開示請求をされたら逮捕もされる?罪状や事例も解説
最終更新日: 2024年11月30日
- 開示請求されたら逮捕されるの?
- 開示請求がきて逮捕されるか不安。何か対策できることは?
- 開示請求で逮捕されないためには弁護士に相談する方がよい?
インターネット上の誹謗中傷で、自分が開示請求された場合、驚くと同時に不安になる人も多いでしょう。開示請求されると逮捕されるのか、訴えられるのか、などと考えていると日々の生活を安心して送れなくなります。
そこで今回は、開示請求事件の解決に詳しい弁護士が、開示請求をされた場合に逮捕されるのか、開示請求で逮捕された場合にどうなるのか、開示請求で逮捕された事例について詳しく解説します。
- 開示請求を受けても直ちに逮捕されるわけではない。
- 開示請求を受けた場合、すぐに誹謗中傷をやめ、誠意を持って被害者に謝罪し、和解を目指すことが重要。
- 開示請求や逮捕に関する不安がある場合は、弁護士に相談することで、自分の行為の法的リスクや適切な対応を知ることができる。
誹謗中傷で開示請求を受けると逮捕の可能性があるのか?
警察は民事不介入を原則としているので、開示請求を受けたらとすぐに逮捕されるわけではありません。ただし、誹謗中傷が刑法違反などの犯罪と認められる場合は、逮捕されるケースがあります。
ここでは、どういう場合に逮捕される可能性があるのかを見ていきましょう。
誹謗中傷の意味
誹謗中傷で逮捕されそうな場合、誹謗中傷とはどういう意味か気になる人もいるでしょう。どのような行為が誹謗中傷に該当するかについて、法律上の明確な基準はありません。
一般的には悪口や根拠のない嘘などにより他人を傷つける行為とされています。特に刑法に触れる内容が含まれている場合は刑事処分の対象となり、精神的苦痛を与えた場合には民法上の慰謝料請求の対象にもなります。悪意がなく、軽い気持ちでネットに書き込んだ言葉でも、法的責任を問われる可能性があるため、注意しましょう。
匿名で誹謗中傷しても開示請求で特定される
ネット上での匿名による誹謗中傷に違法性がある場合、被害者は発信者情報開示請求を行って、加害者の身元の特定が可能です。被害者がプロバイダに発信者情報開示請求をすると、投稿者に情報開示をしていいかを問う意見照会書が送付されます。
開示を拒否した場合、被害者は訴訟手続を通じて情報開示を請求するでしょう。
裁判所が開示を命じた場合、投稿者の希望に関わらず、プロバイダは情報開示しなければなりません。通常、身元特定にかかる期間は4~6か月ほどです。
これまでは2段階の裁判手続が必要でしたが、改正プロバイダ責任制限法により発信者情報開示請求が1回の非訟手続で可能となりました。また、一定の条件はありますが、ログイン時情報についても、発信者情報開示請求できることが明文化されています。
出典:インターネット上の違法・有害情報に対する対応(プロバイダ責任制限法)
誹謗中傷で開示請求を受けた後に逮捕されるケースがある
ネット上で誹謗中傷して開示請求されると、逮捕される可能性があります。ただし、実際に逮捕されるケースは、それほど多くありません。2022年の法務省の統計によると、刑法違反で逮捕された人の割合は約34.3%でした。
誹謗中傷に関連する名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪であり、被害者が刑事告訴しなければ刑事裁判にはなりません。
親告罪は被害者のプライバシー保護と、裁判による被害内容の公開を防止するために設定されています。ただし、被害者が告訴し、加害者に逃亡や証拠隠滅の恐れがある場合は、逮捕されることがあります。
また、すぐに逮捕されなくても、検察庁から定期的に呼び出されて逮捕されることもあります。このように逮捕されない場合でも、最終的に刑事訴追されるケースがあるので注意が必要です。
出典:令和5年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節被疑者の逮捕と勾留
誹謗中傷があっても逮捕されにくいケースもある
誹謗中傷した場合、必ず逮捕されるわけではありません。
一定の場合は、誹謗中傷があったとしても逮捕されない場合があります。
当事者間の口論
