立退料の請求禁止特約は有効?無効?請求禁止の有効性について弁護士が解説します!
最終更新日: 2022年03月15日
立ち退き交渉において、「立退料を請求禁止の特約があるので、一切、立退料は支払いません」といった主張がなされることがあります。
賃借人は、立退料請求禁止の特約に合意して署名押印をした以上、この特約に応じなければならないのでしょうか。また、立ち退きの訴訟においても、立退料請求禁止の特約が有効とされるのでしょうか。
立退料の請求禁止特約の有効性について、立ち退き交渉の専門弁護士が徹底解説します。それでは早速、まいりましょう。
立退料の請求禁止は認められるのか?
立ち退き交渉をはじめたところ、賃貸借契約書の中に立退料の請求禁止の特約が入っていることに気づくことがよくあります。このような特約は果たして有効なのでしょうか。立退料の請求禁止特約と借地借家法の原則について、まずは見ていきましょう。
- 立退料の請求禁止の特約とは
- 借地借家法と請求禁止特約の関係
- 請求禁止特約を契約書に明記する実益は?
立退料の請求禁止の特約とは
賃貸借契約書には、「立退料の請求を一切認めない」「賃貸人からの退去要求があった場合、賃借人は賃貸人に立退料を請求できず、直ちに退去に応じなければならない」などのような立退料を請求禁止とする規定が入っていることがあります。
賃貸借を行っていると、賃貸人の家族を賃貸物件に住まわせたい、あるいは、賃貸物件が老朽化して建て替えが必要などといった理由から、賃貸人の都合で賃借人に対して明渡しを求める場面があります。
この場合、賃貸人としては、賃借人に対して立退料を支払う必要があるのですが、この立退料の支払いを嫌って、賃貸借契約書に立退料の請求禁止特約を盛り込んでおくことが多いのです。
借地借家法と請求禁止特約の関係
しかしながら、借地借家法には、「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効」とする規定(借地借家法30条)があります。
賃貸借契約書の特約が「無効」になった場合、当該特約は効力を失いますので、原則に従い借地借家法の規定が適用されることになります。
もっとも、借地借家法30条は、「賃借人に不利なもの」と書いているだけで、どのような場合に特約を無効としているのか明確にしているわけではありません。
この点、立退料は、賃貸人の都合によって退去を強いられることになる賃借人を保護するためのものです。そのため、立退料の支払いを受けられないような結論になる場合、当該特約は無効になる可能性が高いと思われます。
請求禁止特約を契約書に明記する実益は?
結局、立退料の請求禁止特約があっても、借地借家法上、無効となる可能性が高いのであれば、そのような特約を契約書に盛り込む実益はあるのでしょうか。
賃貸借契約書の特約に入っていることを理由に交渉することで、任意の退去について、協力を取り付けやすくなるという事実上の効果はあります。
請求禁止特約といっても様々なものがありえるので、賃借人に不利といえなければ、有効性が認められる場合もあるでしょう。そのような請求禁止特約であれば、書面に盛り込む実益は十分にあります。
また、請求禁止特約が入っていることによって、賃貸人の正当事由に有利な影響を与える可能性もあります。立退料そのものをなくすことは難しいとしても、請求禁止特約を盛り込んだことに相応の合理性が認められるのであれば、明渡しの訴訟においてプラスの効果をもたらす可能性も十分にあり得るのではないかと思われます。
立退料の請求禁止が無効とされる具体例
それでは、どのような請求禁止特約が、「賃借人に不利なもの」として無効にされているのでしょうか。「不利なもの」の判断方法をご紹介しつつ、具体例を見ていくことにしましょう。
- 不利な特約の認定基準
- 賃貸人の更新拒絶の通知や正当事由を不必要にさせるもの
- 立退料請求禁止特約を無効とした裁判例
不利な特約の認定基準
まず、賃貸借契約書の中にある請求禁止特約のみを取り出して、その有効性を判断するべきかどうかが問題となります。
この点、請求禁止特約が賃借人に不利なものかどうかの判断にあたって、
最高裁判所は、特約自体を形式的に観察するにとどまらず特約をした当事者の実質的な目的をも考察することがまったく許されないものと解すべきではないと判示しています(最判昭和44年10月7日判時575-33)。
