アスベストの被害者救済のための制度について専門家が解説
最終更新日: 2024年05月09日
アスベストの被害者救済の制度を利用したい
被害者のための補償には何があるのか
いずれの制度を利用するべきか
国がアスベストの使用を禁止するまでの間、多くの方が建設現場などでアスベストにさらされていました。石綿肺や中皮腫などアスベストを原因とする疾病の潜伏期間は20年~50年と非常に長いため、最近になって発症して闘病している被害者が多くおられます。
本コラムではアスベストの補償に詳しい弁護士が、アスベストによる疾病を発症した被害者を救済するための制度をについて説明します。
アスベストの被害者救済のための各種制度
アスベストの被害者やその遺族を救済するための制度として下記のものがあります。
労災保険給付と石綿健康被害救済制度とでは、労災保険給付の方が補償金額が大きいので、前者が利用できない場合にのみ後者を利用するのが通常です。
建設アスベスト給付金はいずれの制度とも併用することが可能です。
石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金
石綿健康被害救済制度の救済給付
建設アスベスト給付金
アスベストの被害者救済のための労災保険給付
まずは労災保険給付について説明します。
労災認定の要件
労災として認定されるためには、アスベストにさらされる業務に従事したことによって疾病にかかったことが要件となります。対象の疾病は下記のとおりです。
アスベストによる疾患の潜伏期間は数十年と長期ですから、証拠資料や元同僚などの証言から過去の業務内容が証明されるかどうかがポイントとなります。
【対象疾病】
・石綿肺(じん肺管理区分が管理2~管理4。管理2・3の場合は肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支炎拡張症又は続発性気胸 の合併症があること)
・中皮腫
・肺がん
・良性石綿胸水
・びまん性胸膜肥厚
労災保険給付の内容
主な労災保険給付の内容は下記のとおりです。休業補償給付、障害補償給付など様々な補償が用意されていますし、金額としても手厚い内容となっています。
休業補償給付
障害補償給付
傷病補償年金
介護補償給付
遺族補償給付
葬祭料
特別遺族給付金
ただし、いずれの給付も2年から5年の時効があります。アスベストによる疾患の場合、業務に従事していた時期が数十年も前のため、労災保険を使えることに気が付かず時効期間を経過してしまうことがあるので要注意です。
詳しくは下記のコラムをご覧ください。
アスベストの被害者救済のための特別遺族給付金
労災保険の遺族補償給付は被害者の死亡日の翌日から5年で時効となります。死因となった疾病がアスベストによるものと気が付かずにこの5年を経過してしまうことがあるのです。
時効によって遺族補償給付を請求できなくなった被害者の遺族を救済するのが石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金です。
支給要件
令和8年(2026年)3月26日までに死亡したことが要件となっている以外、要件は労災保険と同じです。
ただし、特別遺族給付金には時効ではありませんが請求期限があり、令和14年(2032年)3月27日までに請求をする必要があります。
特別遺族給付金の内容
特別遺族給付金には特別遺族年金と、その受給権者がいない場合に支給される特別遺族一時金があります。
特別遺族年金は、受給権者及びその者と生計を同じくする遺族のうち受給要件を満たす遺族の人数に従って、年240万円から330万円が支給されます。
特別遺族一時金は、最大で1200万円が支給されます。
いずれも受給資格は年齢や一定の障害の有無によって定められていますので、詳しくは下記コラムをご覧ください。
アスベストの被害者救済のための救済給付
以上、労災保険給付や特別遺族給付金について説明をしました。次に説明します石綿健康被害救済制度の救済給付は、労災保険よる補償を受けられない被害者を救済するために設けられた制度です。
そのため、労災保険給付や特別遺族給付金を受けられない場合でも救済給付は受けられる場合があります。
支給要件
労災保険の加入はもちろん不要ですし、石綿ばく露作業に従事していたことも要件ではありません。
例えば、石綿を扱う工場の近くに住んでいたとか、石綿にさらされる作業に従事する家族と同居していたことによってアスベストを原因とする疾病になった方も対象となります。
対象疾病は下記のとおりで労災保険とは若干異なります。
中皮腫
肺がん
著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
救済給付の内容
救済給付の内容は以下のとおりです。補完的な制度ですし財源も異なりますのでやむを得ない面もありますが、療養手当が月額103,870円、特別遺族弔慰金が2,800,000円など、労災保険給付と比べれば大きく見劣りするのが現状です。
療養手当
葬祭料
未支給の医療費と療養手当
救済給付調整金
特別遺族弔慰金
特別葬祭料
救済給付の内容について詳しくは下記コラムをご覧ください。
アスベストの被害者救済のための給付金制度
最後に、建設アスベスト給付金制度について説明します。
本制度は、建設現場でのアスベスト使用について国が適切に規制しなかったことによって被害が生じたと最高裁が判断したことを受け、速やかに被害者への賠償を行うべく令和4年1月にスタートした制度です。
労災保険や石綿健康被害救済制度の給付とは別途に支給を受けることが可能です。
アスベスト給付金の認定要件
建設アスベスト給付金の要件は下記①から④です。
②①の従事期間が下記の期間であること
・石綿の吹付け作業に係る建設業務:
昭和47年(1972年)10月1日から昭和50年(1975年)9月30日
・一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務:
昭和50年(1975年)10月1日から平成16年(2004年)9月30日
③①によって下記の石綿関連疾病にかかったこと
・中皮腫
・肺がん
・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
・石綿肺(じん肺管理区分が管理2から4又はまたはこれに相当するもの)
・良性石綿胸水
④労働者、中小事業主、一人親方、家族従事者であったこと
建設アスベスト給付金には下記の請求期限があります。
②石綿関連疾病により死亡した日から20年以内
※初日算入、請求期限末日が休日の場合は翌開庁日が期限末日となります。
給付金額
建設アスベスト給付金の給付金額は下記表のとおりです。疾病の内容や存命か否かによって給付金額は異なります。
建設アスベスト給付金制度について更に詳しい説明は下記コラムをご覧ください。
まとめ
以上、アスベストの被害者救済のための制度について説明しました。
紙面の都合上、各制度について詳細な説明まではすることができませんでしたので、各制度について更に詳しく知りたい方は本文中で紹介しました他のコラムもご覧ください。
また、無料相談が可能ですから、アスベストの補償に詳しい弁護士にお気軽にお問い合わせください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。