婚前契約の公正証書と私文書の違いとは?弁護士が分かりやすく解説!
最終更新日: 2024年02月28日
結婚前のカップルが婚前契約を作成する場合に、当事者が作った契約書(私文書)のままでも有効なのでしょうか。また、公正証書にした場合に特別な効力があるのでしょうか。 以下では、私文書としての婚前契約と公正証書についてご説明します。
私文書としての婚前契約に法的拘束力はあるか
婚前契約は公正証書にしなければ法的拘束力はない、私文書としての婚前契約は有効ではないと誤解なさっている相談者の方が多くみられます。
日本では婚前契約の認知度は低く、また婚前契約について紹介している媒体も専ら夫婦間のルールブックのような紹介をしている例が見られます。恐らくこれらの影響があって、婚前契約に法的拘束力はなく、非公式なもの、法的拘束力のないものという誤解があるようです。
しかし、婚前契約も、売買契約や賃貸借契約、消費貸借契約のような他の契約類型と同様に法的拘束力があります。
確かに、婚前契約には家事、育児に関するルールなど、法的拘束力のない条項も含まれていることがありますので、その全ての条項について法的拘束力があるわけではありません。しかし、そのような条項以外には法的拘束力があり、相手はそれに従う法的義務を負うことになります。
そして、これも他の契約類型と同じく、当事者だけで作成し、締結した私文書としての婚前契約にも法的拘束力はあります。したがって、公正証書にしなければ法的拘束力がないというのは誤りということになります。
公正証書としての婚前契約の作成の可否、その意義
私文書としての婚前契約に法的拘束力があるとはいえ、公正証書の方がより有効性、信頼性が高いのではないかというご相談もよくお受けします。
そこで、以下では、婚前契約を公正証書とすることの可否、公正証書とすることの意義についてご説明します。
公正証書とは
そもそも、公正証書とは、各地に設置された公証役場にいる公証人が作成する公文書の一種です。公証人の多くは、退職した元裁判官や元検察官といった法律の専門家です。
契約書を公正証書とする意義は、以下の点にあります。
- ①間違いなくその人物が契約したことの確認
- ②契約違反があった場合に速やかな強制執行を可能にすること
①については、身分証、印鑑証明書の確認によって本人確認が行われます。
②については、私文書としての契約書の違反があった場合、まずはその契約違反を理由に裁判をして、勝訴判決を得てから、強制執行をするという流れになります。公正証書にしておけば、この裁判のプロセスをカットして、いきなり強制執行をすることができます。
婚前契約も公正証書にできるのか
婚前契約も契約書ですから公正証書にすることができるのではないかとも思えます。
しかし、実際には婚前契約を公正証書としてくれる公証人はほとんどいません。「ほとんど」といいますのは、婚前契約は公正証書にできないと法律上明記されているわけではないからであって、もしかしたら公正証書にしてくれる公証人もいるかもしれないからです。
しかし、これまでに婚前契約を公正証書とすることを了承した公証人にお目にかかったことはなく、決まって断れています。その理由は、別居や離婚が将来の不確かなもので、現に直面しているわけではないことから、将来その違反があった場合に、即座に強制執行を可能とする効力を与えるべきではないからでしょう。
仮に「公正証書」というタイトルの書面を作成してくれる公証人が見つかったとしても、この強制執行を可能にする法的拘束力を与えてくれることはまずありません。締結した当事者の本人確認という意味での認証をしてもらえるのみです。
公正証書にすると婚前契約の自由さが狭まる
確かに、公証人は、明らかに法律に違反する契約内容については指摘してくれるでしょう。しかし、婚前契約には、法律には違反する、あるいは法的拘束力は認められないけれども、盛り込むことに意義のある条項が多くあります。
例えば、婚姻費用の放棄条項や、一定期間の別居を離婚条件とする条項などは、法的拘束力が認められない可能性はありますが、当事者間でそのような条項に任意に従う限りは婚前契約に盛り込むことに意義があります。
ところが、公証人は、法律に違反する可能性のある契約内容を公正証書にすることに消極的です。そのため、公正証書にすることによって、婚前契約に規定できる内容の自由さが狭まってしまいます。
公正証書にしても婚前契約の信頼性、証明力は上がらない
婚前契約を公正証書にするとその信頼性、証明力が上がるのではないかとも思えます。
婚前契約においては他の契約類型よりも一層、勘違いしていないか(錯誤)、相手に脅されていないか(強迫)という意思表示の有効性がポイントとなります。
婚前契約の信頼性、証明力とは、すなわち、当事者が、契約内容を十分に理解して、自由な意思に基づいて契約を締結したか(意思表示の有効性)どうかに関わります。
しかし、公証人は意思表示の有効性を担保してくれるものではありません。そのため、公正証書にしたとしても、錯誤や強迫を主張して、その有効性を争うことが可能です。
したがって、公正証書にしたとしても婚前契約の信頼性や証明力が上がるものではありません。
結論
以上をまとめると、婚前契約を公正証書とすることは基本的にできず、また公正証書とする意義は、本人確認程度の意義しかなく、他方で、婚前契約の内容の自由さ狭まってしまうというデメリットがあります。
したがって、婚前契約を公正証書とする必要性はない、むしろ公正証書にはするべきではなく、婚前契約に詳しい弁護士に作成を依頼することで必要十分ということになります。
最後に
以上、私文書としての婚前契約と公正証書についてご説明しました。
婚前契約も他の契約類型と同様、私文書だから法的拘束力がないということはありません。私文書か公正証書かというよりも、婚前契約の内容面で、法的拘束力がある内容なのかどうかが重要です。また、婚前契約については、他の契約類型とは異なり、婚前契約の作成、締結のプロセスが一層重要となります。
法的拘束力のある婚前契約の作成をご希望の際は、婚前契約に詳しい弁護士にご相談ください。
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