労災で指の怪我をした場合の補償金額の算定は?

2023年05月23日

仕事中に指を骨ごと切断する痛ましい事故や指の怪我が発生してしまった場合、今後の治療や仕事、生活をどうしていけばよいか、途方に暮れてしまうでしょう。

この怪我が「労働災害」と認定されれば、労災保険からの給付を受け取ることができますが、補償としては不十分かもしれません。

今回は、指切断やその他の指の怪我について、労災認定の流れや想定される障害等級、会社等への損害賠償について確認していきましょう。

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  • 労災事故で指の怪我が起きる場合や、その際の労災給付の内容を説明しています。
  • 労災認定のための要件について解説しています。
  • 指の怪我から想定される後遺障害等級や、その給付内容について説明しています。

この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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労災事故で指の怪我が起きる場面

指の怪我は、現場作業をする職種の方に起こりやすい事故です。
比較的発生しやすい事故ですが、中でも頻繁に起こりうる事例をいくつか紹介いたします。

  • プレス機など工場機械での怪我
  • チェーンソーなどの切削機器での怪我
  • 重量物の落下による怪我

プレス機など工場機械での怪我

工場でプレス機などの鉄や金属などを切断・成形する機械を用いている場合、機械の誤作動や、誤った操作方法によって、機械の中に指が巻き込まれてしまう事故がしばしば発生します。

事故が起きた場合、指自体が圧力で潰されてしまっていることもありますし、指自体の形状に問題がなかったとしても、大型機械を停止させるのにはそれなりの時間を要することも多く、指の再接着が難しくなることもあります。

チェーンソーなどの切削機器での怪我

工場での機械の回転刃や、山林などでチェーンソーなどの切断用機械を用いる場合に、切削部分に手指が巻き込まれてしまい切断に至るケースも少なくありません。

鋭利な刃物ですので、指が完全に切り落とされることが多いです。

重量物の落下による怪我

手指だけでなく足指を切断する事故も存在します。

たとえば、重量物が落下することで、受傷部位が壊死し、最終的には切断に至るというケースもあります。壊死の場合には再接着はほぼ不可能と言われています。

労災で指の怪我を負ってから労災給付を受けるまでの流れ

このような業務中の事故で、指の怪我を負ってしまった場合には、どのような流れで労災給付を受け取ることができるのでしょうか。

  1. 労災保険への申請
  2. 労災認定の要件
  3. 労災給付の内容

労災保険への申請

会社は、労働者が会社で働いている最中や通勤中などに負傷したり、疾病にかかったりした場合に備えて、労災保険への加入が義務付けられています。

業務中に、指の怪我をしてしまった場合には、まずは労災保険に対して、労災保険給付の申請をすることが必要です。

提出先は、労働基準監督署長です。

労災認定の要件

労災保険給付の申請後、労働基準監督署長による調査が実施され、労災であると認定されると保険給付を受け取ることができるようになります。

では、どのような要件(条件)が満たされれば、労災認定がなされるのでしょうか。
労災保険では、労働者の負傷・疾病などが「業務上の事由」により発生した場合に、労災給付がなされます(労働者災害補償保険法第1条)。

この「業務上の事由」について、詳しく見ていきましょう。

業務遂行性

業務上の事由は、業務遂行性と業務起因性に分けて論じられることが多く、業務遂行性と業務起因性の2つを満たした場合に、業務上の事由があると認められています。

業務遂行性とは、労働者が事業主の支配ないし管理下にある中で起きた事故である、ということです。
例えば工場での作業中の事故ということであれば、労働者が事業主の支配下または管理下にあったと言える可能性が高く、業務遂行性は認められることが多いのではないかと考えます。

業務起因性

最初のハードルである業務遂行性を超えれば、次は「業務起因性」が問題になります。

業務起因性とは、業務に伴う危険が現実化したこと、つまり、業務と結果(怪我や病気)の間に因果関係があることを言います。

業務に従事している間の事故であれば、一般的には業務起因性は認められやすく、工場内で業務を行っている際に生じた事故であれば、この業務起因性も認められやすいといえます。

たとえば、本人の私的行為や業務から逸脱した行為、規律に違反する行為等は、業務起因性を否定する事情になりえます。

労災給付の内容

労災と認められた場合には、どのような給付や補償が受けられるのでしょうか。

手指の怪我や切断事故を前提にすれば、主に、療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)給付、傷病(補償)年金があげられます。

療養(補償)給付は、病院の治療費や入院費、手術費、薬剤費などに関する補償です。

休業(補償)給付は、労災事故に起因する負傷等によって休業を余儀なくされた場合の休業期間の賃金に対する補償です。

傷病(補償)年金は、傷病等級3級以上の傷病が療養開始後1年6か月を経過しても治らない場合に給付される年金及び一時金です。
指の怪我との関係では、「両手の指全部の喪失」のときのみ、傷病補償年金が支給されることになります。

障害(補償)給付は、指の怪我について後遺障害が残存していることが認められた場合に、その程度に応じて給付される一時金または年金をいいます。障害(補償)給付については、あとで詳しく説明します。

労災で指の怪我を負った場合の後遺障害は?

