介護事故で骨折・死亡したら損害賠償や慰謝料相場は?専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月15日

介護事故で骨折・死亡したら損害賠償や慰謝料相場は?専門弁護士が解説

  • 介護事故で家族が骨折してしまい慰謝料を請求したいので相場を知りたい
  • 介護事故で慰謝料の相場がわかったらどのような手順で請求するのか
  • 介護事故での相場の慰謝料を請求するために弁護士は力になってくれるのか?

高齢化社会にともなう高齢者の増加で、介護施設での事故が頻繁に起きるようになりました。介護施設でお世話になっている家族が骨折などの介護事故にあい、慰謝料の請求をしたい、というケースも近年増えています。

しかし、慰謝料の相場やどのような手順で請求ができるのか、また弁護士は何をしてくれるのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、介護事故に詳しい弁護士が、介護事故で慰謝料の相場を調べる前に知っておくべき知識・慰謝料の相場・慰謝料を請求する手段・慰謝料を相場以下にしないためのポイントを解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護事故で骨折・死亡したときの損害賠償や慰謝料相場の基礎知識

介護事故で慰謝料の相場を調べる前に知っておくべき知識があります。ここでは、以下の3つの基礎知識について解説します。

  • 慰謝料は損害賠償金額の一部
  • 慰謝料を請求できるケース
  • 慰謝料を請求できる人

1つずつ、見ていきましょう。

慰謝料は損害賠償金額の一部

介護事故で慰謝料の相場を調べる前に知っておくべき1つめの基礎知識は、慰謝料は損害賠償の一部である、ということです。

損害賠償金額を決める主な要素は、以下の4つです。慰謝料はそのうちの1つです。

積極損害
  • 事故が生じたために支出を余儀なくされた費用
  • 治療費・通院交通費・入院費など
消極損害
  • 事故が生じていなければ得ることができていたと考えられる費用
  • 逸失利益、休業損害など
慰謝料
  • 精神的苦痛に対して支払われる金銭補償
  • 入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料(以下詳述)
弁護士費用
  • ケースによって請求金額に上乗せすることも可能
  • 総損害額の1割程度が相場

 

慰謝料を請求できるケース

介護事故で慰謝料の相場を調べる前に知っておくべき2つめの基礎知識は、慰謝料を請求できるのはどのようなケースか、についてです。

介護施設で介護事故が起きた場合、どんなケースでも慰謝料を請求できるわけではありません。慰謝料を請求できるのは、事業者に「法的責任があった場合」であり、その責任を果たしていない場合に限られます。

具体的には、事業者側に「安全配慮義務違反」が認められるような場合に損害賠償請求が可能です。

安全配慮義務とは、事業者が介護サービスを提供するうえで、利用者の安全を確保するように努める義務であり、利用者の安全を確保するために事業者は最善の注意を払わなければなりません。安全配慮義務違反であるか否かは、介護事故の発生に「予見可能性」と「結果回避可能性」があったか否かで判断されます。

「予見可能性」とは、施設側で事故が発生することを予見することができたことを言います。たとえば、利用者が過去にも転倒しており、施設側が情報を把握している場合、転倒の予見可能性があったと言えるでしょう。

また「結果回避可能性」とは、事故の発生を予見できた場合に,事故という「結果」を回避できたか否かをいいます。
事故を予見できたとしても、これを防ぐことができない場合には,結果回避可能性がない、ということになります。不可能を強いることはできないという意味です。

結果回避が可能であったにもかかわらず,施設側がそれを回避するための適切な措置を怠った場合、たとえば、見回りもせずに利用者を放置していた場合、施設側に結果回避義務違反があったと言えます。

「予見可能性」「結果回避性」の判断には、利用者の状態・過去の転倒の有無・事故現場の状況などを具体的に検討する必要があります。

慰謝料を請求できる人

介護事故で慰謝料の相場を調べる前に知っておくべき知識の3つ目は、慰謝料を請求できる人についてです。

介護事故により被害者が傷害を負った場合に、以下の人が損害賠償を請求できます。

  • 被害者:被害を受けた本人
  • 相続人(配偶者は常に相続人):被害者が死亡した場合は、以下の順序で権利を引き継ぐ
     1)子、孫などの直系卑属
     2)父母、祖父母などの直系尊属
     3)兄弟姉妹または兄弟姉妹の子
  • 配偶者・子・父母:被害者が死亡した場合にその権利を引き継ぐと同時に、自身の慰謝料請求権を有する場合がある

介護事故での損害賠償や慰謝料相場は?

