アスベストによる中皮腫への補償は?専門家が解説

2024年04月29日

アスベストによる中皮腫への補償は?専門家が解説

アスベスト被害で中皮腫になったときの補償制度を知りたい
各種補償制度ではどのような補償を受けられるのか
いずれの補償制度を利用できるのか知りたい

数十年も前にアスベストにばく露して最近になって中皮腫を発症したという被害者の方は多くおられます。仕事ができず経済的にも不安な状態におかれている方もおられます。

今回はアスベストの補償制度に詳しい弁護士が中皮腫に罹患した方が利用できる各種補償制度について説明をします。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

アスベストで中皮腫になったら補償を請求!

アスベストが原因で中皮腫を発症する方が増加傾向です。まずは、治療が未だ確立されておらず厳しい現状にあることや、請求できる各種補償について説明します。

中皮腫の厳しい現状

中皮腫とは胸膜、腹膜など内臓を覆う膜の表面を覆う中皮にできる悪性腫瘍、つまりガンです。中皮腫は約8割が胸膜に、約2割が腹膜で発症しています。

中皮腫は非常に稀な種類のガンです。アスベストが唯一知られている原因で、中皮腫のほとんどはアスベストが原因だと言われています。

ごく少量の石綿にばく露しただけでも発症する可能性があり、例えば、工事現場で働いている家族と同居していただけでも、また短期のアルバイトをしていただけでも将来中皮腫にかかる恐れがあります。なお、肺がんとは異なり喫煙は原因となりません。

中皮腫の潜伏期間は10年から50年ほどであり、近時、中皮腫の患者数が増加しています。そして早期発見が困難なことや根治治療が未だ難しいことから、発症すると1,2年で死亡してしまうケースも多いのが現状です。

請求できる補償

アスベストによって中皮腫などの疾患を発症した場合には下記の各種補償制度を利用できます。

労災保険給付
石綿健康被害救済制度
建設アスベスト給付金

労災保険に加入しており、石綿にさらされる業務が原因で発症した場合には労災保険給付の補償を受けることができます。

労災保険に加入していなかった、業務が原因と証明できない、時効期間を経過しているなどの理由で労災保険給付の支給を受けられない場合には、石綿健康被害救済制度を利用します。しかし、同制度の補償内容は労災保険と比較すると大きく劣っているのが現状です。

建設アスベスト給付金は国の責任を認めた最高裁の判断を受けて令和4年1月から実施されている制度で、労災保険給付や救済制度の補償と合わせて受給することができます。

アスベストで中皮腫になったときの労災の補償

まずは労災保険による補償について説明します。

補償の要件

アスベストによる疾患について労災認定を受けるためには、石綿にさらされる作業に従事したことによって下記の対象疾患にかかったことの証明が必要です。

中皮腫が業務上の疾病であると認定されるには、①胸部エックス線写真で第1型以上の石綿肺所見がある、または②石綿ばく露作業従事期間1年以上であることが必要です。多くのケースは②によって認定されています。

中皮腫の潜伏期間は10年から50年と非常に長いため、数十年も前に従事していた作業について証明することが難しいケースもあります。そのような場合には専門の弁護士の協力を得ることをお勧めします。

【対象の疾患】
石綿肺
中皮腫
肺がん
良性石綿胸水
びまん性胸膜肥厚

補償の内容

労災保険の補償内容は下記のとおりです。それぞれについて以下簡単に説明をしますので、より詳しく知りたい方は下記のコラムもご覧ください。

療養補償給付
休業補償給付
障害補償給付
傷病補償年金
介護補償給付
遺族補償給付
葬祭料

療養補償給付

治療や薬の費用負担が不要となりますし、通院交通費の補償も受けられます。特に中皮腫は専門の医療機関が少ない現状にあり、通院交通費もかさみますので補償の意義は少なくありません。

休業補償給付

中皮腫を発症すると仕事を休まざるを得なくなることもあります。休業の第3日目までは事業主が補償する義務がありますが、第4日目からは労災保険から休業補償給付と休業特別支給金の補償を受けられます。

障害補償給付

中皮腫を発症した後一定の障害が残った場合、障害補償給付の補償を受けられます。障害等級によって補償金の金額も異なります。

なお、労災保険ではありませんが、障害年金も受けられる場合がありますので、年金事務所に確認することをお勧めします。

傷病補償年金

療養を開始してから1年6か月を経過してもなお治癒(症状固定)に至らず、かつ一定の傷病等級に該当する場合、傷病補償年金、傷病特別支給金、傷病特別年金の補償を受けられます。

なお、これを受けた以降は休業補償給付の補償はなくなります。

介護補償給付

一定の要介護状態にある障害補償年金又は傷病補償年金の受給者は、介護補償給付の補償を受けられます。

遺族補償給付と葬祭料

アスベストで中皮腫にかかった被害者が死亡した場合、その遺族は遺族補償給付(遺族補償年金又は遺族補償一時金)と葬祭料の補償を受けられます。

受給できる遺族には要件がありますので、詳しくは下記リンク先のパンフレットをご確認ください。

アスベストによる中皮腫への特別遺族給付金の補償

前記の遺族補償給付は被害者の死亡から5年で時効となってしまい、それ以降の請求はできなくなります。

しかし、中皮腫が数十年も前のアスベストが原因とは本人も医師も気が付かず、被害者の死亡から5年の時効期間を経過してしまうケースは少なくありません。このような被害者の遺族を救済するために石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金という制度があります。

