介護事故の示談交渉での請求内容や進め方を専門弁護士が解説

最終更新日: 2024年02月26日

介護事故の示談交渉での請求内容や進め方を専門弁護士が解説

介護事故の定義は様々で、一律に定義づけされてはいません。ただ、今回は以下の定義に沿って解説していきます。

施設内および職員が同行した外出時において、利用者の生命・身体等に実害があった。または実害がある可能性があって観察を要した事例(施設側の責任の有無、過誤か否かは問わない)

介護事故で事業者側に非があると認められるときには、利用者側は事業者側に損害賠償請求を行うことになります。ただ、裁判には多くの時間や費用がかかり、双方への負担が少なくありません。そのため、まずは話合いや示談交渉から始めることが一般的です。

今回は、介護事故の示談の実績が豊富な当法律事務所の弁護士が、介護事故における示談と交渉が決裂した後の流れを解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護事故の示談交渉についての基礎知識

ここでは、介護事故の示談に関する基礎知識を2つ解説します。

介護事故の損害賠償金額を決める要素

介護事故の示談に関する基礎知識、1つ目は介護事故の損害賠償金額を決める要素です。

損害賠償金額を決める主な要素は、以下の4つです。示談金の中には弁護士費用が含まれる点も、留意しておきましょう。

積極損害
  • 事故が生じたために支出を余儀なくされた費用
  • 治療費、通院交通費、入院費など
消極損害
  • 事故が生じていなければ得ることができていたと考えられる利益
  • 逸失利益や休業損害など
慰謝料
  • 精神的苦痛に対して支払われる金銭補償
  • 3種類に分けて請求をすることが一般的(詳細後述)
弁護士費用
  • 法律構成によっては、請求金額の中に上乗せすることも
  • 総損害額の1割程度が相場

損害賠償金額の決め方

介護事故の示談に関する基礎知識、2つ目は損害賠償金額の決め方です。

介護事件での慰謝料金額に、一律の算定基準はありません。そのため、過去の類似の裁判例などを参考に、慰謝料金額を考えることになります。

請求しうる慰謝料としては、以下の3種類が考えられます。自分のケースに当てはまるものがないか、参考になるケースはないか一度目を通しておくとよいでしょう。

入通院慰謝料
  • 入院・通院を余儀なくされたときに請求
  • 金額は入・通院の各期間の長さから算出
後遺障害慰謝料
  • 後遺障害が残ったときに請求
  • 介護事故には後遺障害等級を認定する機関がないため、被害者が後遺障害の存在や程度・具体的な金額を立証する必要あり
  • 受け取るにはハードルが高い慰謝料
死亡慰謝料
  • 被害者が死亡する、重大事故が生じたときに請求
  • 介護事故においては1000万円~2000万円程度が相場
  • 遺族固有の慰謝料として、別途数百万円程度の損害請求が認められることも

介護事故の示談交渉はどのように始まるのか

では、介護事故における示談交渉は、どのように開始されるのでしょうか。利用者ご家族からのアクションが必要なのか、事業者側からの連絡を待っておけばよいのかなど,最初の動き方に悩まれる方もいらっしゃるでしょう。 以下、示談交渉の開始についてご説明します。

事業者側から音沙汰がない原因

介護事故が起きた後、事業者が一度お見舞いに来たものの、その後具体的な話し合いは一切進んでいないといった相談がしばしば寄せられます。 このような状況に陥る原因としては、以下が想定されます。

  • 事業者側が、落ち度がないと考えている場合
  • 事業者側も利用者家族からの連絡を待っている場合
  • 事業者側が、事故について調査を行っている場合

事業所側が、落ち度がないと考えている場合

事業者が、事故について落ち度がないと考えている場合には、利用者やご家族を気遣うような対応はあるかもしれませんが、落ち度がないと考えている以上、損害賠償の提案はして来ません、

事業者側も利用者家族からの連絡を待っている場合

たとえば、事業者側が、入院中の利用者やその家族を気遣い連絡を控えているような場合など、事業者側が利用者家族からの連絡を待っていることも想定されます。 また、利用者側から、積極的に賠償の話をしていなければ、事業者側が事故の説明に納得してくれたのだろうと誤解してしまうこともあるでしょう。

いずれのパターンも、利用者家族と事業者側に認識のズレが生じていることが要因といえます。

事業者側が、事故について調査を行っている場合

事業者側からの連絡がない理由として、事故についての調査を行っている段階で、具体的な方針や判断を伝えることができない場合も想定されます。

たとえば、事故状況について、各職員からヒアリングを実施している場合もあります。また、利用者の怪我に関して、医学的な資料取得をする必要が生じることもあり得ます。その場合には、医療照会の「同意書」の作成を求められることもあるでしょう。