介護事故で請求できる慰謝料は、入院・通院を余儀なくされたときに請求できる入通院慰謝料・後遺障害が残ったときに請求できる後遺障害慰謝料・被害者が死亡する重大事故が生じたときに請求できる死亡慰謝料があります。ここでは、3つの慰謝料の相場について解説します。

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

1つずつ見ていきましょう。

入通院慰謝料

1つ目は、入通院慰謝料です。

入通院慰謝料は、入院期間と通院期間の長さによって決められます。入院している場合は通院よりも高額となるのが一般的であり、入院・通院の期間が長いほど慰謝料の金額は増額します。

以下は、骨折で2か月入院して、3か月の通院治療を行った場合の慰謝料を、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」によって計算したものです。

介護事件では、慰謝料請求金額に一律の算定基準がありません。そのため、過去の類似の判例などを参考にしながら慰謝料を算出します。具体的には、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」によって算定されることが多い傾向にあります。

入通院慰謝料の算定表(「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」による)

通院
入院
0月 1月 2月 3月
0月 0 53万円 101万円 145万円
1月 28万円 77万円 122万円 162万円
2月 52万円 98万円 139万円 177万円
3月 73万円 115万円 154万円 188万円

たとえば、骨折で1か月入院し、2か月通院した場合の慰謝料の相場は122万円です。しかしこの算定表は、あくまで相場であり、ケース・バイ・ケースにより異なるため、慰謝料を含む損害賠償の見積もりは、弁護士に相談することをおすすめします。

後遺障害慰謝料

2つ目は、後遺障害慰謝料です。

後遺障害慰謝料の相場の算定は、後遺障害等級により決められますが、交通事故と異なり、介護事故では後遺障害等級を認定するための機関がないので、被害者自身がこれを立証する必要があります。

交通事故の慰謝料相場を基準にする場合は、後遺障害等級に応じて、慰謝料の金額が変化します。以下の相場を参照してください。

後遺障害慰謝料の相場(「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」による)

後遺障害等級 後遺障害慰謝料相場 後遺障害等級 後遺障害慰謝料相場
1級 2,800万円 8級 830万円
2級 2,370万円 9級 690万円
3級 1,990万円 10級 550万円
4級 1,670万円 11級 420万円
5級 1,400万円 12級 290万円
6級 1,180万円 13級 180万円
7級 1,000万円 14級 110万円

介護施設でお世話になっている高齢者は、後遺障害が生じる以前に既往症などが見られる場合もあるので、上記の相場が認められるのか明確ではないため、弁護士に相談することをおすすめします。

死亡慰謝料

3つ目は、死亡慰謝料です。

介護事故により、被害者が死亡してしまった場合は、遺族は死亡慰謝料の請求が可能です。

介護事故の死亡慰謝料は、具体的事案により異なりますが、1,000万円から2,000万円が相場であることが多いでしょう。遺族は、さらに固有の慰謝料として100万円程度の慰謝料請求が認められる場合があります。

介護事故で骨折・死亡したときの損害賠償の請求方法

慰謝料の種類から慰謝料請求が可能な場合は手続きを進めていきましょう。ここでは、介護事故で慰謝料を請求する手段について解説します。慰謝料は、以下の3つの手段により請求できます。

・示談
・調停
・裁判

1つずつ見ていきましょう。

示談

介護事故で慰謝料を請求する1つ目の手段は、示談です。

示談とは、トラブルの解決を目的とした利用者と事業者による話し合いのことを言います。その金額は示談あるいは民事裁判で決められます。

当事者の示談で決定する場合は、双方が合意した金額を賠償額とします。

メリットは、裁判手続きが不要であるため、話し合いがまとまりさえすれば早期解決が可能であることです。一方で、当事者が納得しなければ示談が成立しないことがデメリットだと言えます。

弁護士を通じて示談をする場合は、内容証明郵便等で介護施設に損害賠償請求する旨の意思表示をし交渉を始めます。弁護士は、過失の有無、因果関係の有無、後遺障害の有無や程度などの争点を話し合います。
弁護士が双方の間に入ることで、落ち着いて話し合うことができ、交渉がまとまりやすくなります。 

示談交渉により損害賠償の内容が決まったら示談書(合意書)を取り交わして終了です。示談による解決であれば、当事者にも負担が少なく済むことが多いと言えます。しかし、当事者の意見がまとまらずに決裂してしまった場合、あるいは最初から示談交渉を行わない場合には、調停あるいは民事裁判を経て慰謝料を含む損害額が決定されます。

