賃貸物件の立ち退き要求は拒否できる?対処法や和解方法を弁護士が解説
最終更新日: 2023年11月24日
- オーナーから立ち退きを要求されて困っている
- オーナーからの立ち退き要求は拒否できるのか
- 万が一、訴えられた場合の対処法を知りたい
賃貸物件のオーナーから突然立ち退き要求されて困っているというケースは多くあります。オーナーからの立ち退き要求に対して、入居者は従うしかないのでしょうか。
今回は、賃貸物件のオーナーから立ち退きを要求されたときの対処方法について専門弁護士が解説します。
賃貸物件の立ち退きを拒否できなくなる「正当事由」とは?
オーナーによる立ち退き請求が認められるには、法律上、その請求に正当事由が必要です。オーナーから主張されるよくある正当事由は以下の4つです。
- オーナーに建物を使用する必要性がある
- 入居者に債務不履行がある
- 建物の老朽化が進んでいる
1つずつ見ていきましょう。
オーナーに建物を使用する必要性が出てきた
1つ目は、オーナーに建物を使用する必要性が出てきたことです。
たとえば、転勤などの理由で遠方に住んでいたオーナーが戻ってきた場合や、オーナーの住む家が火災にあい住むところがなくなってしまったときなどに、オーナーが生活をするために立ち退きを要求することがあります。
この場合は、上手く入居者の理解を得られれば、多少の立退料を支払うことで合意できる事例も多く見られます。ただ、オーナーが他に家や土地を所有している場合など、立ち退きをお願いしてまでその家に住む必要性がない場合は、正当事由として認められないこともあります。
このように、オーナーと賃借人、どちらの物件使用の必要性が高いかということ、そして立退料による補填が判断材料となっています。
入居者に債務不履行がある
2つ目は、入居者に債務不履行があることです。
長期間にわたる家賃滞納や、無断で人に貸している、ペット禁止の部屋でペットを飼っているなどの賃貸借契約の違反があった場合などです。このような債務不履行の事情は正当事由を基礎づける事情となります。
なお、債務不履行の程度が信頼関係を破壊する程度に至っている場合には、賃貸借契約を債務不履行で解除することができますから、立ち退き請求に正当事由や立退料は不要となります。
建物の老朽化が進んでいる
3つ目は、建物の老朽化が進んでいることです。
建物の老朽化による立ち退き要求については、建物の状態が大きな判断材料となります。
築年数が古い物件で、耐震強度が著しく低く、修繕だけでは間に合わず建て替えが必要な場合は、正当事由として認められる場合があります。
一方、築年数は古いものの今すぐに差し迫った危険があるような建物ではない場合には、立退料による補填や移転先の確保などを行うことで初めて正当事由が認められる事例も多いです。
賃貸物件の立ち退き拒否は入居者の正当な権利
オーナーからの一方的な立ち退き要求は、「正当事由」がないと認められません。そのため、正当事由がない限り、入居者はオーナーからの立ち退きを拒否することが可能です。そして、多くのケースでは十分な立退料の支払いがない限りはこの正当事由は認められませんから、十分な立退料の支払いがない限り立ち退きを拒否できます
借地借家法は立場の弱い賃借人が保護されるようにできています。入居者からは特に理由がなくても賃貸借契約を一方的に解約できますが、オーナーは正当事由がない限り一方的に解約することはできないのです。
賃貸物件の立ち退きの拒否に関わる賃貸借契約の中身
賃貸物件の立ち退きの拒否に関わる賃貸借契約の中身を以下の2つの点から解説します。
- 契約の種類
- 契約期間
1つずつ見ていきましょう。
契約の種類
1つ目は、契約の種類です。
賃貸契約には「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があります。どちらも家を借りるということは同じなのですが、普通借家契約と定期借家契約では契約内容が異なります。
それぞれの違いをしっかり理解し、立ち退き要求に従うべきなのか否かを判断しましょう。
普通借家契約
普通借家契約とは、1年や2年など期間を設けて契約をし、契約期間を満了しても解約を申し出ない限りは契約が更新されるようになっている、最もスタンダードな賃貸借契約です。
普通借家契約の更新は、オーナーと入居者の双方の合意に基づき契約更新される「合意更新」と、双方の合意がなくても自動的に契約更新される「法定更新」があり、法定更新とは、1年~6か月前までにオーナーからの更新拒絶の通知がない場合に法律上自動的に更新されるものです。
普通借家契約は更新を前提としているため、入居者としては長期間の入居を想定しています。
そのため、普通借家契約をオーナーから一方的に終了させて、入居者に立ち退き要求をするには正当事由が必要になります。
定期借家契約
定期借家契約とは、定められた期間で契約を終了させる賃貸借契約であり、更新がありません。そのため、定期借家契約では期間満了によって当然に賃貸借契約は終了し、立退料や正当事由は問題とならず、賃借人は当然に立ち退かなければなりません。
