賃貸物件のオーナ変更と立ち退き問題について専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月04日

賃貸物件のオーナ変更と立ち退き問題について専門弁護士が解説

  • 賃貸物件のオーナー変更があって立ち退きを求められた!
  • 賃貸物件の所有者変更があったら立ち退きに応じないといけないの?
  • 賃貸物件の所有者変更を機に立ち退きを進める方法を知りたい

賃貸物件の新しいオーナーが、購入した物件の賃借人に立ち退きをしてもらい、リニューアルや再開発を計画することはよくあります。しかし、入居している賃借人にとってはオーナー変更は関係がないことで立ち退きを求められることは迷惑でしかありません。

今回は、賃貸物件のオーナー変更に伴う立ち退き問題について専門弁護士が解説します。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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賃貸物件のオーナー変更と立ち退きの基礎知識

まずは、賃貸物件の所有者変更と立ち退きについて基本知識を確認しましょう。

なぜ所有者変更後に立ち退きを請求するのか

オーナー変更、つまり物件の購入後に立ち退きを請求してくる新しい所有者はその多くが不動産会社です。不動産会社は不動産によって収益を上げるのが仕事です。つまり、立ち退きをすることで不動産の価値を上げて収益を上げることを計画しているのです。

具体的には、購入した物件を建て替えたり大幅にリニューアルを加えることによって、現在よりも高い賃料で貸し出して収益を上げたり、購入時よりも高い金額で売却して収益を上げることを計画しています。

このような計画があって購入しているため、オーナー変更の直後に立ち退きの請求がなされるのです。

事前通知

次に、立ち退きのための手続きを説明します。立ち退きのためには賃貸借契約を終了させることが必要です。普通借家契約の場合、賃貸期間を過ぎると自動更新されるのが法律の決まりですから、更新拒絶をしなければなりません。更新拒絶のためには、賃貸期間満了の1年前から6か月前までの期間に賃貸借契約を更新しない旨の通知を賃貸人から賃借人に対して行います(借地借家法26条1項)。

賃借人が同意さえすれば賃貸借契約はいつでも合意解約できますから、立ち退きのために必ず賃貸期間の満了を待つ必要はありませんが、同意が得られなかった場合には上記法定の手続きが必要となりますので並行して事前通知も行うべきです。

正当事由

賃貸借契約を終了させるには上記の事前通知が必要です。しかし、この事前通知をすれば必ず賃貸借契約を終了させられるわけではありません。賃貸借契約の更新拒絶を適法になすためには、その正当事由が必要です(借地借家法28条)。

この正当事由は賃貸人と賃借人の物件使用の必要性、従前の賃貸借の経緯、物件の現況、利用状況などを考慮して判断されます。

所有者変更の事情自体は何ら正当事由を基礎づける事情にはなりません。賃貸物件のオーナー変更後の立ち退きでは、物件の老朽化を正当事由として主張されることが多いようです。

立ち退き料

上記のとおり様々な事情を考慮して正当事由は判断されますが、それだけで正当事由が認められるケースは少ないのが実情です。多くののケースでは老朽化などの事情に加えて、立ち退き料の支払いがあって初めて正当事由が認められています。

この立ち退き料は、一般的な住居であれば100万円から200万円が相場です。あくまで相場ですから実際にはそれ以上になることもそれ以下になることもあるのは留意してください。

所有者変更後の立ち退きの場合も多くのケースで、正当事由を満たすには立ち退き料の支払いが必要となるでしょう。

ただし、必ずしも全ての賃借人について立ち退き料の支払いが必要となるわけではありません。立ち退きをお願いしたところすんなりと了承する賃借人も一定数はいるからです。そのような場合は立ち退き料の提示をせずに退去合意書を作成してしまって問題ありません。

賃貸物件のオーナー変更に伴う立ち退きを行う賃貸人側のポイント

次に、賃貸物件のオーナー変更に伴う立ち退き交渉を行う賃貸人側のポイントを3つ説明します。

立ち退きの必要性を丁寧に説明する

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃貸人側のポイントの1つ目は、立ち退き要求を行う理由を丁寧に住民に説明することです。