当事者間で口論した場合は逮捕されないケースがあります。たとえば、メールやSNSのDM(ダイレクトメッセージ)などでのやり取りは、ネット上で公開されません。
当事者しか閲覧できなければ第三者が目に触れることはないので、公然という条件には該当しないのです。そのため、名誉毀損罪や侮辱罪の成立条件を満たさず、逮捕される可能性は低くなります。ただし、DMやメールなどを不正に使用すると脅迫罪や業務妨害罪で逮捕される可能性はあります。
公益性のある投稿
誹謗中傷の可能性があるネット上の投稿でも、公益性のある投稿であれば逮捕されません。ただし、公益性があるだけでなく、公益目的の事実の投稿である必要があります。
たとえば、他人の名誉を棄損する投稿でも、公にする必要のある事実であれば名誉棄損で処罰されません。ここでのポイントは、公益目的が必要であり、それを証明する必要もあることです。
公益性はあるが公益目的が証明できない場合は、名誉棄損の責任を追及され可能性があります。
犯罪が成立しないケース
誹謗中傷をしても犯罪が成立しない場合は、刑事事件には該当しないため、開示請求されても逮捕されません。
たとえば、プライバシー権侵害や肖像権侵害は、犯罪に該当しないので逮捕されないのです。
ただし、刑事責任は追及されませんが、民事責任は追及される可能性はあります。損害賠償請求が認められると、慰謝料を請求されることがあります。
可罰的違法性がないケース
可罰的違法性がなければ、開示請求されても逮捕されません。違法行為があっても、刑罰が必要とはいえない軽微なものであれば可罰的違法性がないと判断されるでしょう。
たとえば、テイッシュ1枚を盗んでも窃盗罪で処罰されることはないのと同様に、罰するほどの必要性がないケースです。被害が明確でなければ、可罰的違法性に達しないと判断される可能性が高くなります。
誹謗中傷による被害が軽微だと警察が判断すると、可罰的違法性に達しないと判断され、刑事事件として立件されないケースもあります。
開示請求後に誹謗中傷で逮捕される場合の罪状
誹謗中傷をして開示請求後に逮捕されると、さまざまな刑事責任を追及される可能性があります。どのような違法行為をしたのか、行為内容により罪状は異なります。
ここでは、開示請求された後に誹謗中傷で処罰される罪について見ていきます。
名誉毀損罪
名誉毀損罪(刑法230条)は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です。公然とは、不特定多数にわかる状態のことであり、インターネット上で誹謗中傷を行うことは公然の要件を満たします。
摘示した事実の真偽に関わらず、具体的な内容であれば該当する可能性があります。名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
侮辱罪
侮辱罪(刑法231条)は、事実を摘示せずに公然と他人を侮辱した場合に成立する犯罪です。この罪は、事実を摘示されなくても成立する点に特徴があります。具体的な事実を示さなくても、悪口や中傷で名誉を傷つける行為が該当します。
法定刑は1年以下の懲役または禁錮もしくは30万円以下の罰金、または拘留(1日以上30日未満の拘束)もしくは科料(1,000円以上1万円未満)です。
脅迫罪
脅迫罪(刑法222条)は、相手の生命・身体・自由・名誉・財産に害を加える旨を告知して脅した場合に成立する犯罪です。具体的に脅しの言葉を言わない場合でも、間接的な表現を使えば脅迫罪が成立することがあります。法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。加害者の言動が相手に恐怖感を与えたか、またその状況により脅迫罪が成立するかどうかが判断されます。
信用毀損罪
信用毀損罪(刑法233条)は、虚偽の風説を流布したり、偽計を用いて他者の信用を毀損したりすると成立します。たとえば、事実無根の噂を流して会社や個人の信用を失わせるケースです。
法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。虚偽情報が実際に損害を発生させた場合には、民事上の責任を追及され、損害賠償請求される可能性があります。
開示請求後に逮捕されたらどうなる?
