賃貸物件の売却に伴う立ち退き問題を専門弁護士が解説!
最終更新日: 2023年12月04日
- 賃貸物件の売却を進める方法を整理したい
- 賃貸物件の売却での立ち退き交渉をスムーズに行うポイントを知りたい
- 賃貸物件の売却で立ち退き交渉が難航した場合にはどう対処すればいいのか知りたい
賃借人が入居した状態でアパートやマンションを売却することは珍しいことではありません。ただ、賃貸物件を売却する上で賃借人の存在がネックになることがあります。また、賃貸物件を売却する際に立ち退き交渉を行うこともありますが、ポイントを押さえて立ち退き交渉を行わないと、立ち退き交渉が長引き賃貸物件の売却にも影響が出る恐れがあります。
今回は、アパートやマンションなどの賃貸物件の売却に伴う立ち退き問題について専門弁護士が解説します。賃借人側にとってもためになる内容になっていますので賃借人側の方も是非ご一読ください。
賃貸物件の売却と立ち退き問題
そもそも、賃貸物件を売却する際に賃借人の立ち退きをしてもらいたい場合とはどのようなケースでしょうか。典型的なケースをいくつか見てみましょう。
収益物件
ワンルームマンションなど賃料収入を得る投資用に売買される物件であれば、少なくとも相場の賃料を支払っている賃借人が入居しているのであれば売却に支障はありませんし、むしろ安定した賃料収入が確保されているので売却しやすいことの方が多いでしょう。
一方、賃借人が支払っている賃料が現在の相場よりも低くなっている場合、利回りの低い物件として売却が難しくなります。この場合、賃料の増額改訂は基本的に難しいため、売却をする前に賃借人の立ち退きを検討することになります。
自己使用物件
収益物件とは反対に、高級マンションや戸建て住宅など買主が自ら使用することを想定した物件もあります。このような物件でも所有者が使用しない間賃貸に出しおり賃借人がいるケースはよくあります。
このような物件は入居者がいる状態では買主は使用できませんので売却が難しくなりますから、売却前に賃借人の立ち退きを検討することになります。
建て替えを予定した物件
老朽化して建て替えの必要があるアパート、マンション、ビル、戸建てなどの一棟を所有している場合です。
この場合、賃借人がいる状態で売却することも可能ですが、立ち退き問題を買主が抱えることになりますので売却金額は低くなります。賃借人が空の状態にしてから売却する、あるいは自ら物件を立て替えて新築物件を売却する方が圧倒的に売却金額は高くなります。
そのため、できるだけ高い金額で売却するためには賃借人の立ち退きを検討することになります。
賃貸物件を売却するための立ち退きの基本知識
次に、賃貸物件の立ち退きの基本知識を確認しましょう。
事前通知
立ち退きのためには賃貸借契約を終了させる必要があります。そのためには、賃貸期間満了の1年前から6か月前までの期間に賃貸借契約を更新しない旨の通知を賃貸人から賃借人に対してする必要があります(借地借家法26条1項)。この期間を過ぎてしまうと賃貸借契約は更新されることになります。
もっとも、賃借人の同意があれば賃貸借契約はいつでも合意解約することはできますので、必ず賃貸期間の満了を待たなければならないというわけではありません。
正当事由
賃貸借契約を終了させるには上記のとおり事前通知が必要ですが、事前通知をすれば必ず終了させられるわけではありません。賃貸借契約の更新拒絶をするためには、それをすることの正当事由が認められる必要があります(借地借家法28条)。
この正当事由は賃貸人と賃借人の物件使用の必要性、従前の賃貸借の経緯、物件の現況、利用状況などを考慮して判断されます。
物件売却のための立ち退きの場合、賃借人を立ち退きさせてまで売却する必要性が認められる可能性は低く、裁判に持ち込むと敗訴する可能性は高いです。そのため、話し合い、交渉で賃借人に立ち退きを同意してもらうことが必要となります。
立ち退き料
上記のとおり正当事由は様々な事情を考慮して判断されますが、それだけの事情だけで正当事由が認められるケースは少数です。大半のケースでは正当事由を認めるには不足で、立ち退き料の提供があって初めて正当事由が認められます。
立ち退き料の相場ですが、一般的な住居であれば100万円から200万円が相場といえます。もちろん、あくまで相場ですから実際には100万円以下になることもあれば、200万円以上になることもあります。
賃貸物件の売却に伴う立ち退きの場合も、上記のとおり正当事由が認めさせるのは困難ですから、立ち退き料の提供によって立ち退きの同意を賃借人から取り付けることとなるでしょう。
