労働災害の主な補償とは?弁護士が補償内容や補償金額について詳しく解説!
2023年03月08日
労働災害が発生したとき、何が補償されて、何が補償されないのか、いくらの補償が受けられるのか、いつから補償が受けられるのかなど、お困りではないでしょうか。
今回は、労災保険での補償や内容・期間、補償を受けられる要件などについて、説明をしてまいります。
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- 労働災害によって労災保険から補償される内容について詳しく説明しています。
- 労災保険から支給される金額や計算方法を説明しています。
- 労災保険からの支給がいつから,いつまで続くのか,補償の期間について説明しています。
労働災害(労災)の補償に関する主な制度
労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。
では、労災保険における補償の種類には、どのようなものがあるのでしょうか。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
療養(補償)給付
まずは、療養(補償)給付です。
これは、簡単に言えば、治療費(療養費)を労災保険が負担することで、無料で治療を受けられるようにするための補償です。
療養(補償)給付には、「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2種類があります。
療養の給付は、労災病院や労災保険指定医療機関・薬局等で、無料で治療や薬剤の支給などを受けられます。これを現物給付といいます。
他方、療養の費用の支給は、近くに指定医療機関等がないなどの理由で、指定医療機関等以外の医療機関や薬局等で療養を受けた場合に、その療養にかかった費用を支給する現金給付です。
「療養の給付」の場合、患者である被災者ではなく労災保険に直接請求をすることが通常ですので、原則として、患者は病院の窓口で医療費を支払う必要はありません。
これに対し、「療養の費用の給付」の場合は、一旦、被災者が窓口で治療費等を立て替えて支払ったうえ、事後的に労災保険から立て替えた医療費が支給されるという流れです。
なお、給付の対象となる療養の範囲や期間については、療養の給付も療養の費用の支給も異なるところはありません。
休業(補償)給付
休業(補償)給付について見ていきましょう。
名前のとおり、労災が原因で休業をした場合に支払われる給付です。
休業(補償)給付が支給される要件は、労働者災害補償保険法第14条1項に定められています。
概要は、以下の3点です。
・業務上の事由または通勤による病気や怪我で療養中であること
・その療養のために労働することができない期間が4日以上であること
・労働できないために、会社(事業主)から賃金の支払を受けていないこと
労働者災害補償保険法第14条1項の条文を正確にご確認されたい方は、こちらをご参照ください。
休業(補償)給付に関する詳細は、以下の記事に記載してありますので、こちらもご参照ください 。
休業(補償)給付では、休業1日につき、給付基礎日額の80%(=休業(補償)給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。
給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額をいいます。
平均賃金とは、原則として、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときは、その直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額のことです。
なお、この「賃金」には、臨時的支払われた賃金、賞与・ボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金は含まれません。
このように、休業(補償)給付では、労災事故に遭う前の賃金全額が補償されるわけではなく、あくまでも給付基礎日額の80%にとどまってしまうため、労災事故の発生原因次第では、会社や第三者に不足分(特別支給金は考慮しないため40%です)の請求をすることも検討するべきです。
障害(補償)給付
怪我や病気が治ったとき、身体に一定の障害が残った場合には、傷害(補償)給付の支給対象となります。
ここでいう「治ったとき」とは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態をいいます。
つまり、労災保険では身体が完全に回復していなくても、医学的な観点からは症状に変動が見られなくなってしまい、心身に障害が残ってしまった場合でも(症状固定)、「治ゆ」と表現しているので、注意が必要です。
障害が残ると、仕事の継続が困難になり、または労働能力の一部を喪失する結果、事故前と同等の仕事ができない等の理由で収入が減ることが想定されます。
このような将来の収入の減少に対して支払われるのが障害(補償)給付です。
支給される金額は、労災保険によって認定された障害の程度に応じて決まります。
障害等級1級から7級までは年金払いの方法で、8級から14級までは一時金払いの方法で支給がなされます。
まず、1級から7級の場合は、以下のとおり定められています。
障害等級1級
障害補償年金 | 給付基礎日額の313日分 |
障害特別支給金 | 342万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の313日分 |
障害等級2級
障害補償年金 | 給付基礎日額の277日分 |
障害特別支給金 | 320万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の277日分 |
障害等級3級
障害補償年金 | 給付基礎日額の245日分 |
障害特別支給金 | 300万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の245日分 |
障害等級4級
障害補償年金 | 給付基礎日額の213日分 |
障害特別支給金 | 264万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の213日分 |
障害等級5級
障害補償年金 | 給付基礎日額の184日分 |
障害特別支給金 | 225万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の184日分 |
障害等級6級
障害補償年金 | 給付基礎日額の156日分 |
障害特別支給金 | 192万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の156日分 |
障害等級7級
