発信者情報開示請求の封筒が来たら落ち着いて正しい対応を!弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月31日
- プロバイダから発信者情報開示請求の封筒が来たが、どうすれば?
- 発信者情報開示請求の封筒にはどう対処したら良いの?
- 発信者情報開示を拒否したり、無視したらどうなるの?
ある日突然、契約しているインターネットのプロバイダから封筒が届き、開封すると名誉毀損や著作権侵害で訴えられたと知り、背筋が凍る思いをされている方もおられるかもしれません。
ここ数年、インターネットの掲示板やSNSへの不用意な書き込みやファイル共有ソフトで著作物を違法ダウンロードしたことによって、被害者や権利者から発信者情報開示請求を受けるケースが急増しています。
今回は、発信者情報開示請求の封筒が来たときの対処法について専門弁護士が徹底解説します。
発信者情報開示請求の始まりは封筒が来て始まる
発信者情報開示請求はインターネットのプロバイダから封筒が届くことから始まります。これに対する対処法を知る前に、まずは、発信者情報開示請求とはどのようなものであるのか簡単に確認しておきましょう。
発信者情報開示請求とは?
発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法という法律が認めている手続きで(第4条1項)、インターネット上でその権利を侵害されたと主張する人が、プロバイダに対して権利を侵害した人(発信者)の氏名や住所、電話番号などを開示するよう求める手続きです。
損害賠償請求などの民事責任を追及したり、捜査機関に事件の捜査・起訴を求める刑事告訴をするためには加害者(発信者)を特定する必要があります。そのために、まずはこの発信者情報開示請求を行い、加害者(発信者)を特定するのです。
逆に言えば、発信者情報開示請求を受けたということは、その後に損害賠償請求や刑事告訴が予定されているということです。
なお、この発信者情報開示請求という手続きは法律の専門家(弁護士)でなければ行うことが難しく、ほとんどのケースで弁護士に依頼をして行われています。
意見照会書とは?
プロバイダから来た封筒を開封すると「発信者情報開示請求に係る意見照会書」というタイトルの文書が入っています。そこには権利侵害に該当するという主張を裏付ける証拠書類も同封されています。
発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、法律上、プロバイダの契約者に対し、発信者情報を開示しても構わないかどうかその意見を確認する必要があります。これが発信者情報開示請求にかかる意見照会書です。
そして、契約書の回答を得たプロバイダは、その回答内容を踏まえて、発信者情報を開示するかどうか判断します。
この発信者情報開示請求に係る意見照会書への回答期限は、通常は書面を受領してから14日間(2週間)ですが、7日間(1週間)と短く設定しているプロバイダもありますので、いずれにしても封筒が来てから早急に対応する必要があります。
なお、意見照会書はプロバイダの契約者宛に届きます。家族や勤務先が契約者の場合も回答書を送るのは発信者本人です。
なお、5チャンネルや爆サイなど(コンテンツプロバイダ)からEメールなどで意見照会を受けるも稀にありますが、ほとんどのケースはソニーやNTTなどインターネットサービスプロバイダから意見照会を受けます。
発信者情報開示請求の封筒が来たときの対応方法
さて、発信者情報開示請求の基礎についてご説明しましたので、以下、発信者情報開示請求の封筒が来たらどのように対処すべきかについて、権利侵害に身に覚えがないという場合、権利侵害の事実はないと考える場合、確かに権利侵害があると考える場合に分けてご説明します。
身に覚えがない場合
主張されているような投稿や違法ダウンロードをした覚えは一切ないという方もおられるかもしれません。
このような場合、まずは家族など同居している人にプロバイダから来た書面を見せて、身に覚えがある人はいないか確認してみてください。封筒はあくまでプロバイダの契約者宛に届きますので、必ずしも契約者が発信者とは限らないからです。
AVを違法ダウンロードしていたという場合など名乗り出にくいケースもあるかもしれません。しかし、後にご説明しますが、意見照会書に対して誤った対応をしますと大事に発展しますので、そのことを説明して正直に名乗り出てもらうことが重要です。
