強制退去のリアルな流れとは?賃貸人が押さえておくべきポイント総まとめ
最終更新日: 2024年11月19日
- 賃借人の問題行動に手を焼いており、退去してもらう方法が知りたい
- 賃借人を強制退去させることが可能な条件について是非教えて欲しい
- 賃借人を強制退去させるためには弁護士に相談した方がよいのだろうか?
賃貸借契約を結んでいる賃借人の中には、賃貸人や周辺住民を困らせる人がいるかもしれません。
賃借人を強制退去させる方法はありますが、法的な手続きを踏んで対応する必要があります。
そこで今回は、不動産トラブルの解決に尽力してきた専門弁護士が、強制退去させられる条件や注意点等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 強制退去させられるのは家賃滞納・無断増改築・騒音を起こす迷惑行為等があったとき
- 強制退去は賃貸人の判断だけで実行できず、裁判所の関与が必要
- 強制退去は専門弁護士から有益なアドバイスを受けて慎重に進めた方がよい
強制退去とは
強制退去とは、問題を起こした賃借人に対して、裁判所の関与のもと入居中の物件から強制的に追い出す方法です。
賃貸人からの強制執行申立を裁判所が認めた場合、最終的に裁判所の執行官が強制執行します。
執行官とともに専門業者が賃貸物件に向かい、部屋の中にある賃借人の家財を撤去し、強制退去を完成させます。
強制退去を実行できる条件
強制退去が実行可能なのは、賃借人が家賃を滞納するケースだけではありません。
賃貸物件を無断で増改築する、又貸しや入居者が契約人数違反などのように、賃貸物件の安全性を脅かしたり、賃貸物件周辺の治安を悪化させたりする行為なども該当します。
家賃の滞納
毎月必ず支払わなければいけない家賃を滞納した場合です。
家賃を1か月でも滞納すれば、賃借人の賃貸借契約違反となります。ただし、強制退去にまで発展するのはおおむね3か月以上の家賃滞納が続く場合です。
賃貸人が通常、口座引落で家賃を回収していることでしょう。しかし、賃借人の口座にお金が足りなければ引き落としはできません。
賃借人が以後も家賃支払いに応じないからといって、いきなり強制退去はできません。まず賃借人の連帯保証人や家賃保証会社に連絡して、家賃回収を試みましょう。
無断での増改築
賃借人が賃貸人に無断で賃貸物件を増改築したら、強制退去が可能になる場合もあります。
賃借人は賃貸人と賃貸借契約を締結したからといって、賃貸物件を好き勝手に利用することはできません。
賃借人は、賃借物件の引き渡しを受けてから返還するまで、借りた物件を善良なる管理者の注意義務をもって保管しなければいけません(民法第400条)。
賃借人が無断で増改築をしたら契約違反となり、賃貸人は賃貸借契約の解除が可能です。
強制退去が可能な増改築とは、部屋の増設や別の建物を建設し付属させる行為が該当します。
単に傷んだ箇所を賃借人が修理した場合は、増改築にあたりません。
また、賃貸物件の原状回復や復元が可能な場合は、賃貸人との信頼関係を破壊する行為とまではいえず、賃貸借契約の解除理由にはならないと判示する場合もあります。
又貸しや契約人数違反
又貸しや入居者の契約人数違反が判明した場合、賃貸人は賃貸借契約を解除して、最終的には賃貸物件から追い出すことができる場合があります。
又貸しとは賃借人が賃貸人に無断で、他人に部屋を貸し出す行為です。得体の知れない人物に住みつかれては、近隣住民に迷惑をかけるおそれがあります。
契約人数違反とは、たとえば単身用の賃貸物件なのに、途中から同棲するケースが該当します。
賃借人には信頼のおけるパートナーでも、賃貸人側で身元調査ができていない人を入居させるわけにはいきません。
騒音などの迷惑行為
騒音をはじめとした迷惑行為がある場合は、契約違反を理由として賃貸借契約の解除が可能です。
たとえば大音量でカラオケをする、真夜中に楽器を弾く等の騒音等が該当します。
隣室の住民や周辺住民からの苦情で発覚する場合がほとんどです。ただし、いきなり強制退去は求められません。賃借人への注意および勧告を必ず行いましょう。
また、騒音と認められる環境基準(40〜60デシベル)を超えなければ、退去の要求は認められない可能性が高いです(70デシベルは騒々しい該当・セミの鳴き声レベル)。
その他契約違反
その他、賃貸借契約書で禁止しているペット飼育や駐車場の無断使用は、契約違反として最終的に強制退去が可能となる場合もあります。
