妊娠中に離婚するなら必ず押さえたいリスクと注意点を解説
最終更新日: 2023年11月02日
- 妊娠中だけれど夫と離婚できるのだろうか
- 妊娠中に離婚を決意する理由にはどのようなものがあるのだろう
- 妊娠中に離婚するときに注意すべき点を知りたい
妊娠中でも離婚は制限されません。婚姻の継続が難しい状況ならば、離婚を検討しましょう。
妊娠中の離婚でも体調に気を付けながら、夫と離婚の話し合いを続け、財産分与や慰謝料等について取り決めていきます。
ただし、妊娠中の離婚の場合は出産のリスクに加え費用負担もかかるので、より慎重な協議が求められます。健康状態によっては話し合いの中断も必要となるでしょう。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、妊娠中に離婚を決断する理由や、想定されるリスク等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 妊娠中でも離婚は可能だが、健康に配慮しつつ困窮する事態を防ぐため、慎重な取り決めが必要
- 妊娠中に離婚を決める理由として、夫婦関係の変化や不倫等があげられる
- 妊娠中に離婚を進める場合、離婚給付の取り決めはもちろん、子どもの戸籍等の問題にも注意する必要がある
離婚は妊娠中でもできるのか
妊娠中に離婚は可能です。法律に「妊娠中は離婚できない」といった規定はありません。
妻は婚姻の継続が難しいと判断したら、妊娠中であっても夫に離婚を申し出て構わないのです。
ただし、離婚の手続きは予想以上に長引く可能性があり、健康面に配慮しながら交渉等を進める必要があります。
また、子どもの戸籍についても慎重な判断が求められます。
離婚後一定期間以内に出産したか、一定期間経過後に出産したかで、夫または妻の戸籍となるかが変わってくるので注意しましょう。
離婚を妊娠中に決断する理由
妊娠前は夫婦関係が良好だったのに、妊娠後に関係が悪化し、離婚を決断するケースもあります。
こちらでは、離婚原因となり得る4つの理由をとりあげましょう。
夫婦関係の変化
妊娠すると徐々にお腹が大きくなる他に、体調の変化もおきはじめます。
一例をあげましょう。
- おりものが変化する
- 産道より少量の出血がある
- 微熱が続く
- 便秘になる
- 強い眠気を感じる
- 下腹部痛やお腹の張りがある
- 胃のむかつきや吐き気がある
- 気持ちが不安定になる 等
妊娠中の妻は様々な症状に悩まされます。そのためか、次第に妻が感情的になり夫と口論となるケースもあるでしょう。
お腹が大きくなれば、さすがに夫も妊婦の大変さに気付くかもしれません。
しかし、妊娠の負担や疲労で夫をかまう余裕が無い妻と、態度が冷たくなった妻への不満を募らせる夫との間で、急激に愛情が冷めてしまう可能性もあります。
経済的なプレッシャー
妊娠・出産のときに妻が働くのは非常に困難です。当然ながら正社員であっても、パートであっても休む必要が出てきます。
必然的に夫が家計を支えていかなければいけません。その経済的なプレッシャーから、夫もナーバスになり妻とケンカしてしまう可能性があるでしょう。
更に、出産後は子どもの教育費等がかかるので、お金の問題で揉めてしまい夫婦の関係は悪化するおそれがあります。
不倫
妊娠後に妊婦のお腹が大きくなり、身体への負担は重くなっていきます。妻が移動も大変になっている状態をこれ幸いと、夫が不倫に走る可能性もあります。
妻が夫のスマートフォンのメールやSNSを確認したら、浮気相手との間で性行為の感想や、今度浮気する日・場所についてのやり取りを発見し、離婚を決意するケースが想定されます。
暴力・モラハラ
妻の妊娠をきっかけに、夫が暴力やモラハラ(言葉の暴力)を行い、婚姻継続は困難となるケースが考えられます。
