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介護事故の過失割合について解説~介護事故の被害者にも過失があるのか?

介護事故の過失割合について解説~介護事故の被害者にも過失があるのか?

2021年07月27日

介護事故の過失割合について 介護事故の被害者にも過失はあるのか?いま、この記事をご覧になっている方の中には、交通事故における損害賠償額をめぐって被害者と加害者とが(あるいは双方の保険会社が)交渉する際、「3:7」とか「2:8」といった数字がやりとりされることをご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

あるいは、自動車保険について調べているときに、こうした数字を目にした方もいらっしゃるかもしれません。

これらの数字は、「過失割合」といいます。

過失割合とは、ある当事者の間で発生した損害について、当事者双方の「過失」の程度を比較したものです。

たとえば、Aさんが運転する自動車が交差点にさしかかり、左折しようとしたときに、後方からBさんが運転するバイクが直進してくることを確認しなかったため、接触し、転倒したBさんに100万円相当の損害が生じたとしましょう。

このとき、Bさんも脇見運転をしており、前方確認さえ怠っていなければ接触事故は避けられたのであるから、事故の発生について30%はBさんにも過失があると判断された場合、過失割合は、A:B=7:3となります。

実際問題として、交通事故でいえば、信号無視や、停車中の自動車に追突した場合など、加害者側に100%の過失があることが明白な事故でない限り、当事者双方に過失があるとされる事例は多いです。

過失割合がなぜ問題になるのかと言えば、損害賠償額が過失割合によって調整されるからです。この過失割合による調整を「過失相殺」といいます。

詳しくは後ほどご説明しますが、先ほどのAさんとBさんの例を使って簡単に言えば、Bさんの100万円相当の損害について、30%はBさんにも過失があるという場合、損害賠償額は、AさんがBさんの損害について過失があると考えられる割合、つまり損害額全体の70%に縮小され、100(万円)×0.7=70万円となります。

この記事を監修したのは

南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部 卒業
京都大学法科大学院 卒業
大阪市内の総合法律事務所に勤務
春田法律事務所 入所

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介護事故にも過失割合はあるの?

介護事故にも過失割合はあるの?さて、この記事で主に考えたいのは、交通事故ではなく、介護事故における過失割合です。
介護事故の定義については、以下のコラム「1.1介護事故の定義」をご参照ください。

関連記事:介護事故とは何か?弁護士が施設側・利用者側の両面から対応方法を解説:春田法律事務所

 

この介護事故を理由とした損害賠償請求においても、交通事故と同様に、過失割合が問題となる、つまり、利用者側にも過失が認められる場合はあるのでしょうか。

以下、一緒に考えていきましょう。

そもそも介護事故における「過失」とはなんでしょう?

「過失」という言葉を何度も使ってきましたが、実は、問題となる場面ごとに、その意味合いは若干異なるので注意が必要です。

交通事故のような「不法行為」事例の場合、当事者の「過失」が正面から問題になります。まずは、不法行為の成否に関する民法の規定を見てみましょう。

民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と規定しています。

このように、ある行為によって他人に生じた損害を賠償する責任が生じる場合に、その行為を「不法行為」といいます。

条文に規定されているとおり、ここでの「過失」は、故意と並んで不法行為の成立要件の1つです。行為者(加害者)に故意も過失も認められない場合には、不法行為責任は成立しません。これを「過失責任主義」といい、民法上の大原則の1つです。

過失責任主義は、一言で言えば、個人の自由な活動を保障することを目的としています。
ある人の活動が他人に損害を生じさせた場合、その人が必ず損害賠償責任を負うとする(結果責任主義)と、人々の社会活動が過度に萎縮するおそれがあります。
そのため、不法行為責任には故意または過失というフィルターが用意されているのです。

以上のように見ていくと、不法行為における「過失」の具体的内容は、個人の自由な活動の範囲外であること、つまり、「その行動は不適切だった」という評価であると考えられます。こうした評価が妥当する場合に限り、他人に生じた損害を賠償する責任が生じるのです。