ペットをこっそり飼育していた場合、ペットを捨てるわけにはいかないので、賃借人は自主的な退去を受け入れる可能性が高いです。
また、駐車場の無断使用の場合は、まず賃借人に対して別の駐車場を契約し移動させるよう要求して、様子を見ましょう。
強制退去を実行するための対応
賃借人が賃貸借契約に違反したとしても、いきなり賃貸人が自力で強制退去の措置を行ってはいけません。
賃借人への改善要求や、連帯保証人への連絡、裁判等、いろいろな対応をしたうえで、最終的に裁判所に申し立てて強制退去が可能となります。
賃借人への要求
賃借人に対し電話やメール・手紙、直接訪問する等して賃貸借契約違反をしないように求めます。
家賃滞納の場合は「〇月〇日までに支払わないと、連帯保証人へ連絡し滞納分を請求する」旨を伝えたり、書面に通知したりすれば、賃借人が支払に応じる可能性があります。
ただし、要求を同じ日に何回も行うと、賃借人は「嫌がらせを受けた」と感じ、深刻なトラブルに発展する事態も想定されます。執拗な賃借人への要求は避けた方がよいでしょう。
連帯保証人への連絡
家賃滞納や無断で増改築し賃貸物件を破損させた等のケースでは、連帯保証人に滞納分の請求または破損の弁償を請求できます。
賃借人が賃貸借契約に違反しても何らかの対応をしない場合、連帯保証人に責任をとってもらいましょう。
なお、賃借人の中には「家賃保証会社」と賃貸保証契約を締結し、賃貸物件を借りている人もいます。
家賃保証会社であれば、賃借人の家賃滞納や破損の弁償へ迅速に対応するので安心です。
内容証明郵便
連帯保証人にも連絡が取れない、請求を拒否されたという場合、賃貸借契約解除について予告する内容証明郵便を、賃借人に送付しましょう。
内容証明郵便とは、賃貸人であるあなたの送付する郵便の内容と差出人・宛先を郵便局が証明するサービスです。
内容証明郵便を賃借人に送付すれば、後々、裁判所に強制退去を申し立てるとき、前もって賃借人に督促した事実を証明できます。
内容証明郵便の申し込みは、地方郵政局長が指定した集配郵便局で行いましょう。窓口に提出するときは、同じ内容の書類を3部(賃借人用・郵便局の保管用・自分用)用意しましょう。
なお、郵便局員による内容確認が必要なため、封をせずに提出します。
和解手段の検討
賃借人と話し合い和解して、自主的な退去を促すのもよい方法です。
内容証明郵便を送付後、賃借人が何らかの対応もしない場合、賃貸借契約の解除が可能です。解除を行えば明け渡し請求訴訟、強制執行(強制退去)の手続きを進められます。
しかし、裁判を経て強制執行(強制退去)に進む場合、手続きの手間や多額の費用を負担しなければいけません。
そこで、賃貸人側が「立退料」を渡す条件に、賃借人の自主的な退去を求めてもよいでしょう。
強制執行(強制退去)にかかる費用より、出費を抑えられる他、賃借人を無理やり退去させるわけではないので、穏便に退去を進められる可能性が高いです。
裁判の提起
賃借人との和解ができなかった場合、賃貸借契約の解除をし、賃貸物件の所在地を管轄する裁判所に、明け渡し請求訴訟を提起します。訴えを提起する裁判所は次のいずれかです。
- 地方裁判所:賃貸物件の財産上価額がいくらでも訴え可能
- 簡易裁判所:賃貸物件の財産上価額が140万円以下の場合に可能
裁判で立ち退き判決が言い渡されても、賃借人がなおも判決に従わないとき、強制執行を申し立てましょう。
申立てが認められれば、裁判所は賃借人に催告書を送付します。賃借人が催告書の要請を無視した場合、いよいよ強制執行(強制退去)の開始です。
執行官・専門業者が賃貸物件を訪問し、部屋の中にある賃借人の家財を強制撤去します。
強制退去における注意点
強制撤去を実行すれば、賃借人の生活の拠点は失われます。賃借人は賃貸人に損失を与え、信頼関係を破壊したわけですから、やむを得ない措置といえます。
ただし、賃借人の意にそわない形で強制撤去は実行されるので、細心の注意を払い、手続きを進めなければいけません。
自力救済の禁止と法的リスク
賃貸人が法的手続きなしに、自力で強制退去を実現しようとする行為は禁止されています。主に次のような行動をとると、不法行為と判断される可能性が高いです。
- 賃借人に貸している賃貸物件の鍵を勝手に交換し、利用できないようにした
- 賃借人に貸している賃貸物件へ無断で侵入し、勝手に家財等を売却・撤去した
- 賃借人宅へ「出ていけ!」と執拗に何回も電話や訪問し圧力を加えた