夫が妻のお腹を蹴る・殴るという事態になれば、母体および胎児の生命に重大な危険を及ぼします。このようなDV夫とは離婚することが賢明な判断です。
まずは「一時保護施設(シェルター)」の利用を考えましょう。無料で通常2週間程度の利用が可能です。
シェルターの利用は次のいずれかの施設に申し出てください。
- 最寄りの警察署
- 配偶者暴力支援センター
- 市区町村役場相談窓口
- 福祉事務所
その後、婦人相談所等を通して、妊婦に最も適したシェルターへ入ります。
シェルターは電話番号や所在地を基本的に公開していないので、暴力を振るう夫から逃れることができます。
出典:どんな支援がありますか?(一時保護、安全な生活、生活の再建など) | 東京都東京ウィメンズプラザ
妊娠中に離婚するリスク
DVやモラハラのような深刻な事態には離婚が最善の方法といえます。
ただし、妊娠中に離婚すると、経済的な困窮や子どもをどこに預ければよいのか、いろいろと悩んでしまうかもしれません。
ここでは、妊娠中の離婚で考えられるリスクについてみていきます。
経済面
妊娠中や出産直後は、離婚した妻が収入を得る方法は限られています。
妊娠・出産で一時的に休職し、その後に職場へ復帰できるなら経済的な不安はないでしょう。
しかし、妊娠を機に退職した人や専業主婦の人等は、出産後に新たな仕事探しが難航する可能性もあります。
子育てをしつつ働ける条件がなかなか見つからず、思うように就職できないという傾向が多くの場合に当てはまります。
一方、自分が独身のときにコツコツ貯めていた預金や、離婚のときに夫から支払われた財産分与・慰謝料等を利用し、ある程度の期間は働かずに生活していけるかもしれません。
ただし、いずれは出産費用や離婚後の生活費等で使い果たしてしまい、経済的に困窮するリスクがあります。
子どもの預け先
仕事が見つかったとしても、今度は子どもをどこに預けるかが問題となります。
子どもの預け先として、実家の両親や兄弟姉妹等を頼れるなら安心です。しかし、実家の家族や親戚を頼れない場合、預け先を見つけることも一苦労です。
保育所を利用する場合、お金がかかるうえに0歳児を受け入れてくれる施設は、そう多くありません。
また、子育てをしつつ働くとなれば、保育所で決められている時間までに、子どもを迎えに行く必要があります。働く時間も大きく制限されてしまうでしょう。
妊娠中に離婚を進めるときの注意点
妊娠していないときよりも、妊娠中の離婚手続きは慎重に進めた方がよいでしょう。
こちらでは、8つの注意点をとりあげます。
親権
妊娠中に離婚したならば、原則として産まれた子どもの親権者は母親となります。なお、協議・調停で夫婦が合意すれば夫を親権者としても構いません。
協議離婚および調停離婚いずれの場合も、妻が親権者になると主張するのなら、その希望が通る可能性は高いです。
養育費
養育費とは、離婚後に未成年の子どもが自立するまでの間、親権者とならない方の親が子どもの養育のために支払う費用です。
妻が親権者となるなら、夫が養育費を支払っていかなくてはいけません。養育費の支払い方法は離婚交渉時に取り決めます。
養育費の毎月の支払金額は、裁判所から公表されている「養育費・婚姻費用算定表」を参考にしましょう。
慰謝料
夫が離婚の原因(例:不倫やモラハラ、DV等)をつくったならば、妻は慰謝料を請求できます。慰謝料の相場は100万~300万円程度といわれています。
なお、性格の不一致等で離婚する場合、どちらが離婚の原因をつくったとは判断し難いので、慰謝料の請求は認められない可能性が高いです。
面会交流
面会交流とは、親権者とならない方の親が子どもと定期的に面会する方法です。面会交流には子どもの精神的な安定を保つ役割があります
