住居の立ち退きの法律を専門弁護士が解説
最終更新日: 2023年12月03日
住居の賃貸借関係では、通常の契約終了による退去だけでなく、大家都合での立ち退きや、賃借人の契約違反による立ち退きなどもあります。今回は住居の立ち退きに関する法律について概要を解説したいと思います。
住居の賃貸契約の実情
賃貸物件が住居の場合、賃貸人と賃借人が、土地に借地権を設定して、賃借人が土地を賃貸借契約により借り受け、土地上に建物を建てて住む場合もあります。
しかし、このような事例は、少なくなってきています。
現在は、賃貸人が所有するマンションやアパートについて、賃貸人と賃借人が建物の賃貸借契約を締結して、賃借人がその一室を借り受ける場合が多いでしょう。
なお、賃貸借契約を締結するにあたり、親族などを連帯保証人とし、かつ、保証会社も保証人とすることが通常です。
債務不履行による住居からの立ち退き
交渉
賃借人に賃貸借契約上の債務不履行があった場合、賃貸人としては、まずは賃貸建物の管理会社に入居者に対する対応を相談することが多いでしょう。
そして、賃貸人から相談を受けた管理会社(あるいは管理会社から委託を受けた弁護士)が、賃借人と直接交渉し、履行を催告します。
賃料の不払いについては、賃借人はもちろん、その連帯保証人にも連絡し、連帯保証人と交渉することもあります。
なお、賃借人の賃料不払いがあり、保証会社において保証債務を履行して未払い賃料の支払いをしてしまうと、当該賃借人の信用情報に影影響する(ブラックリストに載る)可能性があります。
契約解除通知
交渉の結果、再三の催告にもかかわらず、賃借人が履行に応じない場合があります。
不履行の態度が甚だしく強制退去やむなしという場合、賃貸人としては、賃貸借契約を終了させる必要があります。
通知内容を確実に証明する必要がありますので、通知は、必ず内容証明郵便によって行います。
信頼関係破壊
賃貸人が一方的に債務不履行解除を通知し、賃借人を建物から強制退去させるためには、賃借人に債務不履行があるだけでは足りません。
賃貸借契約は、継続的な契約関係のため、当事者間の信頼関係を破壊すると認められるに足りる事情が必要です。
家賃滞納は何カ月必要か
賃貸借契約の解除は、賃借人の生活の本拠を失わせる行為です。そのため、3か月分は家賃滞納が必要と考えられています。
半年間遅れながらでも払っていた場合や、3か月滞納していたが契約解除通知とともに滞納分を全額支払ってきた場合などは、賃貸借契約を解除して強制退去を実現するのは難しいでしょう。
連帯保証人への請求の必要性
賃貸人が連帯保証人に対して、賃借人の債務を履行するよう請求する義務はありません。
しかし、連帯保証人にも連絡しておけば賃料が支払われ、賃貸借契約解除までは必要なかったと言える場合もあります。
そのため、賃貸借契約を解除して強制退去に踏み切る場合には、念のため、連帯保証人にも請求をしておく必要があるでしょう。
契約期間満了による住居の立ち退き
賃貸人の更新拒絶
普通借家契約の場合、借地借家法によれば、契約期間満了の6か月前までに更新をしない通知を賃借人に出す必要があります。
しかし、契約を更新しないためには正当事由が必要です。
なお、定期借家契約の場合、借地借家法の正当事由の規定が適用されません。ただし、定期借家契約と認められるためには、契約更新がないことを賃借人に理解させるため、事前説明文書を作成し、賃借人に交付するという手続が必ず必要になります。
正当事由(自己使用の必要性)
賃貸人に自己使用の必要性がある場合、正当事由が認められやすいと考えられています。
ただし、自己使用の必要性は、当該賃貸物件が、今後の賃貸人の生活維持に代え難いものでなければならず、他に代替手段があるにもかかわらず、賃借人に立ち退いてもらうことは困難です。
立ち退き料の決め方
賃貸人の正当事由が認められると、賃貸人から賃借人にいくら立退料を支払うべきか検討します。
ただし、住居からの立ち退きは、入居者の生活圏を奪うことになりますので、高額な立退料を負担しなければ、正当事由を具備することは困難なケースが多いです。
住居の老朽化による立ち退き
老朽化と正当事由
建物が老朽化した場合、入居者には賃貸物件から立ち退いてもらう必要があります。しかし、老朽化したという一事情のみによって直ちに強制退去を求めることはできません。
老朽化した場合も、賃貸借契約を更新しない場合と同様、まずは正当事由が認められなければならないので、賃貸人が賃借人に立退料を支払う必要があります。
ただし、建物の老朽化が酷く、建て替えが必要という事情は、正当事由を強く認める要素となる傾向にあるので、立退料次第で、比較的容易に明渡しを認めることができる事案です。
老朽化の場合の通知書文例
更新拒絶の法定要件を満たすことが前提となりますが、①更新拒絶する旨、②アパートが老朽化して危険な状態にあり、建て替えが不可欠であることを盛り込む必要があります。
また、立ち退きを容易にするため、建替え後のアパートにて引き続き居住を認めるなど、賃借人を保護するための文言を付記することで、立ち退きを円滑に進めやすいでしょう。
居直り入居者に対する住居からの立ち退き
居直りの問題
賃借人に信頼関係を破壊するほどの重大な債務不履行があり、賃貸人の賃貸借契約解除の効力が有効となって強制退去を求められているにもかかわらず、建物を明け渡さない入居者もいます。
その場合、裁判をして、確定判決をもらい、強制執行までしなければ、入居者の強制退去を実現できません。
損害回収の問題
仮に、居直り入居者に対して全ての法的手続きを履践した場合、強制退去を実現するまで、半年から1年程度の期間がかかります。
その間、建物を利用できないことの未払い賃料及び賃料相当損害金が発生しますが、入居者に支払い能力がないことが通常です。
強制退去の場合、入居者は、物件をそのままにして出ていくため、多額の原状回復費用も発生します。しかし、入居者が原状回復費用を負担するケースもほとんどありません。
連帯保証人
借家契約では、連帯保証人をおいていることが通常なので、連帯保証人に未回収の損害を請求することも考えられます。
とはいえ、強制退去に係る損害の金額は、連帯保証人が親族などの場合、一個人では支払えない金額に昇ることが多いので、全額回収することは難しいでしょう。
なお、民法改正により、連帯保証人の保証債務の範囲として極度額が設定されるようになりました。旧民法では、連帯保証人の責任が無限であり、強制退去後に賃貸人から想定の金額を超える莫大な保証債務の履行を請求される連帯保証人が多くありました。
立ち退きに強い弁護士と弁護士費用
訴訟手続から強制執行など強制退去を実現するための全ての手続を、立ち退きの専門家である弁護士に依頼しなければならないとすると、それだけで数十万円~100万円近い弁護士費用がかかります。
訴訟になる前に、交渉で賃借人を立ち退かせるのが最も現実的な解決なので、対応をよく弁護士と相談するのがよいでしょう。
実際の弁護士との交渉においても、連帯保証人に迷惑はかけられないと考える賃借人の方は多いので、賃貸人としては、連帯保証人にうまく働きかけて、早期の立ち退きを実現する方法が望ましいでしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。