開示請求されて逮捕されると精神的ショックは大きく、これからどうなるのかと不安を抱くでしょう。
ここでは、開示請求後に逮捕された場合、どのような流れになるのかを解説します。
逮捕後の流れ
開示請求後に逮捕されたからといって、必ず有罪になるわけではありません。警察は加害者を逮捕するだけで、有罪か無罪かは刑事裁判の手続きにより決定します。
開示請求後に逮捕された場合、以下の流れで手続きが進められます。
1.警察での取り調べ
逮捕後、警察で取り調べを受け、最大で48時間留置される場合があります。
2.検察に送検
警察から検察へ送致されます。
3.勾留
検察に送致後最大20日間にわたって勾留され、起訴するかどうかが判断されます。
4.起訴
起訴されると刑事裁判が開始されます。
5.刑事裁判
起訴後、裁判所で審理が行われ、最終的に有罪か無罪かの判決が下されます。有罪になると罰金や拘留などの刑罰が科され、前科が付く場合があります。
逮捕後の人生に与える影響
誹謗中傷を理由に開示請求後に逮捕されると、刑事裁判を受けて有罪判決が下される可能性があります。有罪となれば刑罰を受けるため、その後の人生にさまざまな影響を与えます。ここでは、開示請求で逮捕されると、その後の人生にどのような影響を与えるかを見ていきます。
慰謝料請求
逮捕されると、加害者は被害者から民事裁判で慰謝料請求される可能性があります。ネット上で匿名の誹謗中傷をした場合も、開示請求されると投稿者のIPアドレスや氏名などが特定されるでしょう。
加害者が特定されると、被害者は弁護士に依頼して民事裁判で慰謝料を請求することが可能です。個人に対する誹謗中傷をした場合、慰謝料の相場は10万~50万円ほどです。
裁判などの手続きにかかった弁護士費用も慰謝料とともに請求されるケースがあります。
前科
逮捕され、刑事裁判で有罪になると前科が付き、社会的信用を失います。
被害者から刑事告発を受けた場合は、被害者へ誠意を示すことが大切です。誹謗中傷で刑事告発された場合は、被害者にしっかり謝罪をして示談にできれば、執行猶予や不起訴処分になる可能性があります。
なお、逮捕され勾留されると、10~20日間にわたって身柄を拘束されることもあります。長期間にわたって拘束されると、社会生活に大きな影響を受けるでしょう。
解雇
刑事裁判で有罪判決を下されると、会社から解雇されることがあるでしょう。逮捕された段階では起訴されるかどうかは未定で、刑事裁判で有罪となったわけでもありません。
会社は、逮捕後の最終的な処分が確定した時点で、会社の就業規則に従い解雇するか否かを判断することが一般的です。
ただし、誹謗中傷したことにより会社の名誉や信用を棄損した場合、有罪にならなくても逮捕時に解雇されるケースもあります。前科が付いた場合、職を失うだけでなく再就職が難しくなるので注意が必要です。
開示請求で逮捕に至った事例
ネット上の誹謗中傷を理由に開示請求されても、すぐに逮捕されるわけではありません。被疑者を逮捕するかどうかは警察が判断しますが、逮捕される投稿について明確な基準は示されていません。
ここでは、開示請求で逮捕に至った事例を紹介します。
事例1
元アイドルの女性が自身の妊娠について発表したところ、彼女のブログに人格を否定する誹謗中傷の投稿がなされました。さらに元アイドルの女性の住所に関する情報が無断で掲載され、プライバシーが侵害される被害も発生しました。
このような誹謗中傷は具体的な事実を提示せずに公然と他人を侮辱する行為であり、侮辱罪が成立します。この事例では情報開示請求が行われ、元アイドルのブログへの人格を否定する誹謗中傷をした2人の女性が逮捕されました。
事例2
テレビ番組に出演した女性に対して、加害者はX(旧Twitter)で誹謗中傷の投稿を行いました。その女性は多数の誹謗中傷を受けたことで自殺したため、大きな社会問題となった事件です。開示請求が行われ、誹謗中傷をした投稿者には民事裁判により約129万円の支払いが命じられました。
この事件をきっかけとして侮辱罪が厳罰化され、発信者情報開示請求手続きも簡略化されました。2022年10月にプロバイダ責任制限法が改正され、SNSの投稿者に関する情報を開示する手続きが簡略化されたのです。
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今回は、開示請求をされた場合に逮捕されるのか、開示請求で逮捕された場合にどうなるのか、開示請求で逮捕された事例について詳しく解説しました。誹謗中傷を理由に開示請求で逮捕されると、刑事裁判で有罪判決を受けて処罰される可能性があります。また、その後の人生に与える影響は大きなものとなるでしょう。
開示請求を受けて逮捕の不安を感じているのであれば、春田法律事務所にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。