より詳しく言えば、「過失」とは、結果発生の予見可能性がありながら、結果の発生を回避するために必要とされる措置(行為)を講じなかったこと、つまり、結果回避義務に対する違反をいいます。

では、改めて介護事故における「過失」とは何でしょうか。
実は、介護事故においては、介護施設側の「安全配慮義務違反」というものが問題となりますが、その実質はすでに見た「過失」とほぼ同じです。

この「安全配慮義務」とは何でしょうか。
介護施設と利用者の間には、交通事故とは違って、通所介護契約や介護利用契約といった「契約」が存在します(以下、「介護契約」と表記します)。

介護契約上、介護施設は、介護サービスを提供する義務だけではなく、それに付随して、利用者の心身の状態を把握し、介護の現場で、利用者が不慮の事故に巻き込まれないよう配慮する義務があると考えられています。この義務を、裁判実務上「安全配慮義務」といいます。

当事者が契約関係にない交通事故の場合とは異なり、介護事故の場合は、契約上の義務である安全配慮義務に違反したとの法的構成で、請求がなされることが大半です。

ちなみに、介護事故も、契約違反ではなく、交通事故などと同じ不法行為という類型と捉えることが可能な場合はありますが,このテーマについては、また別の機会でお話できればと思います。

このように,契約上の義務の問題であるため、安全配慮義務違反は「債務不履行」(契約違反)であって、不法行為における過失とは、厳密にはその性質を異にします。

ただ、要するに、利用者の身体・生命に損害を生じさせてはならないという義務に反したかが問題とされるので、言葉は違えど、その実質は不法行為における「過失」とほとんど同じと考えてもらっても問題はないでしょう。

難しい話が長くなってしまいましたが、結局、「安全配慮義務違反≒過失(結果回避義務違反)」ということができるのです。

介護事故で利用者側にも過失が認められる場合とは?

介護施設側の「過失」(安全配慮義務違反)の意味はお分かりいただけたと思います。
介護事故における過失割合や過失相殺を考えるにあたり、次に利用者側の「過失」が問題となります。

もう一度,先ほどの交通事故のAさんとBさんの例における過失相殺を見てみましょう。
この接触事故では、Aさんが後方確認を怠って自動車を左折しようとしたため、Bさんが被害者となりました。第一に責められるべきは、もちろんAさんです。

では、Aさんは、Bさんに生じたすべての損害を賠償しなければならないのでしょうか。

ここで、登場するのが「過失相殺」という考え方です。

法は、損害を公平に分担すべきであるとの発想から、Bさんにも損害の一部を負担すべき事情があるのであれば、Bさんに生じた損害の全てをAさんだけが負担するのは、おかしいと考えています。

つまり、Bさんも脇見をしていたのであるから、Aさんが分担すべき損害は、全体の7割にとどまる(3割を相殺する)ということになるのです。

では、介護事故における「過失割合」や「過失相殺」については、どのように考えらればよいのでしょうか。

交通事故と同様に、介護施設の利用者に対しても、「過失相殺」が認められるのでしょうか。
ここまでの説明を受け、利用者側に「過失相殺」を認めることに、違和感を覚える方もいらっしゃるように思います。

しかし、結論からお話しすると、介護事故においても、介護施設の利用者側に対して、過失相殺が認められることはあるのです。

ただし、介護施設は、利用者に高齢や病気からくる認知機能や身体機能の衰えがあることを前提に、介護サービスを実施することを約束し、受け入れているのですから、「認知症だった」とか、「転倒しやすい身体の状態であった」等の理由のみをもって、過失相殺がなされるべきではありません。

実際に、「過失相殺」が認められた判例でも、単に「認知症だから」との形式的な理由で、損害の公平な分担が図られているわけではありません。

介護事故の過失割合に言及した判例

介護事故の過失割合に言及した判例抽象的な話が続いてしまったので、実際に介護施設の利用者の「過失」が問題となった判例を5つご紹介し、その次に過失相殺の規定についてご説明します。