それでも誰も名乗りでない場合にはどうすれば良いのでしょうか。
プロバイダから発信者情報開示請求の封筒が来たということは、ご自身が契約するインターネット環境を利用して問題となっている投稿などがされたことに間違いありません。そのため、自分が発信者ではないことを証明できない限り、証拠上は、発信者であると認定されてしまいます。
自分が発信者ではないことの証明は難しく、現実的には、以下二つの場合と同様の対応をとることとなります
権利侵害がない場合
発信者情報開示請求を受けたとしても、必ず権利侵害が認められるということではありません。違法な権利侵害とは認められない主張を請求者がしてくることもあります。
そこで、発信者情報開示請求の封筒が届いたときは、まず、その書面の内容を法的によく検討し、違法な権利侵害が認められないと判断したときは、違法な権利侵害が認められないことの法的主張を展開し、発信者情報開示には同意しない回答書を返送します。
この違法な権利侵害の有無やその法的主張の展開は弁護士でなければすることは困難です。また、回答書に記載された法的主張を見てその後の発信者情報開示請求訴訟を断念するケースもありますので、回答書で的確な法的主張を展開することは重要です。
なお、ファイル共有ソフトによる著作権侵害の場合、権利侵害の事実が明白なケースがほとんどで、違法な権利侵害を否定する法的主張は困難で、仮に発信者情報開示に同意しなかったとしても、プロバイダが任意に開示したり、そうでなくとも裁判所が開示を命じる判決を出す可能性が高いです。
権利侵害がある場合
発信者情報開示請求の封筒の中身を見て、確かに身に覚えがあり、法的観点からも違法な権利侵害を争う余地が乏しいケースもあります。
このような場合は、発信者情報開示に同意しなかったとしても、最終的に裁判所が開示を命じます。そのため、被害者(権利者)と穏便に和解できるよう、発信者情報開示には同意をしたうえで、和解の申し入れをしていくことが賢明です。
もしこのような場合に発信者情報開示に同意をしないと、民事訴訟や刑事告訴をされることになり、特に刑事告訴をされれば、逮捕・起訴されるリスクがあり、そうとなれば日常生活に多大な不利益が生じてしまします。
なお、発信者情報開示の結果、氏名や住所を晒されたり、権利侵害の事実を言いふらされる恐れがある場合には、弁護士に依頼をして、そのようなことにならないよう、請求者の代理人弁護士に配慮を求めていく対応が必要です。
発信者情報開示請求の封筒を無視や不同意にしたら?
以上、発信者情報開示請求の封筒が来たときの対処法についてご説明しました。ここでは先ほども簡単に触れましたが、発信者情報開示に同意しなかった場合はどうなるのか、無視した場合についてもご説明します。
発信者情報は開示されるのか
発信者情報開示に同意をしなかった場合、プロバイダは同意しない理由が記載されていればその内容を踏まえて、発信者情報を開示するかどうか判断します。
発信者情報開示請求に係る意見照会書に回答書を送らず無視した場合、契約者には特に言い分はないものとプロバイダはみなし、請求者の主張だけを踏まえて、発信者情報を開示するかどうか判断します。
請求者の主張から違法な権利侵害が明白な場合には、プロバイダはその判断で発信者情報を開示することもあります。しかし、安易に発信者情報を開示しますとプロバイダは契約者から損害賠償請求を受けるリスクを負いますので、契約者の同意がない場合には発信者情報は開示しないことが多いです。
そして、プロバイダから発信者情報の開示を受けられなかった場合、被害者(権利者)は、次は、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を提起します。
審理の結果、開示すべきと判断すれば裁判所は発信者情報開示を命じます。他方、開示すべきではないと判断したときは裁判所は請求を棄却し、発信者情報は開示されません。発信者情報が開示されなかったときは、被害者(権利者)はそれ以上の法的措置を取れませんので、事件は終結となります。
開示されるまでの期間
被害者(権利者)がプロバイダに対して発信者情報開示請求をしてから、意見照会書の封筒が来るまでの期間はまちまちです。