要するに、請求禁止特約が賃借人に不利かどうかは、当該特約単体で判断するのではなく、全ての事情を考慮して総合的に判断するとしています。
実質的にも、総合判断するにあたっては、賃借人の利益が不当に害されないよう、借地借家法30条の趣旨に従って、慎重にすべきでしょう。
もっとも、どのような場合に賃借人に不利となるのかは、最高裁も明確に述べているわけではないため、具体的な事例ごとに見ていくほかありません。
賃貸人の更新拒絶の通知や正当事由を不必要にさせるもの
借地借家法26条の6月前までの更新拒絶通知に関する規制は、賃借人の保護のために極めて重要な規定となりますから、この規定を無にするような請求禁止特約は、明らかに無効というべきでしょう。
また、賃貸人が更新等を拒絶するには、正当事由が必要です。正当事由とは、賃貸目的となっている建物に関して、双方の必要性を比較検討するものですが、借地借家法は、この正当事由によって、賃借人を保護しています。
そのため、正当事由の判断を不必要にさせるような請求禁止特約も、無効となる規定の代表例と言うべきでしょう。
立退料請求禁止特約を無効とした裁判例
また、賃貸借の期限につき条件・不確定期限を付けた場合も、多くの事案においてそのような特約の効力を無効としています。
立退料の請求禁止が例外的に許されるケース
これまで説明してきましたとおり、多くの立退料の請求禁止特約が無効にされていることがお分かりになられたかと思います。しかし、全ての請求禁止特約が無効になるわけではなく、「賃借人に不利」とまで言えないものは、その有効性が例外的に認められます。立退料の請求禁止特約が有効となる例を見ていきましょう。
家賃滞納がある場合の立退料の請求禁止特約
滞納家賃が3カ月分以上に達したときは、直ちに賃貸借契約を解除する旨の特約などは、借地借家法30条に反しないので、有効と考えられています(最判昭和37年4月5日民集16巻4号679頁)。
問題となるのは、1か月でも家賃を滞納したときに直ちに契約を解除するという特約の効力です。
これについて特約の効力を否定した裁判例もありますが、このような特約であっても有効とした判例もあります(最判昭和45年9月18日判時612号57頁)。
定期借家契約の場合
定期借家契約については、借地借家法38条自体が「第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる」として、契約の更新がないこととする定めをおくことを認めています。
そもそも立退料が発生するのは、更新等を拒絶するために正当事由が必要であり、その正当事由を補完するひとつの要素として立退料が求められているからです。
しかし、そもそも、更新等を拒絶するために正当事由が不要であるならば、立退料など必要がありません。
このように、定期借家契約は、賃貸借契約を更新させないことによって、立退料の請求禁止を正面から認めており、借地借家法の例外となる制度といえます。
なお、定期借家契約を締結するには、「公正証書による等」書面によって契約をすることと(必ずしも公正証書にする必要はなく、実際には通常の合意文書の形式で行われています。)、更新がないことを説明する必要があります。これらの手続きを欠きますと、契約の更新がないこととする旨の定めが無効となります。
まとめ
以上のとおり、立退料を請求禁止とする定めの効力は、借地借家法上、簡単にその効力が認められないことがお分かりいただけたかと思います。
それにもかかわらず、法律を知らないまま立ち退き交渉に応じた結果、契約書に立退料の請求禁止の特約があることを理由に言いくるめられて、何の補償も得られずに退去に応じる賃借人も少なくありません。
立退料の請求禁止特約の効力が問題となって交渉が難しくなった場合には、立ち退き交渉に詳しい弁護士によく相談して、最善の解決策を見つけていきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明な点があるときやもっと詳しく知りたいときは、下にある「LINEで無料相談」のボタンを押していただき、メッセージをお送りください。弁護士が無料でご相談をお受けします。