利用者の「過失」が問題となった判例
  1. 横浜地裁平成17年3月22日判決(判タ1217号263頁)
  2. 神戸地裁伊丹支部平成21年12月17日判決(判タ1326号239頁)
  3. 大阪地裁平成29年2月2日(判タ1438号172頁)
  4. 東京地裁平成15年3月20日(判時1840号20頁)
  5. 大阪高裁平成25年5月22日(判タ1395号160頁)

なお、以下の判例の紹介では、原告は利用者側、被告は施設側を表しています。

判例1.横浜地裁平成17年3月22日判決(判タ1217号263頁)

本件は、介護施設の通所介護サービスを受けていた原告が、同施設内のトイレ内において転倒し、右大腿骨頸部内側骨折の傷害を負ったうえ、後遺障害が生じたことを理由として、同施設側に対し、介護料、慰謝料等の損害賠償請求をした事案です。

原告には腰痛の持病があり、また、この介護事故以前にも、転倒によって骨折をしたことがあったため、同施設の通所介護を受けていました。また、通所介護契約上、介護施設側は通所介護計画に基づくサービスを提供し、その中には、原告の移動の介助、見守り等を行う介護サービスも含まれていました。

裁判所は、介護施設側の安全配慮義務違反を認め、原告の損害賠償請求を認容しましたが、「原告は、本件トイレを自ら選択し、同トイレ内部での歩行介護について、本件施設の職員に自らこれを求めることはせず、かえって、本件施設職員に対して『自分一人で大丈夫だから。』と言って、内側より自ら本件トイレの戸を閉め、単独で便器に向かって歩き、誤って転倒したのであるから、原告においても、本件事故発生について過失がある」と判断し、原告の過失割合を3割であるとしました。

判例2.神戸地裁伊丹支部平成21年12月17日判決(判タ1326号239頁)

本件は、指定痴呆対応型共同介護施設であるグループホームに入居していた原告が、同施設内で2度にわたり転倒し、骨折を伴う事故に遭ったとして、同施設側に対し、損害賠償請求をした事案です。

原告には認知症の症状があり、物盗られ妄想や、徘徊で警察に保護されることが多くなったことを理由として、同施設に入所しましたが、認知症があることを除いて、日常生活はほぼ自立していました。

2度にわたる転倒は、原告居室の窓のカーテンの開閉の際に、原告の足がふらついたことを原因とするもので、いずれも介護施設職員による見守りがないときでした。

裁判所は、同施設側の損害賠償責任を認めたうえで、過失相殺の有無について、「原告は、認知症に罹患しており、成年後見人も選任されていたのであるから、精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況…にあったといえ、通常人と同様に、重過失や過失を問うことはできない」として、これを否定しました。

判例3.大阪地裁平成29年2月2日(判タ1438号172頁)

本件は、ある男性が、社会福祉法人との間で介護利用契約を締結し、同法人が運営する特別養護老人ホームに入所していた際に、転倒して頭部を負傷し、急性硬膜下血腫を原因とした呼吸不全により死亡したため、男性の相続人である原告らが、安全配慮義務違反を理由に、同法人に対し、損害賠償請求をした事案です。

この男性は、介護利用契約を締結する11か月ほど前に、身体障害者等級2級(両下肢機能著しい障害2級及び両上肢機能軽度障害6級)及び第1種身体障害者(バス介護付き)の身体障害者手帳の交付を受けていました。

裁判所は、男性は、「本件事故当時、意思能力には問題がなかったにもかかわらず、一人でトイレに行かずにナースコールで被告の職員を呼ぶようにとの被告の職員の声掛けを無視して一人でトイレに行こうとして転倒したのであるから」本件の転倒について過失があると判断し、男性の過失割合を4割であるとしました。

判例4.東京地裁平成15年3月20日(判時1840号20頁)

