を把握
賃借人が立ち退き料の交渉を行う場合において、賃貸人が立ち退きのためにどの程度の予算を考えているのかも重要な指標になります。
結局のところ、賃貸人に経済力がなければ、裁判所から適正な金額が示されたとしても、賃貸人においてその金額を支払うことができないからです。
他方、デベロッパーが関与した開発である場合や賃貸人が大手の不動産会社である場合など、立ち退きのための資金が潤沢にある場合は、立ち退き料の予算が十分に確保されているので積極的に増額交渉に臨めます。
特に、賃貸人において、賃貸物件を取り壊して、再開発を狙っている場合、賃貸人は再開発によって莫大な利益を受けることができます。
まとめ
立ち退き料100万円を増やすも減らすも交渉次第でいくらでも変動します。しかしながら、賃貸人と賃借人のそれぞれが、自身の利益を追求し続けてしまえば、交渉は上手くいきませんので、どの程度の駆け引きまで許容されるか的確な見極めが重要です。
とはいえ、立ち退き料の交渉については、専門弁護士でないとさじ加減が難しいことも事実ですから、立ち退き料が高いか安いか迷ったときは、専門の弁護士に相談されるのが解決の近道でしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。