賃貸物件の立退き請求を拒否するには?正当事由と事例から解説
最終更新日: 2025年05月26日
アパートやマンションを借りて住んでいると、ある日突然「出て行ってほしい」とオーナー(大家)から言われることがあります。でも、本当にそのお願いに応じなければいけないのでしょうか?
実は、日本の法律には借主(借りて住んでいる人)を守るためのルールがあり、正当な理由がない立ち退き要求は拒否できる可能性があります。
このページでは、初心者の方にもわかるように、立ち退き拒否のポイントや実際の裁判例を紹介します。
賃貸物件の「立ち退き要求」とは?
立ち退き要求とは、貸主(オーナー)が借主に対して「契約を終了するから退去してほしい」と求めることをいいます。
しかし、契約書に定められた期間が終了する場合やその他の理由で貸主が契約の終了を酋長する場合でも、自動的に出て行かなければならないわけではありません。これは、「借地借家法(しゃくちしゃっかほう)」という法律が借主を強く保護しているからです。
正当事由がなければ、立ち退きは拒否できる
「借地借家法」によると、貸主が賃貸借契約を終了するには、「正当事由(せいとうじゆう)」が必要です。
正当事由とは簡単にいうと、「契約を終了するのにふさわしい、正当な理由」のことです。例えば:
- 建物が老朽化していて、取り壊す必要がある
- 建物をオーナー自身が使う必要がある(例:家族の住居として)
などが該当することがあります。
※ただし、どれも「立ち退き料」などとセットで考慮されるため、簡単に退去させることはできません。
立退きを拒否できた実際の判例
立退きは認められなかったケース(東京地方裁判所令和元年7月5日)
この判例では、賃貸人が、「業務及び休暇で来日した際に日本国内における住居として使用することを考え,平成28年12月26日,本件建物を買い受けた」点を考慮し、賃貸人と賃借人とのそれぞれについて、建物の必要性の程度を比較考量し、「正当事由がない」と判断されました。
結果、借主は立退きを拒否することが認められました。
建物老朽化のみでは「正当事由」が認められなかったケース(東京地方裁判所令和元年12月12日)
オーナーは「建物が老朽化していて危険」である旨主張しましたが、裁判所は「本件建物が居住の用に供することができないほどに朽廃し,危険な状態に陥っているとまでは認め難く,直ちに建て替えをすることが不可欠であるとまでいうことはできない」と判断し、老朽化のみでは「正当理由」はないとされました。
ただ、この件では90万円の立退料の引換えに、明渡しをするよう裁判所は判断しています。
立退きを拒否するとどうなる?
立退きを拒否したからといって、すぐに裁判になるわけではありません。まずはオーナーと話し合い(交渉)が行われ、合意を目指します。
この話し合い(交渉)の中で、立退きをするために必要な費用(たとえば、引っ越し代や新たな物件を借りる際の敷金などがあげられます)を考慮した立退料を提示することが一般的です。
また、立退料の金額だけでなく、その支払時期についても交渉の対象となることがあります。賃借人にとっては、引っ越しなどの費用が必要になるため、実際の立退きまでに立退料が支払われることを希望することが多いですが、他方で、賃貸人にとっては立退料を支払ったのに退去してもらえないリスクがあることから、全部または一部を立退き完了後に支払いたいと考えることが多いです。
こういった交渉を経てもなお、合意ができなければ、調停や裁判に進むことになりますが、その中で「正当事由があるか」ということが判断され、その一要素として「立退き料は妥当か」が検討されます。
弁護士に相談すべきタイミングとは?
以下のような状況なら、早めに弁護士に相談するのが安心です:
- 書面で退去を求められた
- オーナーとトラブルになっている
- 裁判を起こされそう
法律の専門家に相談すれば、自分の状況が「拒否できるものかどうか」具体的に判断してもらえます。
また、条件次第では立退きに応じてもよいと考えている場合、新たな物件の確保のためには、どうしても時間やコストがかかってしまいます。そのため、できる限り早期に弁護士に相談することで、適切かつ一貫した方針で、立退きに関する交渉を進めることが可能です。
まとめ
賃貸物件の立退きを求められても、必ずしも応じる必要はありません。重要なのは、貸主側に「正当な理由」があるかどうか、そして交渉や裁判でそれが認められるかです。
もし少しでも不安を感じたら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。ご自身の住まいを守るために、法律のプロの力を借りることは決して悪いことではありません。
よくあるご質問(FAQ)
Q:口頭で退去してほしいと言われました。無視していいですか?
原則として、書面による正式な通知が必要です。口頭だけでは効力がない場合もあります。
Q:退去しないと訴えられますか?
すぐに訴訟になることはまれですが、調停や裁判に発展する可能性はあります。ただし、裁判所は「正当事由があるか」を慎重に判断します。
Q:立退き料は必ず支払われるのですか?
法的に必ず支払われるわけではありませんが、交渉の中で提示されることが多いです。
あくまでも、賃貸人側の立退き要求が認められるための「正当な事由」の一要素としての位置づけであり、賃借人に立退料を求める権利があるわけではない点に注意が必要です。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。