本件は、医師が設置運営する医院においてデイケアを受けていた男性が、そのデイケアから帰宅するための送迎バスを降りた直後、転倒して骨折し、更には肺炎を発症して死亡したため、男性の相続人である原告らが、同医師に対し、損害賠償請求をした事案です。

この男性は、医師からアルツハイマー型老年性痴呆、そしてせん妄(軽い意識の混濁とともに、幻覚や妄想などの錯覚が加わった状態)の診断を受け、その抜本的な改善を目的として、
同医師の医院でデイケアを受けていました。転倒した当時、男性は自立歩行が可能であったものの、貧血状態にあって、体重も減少傾向にありました。

裁判所は、男性は「本件事故当時、…自立歩行が可能であって、歩行の際に介護士等が手を貸す必要のない状況であった上、同人には中等度の痴呆状態が認められていたものの、簡単な指示であれば理解し、判断をすることができたことからすると、その余の…身体状況等を考慮しても、本件事故は、まずもって、…自身の不注意によって生じたものと解さざるを得ない」と判断し、男性の過失割合を6割であるとしました。

判例5.大阪高裁平成25年5月22日(判タ1395号160頁)

本件は、介護保険法上の特定施設入居者生活介護事業者が運営する介護付き有料老人ホームに入居していた女性が、入居3日目の朝食時、同施設から提供されたロールパンを誤嚥し、その後窒息死したため、女性の相続人である原告らが、同施設に対し、損害賠償請求をした事案です。

女性はうつ病に罹患し、約8か月入院をしていました。また、その間に、出血性直腸潰瘍による下血があり、ポリープを除去する手術を受け、退院するまで粥食が提供されていました。

本件の事故当時、女性は施設の職員に、入居していた個室まで朝食を配膳してもらい、車椅子に座った状態で、1人で食事を取り始めました。しかし、約20分後、朝食のロールパンを誤嚥して車椅子上で頭を後ろに反らせ昏睡状態となっているところを、職員に発見されたのです。

裁判所は、女性側が入居の際に個室での食事を希望したこと自体は特に責められることではなく、女性と施設との間で合意された「居室(個室)での食事」を前提にして過失の有無を考えるべきであるから、個室での食事を希望したことを女性側の重大な過失として考慮することは相当ではないとしました。

また、食道に関する疾患の既往歴及び誤嚥の症状があることについては、入院していた病院の看護師が作成した看護記録及び医師が作成した紹介状により、施設が認識することは可能であり、女性側が特に注意喚起をしなかったことをもって、女性側に重大な過失があると認めることはできないとしました。

さらに、医師から食事に関する特別の申し送りが施設に対してなされなかったことは、そもそも女性側の過失として考慮の対象にすることはできないとし、最終的に女性側の過失を否定しました。

介護事故の過失割合が問題となる理由

介護事故の過失割合が問題となる理由ここまで判例からもおわかりのように、多くの裁判例で、過失割合が問題となってきました。
では、なぜ、過失割合が問題となるのでしょうか。

介護事故について、過失割合が問題となるのは、「過失相殺」がなされることで損害賠償額に多大な影響が生じるためです。

ここでは、再度、過失相殺についてご説明したうえで、上記の1から5の判例における過失相殺の影響について、具体的に考えていましょう。

介護事故の過失割合と過失相殺

では、改めて、「過失相殺」に関する条文を確認してみましょう。

介護契約上の安全配慮義務違反のような、債務不履行に基づく損害賠償について、民法418条は、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める」と規定しています。

この条文では、債権者(損害賠償請求権を有する者、つまり利用者側)の過失を考慮して、「損害賠償の責任」及び「その額」を「定める」とされています。

つまり、債権者の過失の程度によっては、損害賠償額を縮小するにとどまらず、そもそも損害賠償責任自体を否定する(損害賠償額=0)こともありえます。

また、「定めることができる」という文言ではないので、債権者側に過失が認められる場合は、必ず民法418条に基づく過失相殺が行われることになります。

なお、交通事故などの不法行為に基づく損害賠償における過失相殺については、民法722条2項が、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と規定していますが、民法418条と民法722条2項の趣旨は同じであるとして、裁判実務では、文言の違いはあまり重視していません。