特別遺族給付金の請求期限は、令和14年(2032年)3月27日までです。

補償の要件

特別遺族給付金の補償の要件は以下3点です。なお、対象疾病は労災保険の対象と同じでもちろん中皮腫も対象です。

労災保険に加入している事業場の労働者又は特別加入者であること
石綿ばく露作業にに従事したことによって対象の疾病に罹患して死亡したこと
令和8年(2026年)3月26日までに死亡したこと

補償の内容

特別遺族給付金の受給資格者も労災保険の遺族補償給付と同じで一定の要件があります。

特別遺族給付金のうち特別遺族年金は、受給権者等の人数に応じて年間240万円から330万円の金額が支給されます。特別遺族年金の受給権者がいない場合には、他の遺族に最高1200万円の特別遺族一時金が支給されます。詳しくは下記リンク先のパンフレットをご確認ください。

アスベストによる中皮腫への救済給付による補償

次は、石綿健康被害救済制度の救済給付による補償です。

ここまで説明しました労災保険給付と特別遺族給付は労働基準監督署へ請求しますが、救済給付は独立行政法人環境再生保全機構(環境省)へ請求します。

既に救済給付を受給している方でも実は労災保険給付の要件を満たしているケースがあります。労災保険給付の方が支給内容が充実していますので、念のため、労災保険給付の要件を満たしていないか確認することをお勧めします。

より詳しく知りたい方は下記のコラムもご覧ください。

補償の要件

救済給付の対象となるのは下記の疾病です。労災保険とは若干異なります。

また、労災保険とは異なり救済給付では石綿にさらされる業務に従事したことは要件ではありません。ですから、石綿を扱う工場の近所に住んでいたとか、建設現場で働く家族と同居していたなどの理由で中皮腫になった方も補償の対象となります。

【対象疾病】
中皮腫
肺がん
著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

補償の内容

救済給付の給付内容は下記のとおりです。それぞれについて以下簡単に説明をします。

【救済給付】
医療費
療養手当
葬祭料
未支給の医療費と療養手当
救済給付調整金
特別遺族弔慰金
特別葬祭料

医療費

自己負担なく医療を受けられます。石綿健康被害医療手帳を提示すれば窓口での支払いが不要です。

療養手当

療養開始日の翌月から月額103,870円の療養手当を受けられます。

葬祭料

アスベストの被害者が死亡したときは、199,000円の葬祭料が補償されます。

未支給の医療費と療養手当

アスベストの被害者が死亡した場合、未支給となっていた医療費、医療手当があればそれが遺族に支給されます。

救済給付調整金

アスベストの被害者が死亡した場合、生前に支給された医療費と療養手当、遺族に支給された未支給の医療費と療養手当、これらを合計した金額が280万円以下の場合、280万円と既に支給された金額との差額が遺族に支給されます。

特別遺族弔慰金と特別葬祭料

アスベストの被害者が死亡した場合で、生前に救済制度の申請をしていなかった場合、遺族は特別遺族弔慰金2,800,000円と特別葬祭料199,000円の支給を受けられます。

建設アスベスト給付金による中皮腫の補償

最後に、中皮腫の被害者への補償として建設アスベスト給付金を説明します。ここでは概要を説明しますので、より詳しく知りたい方は下記のコラムをご覧ください。

補償の要件

建設アスベスト給付金の要件は下記①から④です。

①日本国内で石綿にさらされる建設業務に従事していたこと
②従事した期間が下記の期間であること
・石綿の吹付け作業に係る建設業務:
昭和47年(1972年)10月1日から昭和50年(1975年)9月30日
・一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務:
昭和50年(1975年)10月1日から平成16年(2004年)9月30日
③①によって下記石綿関連疾病にかかったこと
・中皮腫
・肺がん
・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
・石綿肺(じん肺管理区分が管理2から4又はまたはこれに相当するもの) 
・良性石綿胸水
④労働者、中小事業主、一人親方、家族従事者であったこと

給付金の請求期限と請求権者

建設アスベスト給付金には下記のとおり請求期限があります。初日算入で、請求期限末日が休日の場合は翌開庁日が期限末日となります。

①石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日のうちいずれか遅い日から20年以内
②石綿関連疾病により死亡した日から20年以内

請求権者も定められており、被害者本人の死亡後は、その配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹が請求できます(前に記載の者から優先)。

中皮腫を患った被害者が申請をして認定通知を受けるまでに死亡した場合には請求は無効となり、請求権限のある遺族が改めて請求しなければなりません。速やかに審査が進むような審査書類を揃えることが重要です。

給付金額

建設アスベスト給付金の給付金額は、疾病の種類と被害者が死亡したか否かによって550万円から1300万円の間で定められています。

中皮腫の場合は1150万円で、中皮腫で死亡した場合には1300万円が支給されます。ただし、生前に1150万円を受給し、死亡後に更に1300万円を受給できるのではなく、生前に受給していた場合は差額の150万円だけを追加請求できます。

まとめ

以上、アスベストによる中皮腫の被害に対する各種補償制度について説明しました。

アスベストの被害について補償を受ける場合には過去の業務内容について証明が必要となることがあります。この点について証明が不十分ですと何度も補正、追完を求められて支給までの期間がどんどん延びていきます。

速やかに適正な補償を受けるために、アスベスト被害の補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

アスベストのコラムをもっと読む