事業者側から音沙汰がない場合の対応方法

このように、原因はさまざまですが、事故からしばらくしても事業者側からの連絡がないこともあり得ます。 このような場合には、まず、利用者ご家族から事業者側へと連絡をしてみることが肝要です。

その際、事故被害者として感情的になってしまったり、事業者側に対して疑心暗鬼になることもあるでしょうが、できる限り、冷静な対応を行うべきです。 冷静な態度で、事故状況を書面で説明して欲しい、事故についての法的責任に関する考えを教えて欲しいというように、希望する事項を明確に伝えることでスムーズに交渉を開始できる確率が高まります。

介護事故の示談交渉の進め方

ここでは、介護事故での示談について2つ解説します。

当事者同士の話合い

示談とは、利用者側と事業者側、当事者同士の話合いのことです。

示談では、両当事者(弁護士がついているときは弁護士同士)が損害賠償額について協議します。その上で、合意内容を示談書に残して賠償金を支払ってもらいます。

メリットは、尋問などの裁判手続きが不要なため、話合いがうまくまとまれば早期解決できることです。一方、デメリットは、両当事者が話合いの内容に納得しない限り成立しないことです。

代理人たる弁護士が話合いを進めれば、冷静に協議ができるため、示談が成立しやすいでしょう。

弁護士が示談でできること

ここでは、弁護士が示談でできることを解説します。

1つ目は、相手方事業所あてに内容証明郵便を送付することです。これは、損害賠償請求する旨を記したものです。内容証明郵便に対して、事業者側が書面や電話で回答したことをもって具体的な示談交渉を開始します。

ただし、以下の2つのケースでは、この段階を飛ばすこともあります。

・すでに事業所側に弁護士がついていることが分かっているとき
・保険会社から一定額の示談金の提示を受けているとき

2つ目は、合意をまとめることです。示談交渉における主な争点は、以下3つです。

・過失の有無
・因果関係の有無
・後遺障害の有無や程度

弁護士が間に入ることで、被害者側も落ち着いて話合いの席につけるため、交渉がまとまりやすくなるでしょう。

介護事故で示談交渉が決裂した場合

示談交渉はあくまで話合いによる解決であるため、両当事者が納得しなければ合意形成できないこともあります。

ここでは、介護事故で示談交渉が決裂した後の流れを解説します。

調停

決裂した後の流れ、1つ目は調停です。

調停は,話合いによりお互いが合意することで紛争解決を図る手続です。ただし、調停手続は裁判所を利用する上に中立な第三者である調停人が間に入る点で、示談交渉とは異なります。

一方、事業者側と利用者側双方の当事者の合意・納得が必要という点は、示談交渉と共通しています。また、調停人が和解案を提示しても、それを受け入れるかは当事者同士の自由です。

通常、双方に弁護士がついても示談が成立しない事案では、調停も成立しない可能性が高いと思われます。しかし、訴訟と比べて費用や期間を節約できることはメリットといえます。

民事訴訟

決裂した後の流れ、2つ目は民事訴訟です。

示談交渉による解決を望まないときや、示談が不成立に終わったときには、民事訴訟も検討しましょう。訴訟は、示談や調停とは異なり、相手方の同意なく提起可能です。

裁判所が、事故と損害発生の間に因果関係があると判断すれば、当該損害額について賠償義務が認められます。また、そのことが判決文に記載されれば、法的な拘束力をもちます。

ただし、訴訟を提起するには、訴額に応じた訴訟費用が必要です。また争点の重さによっては1年半から2年の長丁場になることもあることにも注意しなければなりません。

まとめ

今回は、介護事故における示談と交渉が決裂した後の流れを解説しました。示談交渉を行うときには、客観的な証拠をそろえた上で、過去の判例や「赤い本」などを用いて損害賠償金額を決定して交渉していくことになります。

ただし、それらを用いて適切に示談交渉を行うには、十分な法的知識と交渉力が必要で、一般の方ではなかなかうまくいきません。また、訴訟になると1年以上の長丁場になるケースもあり、自分たちだけで裁判に対応することは事実上不可能といえます。

介護事故の示談交渉を行いたいときには、当法律事務所にご相談ください。介護事故の示談の実績が豊富な弁護士が、迅速に示談交渉をまとめるお手伝いをいたします。

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