これらの条文を根拠として、もし利用者側にも、自己の損害の発生またはその拡大について、自ら寄与した部分が認められるならば、この部分について介護施設側が賠償する責任を負うとすることは公平に反するという考えのもと、過失相殺がなされるのです。

介護事故の判例で主張された過失相殺に関わる具体的な事情

先ほどご紹介した判例から、過失相殺が認められた具体的な事情,否定された具体的な事情について、まとめてみたいと思います。

  • 判例1(過失相殺3割)
  • 判例2(過失相殺否定)
  • 判例3(過失相殺4割)
  • 判例4(過失相殺6割)
  • 判例5(過失相殺否定)

判例1(過失相殺3割)

判例1では、トイレ介助を受けていた利用者が「自分一人で大丈夫だから」と述べたことを指摘しており、いわゆる「介護拒絶」があったことが認定されています。

他方で、施設側が専門機関であることも指摘されており、この専門性を理由に過失相殺が3割にとどまると判断したものと考えられます。

なお、介護拒絶については、介護を拒絶している以上、そもそも施設に介護義務はなく、法的責任を負わないのではないかとの主張もなされています。

もっとも、裁判所は、「介護拒絶の意思が示された場合であっても、介護の専門知識を有すべき介護義務者においては、要介護者に対し、介護を受けない場合の危険性とその危険を回避するための介護の必要性とを専門的見地から意を尽くして説明し、介護を受けるよう説得すべきであり、それでもなお要介護者が真摯な介護拒絶の態度を示したというような場合でなければ、介護義務を免れることにはならないというべき」と判示し、専門的な知識を有する施設側が容易には介護義務を免れることがないことを明示しています。

判例2(過失相殺否定)

判例2では、過失相殺が否定されました。

本件は2件の転倒事故が相次いだ事案ですが、施設側からは、1度目の転倒については「高齢者であっても通常転倒するとは考えがたい状況」にあったことが指摘されており、また2度目の転倒については、単独で歩行しないよう説明を受けていたことが指摘されています。

これに対し、裁判所は、そもそも、利用者が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあったとして、過失相殺の前提を欠くため、過失相殺を認めないとの判示をしています。

本来は、過失相殺を認めない理由としては上記の指摘だけで十分ですが、この判例は、これに加えて、利用者が認知症にあり、要介護状態にあることを前提に,本件契約を締結しており、対価を得て介護サービスを提供する立場にあると指摘したうえで、疾患を有する患者に対応する医療契約と類似した性格があると評価し、過失相殺(の類推)を理由に損害賠償責任を減額するのは相当ではないとも述べています。

判例3(過失相殺4割)

判例3では、4割の過失相殺が認められました。

施設側は、トイレに行く際にはナースコールを利用するよう指導されていたが、これを怠り一人でトイレに行ったこと、杖を忘れて単独で歩行したことを過失相殺の事情として指摘しています。

これに対し、裁判所は、本件事故当時、利用者の意思能力には問題がなかったことを認定したうえで、利用者が一人でトイレに行かずにナースコールで職員を呼ぶようにとの職員の声掛けを無視して一人でトイレに行こうとして転倒したと認定し、4割の過失相殺を行いました。

なお、利用者側からは、ナースコールを押しても職員が来てくれないことが常態化していたとの主張を展開したようですが、裁判所はこの事実を認定しませんでした。

もし、ナースコールを押しても誰も来てくれないとの事実が認められていたのであれば、過失相殺がなされなかった可能性もあるだろうと推察します。

判例4(過失相殺6割)

判例4では、利用者側に6割もの過失相殺が認められています。

送迎の際の転倒事故である本件について、裁判所は、事故当時、利用者は自立歩行が可能であって、歩行の際に介護士等が手を貸す必要のない状況であった上、同人には中等度の痴呆状態が認められていたものの、簡単な指示であれば理解し、判断をすることができたと指摘しています。

