建築工事のトラブルを予防する方法と解決する方法は?段階別に弁護士が解説します
最終更新日: 2023年11月03日
本稿では、建築工事にまつわるトラブルとその解決方法を紹介します。
建築工事は、費用が高額であることもあり、また建築工事の内容においては技術的・専門的知識を要するため一般人には分からないことが多く、トラブルは付きものです。
それでは、トラブルなく無事に建築工事を済ませるために、私たちはどのように気をつけなければならないのでしょうか。
トラブルの類型ごとに、問題の原因を見ていきながら、その解決方法を紹介していきます。
建築工事のトラブルでよくある3つのパターン
建築工事におけるトラブルは大きく分けて以下の3つのパターンに分かれます。
- 「施工トラブル」
- 「近隣トラブル」
- 「手抜きトラブル」
以下、各々について紹介します。
施工に関する建築工事トラブルの予防方法
施工トラブルとは「業者さんからの請求費用が妥当なのか疑われる」や「実際の契約内容とは違う工事をされてしまった」「当初の請求とは別に追加の請求をされた」といったトラブルです。
追加・変更工事には書面を残す
当初予定した工事を変更したり、予定していなかった工事を行う場合、追加・変更工事の代金を請求されることがあります。変更する金額について、双方に共通認識があれば問題ないものの、共通認識がないと、トラブルが生じることがあります。
このようにして、共通認識が欠いてしまうことの原因としては、契約書への重要事項の記載の不明、工事の追加・変更等を口約束で済ましてしまっているといったことが挙げられます。
そこで、こうしたトラブルの原因を作らない、そして万が一にトラブルに発展しても迅速に対応できるように、必ず契約事項および工事の追加・変更について、議事録を残したり、メールで記録を残すなど、文書でやりとりをすることが非常に重要となります。
打ち合わせの資料は残しておく
また、打ち合わせの資料も必ず残しましょう。理由は上記に述べたように、万が一、トラブルに発展した時、そもそも契約内容はどのようなものなのかすぐに確認できるようにするため、必ず口約束で済ませないことです。
このようにすることで、契約内容等について言った言わないの水掛け論になることなく、適切にトラブルを解決することができます。
近隣との建築工事トラブル
つぎに、「近隣」とのトラブルについて紹介します。たとえば、工事は無事終わったものの、隣家から「自分の家が丸見えだから嫌だ」苦情が来たり、また隣家の敷地と建物が近すぎるといった苦情が来る場合があります。
目隠し設置要求について
民法235条1項では次のように定められています。
「境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む。)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。」
つまり、他人の宅地を観望しようと思えばいつでもできる位置に窓や縁側がある場合には目隠しを設置しなければならないという決まりです。そして、その位置とは法律で境界線から1メートルの距離と決まっています。
よって、境界線から1メートル未満の距離において窓等を設置する場合には、あらかじめ目隠しも設置しなくてはならないことは覚えておいてください。
しかし、窓にも曇りガラスのものや「滑り出し窓」といった形状のものもあり、また窓を設置した事情等にも様々な場合があり、必ずしも隣家の目隠し設置要求をのまなくてはならないわけではありません。この法律で保護しようとしている利益は他人のプライバシーです。しかし、窓の形状や設置目的等によっては、他人のプライバシー侵害とまでは言えないことも多々あるでしょう。その場合は、隣家による目隠し設置要求は「権利の濫用(らんよう)」にあたるとして認められないこともあります。
境界線から離して建てるよう求められた場合
民法234条では次のように定められています。
「建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない。」
前項の規定に違反して建築しようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を 中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。
つまり、隣地から50センチメートル以上離れたところに建物を建築しなければならず、それを守らないと隣地の所有者から工事の中止や、損害賠償請求を受けてしまう可能性があるので、気を付けてください。
しかし、これもいつも守られているわけではありません。限られた敷地を有効活用するために、地域の慣習の優先や耐火構造の有無等によっては建物を建てることができるのです。
また、「建築基準法54条」には外壁後退距離制限というものがあります。具体的には、次のように定められています。
「第1種低層住居専用地域又は第2種低層住居専用地域内においては、建築物の外壁又はこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離は、当該地域に関する都市計画において外壁の後退距離の限度が定められた場合においては、政令で定める場合を除き、当該限度以上でなければならない。」
前項の都市計画において外壁の後退距離の限度を定める場合においては、その限度は、1・5メートル又は1メートルとする。
つまり、第1種・第2種低層住居専用地域では、道路や隣地との境界線から一定の距離を保って外壁を設置しなければいけません。これは都市計画によって決められます。しかし、逆に都市計画によって定められていない場合にはこの後退距離制限は適用されません。