ただし、妊娠中に親が離婚している以上、子どもは父親の存在を強く意識していない場合もあるでしょう。
妻が面会交流を認める前に、一緒に生活すらしていなかった夫と面会させ、子どもが混乱しないかよく検討しなければいけません。
財産分与
財産分与は、婚姻中に夫婦で協力して得たお金を離婚のとき分配する方法です。婚姻中に得た財産は、基本的に夫婦が1/2ずつ分けます。
ただし、妻が妊娠中に離婚した場合は子どもを養いつつ、仕事をするのは非常に困難なため、財産分与をより多く受け取れるよう交渉した方がよいでしょう。
子どもの戸籍
離婚後300日以内に子どもが産まれた場合、元夫の子どもとして推定されます。そのため、父親の戸籍に「嫡出子」として記載されます。
妻が子どもを自分の戸籍に入れたいならば、子どもの住所地の家庭裁判所に「子の氏の変更許可」申立てを行いましょう。
申立てのときは申立書の他に、子の戸籍謄本および離婚の記載のある戸籍謄本等の提出が必要です。
家庭裁判所の許可を得たら、入籍の届出を裁判所から取得した審判書謄本等と共に、子どもの本籍地または届出人の住所地の市区町村役場へ提出します。
なお、離婚から300日を経過して産まれた子どもは「非嫡出子」となり、母親の戸籍に入ります。
離婚届の提出タイミング
妊娠中に協議離婚が成立し、市区町村役場に離婚届を提出する場合は、原則として夫と妻双方が届出人となります。協議離婚の場合、届出期間の定めはありません。
なお、夫・妻双方の署名があれば代理人の提出も可能なため、健康状態が思わしくないときなどは直接届け出る必要はありません。
ただし、裁判離婚の場合は届出期間が定められ、調停離婚や和解離婚、審判離婚、判決離婚を経た場合は、成立日(確定日)から10日以内までに届け出る必要があります。
再婚のタイミング
※2022年12月10日に再婚禁止期間の撤廃等を盛り込んだ民法改正法が成立し、2024年4月1日に施行されます。
「再婚禁止期間」を守る必要があります。再婚禁止期間とは、元夫と離婚日〜再婚するまでに空けなければならない待期期間です。
元妻は元夫と離婚した日から100日間再婚を待たなければいけません(民法第733条)。離婚日を1日目とし、その100日後までが再婚禁止期間です。
民法では、妻が婚姻中に次のケースで妊娠した子どもを夫の子どもと推定します(嫡出推定制度)。
- 婚姻の成立の日から200日経過後
- 離婚後300日以内に生まれた子
いずれかの場合、婚姻中に妊娠した子どもとして父親の戸籍に記載されます(民法第772条第2項)。
しかし、再婚禁止期間を設けなければ、元夫の子どもかそれとも再婚した夫の子どもなのかすぐに推定できず、様々なトラブルが発生するおそれもあるのです。
そのため、子どもの利益・権利の保護を目的として、再婚禁止期間が設けられています。
<参考>民法改正による嫡出推定制度の見直しのポイント
- 婚姻解消から300日以内に生まれた子も、母が前夫以外の男性と再婚した後に生まれたときは、再婚後の夫の子と推定する
- 女性の再婚禁止期間を廃止
- 夫のみに認められていた嫡出否認権を子及び母にも認めた
- 嫡出否認の訴えの出訴期間を1年から3年に伸長
出典:民法等の一部を改正する法律について(2023年1月13日)|法務省
まとめ
今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、妊娠中の妻が離婚を決断するときの注意点等について詳しく解説しました。
離婚の話し合いでストレスがかかると、母子の健康に影響が出てしまう可能性もあります。体調に気を遣いながら、離婚の手続きを進めていきましょう。
妊娠中に離婚をするか悩んでいたら、まずは弁護士に相談し、対応を話し合ってみてはいかがでしょうか。