賃貸の更新拒否はできる?必要な正当事由や判例も解説
最終更新日: 2024年01月27日
- 賃貸借契約の更新拒絶をすることはできるのか
- どのような場合に賃貸借契約の更新拒絶ができるのか
- 更新拒絶に関する裁判所の判例を知りたい
賃貸借契約の大家側から賃借人に対して更新拒絶を行なう場合、借地借家法によって定められた正当事由が必要になります。正当事由がない限り更新拒絶ができず賃貸借契約を結ぶ物件から立ち退きを要求することはできません。
今回は、賃貸借契約を大家側から更新拒絶することはできるのか、更新拒絶に必要な正当事由の判例などについて解説します。大家側だけでなく借主側の方が読んでもためになる内容になっていますのでご一読ください。
賃貸の更新拒否と正当事由に関する基礎知識
まずは、賃貸借契約の更新拒絶と正当事由の判例を読むのに必要な基礎知識を確認しておきましょう。
大家から賃貸借契約の更新を拒絶できる場合は、借地借家法28条に定められています。借地借家法28条では、契約更新が原則とされており「正当な事由がある場合にのみ更新を拒絶できる」としています。
そして正当事由は、大家側と賃借人側それぞれの物件使用の必要性、賃貸借の従前の経過、物件の利用状況や現況に関する事情を考慮して判断されます。
これらの事情の例としては下記のようなものがあります。ただ、通常はこれらの事情だけでは正当事由を満たさないため立ち退き料の支払いによる正当事由の補完が必要となります。
- 大家自身または近親者による使用の必要性
- 増改築や大修繕、再開発などの必要性
- 建物の老朽化
- 賃借人の滞納や無断改装が発覚した場合
- 無断でペットを飼っている、騒音で近所に迷惑をかけている
賃貸の更新拒否に必要な正当事由に関する4つの判例
賃貸借契約の更新拒絶の正当事由に関する判例を4つ紹介します。
- 大家自身に物件を使用する理由が生じた場合
- 自己使用が必要になったら解約すると約束していた場合
- 老朽化の進んだ建物の取り壊しのための更新拒絶の場合
- 土地の有効利用のために更新拒絶をする場合
大家自身に物件を使用する理由が生じた場合
1つ目は、大家自身に物件を使用する理由が生じた場合の判例です。
娘と同居するために、借家を改造し、現在居住している建物と一体のものとして利用することを理由とした倉庫賃貸借の解約申入れについて、立退料100万円で正当事由が認められると判断した判例があります。
建物の大家側の事情と賃借人側の事情とを詳細に認定した上、大家側の方が建物を使用する必要性が大きいと判断し、約3年分の賃料に相当する100万円の立ち退き料の支払いを条件として正当事由を認めました。
参考:大阪地判昭和59年11月12日 判例タイムズ546号176頁
自己使用が必要になったら解約すると約束していた場合
2つ目は、自己使用が必要になったら解約すると約束していた場合の判例です。
大家一家はしばらくアメリカで生活することから賃借人に部屋を貸していました。渡米の際、大家と賃借人は下記のような契約を結んでいました。
「将来帰国するなどして自己使用の必要が生じた場合には賃貸借契約を解約し、賃借人は大家に対し本件建物を明け渡す」
もちろんこのような契約をしても正当事由が不要になるわけではありません。
しかし、数年後に帰国した大家は、賃貸している物件以外に所有する物件がなかったため、帰国後しばらくは親戚の家に身を寄せながら生活をしていました。しかし親戚の家は狭く、親とも同居したいと考えていたという事情もあり、裁判所は立ち退き料の支払いを求めずに大家側が主張する正当事由を認めました。
参考:東京地判昭和60年2月8日 判例時報1186号81頁
老朽化の進んだ建物の取り壊しのための更新拒絶の場合
3つ目は、老朽化の進んだ建物の取り壊しのための更新拒絶の場合の判例です。
大家はビルで専門学校を経営していましたが築35年を経過しており老朽化していることからビルの建て替えを計画しました。入居している飲食店のテナントが退去に反対したため正当事由をめぐる裁判となりました。
競争が激化している専門学校業界で生徒を集めるには建て替えの必要性は確かにあること、20年の賃貸期間で借主の投下資本は回収されていること、当該店舗の売上が会社全体の売上に占める割合はわずかであることなどを考慮して、家賃の3年分に相当する4000万円の立ち退き料の支払いを条件として正当事由を認めました。
参考:東京地判平成8年5月20日 判例時報1593号82頁
土地の有効利用のために更新拒絶をする場合
4つ目は、土地の有効利用のために更新拒絶をする場合の判例です。
賃貸用ビルの建設計画に基づいて、その範囲の土地建物を順次取得を進めていたが、その地区において出版業を営む賃借人が立ち退きを拒否しました。
裁判所は、大家が計画について事前に説明せずに突如として立ち退きを求めた経緯、大家は自己使用ではなく賃貸用物件を建築する予定であること、賃借人は十数年同物件で営業しているおり引き続き使用する必要性があることなどの事情を考慮しました。
結論として、1000万円以上の立ち退き料を提示したり、代替物件の紹介をした事情を考慮してもなお正当事由は認められないと裁判所は判断し、大家の請求を棄却しました。
参考:東京地裁判決平成元年6月19日 判例タイムズ713号192頁
まとめ
本記事では、賃貸借契約を大家側から更新拒絶することはできるのか、更新拒絶ができる正当事由とは何か、また更新拒絶の実際の判例を解説しました。
立ち退き問題で困っていらっしゃる方は、大家側、賃借人側を問わずまずは専門弁護士に無料でご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。