ただし、例えば、立ち退き料の提供を申し出る前に賃借人が自主的に立ち退きに応じてくれるケースもあります。そのような場合は立ち退き料の提供することなく退去合意書を作成して構いません。
賃貸物件の売却での立ち退き交渉をスムーズに行うポイント
さてそれでは、賃貸物件の売却での立ち退き交渉をスムーズに行うポイントを3つ説明します。
冷静に立ち退き交渉にあたる
賃貸物件の売却での立ち退き交渉をスムーズに行うポイントの1つ目は、冷静に立ち退き交渉にあたることです。
賃借人は個人の方が多く、不用意な言動一つで感情的な対立を生むことが往々にしてあります。交渉が難航すると、賃借人がついた状態で安く売却しなければならなくなるかもしれません。
立ち退き交渉を行うときは、交渉の記録を残しながら丁寧かつ十分な説明をしてください。仮に賃借人に納得できない点がある際は、丁寧に対応しましょう。
予算を十分に確保しておく
賃貸物件の売却での立ち退き交渉をスムーズに行うポイントの2つ目は、予算を十分に確保しておくことです。
賃貸人が立ち退き交渉を行うときには、立ち退き料だけでなく交渉の諸費用がかかるため、予算を確保しておく必要があります。また、交渉が難航した際には、立ち退き料を上乗せして早期の立ち退きを目指す必要があります。
そのため、このような相場よりも高い立ち退き料を払うことになる賃借人もあり得ますので、多数の賃借人がいる物件の立ち退き計画の初期段階ではできる限り低い立ち退き料で退去合意を取り付けていくことが重要です。
早期から交渉に取り掛かる
賃貸物件の売却での立ち退き交渉をスムーズに行うポイントの3つ目は、早期から交渉に取り掛かることです。
早期から交渉に取り掛かることは、賃貸人と賃借人の双方にメリットがあります。賃貸人は賃借人のフォローを行いやすく、立ち退きがスムーズになります。賃借人にとっても、時間や気持ちにゆとりを持ちながら物件探しや荷物の整理など立ち退きの準備を開始できます。
賃貸人と賃借人の双方が納得して立ち退き交渉を進めるためには、1日でも早く立ち退き交渉を開始しましょう。
賃貸物件の売却で立ち退き交渉が難航した場合の対処方法
賃貸物件の売却における立ち退き交渉をスムーズに行うポイントを押さえても、必ずしも立ち退き交渉をスムーズに進められるとは限りません。ここでは、賃貸物件の売却で立ち退き交渉が難航したときの対処方法を説明します。
立ち退き料の上乗せ
できる限り高い立ち退き料を得るために駆け引きをしている賃借人であれば、さほど時間をかけずに最終的には相場並みの立ち退き料で合意を取り付けられる可能性が高いです。
一方、当該物件を気に入っているなどの理由で退去を拒否している賃借人の場合は慎重な対応が必要です。このような場合も、余程特色のある物件でない限り、お金さえ出せば比較的近場で同等の物件が見つかる可能性は十分あります。つまり、転居すると家賃が上がるなどの経済的な点が根本的な理由であることがほとんどです。
したがって、退去を強く拒否する賃借人についてはその理由を丁寧に汲み取って、希望する物件探しを手伝うとともに、立ち退き料の増額を提案して、現在と同等以上の物件に入居できることを説明していくことが重要です。
裁判手続きの利用
立ち退き料の増額でも立ち退きに応じてもらえない場合、裁判手続を利用する、つまり明渡請求訴訟を起こすことも検討します。裁判というと長期間かかるのではないかと思う方も多いと思いますが、早ければ半年ほどで終結しますので、だらだらと交渉を続けるよりも案外早く解決するケースも少なくありません。
裁判を起こした場合でも必ずしも判決まで進んで白黒をつけるわけではありません。むしろ9割の案件は判決まで進まずに裁判上の和解で終結しています。
裁判手続を利用する最大のメリットは、大家側、賃借人側とは独立した裁判官が間に入ってくれることです。裁判官は紛争を解決する仕事ですから、双方が納得しての解決となる和解に積極的な人が多いです。そのため、裁判手続を利用すると賃借人の立ち退きの合意を取り付けられる可能性が高まります。
まとめ
今回は、アパートやマンションなどの賃貸物件の売却に伴う立ち退き問題についいて解説しました。
うまく立ち退きを完了できるか否かによって売却の利益は大きく変わってきますので、まずは立ち退き問題の専門弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。