この取り決めの趣旨は、建築物を離すことで、日照権の保護や風通しを良くすること、防火の対策にあります。
つまり、工事着工前に当該地域が第1種または第2種低層住居専用地域にあたるのか、および都市計画による外壁後退距離制限が有無や程度を確認することは必須です。そうすることによって、近隣とのトラブルを事前に回避でき予防できます。
手抜き工事に関する建築工事トラブル
最後に、建築工事に関するトラブルとして「手抜き工事」によるトラブルがあります。「工事完成後間もなく雨漏りをするようになった」あるいは「マンションのベランダにヒビが入った」「外装タイルが剥がれ落ちた」という場合が挙げられます。
以下では、こうしたトラブルの内容を段階に分けて解説します。
まず、工事に際し「工事請負契約」を締結した場合と新築購入をした場合とで、トラブルの場合が分かれます。
「工事請負契約」を締結した施工業者を相手に請求する場合
工事請負契約とは、請負人である施工業者がある工事を完成することを約束して、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束することで成立します(民法632条参照)。
つまり請負人は仕事を完成する義務を負います。しかし、上記のように工事が未完成ないし完全な状態ではなかった場合、請負人の契約責任を問うことができます。
新築購入をした場合の請求相手
次に新築を購入した場合の解説をします。
この場合、新築の売主は、不完全な建物を売ったわけですから売主への契約責任を問うことになります。
具体的には、契約不適合責任(民法562条)としての損害賠償や修繕費用の請求を求めます。契約不適合責任とは、売主が契約内容と異なる種類や品質のものを売却した際に、契約内容と不適合のものを売却した「責任」を相手側に負うといったものです。
そして、購入した物件が、契約時にかわしたものと異なるか否かは、契約の内容によって決まります。つまり、契約時の内容と売却された物件が種類や品質において異なるか否か、また、瑕疵(キズ)ある場合でも、その瑕疵が契約書に記載されているか否かで「契約内容不適合」かどうかが決まるわけです。
そして「契約内容不適合」と認められた場合、売主に対し「契約内容不適合責任」としての損害賠償請求や修繕費用の請求を行えるようになります。
また施工業者に対しては、施工業者に過失が認められるのであれば、不法行為による損害賠償請求(民法709条)を行う余地もあります。
ただし、施工業者の不法行為責任が認められるのは、生命・身体・財産に危険が生じる重大な欠陥に限りますので、不法行為責任を追及できる範囲は広くありません。
さらに、平成12年より施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」により、新築住宅の建設・売買を行う買主を保護する法律もあり、ぜひ弁護士に1度ご相談ください。
建築トラブルに遭ったらどこに相談すべきか?
建築トラブルにおいて、発注者が施工業者に対して損害賠償請求等を行う場合、必ずしも施工業者が非を認め、発注者の主張どおりに交渉が進むものではありません。
むしろ、施工の是非について専門的技術的判断が求められることから、そもそも欠陥があるのかどうかという前提問題で争いになることもありますし、また、仮に施工業者が非を認めたとしてもわずかな損害賠償(10万円程度)しか提示してこないという事案も非常に多いです。
また、裁判実務も、必ずしも発注者にとって有利な運用をとっているわけではありません。
欠陥を見つけたとしても、それが契約不適合に該当することを証明する責任は発注者にあります。しかし、契約不適合に該当することの証明はそれほど簡単にはいきませんので、裁判手続によって、良い結論が得られる保証もないのです。
以上の実情を踏まえると、建築トラブルに巻き込まれた発注者としては、利益を最大化し、かつ、これ以上の余計な負担を被らないための方針決定が重要となります。しかし、そのような方針決定をするためには、建築トラブルに詳しい弁護士でなければ、困難です。
なお、第三者の建築士に欠陥住宅を見てもらうため、建築士に相談されるケースがよくあります。しかし、建築士が欠陥を指摘して施工業者の態度が変わるケースは余り多くありません。というのも、施工業者としては、自身のした施工に問題がないと信じており、欠陥についての建築士の意見であっても、ただの一つの意見にすぎないと扱っているからです。
このことから、なんとなく建築士を入れても根本的な問題解決にはつながりませんが、弁護士でも難しい建築問題について建築士の意見を取り入れることは非常に重要です。建築士を入れるかどうかを判断するにあたっても、まずは弁護士に相談してからの方が賢明でしょう。
まとめ
新築で家を購入したり、新たに改築したりと建築工事は人生に一度あるかないかの大きな買い物だという人は少なくないでしょう。そんな大きな買い物は慣れないことも多くトラブルの不安はおおいにあると思います。
そこで、本コラムで上記に記したように、予防策として「決して口約束で事を進めない(追加・変更について、また打ち合わせの資料は文書としてしっかり残すこと)」がとても大切です。ぜひ覚えておいてほしいところです。
そして、隣家との間の取り決めは上記のように民法で決まっているため、着工前に必ず守るように意識してください。
また万が一に、トラブルに発展してもあわてずに、技術的・専門的知識の要する分野ですので、第三者の建築士や弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。