では、労災で指の怪我を負った場合の後遺障害としては、どのような等級や内容が想定されるでしょうか。

  • 指の後遺障害は2種類
  • 障害給付の内容

指の後遺障害は2種類

指の後遺障害は、大きく分けると「欠損障害」と「機能障害」の2つに分類されます。
欠損障害は、手足の指を失った状態をいいます。
他方で、機能障害は、事故の影響によって指の動きに制限が生じた状態をいいます。

欠損障害

後遺障害等級表では、欠損障害について次のような等級が認定されると規定されています。

等級 残存した後遺障害の内容
第3級の5 両手の手指を全部失ったもの
第6級の7 一手の五の手指又は母指を含み四の手指を失ったもの
第7級の6 一手の母指を含み三つの手指又は母指以外の四の手指を失ったもの
第8級の3 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指を失ったもの
第9級の8 一手の母指又は母指以外の二の手指を失ったもの
第11級の6 一手の手指、中指又は環指を失ったもの
第12級の8の2 一手の小指を失ったもの
第13級の5 一手の母指の指骨の一部を失ったもの
第14級の6 一手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの

 

なお、「失った」状態とは、親指については第一関節を、他の指は第二関節以上を失った状態と定められています。

実際のお怪我がどの程度の後遺障害に該当するかの判断は複雑かつ専門的ですので、弁護士に相談することをお勧めします。

機能障害

次に機能障害については、次のような等級が認定されると規定されています。

等級 残存した後遺障害の内容
第4級の6 両手の手指の全部の用を廃したもの
第7級の7 一手の五の手指又は母指を含み四の手指の用を廃したもの
第8級の4 一手の母指を含み三の手指又は母指以外の四の手指の用を廃したもの
第9級の9 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指の用を廃したもの
第10級の6 一手の母指又は母指以外の二の手指の用を廃したもの
第12級の9 一手の手指、中指又は環指の用を廃したもの
第13級の4 一手の小指の用を廃したもの
第14級の7 一手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの

 

「用を廃した」についても、一部の欠損状態や、運動障害の状態、麻痺や感覚の喪失などが含まれており、専門的な判断が必要ですので、弁護士への相談をおすすめします。

障害給付の内容

上記のとおり、指の怪我については欠損障害や機能障害との分類のもと、その程度に応じた障害等級が設定されています。

では、この障害認定を受けた場合、どういった給付がなされるのでしょうか。
後遺障害1級から7級の場合、「年金」として毎年の支給がなされます。
他方で、8級から14級の場合は、「一時金」として1回きりの支給がなされます。

具体的な支給の内容は次のとおりです。1級から7級は年金支給です。

等級 支給額の計算方法
第1級 給付基礎日額の313日分
第2級 給付基礎日額の277日分
第3級 給付基礎日額の245日分
第4級 給付基礎日額の213日分
第5級 給付基礎日額の184日分
第6級 給付基礎日額の156日分
第7級 給付基礎日額の131日分

次に、8級から14級です。こちらは一時金支給です。

等級 支給額の計算方法
第8級 給付基礎日額の503日分
第9級 給付基礎日額の391日分
第10級 給付基礎日額の302日分
第11級 給付基礎日額の223日分
第12級 給付基礎日額の156日分
第13級 給付基礎日額の101日分
第14級 給付基礎日額の56日分

指の怪我の労災事故を弁護士に依頼するメリット

弁護士に依頼するメリットとしては、次の3つが考えられます。

実態に見合った後遺障害の認定を受けられる

上でも説明したとおり、労災によって後遺症が残ってしまった場合、後遺障害等級認定を受けることとなりますが、この障害等級が1級違うだけで、保険給付額や、会社からの賠償金額に、数百万円単位で差が生じてしまうこともあり、後遺障害等級認定は、労災事故の中でも重要な手続です。

しかし、後遺障害等級が適切か否かは、労災保険における後遺障害の認定がどのような基準によって行われているのかを熟知している必要がありますし、医学的な知見も必要です。

さらに、労災保険が適切な認定をしなかった場合には、情報開示を経るなどしたうえで、審査請求と呼ばれる不服申立ての手続や裁判を起こすなどの対応が必要となる場合もあります。

このような専門的かつ複雑な内容を、被災者ご本人やご家族が行うことは至難の業であり、労災に精通した専門の弁護士への相談・依頼の大きなメリットの1つであるといえます。

労災保険への申請が適切・円滑にできる

冒頭でも記載しましたが、労災保険の申請は原則として会社が行いますし、労働者が対応しなければならない場合でも、わかりやすい書式や記載例などが用意されており、また労基署や労働局の窓口も丁寧に対応してくれるため、労働者本人での対応も可能です。

しかし、やはり労災事故に遭った労働者ご本人やご家族としては、治療に専念し、煩わしい手続から解放されたいということが本音ではないでしょうか。

弁護士に依頼することで、これらの労災申請手続の支援を受けることが可能になります。

会社への損害賠償を請求できる

発生した労災事故について会社側に安全配慮義務違反やその他の義務違反があれば、労働者は会社に対して、損害賠償をすることが可能です。

しかし、会社はすんなりと責任を認めてくれるのでしょうか。
また、実際に損害賠償できる金額はいくらなのでしょうか。

労働者本人や家族が、責任の有無を判断したり、責任がないと主張する会社側の責任を追及したり、具体的な損害額を積算することは難しいでしょう。
その結果、適切な賠償金を獲得できない可能性が極めて高いといえます。

労災に強い弁護士に依頼をすることで、会社への損害賠償請求をスムーズに行うことが可能であり、適切な損害賠償を受けられる可能性も大きく高まるでしょう。

まとめ

いかがだったでしょうか。

今回は、労災のうち指の怪我に着目してご説明をいたしました。
指は生活にも仕事にも重要な役割を果たしており、指の怪我をしてしまった場合には、たちまち生活や仕事ができないといった状態になる可能性もあります。

そのようなときには、治療に専念しながら、適切な補償を受けることが重要です。
この記事を見て、適切な補償が受けられているのか、後遺障害認定に不安がある、会社に対して責任追及をしたい等と考えられた方は、弁護士にご相談ください。

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