なお、賃貸借契約書とは別途に更新がない賃貸借契約であることを説明した書面を交わさなければ定期借家契約とは認められません。
契約期間
2つ目は、契約期間です。
契約期間は、普通借家契約の場合は1年以上と決められていますが、契約期間の定めがない契約の場合は注意が必要です。以下、期間の定めがない場合とある場合の違いを解説します。
期間の定めなし
普通借家契約の場合、1年未満の契約は認められていません。1年未満の契約をしてしまうと、「期間の定めのない契約」となってしまい、オーナーから賃貸借契約の解約を申し込まれると、解約申入れから6か月の経過によって当然に賃貸借契約は終了し、立ち退かなければなりません。
期間の定めあり
1年契約や2年契約で更新を前提としている「普通借家契約」の場合は、契約更新の1年から6か月前に正当事由を添えて更新拒絶の通知を送る必要があります。この場合には立ち退き請求に正当事由が認められない限り、立ち退きを拒否できます。
賃貸物件の立ち退き拒否をして訴えられた場合の対処法
立ち退き拒否をしてオーナーから訴訟提起された場合の対処法は、以下の2つです。
- 訴訟を起こされてもすぐに立ち退きに応じる必要はない
- 訴訟でも立ち退き料が支払われる可能性はある
1つずつ見ていきましょう。
訴訟を起こされてもすぐに立ち退きに応じる必要はない
1つ目は、訴訟を起こされてもすぐに立ち退きに応じる必要はない、ということです。
訴訟を起こされた場合も、オーナーの立ち退き請求に正当事由がなければ、裁判所は立ち退きを認めません。訴訟を起こされたからといって直ぐに立ち退きに応じる必要はありません。そのため、まずは専門弁護士に相談をして、オーナーの請求に正当事由があるのか、訴訟に対してどのような対応をするべきかを検討しましょう。
訴訟でも立ち退き料が支払われる可能性はある
2つ目は、訴訟でも立ち退き料が支払われる可能性はあることです。
立退料の支払いがない限り立ち退き請求に正当事由が認められないというケースは、裁判になっても同じです。そのようなケースでは裁判所は幾らの立退料の支払いを条件として立ち退きをしなさいという判決を出します。
そのため、訴訟になったからといって焦る必要はなく、納得のできる立退料の支払いを得られるよう裁判対応をしていくこととなります。
賃貸物件の立ち退きを拒否したい!対処法を3つのポイントで解説
賃貸物件の立ち退きを要求されたら、どのようなことに気をつけて対処すればよいのでしょうか。以下3つのポイントを解説します。
- 立ち退き料を受け取る前に立ち退かない
- 立ち退き拒否を継続することで譲歩を引き出す
- 立ち退きの問題に詳しい弁護士に相談する
1つずつ見ていきましょう。
立退料を受け取る前に立ち退かない
立退料は、賃貸人の都合で退去をお願いするときに発生する引っ越し代金などを補償するためのお金です。そのため、立退料の支払い前に立ち退きが完了してしまうと、賃貸人としてはもはや立退料を支払う理由がなくなってしまいます。
つまり、立退料を受け取る前に立ち退きをしてしまうと、もはや立退料の支払いを得られなくなってしまうのです。当たり前のようですが、立退料の支払い前に退去してしまったという方は結構おられますので要注意です。
立ち退き拒否を継続することで譲歩を引き出す
多くの立ち退き問題においては、賃貸人よりも賃借人の立場が強いため、納得のできる条件を提示されるまでは立ち退きを拒否することが可能です。
具体的な立ち退き料の提示や、立ち退き後の住居など、納得がいく条件を提示してもらうまで拒否することで、できるだけ早く立ち退いて欲しいと考える賃貸人はより良い条件を提示してくれる可能性があります。
交渉を進めていくうえでは、言った言わないで後からトラブルを起こさないためにも、書面やボイスレコーダーなどに記録し、同意を重ねていくことが重要です。
立ち退きの問題に詳しい弁護士に相談する
オーナーとの交渉がなかなかスムーズに進まない・トラブルに発展しそうな場合はできるだけ早いうちに立ち退き問題に詳しい弁護士に相談するのがおすすめです。
立ち退きを拒否して譲歩を引き出すとは説明しましたが、賃貸人にも予算がありますのでそれを超える立退料を求めたのでは交渉は決裂します。
もちろん、立退料は不要で入居を続けたいということであれば単に立ち退きを拒否すれば良いのですが、立退料も含めて、できる限り良い立ち退き条件を引き出したいのでしたら、専門の弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。
まとめ
今回は、賃貸物件のオーナーから立ち退きを要求されたときの対処方法を解説しました。
立ち退き要求をされても、まずオーナーが主張する正当事由を確認して、そのうえで過去の事例や判例を調べて話をしていくことが大切で、焦らず冷静に対応することがなにより重要です。
すぐに立ち退きに従うのではなく、双方が納得できる和解策を見つけることが大切です。立ち退き問題を専門とする弁護士に相談することもスムーズな解決につながる1つの手段としておすすめします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。