調停

介護事故で慰謝料を請求する2つ目の手段は、調停です。

調停とは、利用者と事業者の間に裁判所で選ばれた調停委員の介入により話合いを進め、お互いが合意することで紛争を解決する方法です。裁判所を利用し中立の第三者である調停委員が間に入る点で、示談交渉とは異なります。

訴訟に比べて手続きが簡易で、費用を抑えた早期解決ができること、また、非公開のためプライバシーが尊重されるというメリットがあります。

裁判

介護事故で慰謝料を請求する3つ目の手段は、裁判です。

示談交渉による解決を望まないとき、示談交渉が決裂してまとまらないとき、あるいは調停が不成立になったときは、裁判を起こすことにより損害賠償の請求ができます。裁判所で双方の主張をし、裁判官に判断を委ねます。ただし、裁判を起こすときは、訴額に応じた訴訟費用、ならびに弁護士費用がかかります。また争点の重さにより1年半から2年の期間を要することもあるので注意が必要です。

介護事故で骨折・死亡したら損害賠償や慰謝料相場を下げないポイント

介護事故の慰謝料を相場以下にしたいためには押さえておくべきポイントがあります。ここでは、3つのポイントについて解説します。

  • 専門の弁護士への相談
  • 介護施設への事故当時の状況確認
  • 正しい手順で実行を進める

1つずつ見ていきましょう。

専門の弁護士への相談

介護事故の慰謝料を相場以下にしないための1つ目のポイントは、専門の弁護士に相談をすることです。

介護事故の慰謝料を相場以下にしないためには、介護事故の解決実績が多数あり介護事故を専門にしている弁護士への相談をおすすめします。

介護事故の慰謝料は、過去の判例や上述した「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」を参照して金額を算定し、これを事業者に提示して示談交渉していきます。

調停や裁判を利用するには、客観的な証拠をそろえたうえで、充分な法的知識と交渉力を持つ必要があります。裁判では1年以上の期間を要する場合も多く、個人で裁判に対応することは事実上不可能でしょう。

介護事故の慰謝料を相場以下にしないためには、何よりも専門の弁護士に相談することが重要です。

介護施設への事故当時の状況確認

介護事故の慰謝料を相場以下にしないための2つ目のポイントは、介護施設に事故当時の状況を確認することです。

介護施設に事故当時の状況を確認する場合は、事業者が作成する「介護事故報告書」の開示を求めることが重要です。

どのような状況で事故が起きたのか・事故発生時の時間・場所・介護の態様・事故防止の対策の有無・職員の介助の態様など、詳細な情報を聴き取るようにしましょう。そのときには介護施設の説明の内容を録音し、記録を残しておくことをおすすめします。

事業者によっては、損害賠償や行政指導を免れるために、この「介護事故報告書」を隠ぺいすることも稀にあります。こうした事態に備えるためにも、事故の状況がわかる現場の写真、目撃証人の証言など、客観的な証拠をできるだけ多く集めておくようにしましょう。

慰謝料の請求には、このような客観的な証拠が必要です。相場以下の慰謝料にならないようにするためにも証拠を集めることが大切です。

正しい手順で実行を進める

介護事故の慰謝料を相場以下にしないための3つ目のポイントは、慰謝料請求を正しい手順で行い実行を進めることです。

介護事故で事業者に慰謝料の請求を検討する場合、以下の手順で行うことが重要です。

  1. 内容証明郵便を送達ののち、示談交渉をする
  2. 介護施設側の責任の有無、損害金額等に折り合いがつかない場合は、調停を検討する
  3. 調停を経ても解決できない場合は、裁判を検討する

正しい手順を踏まずに闇雲に慰謝料を請求しても、これが認められることはほぼありません。相場以下の慰謝料とならないためにも正しい順序で実行を進めることが重要です。

まとめ

今回は、介護事故に詳しい弁護士が、介護事故で慰謝料の相場を調べる前に知っておくべき知識・慰謝料の相場・慰謝料を請求する手段・慰謝料を相場以下にしないためのポイントを解説しました。

介護事故による慰謝料相場はあくまでも目安です。それぞれの事案に応じた適正な金額の慰謝料の算出には、法律の専門知識が欠かせません。

介護事件の解決実績が豊富であり、介護事件を専門にしている弁護士であれば、慰謝料を含む損害賠償請求の金額がいくらになるのかを知ることができます。

介護事故による慰謝料請求を検討している方は、一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。

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