所有者変更があって直ぐに立ち退きの連絡があると、多くの賃借人は新しい所有者が追い出しをしていると悪い印象をもちます。その結果、感情的な反発を生み、立ち退きがスムーズに進まない可能性があります。

このような事態を避けるために、賃借人が納得できるように建物の老朽化など立ち退きを必要とする事情を丁寧に説明することは非常に重要です。当たり前のようで実際にはできていないケースがよくみれらます。

予算を十分に確保しておく

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃貸人側のポイントの2つ目は、予算を十分に確保しておくことです。

立ち退きをしてもらうために立ち退き料を支払うことになるケースが多いですが、中には相場並みの立ち退き料では了承してくれないケースもあります。もちろん、全て賃借人の言い値で支払うことは不可能ですから大半の賃借人は相場以下に収まるように交渉すべきです。しかし、どうしてもそれでは同意が得られない場合に立ち退き料を相場よりも高く支払うことが必要になります。

そのため、そのようなケースに備えて立ち退き料の予算は十分に確保しておくとともに、立ち退き交渉の初期段階からできる限り1件1件の立ち退き料は低額で合意を取り付けていくべきでしょう。

立ち退き期限に余裕をもたせる

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃貸人側のポイントの3つ目は、立ち退きの期限にを余裕をもたせることです。

例えば、来月末までに立ち退きをしてもらいたいと言われたらどう思うでしょうか。「勝手にそんな急なことを言われても困る!」と当然思うでしょう。立ち退きに応じるにしてもできる限り希望に合った物件を見つけて転居したいと考えるのは普通であり、そのためにはある程度の時間が必要です。

無用な反発を招かないためにも、立ち退きまでの期限には余裕をもたせましょう。少なくとも立ち退きをしてもらいたい期限の6か月前までには立ち退きを求める連絡を始めましょう。

賃貸物件のオーナー変更に伴う立ち退き交渉を行う賃借人側のポイント

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃借人側のポイントも3点確認しておきましょう。

立ち退きに応じる義務はないこと

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃借人側のポイントの1つ目は、立ち退きに応じる義務はないことです。

立ち退きを求められると当然に立ち退きをしなければならないと思ってしまう賃借人の方もいます。法律上も、賃貸借契約上も何ら非のない賃借人が無条件に追い出されることはないので安心してください。

賃借人が同意した場合にのみ立ち退きをすれば良いということをまずは認識しましょう。

立ち退き料をもらう前に退去しないこと

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃借人側のポイントの2つ目は、立ち退き料をもらう前に退去しないことです。

オーナー側の担当者が立ち退き料を支払うと口頭では言っていたのに、退去した後に請求しても払ってくれなかったというケースはしばしばあります。厳しいようですが、退去してしまったらオーナー側としてはもはや立ち退き料を支払う理由がないのです。

したがって、実際に退去する前にまずは立ち退き料を支払う内容の合意書を作成します。その上で立ち退き前にその一部を前金として支払ってもらい、立ち退き完了後に合意書に基づき残金の支払いをしてもらいましょう。しっかりと法的効力のある合意書を作成しておけば、退去後でも残金は払ってもらえます

軽微な契約違反があっても諦めない

賃貸物件の所有者変更に伴う立ち退き交渉を行う賃借人側のポイントの3つ目は、軽微な契約違反があっても諦めないで交渉するということです。

立ち退きを拒否するとオーナー側は、過去の債務不履行、つまり賃貸借契約の違反を主張して契約の解除、立ち退きを求めてくることがあります。

しかし、軽微な契約違反だけでは賃貸借契約の解除はできず、賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊する程度の契約違反が必要とされています。例えば、過去に1回家賃滞納があったとか、物音がうるさいと近所からクレームがあったとかその程度では有効に賃貸借契約を解除することはできません。

過去の契約違反を指摘されると非が全くないわけではないので立ち退きしなければならないのかと不安に思うかもしれませんが、余程のことでない限りはそれを理由に立ち退きをする必要はないので安心してください。

まとめ

今回は、賃貸物件のオーナー変更に伴う立ち退き問題について基礎知識から解説しました。

オーナー側、賃借人側いずれについても立ち退き問題で納得のできる解決をするためには、立ち退き問題の専門弁護士にご相談ください。

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