小規模のプロバイダの場合には1、2か月ほどで来ることがありますし、大手のプロバイダの場合には事務処理が追いついておらず、半年以上経過してから封筒が来ることも多いです。
そして、発信者情報の開示に同意したときは、そこから1か月ほどでプロバイダから請求者に対して発信者情報が開示されます。
一方、発信者情報の開示に同意しなかった場合や意見照会書を無視して回答書を送らなかった場合でその後に裁判所が発信者情報の開示を認めたときは、提訴後3か月から半年ほどで発信者情報が開示されます。
弁護士費用も賠償させられる
発信者情報開示請求の封筒が届き、違法な権利侵害が間違いないと思ったとしても、責任を逃れたいという一心で回答しない、開示に同意しない対応をとる方もおられます。
しかし、このような対応は非常にリスクが高くお勧めしません。
リスクの一つは、その後に発信者情報開示請求訴訟が起こされ開示が認められた場合、訴訟に要した50万円から100万円ほどの弁護士費用全額の賠償を強いられることです。
二つ目のリスクは、刑事告訴をされ、ある日突然、警察から捜査対象となることです。逮捕される恐れもありますので、その場合の日常生活への影響は甚大です。
三つ目のリスクは、違法な権利侵害がありながら前記のような不誠実な態度をとることで、被害者(権利者)が和解に応じてくれない、和解に応じてくれる場合も和解金が高額になることです。
このように非常にリスクが高いため、違法な権利侵害が間違いない場合には、発信者情報開示に同意をいて、穏便に解決できるよう被害者(権利者)と和解交渉をすることが賢明です。
AVの開示請求の場合
近年、トレントソフトでAVをダウンロードしたことについてAVメーカーから発信者情報開示請求を受ける方が増えています。
AVメーカーからの請求ということで何となく胡散臭い、詐欺ではないかと考え、情報開示を拒否する、プロバイダから届いた書類を無視するという対応をとる方がしばしばおられます。
しかし、AVメーカーからの請求はもちろん詐欺ではなく正当な請求です。拒否したり、無視した結果、被害届を出されてしまい、警察がある日突然、家宅捜索に来て警察署に連行されてしまったというご相談もしばしばあります。
したがって、AVメーカーからの発信者情報開示請求についても他の請求と同様にしっかりと対応することが必要です。ただし、内容によっては開示に同意ではなく不同意とすべきケースもありますので、回答書を作成する前に必ず専門の弁護士にご相談ください。
発信者情報開示請求の封筒が来たときの法的責任
最後に、発信者情報開示請求の封筒が来た後に、被害者(権利者)から追及される法的責任についてご説明します。
民事手続で損害賠償
民事責任としては、損害賠償を請求されることとなります。
名誉権、名誉感情、プライバシー権を侵害した場合には、10万円から50万円ほどの慰謝料を支払うこととなります。内容が悪質な場合には100万円ほどの慰謝料を支払わなければならなくなることもあります。
ファイル共有ソフトで著作権を侵害した場合には、数百万円、数千万円の損害賠償を請求されることもあります。
刑事手続で刑事罰
民事責任だけでなく刑事責任を問われることもあります。権利侵害が犯罪にあたる場合には、被害届の提出、刑事告訴をされ、刑事罰を受けることになります。刑事罰を受けますと前科が付きます。
刑事事件となった場合、必ず逮捕されるわけではありませんが、逮捕された場合には20日以上もの長い期間、警察の留置施設に身柄拘束される可能性があります。
発信者情報開示請求の事案でよく問題となる犯罪とその刑事罰については以下の表をご確認ください。
名誉棄損罪(刑法第230条1項) | 3年以下の懲役・禁固又は50万円以下の罰金 |
侮辱罪(刑法第231条) | 1年以下の懲役・禁固又は30万円以下の罰金、拘留、科料 |
著作権侵害(著作権法第119条1項) | 10年以下の懲役若しくは000万円以下の罰金又はこれらの併科 |
まとめ
以上、発信者情報開示請求の封筒が来たときの対処法について解説しました。
プロバイダから発信者情報開示請求の封筒が来たときは、対応を誤ると大事となりますので、法的観点からその内容を精査して正しい対処法を選択することが重要です。
プロバイダへの回答には期限がありますので、封筒が届いたときは一日も早く専門の弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。