障害補償年金 | 給付基礎日額の131日分 |
障害特別支給金 | 159万円 |
障害特別年金 | 算定基礎日額の131日分 |
次に、8級から14級の場合は、以下のとおり定められています。
障害等級8級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の503日分 |
障害特別支給金 | 65万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の503日分 |
障害等級9級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の391日分 |
障害特別支給金 | 50万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の391日分 |
障害等級10級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の302日分 |
障害特別支給金 | 39万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の302日分 |
障害等級11級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の223日分 |
障害特別支給金 | 29万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の223日分 |
障害等級12級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の156日分 |
障害特別支給金 | 20万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の156日分 |
障害等級13級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の101日分 |
障害特別支給金 | 14万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の101日分 |
障害等級14級
障害補償一時金 | 給付基礎日額の56日分 |
障害特別支給金 | 8万円 |
障害特別一時金 | 算定基礎日額の56日分 |
給付基礎日額については、休業(補償)給付と基本的な考え方、計算方法は同様であり、ボーナスなどは含まれていません。。
障害特別一時金の基礎となる「算定基礎日額」は、原則として、事故が発生した日または診断によって病気にかかったことが確定した日以前1年間に、その労働者が事業主から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った金額です。
つまり、「算定基礎日額」では、給付基礎日額の算定の基礎から除外されたボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金が含まれることになります。
遺族(補償)給付
労災によって労働者が死亡した場合、その遺族に給付されるのが遺族(補償)給付です。
遺族(補償)給付には、毎年支給がなされる「遺族(補償)年金」と、1回限り支払いがなされる「遺族(補償)一時金」が存在します。
遺族(補償)等年金は、「受給資格者」(受給資格を有する遺族)のうちの最先順位者(「受給権者」といいます)に対して支給されます。
遺族補償年金の受給資格を有する受給資格者は、労働者が死亡した時点で、その労働者の収入によって生計を維持されていた配偶者、子ども、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹です。
ただし、妻以外の遺族には、被災労働者の死亡の当時に一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要です。
給付内容は次のとおりです。
遺族(補償)年金は、受給資格のある遺族数に応じて金額が変わります。
遺族数 (金額)
1人 (給付基礎日額の153日分※)
2人 (給付基礎日額の201日分)
3人 (給付基礎日額の223日分)
4人以上 (給付基礎日額の245日分)
※ 遺族が55歳以上の妻または一定の障害のある妻の場合は、給付基礎日額の175日分
次に、遺族(補償)等一時金は、次のいずれかの場合に支給されます。
- 被災労働者の死亡の当時、遺族(補償)等年金を受ける遺族がいない場合
- 遺族(補償)等年金の受給権者が最後順位者まですべて失権したとき、
受給権者であった遺族の全員に対して支払われた年金の額および遺族(補償)等年金前払一時金の額の合計額が、給付基礎日額の1000日分に満たない場合
労働災害(労災)の補償期間はいつからいつまで?
ここまで、労災保険からの主な補償内容、補償金額について確認をしてまいりました。
では、労災の補償期間は、いつからいつまでなのでしょうか。
- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
療養(補償)給付
療養(補償)給付は、いつまで支給されるのでしょうか。
答えは、傷病が治ゆ(症状固定)するまでです。
ここでも、「治ゆ」との概念が登場しますが、先ほども説明したとおり、治癒とは、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった状態をいいます。
例えば、傷口が癒着し薬剤を必要としなくなったような場合は原則治癒と考えます。ただし、個々の傷害の症状によっては、その治癒の限界が異なることがあります。
なお、療養(補償)給付を受ける労働者の傷病が療養開始後1年6か月経過しても治らず、その傷病による障害の程度が傷病等級表に定める傷病等級に該当し、その状態が継続している場合には、傷病(補償)年金が支給されます。
傷病等級については、以下のリーフレットをご参照ください。
休業(補償)給付
休業(補償)給付は、先ほど説明もした以下の3つの要件を満たす限り支給が続きます。
- 業務上の事由又は通勤による負傷や疾病による療養
- 労働することができない
- 賃金をうけていない
支払のスタートは、待期期間を経た休業4日目からです。
なお、療養開始後1年6ヶ月経過し、その負傷又は疾病が治っておらず傷病等級表の傷病等級に該当する程度の障害がある場合は、傷病(補償)年金が支給されることになり、休業(補償)給付の支払は停止されます。
まとめ
今回は、労災の各給付における補償内容や補償金額、いつからいつまで補償されるのか(補償期間)について詳しく説明をいたしました。
労災の給付は複雑でなことも多いため、お困りの場合は、弁護士への相談をお勧めします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。