つまり、施設側には移動の際に常時介護士が目を離さずにいることが可能となるような体勢をとるべきであったとしながらも、利用者の身体の状況が比較的良好であったことを受け、転倒自体の主たる原因が利用者の不注意によって生じたものと認定したものです。

このように、利用者の身体の状況や認知能力や、転倒の状況などの個別具体的な事情によって、過失割合は極めて大きく左右されるものです。

判例5(過失相殺否定)

判例5では、過失相殺が否定されています。

施設側は、利用者が居室での食事を希望したこと、食道の疾患や誤嚥のおそれについて利用者側が説明をしていなかったこと、医師からの申し送りがなかったことを過失相殺の事情として指摘しています。

もっとも、裁判所は、居室での食事自体を希望することは特に責められることではないうえ、両者が合意した居室での食事を前提とした責任を課すものであるから、これを過失相殺の事情とすることはできないと判断しました。

また、利用者側が説明をしておらずとも、看護サマリーや医師からの書類で、誤嚥に関する症状などを十分に認識できたと判示しています。
この判示は、介護事業者たる施設側が専門的知識を有することを前提に、知識に格差のある利用者側に対して、過度な負担を求めない旨の判断であり、評価に値します。

加えて、医師からの申し送りについては、利用者側に対する過失相殺の対象ともならないと判断しています。
この点は、まさに損害の公平な分担という観点からの指摘であるといえます。

なお、この判決では、過失相殺は認められなかったものの、施設側が指摘した事情が一部慰謝料額の評価において考慮されています。

判例のまとめ

以上のように、介護事故における過失相殺に言及した判例では、利用者側の「過失」は、利用者側に事理弁識能力があることを大前提に、利用者側の不注意といえる事情の有無や、その程度が検討されています。

もっとも、この利用者側の不注意といえる事情の有無の判断において、裁判所は、利用者の身体・精神の状況や、当該事故の態様等を、相当程度詳細に、個別具体的に検討したうえで、判断を下しています。

過失相殺の影響は大きい

過失相殺が認められた場合、過失相殺が損害額に与える影響はとても大きいです。
最後に、過失相殺が認められた判例1、判例3および判例4で、最終的に認められた損害額を見てみましょう。

判例1

裁判所は、原告の男性に生じた損害額合計(過失相殺の対象とならない弁護士費用を除く。以下同様)を、1632万9599万円と判断しましたが、男性の過失割合は3割であったため、過失相殺により1143万719円にまで減額されました。

判例2

本件では、損害額合計は1528万106円であったのに対し、原告側に4割の過失があることにより、916万8063円にまで減額されました。

判例3

本件では、損害額合計は1720万6545円であったのに対し、原告側に6割の過失があることにより、688万2618円にまで減額されました。

まとめ

まとめ以上、ここまで介護事故における過失割合および過失相殺を、民法の規定や、さまざまな判例に言及しながらご説明しましたが,いかがでしょうか。

過失相殺は当事者の公平を確保するためになされる損害額の調整です。

介護施設は、専門家として、対価をもらって、認知能力や身体に障害を抱える高齢者の生活の介護・介助を引き受けている以上、単に認知症であるといった契約の前提たる事情を理由に、安易に過失相殺をすべきではないでしょう。

しかし、他方で、たとえば、利用者側が介護を拒絶した場合(ただし、介護拒絶に至る経緯や、それに対する施設側の応対など個別具体的な事情によります)などには、過失相殺が認められる可能性もあります。

つまり、事理弁識能力が備わっていれば、利用者側にも「過失」が認められる可能性があり、その結果、損害額の大幅な減額がなされうるのです。

介護事故における法的責任の有無や、利用者側に過失相殺がなされる事情があるか否か等は、極めて専門的な判断が必要です。
少しでもお悩みの場合には、介護事故に詳しい弁護士に相談してみてください。

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