- 賃貸物件の玄関に「家賃払え!」と督促の張り紙をした
- 連帯保証人以外の賃借人の関係者に家賃の支払を要求した 等
賃貸人が上記のような行為をすれば、逆に賃借人から不法行為を理由とした、「損害賠償(慰謝料)請求訴訟」を提起され、高額な賠償を命じられるおそれがあります(民法第709条)。
入居者が自己破産した場合
賃借人が自己破産したからといって賃貸借契約を解除し、強制退去を迫ることは認められません。
自己破産で部屋を解約して退去しなければいけない事態となれば、賃借人は生活の拠点を失い、路頭に迷う事態となるでしょう。
一方、賃借人は自己破産しても家賃を支払い続ければ、これまで通り賃貸物件での生活が可能となります。
ただし、賃借人が自己破産前に家賃を滞納していた等、賃貸人との信頼関係を破壊するような事実がある場合、賃貸人は賃貸借契約の解除や強制退去の手続きを進められます。
入居者が抵抗する場合の対応策
賃貸人に退去を促されている賃借人は、どんなに自分が原因でトラブルが起きていると感じていても、生活の拠点を失う以上、抵抗する可能性が高いです。
強制退去にまで至れば、裁判所の執行官や専門業者が賃借人の私有物等の撤去を行います。賃借人がそのときに抵抗しても、執行官は警察に応援を要請する等して、撤去を進めていきます。
ただし、賃借人の自主的な退去を促す段階では、話し合いで解決するしか方法がありません。賃貸人と賃借人が話し合っても平行線のままなら、法律のプロである弁護士に交渉を依頼しましょう。
弁護士を賃借人との交渉役にすれば、理性的な話し合いができる他、賃借人は「後々、賃貸人から訴えられてしまうかもしれない」とプレッシャーを感じ、自主的な退去に応じる可能性があります。
強制退去にかかる費用
強制退去の費用全体で100万円以上かかる場合があります。費用は概ね賃貸人が負担しなければいけません。下表をご覧ください。
費用 | 金額(目安) |
内容証明郵便 | 1,300円程度 |
明け渡し請求訴訟 | 81,000円程度 金額の内訳 ・予納金:65,000円 ・予納郵便切手代:6,000円 ・印紙代:10,000円 |
弁護士報酬 | 60万円~70万円 |
強制執行(執行官の出張費、業者に支払う費用等) | 30万円前後 |
ケースによっては、表に記載された金額以上の負担も十分想定されます。
強制退去をスムーズに進める方法
賃借人を一刻も早く退去させたいからといって、賃貸人であるあなたが強引な措置をとれば、違法行為と判断され、深刻なトラブルに発展する可能性があります。
強制退去を求めたいのであれば、賃借人と十分に交渉したうえで、弁護士のアドバイスを受けつつ、慎重に手続きを進めていきましょう。
冷静な交渉
賃借人が契約違反をしても、対応を改めるよう冷静に説得しましょう。
話し合いで円満解決ができれば、賃貸人と賃借人が感情的に対立する事態を回避できます。
賃借人に早急に退去してもらいたいのであれば、滞納している家賃を免除し、立退料も渡す条件を提示すれば、賃借人が退去に応じる可能性があります。
賃借人との交渉がうまくいかない場合に、契約解除・裁判所への訴え提起、強制退去の準備を進めましょう。
弁護士への相談
賃借人の退去の問題で悩むときは、不動産トラブルの解決実績が豊富な弁護士に相談しましょう。
弁護士は賃借人とのトラブルについてヒアリングし、次のようなアドバイスを行います。
- 賃借人の問題行動の把握
- 交渉で解決を図るコツ
- 裁判所に訴える方法
- 強制執行までの手順
- 弁護士を代理人にたてる有効性
相談をして「この弁護士なら任せられる」と感じたときは、そのままサポートを依頼してもよいでしょう。弁護士を代理人とすれば、賃借人との交渉や裁判手続きも全て任せられます。
強制退去でお悩みなら春田法律事務所にご相談を
今回は不動産問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、賃貸人が強制退去を求めることが可能な条件・手順等について詳しく解説しました。
賃借人が契約違反を起こしていても、賃貸人がいきなり追い出すような行動は認められません。裁判等の諸手続きを経たうえで、強制退去の実行ができます。
春田法律事務所では初回相談を無料で提供しています。賃借人とのトラブルに悩んだら、まずは気軽に相談し有益なアドバイスを受けてみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。