リフォームトラブルを解決するための法的手続

最終更新日: 2023年11月17日

はじめに

欠陥住宅・悪質リフォーム工事など建築に関するトラブルが発生したとき、そのトラブルをどのようにして解決するのか、どこに相談すればよいのか、それ自体が非常に悩ましい問題です。

最近では、弁護士と接点のない人であっても、簡単に弁護士と相談できるアクセス環境が整いましたが、そもそも建築紛争に明るい弁護士が非常に少ないため、いくつもの法律事務所の門を叩いている間に途方に暮れるという方も少なくないと思われます。

特に、建築工事の主役とも言える不動産は、個人・法人を問わず、大切な資産ですので、争いが根深くなりやすいという問題もあり、専門家の知見なしで解決することは容易ではありません。

そこで、以下では、いくつか建築紛争を解決するための法的手続を紹介しますので、ご自身が置かれた状況と照らし合わせながら、ご自身に合った制度利用をぜひともご検討いただきたいと思います。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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訴訟手続による解決

訴訟とは

建築工事の代金を支払ってくれない、あるいは工事をめぐる損害賠償をしてほしいという金銭的な責任問題に直面したとき、まず考えられる手段としては、裁判所の訴訟手続があります。

訴訟は、たとえ相手方が出頭拒否したとしても、必ず何らかの結論が出ますので、こちらの請求を完全に無視するなど、一切支払い意思のない相手に対する唯一の手段となりえます(後述する民事調停、ADRのいずれも、一切話し合いに応じない相手に対する強制力はありません。)。

そして、訴訟手続の結果、勝訴判決を得ることができた原告は、被告が判決に従った履行をしない場合、その財産を差し押さえるなどして、強制的に支払わせることも可能となります。

訴訟を有効に活用するには

しかしながら、普段から裁判など経験したことのない人にとっては、裁判をどのようにして起こしていくのか、全くわからないのが通常かと思います。

また、仮に、提訴に至ったとしても、訴訟は極めて厳格な手続となっていますので、主張と証拠が不十分であれば、請求が棄却されることもあります。

つまり、一見、欠陥住宅のように思える不動産でも、裁判所が「瑕疵」と認定するための条件や、瑕疵修補請求権の権利行使期間を知らなければ、裁判で負けてしまうこともありえるのです。

しかも、建築訴訟は、建築専門知識がなければ解明できない問題も多いところ、必ずしも裁判官にその知識が備わっているとも限りません。

欠陥住宅に「瑕疵」が認められるのか、当該工事の施工方向の誤りは何なのか、建築の専門家でなければ分からない問題は多々あります。

建築工事をめぐる専門的な問題について、当事者が、なぜ瑕疵に当たるのか、あるいは、なぜ瑕疵に当たらないのかを、一からわかりやすく説明することが必要です。
そのため、一方の当事者に建築専門知識があれば、裁判官に対して自身の主張を通しやすくなり、訴訟を有利に運ぶことが可能となります。

訴訟を選択すべきか

このように、建築訴訟は、訴訟対応する弁護士の力量や経験に結論が大きく左右されるため、建築訴訟に経験豊富な弁護士を探すのが最も重要です。

身近にそのような弁護士がいれば、訴訟も有効な選択肢の一つとなるでしょう。

とはいえ、前述したとおり、建築案件に明るい弁護士が非常に少ないという問題があるため、そのような弁護士にアクセスするのが難しい方は、後述する他の手段を検討することで、それほど費用をかけることなく、紛争解決の手段を発見できる可能性もあります。

民事調停による解決

民事調停とは

裁判所を利用した紛争解決手段として、前述の訴訟手続のほかに、民事調停があります。

民事調停とは、強制力のある訴訟手続とは全く異なり、あくまで当事者の話し合いが基本となります。

通常の話し合いと異なるのは、裁判所の調停委員会という第三者が話し合いの仲介役となってくれる点です。

当事者同士の話し合いでは平行線をたどるような状態であっても、調停委員会の説得の結果、双方が妥協して解決に至ることも多くあります。

民事調停のメリット

また、建築関係の民事調停では、通常、調停委員会として、建築工事をめぐる紛争に詳しい弁護士と建築士の2名が選任されます。

建築紛争において話し合いが困難となる最大の理由は、双方の主張を維持し続けた場合、最終的に判決ではどのような結論となるのか、両当事者に正確な見通しがないからです。

この点、民事調停においては、建築紛争に詳しい弁護士と建築士が立ち合いますので、これら有識者の知見を利用することもでき、ある程度正確な見通しに基づいて話し合いを進めることが可能となります。

