公正証書としての婚前契約書と私文書としての婚前契約書

公正証書としての婚前契約書と私文書としての婚前契約書

2019年07月13日

1 はじめに

結婚前のカップルが婚前契約書を作成する場合に、当事者が作った契約書(私文書)のままでも法的効力はあるのでしょうか。また、公正証書にした場合に特別な効力があるのでしょうか。

以下では、私文書としての婚前契約書と公正証書についてご説明します。

 

2 私文書としての婚前契約書に法的効力はあるのか

日本では婚前契約の認知度は低く、また婚前契約について紹介している媒体も専ら夫婦間のルールブックのような紹介をしている例が見られます。恐らくこれらの影響があって、婚前契約は、法的効力のあるものではなく、もっとアンオフィシャルなものという誤解があるようです。

しかし、婚前契約も、売買契約や賃貸借契約、消費貸借契約のような他の契約類型と同様、法的効力は当然にあります。

確かに、婚前契約には家事、育児に関するルールなど、法的効力のない条項も含まれていることがありますので、その全ての条項について法的効力があるわけではありません。しかし、そのような条項以外には基本的に法的効力があり、相手はそれに従う法的義務を負うことになります。

そして、これも他の契約類型と同じく、当事者だけで作成し、締結した私文書としての婚前契約にも当然に法的効力はあります。したがって、公正証書にしなければ法的効力がないというのは誤りということになります。

 

3 公正証書としての婚前契約は作成できるのか

先ほど、当事者間で作成した私文書としての婚前契約にも当然に法的効力は認められるとご説明しました。ただ一方で、公正証書にした方が効力が更に強くなるのではないか、もっとオフィシャルなものになるのではないかという感覚もあります。

以下、婚前契約を公正証書にすべきか、公正証書にできるのかについてご説明します。

⑴ 公正証書とは

公正証書とは、各地に設置された公証役場にいる公証人が作成する公文書の一種です。公証人の多くは、退職した元裁判官や元検察官といった法律の専門家です。

契約書を公正証書とする意義は、概ね、①間違いなくその人物が契約したことの確認と、②契約違反があった場合に速やかな強制執行を可能にすることにあります。

①については、身分証、印鑑証明書の確認によって本人確認が行われます。

②については、私文書としての契約書の違反があった場合、まずはその契約違反を理由に裁判をして、勝訴判決を得てから、強制執行をするという流れになります。公正証書にしておけば、この裁判のプロセスをカットして、いきなり強制執行をすることができます。

⑵ 婚前契約書も公正証書にできるのか

婚前契約書も契約書ですから公正証書にすることができるのではないかとも思えます。

しかし、実際には婚前契約を公正証書としてくれる公証人はほとんどいません。「ほとんど」といいますのは、婚前契約は公正証書にできないと法律上明記されているわけではないからであって、もしかしたら公正証書にしてくれる公証人もいるかもしれないからです。

しかし、これまでに婚前契約を公正証書とすることを了承した公証人にお目にかかったことはなく、決まって断れています。その理由は、別居や離婚が将来の不確かなもので、現に直面しているわけではないことから、将来その違反があった場合に、即座に強制執行を可能とする効力を与えるべきではないからでしょう。

仮に「公正証書」というタイトルの書面を作成してくれる公証人が見つかったとしても、この強制執行を可能にする効力を与えてくれることはまずありません。

したがって、婚前契約書を公正証書にすることはほぼできませんし、そもそも公正証書にする意義はないということになります。

確かに、婚前契約書を締結した人物の本人確認という意義はあるのではないかとも思えます。

しかし、公証人は、婚前契約について内容面での法的効力まで審査はしてくれませんし、婚前契約に詳しい公証人というのも現在は存在しないでしょう。

そうすると、婚前契約書の作成は婚前契約に詳しい弁護士に依頼をすることとなり、本人確認は弁護士において行えば足りることになります。したがって、本人確認という点でも公正証書にする意義はないということになります。

以上のとおり、結論としては、婚前契約書は公正証書にすることはほぼできないし、そもそも公正証書にする意義がないということになります。

 

4 最後に

以上、私文書としての婚前契約書と公正証書についてご説明しました。

婚前契約も他の契約類型と同様、私文書だから法的効力がないということはありません。私文書か公正証書かというよりも、婚前契約の内容面で、法的効力がある内容なのかどうかが重要です。また、婚前契約については、他の契約類型とは異なり、婚前契約の作成、締結のプロセスが一層重要となります。

法的効力のある婚前契約の作成をご希望の際は、婚前契約に詳しい弁護士にご相談ください。

 

以下のコラムもご覧ください。

婚前契約書の法的効力

婚前契約書を作成する上での留意点

 

この記事を書いたのは

代表弁護士春田 藤麿
愛知県弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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