前述したとおり、建築紛争では、欠陥住宅に「瑕疵」があるかどうかでもめていることが非常に多いのですが、建築工事の実情に詳しく、専門的な知識の豊富な調停委員会が、客観的立場から一定の結論を示すことは、非常に有益です。

そして、民事調停は、比較的費用も安く、勝訴・敗訴という考え方がないので、一つの失敗によって請求権を全て失わせるようなこともなく、弁護士をつけなくとも、安心して手続を利用することができます。

特に、建築紛争に詳しい弁護士と中々アクセスできない方にとって、安価な費用で、建築紛争に詳しい弁護士や建築士の客観的な意見を直接聞くことができるのも民事調停の利点であるといえます。

民事調停のデメリット

ただし、調停に強制力はないため、出頭しない相手方や、誰が説得しても主張を変えない相手方に対しては、残念ながら効果を見込めません。

その場合、結局は訴訟手続をしなければならなくなります。

なお、前述した訴訟手続の中でも、裁判所が話し合いによる解決が適当であると判断されると、調停手続に付されることもあります。

この場合、これまで訴訟を担当していた裁判官と建築士が話し合いの仲介役となり、紛争解決基準を提示します。

そのため、裁判中の当事者であっても、途中から民事調停に移行することも可能です。

ADRによる解決

ADRとは

ADR(裁判外紛争処理手続)とは、全国いくつかの弁護士会が主催している紛争解決手続です。

訴訟手続における判決のように、どちらかを勝訴させるものではなく、話し合いによる紛争解決を目指すという点で民事調停に似た機能があります。

もちろん、弁護士会が選任した建築訴訟に精通した弁護士、元裁判官などが、当該紛争の間に入りますので、最適な紛争解決基準を示してもらえる期待は高いといえます。

話し合いがどうしてもうまくいかなくなった場合には、仲裁という手続があります。
仲裁は、双方が、仲裁手続に入ることを同意することで開始されます。

しかも、仲裁人が作成した紛争解決基準(仲裁判断)には、確定判決と同一の効力が認められているので、相手方が仲裁判断に従わなかったとしても、訴訟で判決を得ることなく、財産の差押えも可能です。

どのような場合にADRを選択すべきか

民事調停は費用が安い反面、裁判所の都合で日程が決められてしまうので、解決までにかなりの時間がかかってしまうのですが、ADRは、費用の関係でさほど利用者が多くないことから比較的時間の融通が利きやすいので、調停よりもハイペースで話し合いを進めることが可能です(ADRの費用については、申立手数料、期日手数料、成立手数料がそれぞれ発生しますので、最寄りの弁護士会にお問い合わせください。)。

ただし、ADRにも強制力がないため、民事調停と同様、出頭しない相手方や、誰が説得しても主張を変えない相手方に対しては、残念ながら効果を見込めません。

最後に

欠陥住宅の問題の解決方法は、何も裁判だけではありません。
建築紛争が得意な弁護士が身近にいれば、訴訟が最も有効な紛争解決手段となることは、間違いないでしょう。

しかし、知り合いに建築紛争に詳しい弁護士がいないからといって、すぐに諦める必要もありません。

それぞれの紛争状況ごとにあった解決手段が用意されているので、ご自身の状況に合わせた解決方法を適切に選ぶことで、紛争を解決することは、十分に可能です。

訴訟手続はハードルが高くて確実に勝訴を見込めるのか自信がないが、相手方が一定程度請求に応じる姿勢を見せている事案では、民事調停またはADRを選択することができます。

貴重な第三者の意見を聞くこともでき、紛争解決の指針を明確にすることができます。

個人が利用できる紛争解決ツールは、人それぞれ限りがあります。
各人が置かれた状況でも利用できる人材、制度を最大限利用することが、紛争解決の近道といえるでしょう。

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