【賃貸】立ち退き通知の書き方・伝え方|トラブル回避の文例集
最終更新日: 2026年04月08日

賃貸物件のオーナー(大家)にとって、建物の老朽化や自己使用などの理由で、入居者に退去をお願いする「立ち退き交渉」は非常にデリケートな問題です。進め方を誤ると、深刻なトラブルに発展しかねません。
この記事では、賃貸経営における立ち退き通知の法的な基本から、トラブルを回避するための通知書の書き方・伝え方、交渉のポイントまでを、文例を交えながら網羅的に解説します。
誠実な対応で円満な立ち退きを実現するための、大家さん必見のガイドです。
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賃貸物件の立ち退き通知とは?まず知っておくべき基本
立ち退き通知とは、大家が賃貸借契約を解約し、入居者に物件の明け渡しを求めるための意思表示のことです。
しかし、この通知は大家がいつでも自由に行えるわけではありません。まずは、立ち退きを求める上で大前提となる2つの基本を理解しておきましょう。
立ち退き通知は大家の一方的な都合では認められない
日本の法律(借地借家法)では、入居者(借主)の居住権は非常に強く保護されています。そのため、大家が「自分で住みたくなった」「もっと高い家賃で他の人に貸したい」といった一方的な都合だけで、入居者を強制的に退去させることはできません。
賃貸借契約の期間が満了するタイミングであっても、大家側からの更新拒絶や解約申し入れが認められるためには、法律で定められた「正当事由」が必要不可欠です。
この「正当事由」がなければ、たとえ契約書に記載された予告期間を守って通知したとしても、法的には無効と判断される可能性が高いのです。
なぜ「書き方」と「伝え方」が重要なのか?
立ち退き交渉がトラブル化する最大の原因は、コミュニケーション不足と法律知識の欠如にあります。
そこで重要になるのが、通知書の「書き方」と交渉時の「伝え方」です。
- 書き方:
法的な要件を満たした書面は、立ち退きを求める明確な根拠となり、後々の「言った・言わない」という水掛け論を防ぐための重要な証拠となります。
内容に不備があれば、入居者側から交渉を拒否される正当な理由を与えてしまいかねません。 - 伝え方:
立ち退きは、入居者の生活基盤を揺るがす重大な要求です。書面を送りつけるだけの高圧的な態度は、相手の感情を逆なでし、頑なな態度を引き出すだけです。
丁寧な説明と配慮あるコミュニケーションは、交渉を円滑に進めるための潤滑油の役割を果たします。
適切な「書き方」と「伝え方」を実践することが、無用な紛争を避け、円満な立ち退きを実現するための第一歩です。
立ち退き通知の前に!大家が準備すべき3つのこと
いきなり通知書を作成するのではなく、入念な事前準備が交渉の成否を分けます。
最低でも以下の3点は必ず確認・準備しておきましょう。
立ち退きの「正当事由」を明確にする
借地借家法第28条で定められている「正当事由」は、立ち退き交渉の根幹です。
正当事由は、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
- 大家側が建物の使用を必要とする事情
例:建物の老朽化が著しく、倒壊の危険性があるため建て替える必要がある。
例:大家自身が高齢の親の介護のために居住する必要があるが、他に住む家がない。 - 入居者側が建物の使用を必要とする事情
例:入居者が高齢で、新たな住居を見つけるのが困難。
例:子供の学区の問題で転校が難しい。 - 建物の利用状況や現況
例:入居者が建物をどのように使用しているか、建物の損傷具合など。 - 立ち退き料の申し出
大家側の正当事由が弱い場合でも、十分な立ち退き料を提供することで、正当事由を「補完」する要素として考慮されます。事実上、ほとんどの立ち退き交渉で重要視されるポイントです。
まずは、ご自身の立ち退き理由が、これらのどの要素に当てはまるのかを客観的に整理し、説得力のある説明ができるように準備しておくことが不可欠です。
賃貸借契約書の内容を再確認する
長年の賃貸経営では、契約書の内容を失念していることも少なくありません。
通知の前に、必ず手元の賃貸借契約書を隅々まで確認しましょう。
- 契約の種類:
「普通借家契約」か「定期借家契約」かを確認します。
本記事で解説している立ち退きは、主に「普通借家契約」を前提としています。
定期借家契約は原則として更新がなく、期間満了で契約が終了しますが、その場合も所定の通知が必要です。 - 解約予告期間:
普通借家契約の場合、大家からの解約申し入れは最低でも6ヶ月前に行う必要があります。
契約書にこれより短い期間が定められていても、6ヶ月前の通知が法律で義務付けられています。 - 特約事項:
「大家の都合で立ち退きを求める場合は、借主は異議なく応じる」といった特約があっても、借地借家法に反し、借主に一方的に不利な内容は無効と判断されることがほとんどです。
立ち退き料の相場と内訳を把握する
前述の通り、立ち退き料は正当事由を補完し、交渉を円滑に進めるための重要な要素です。
法的な支払い義務はありませんが、立ち退き料なしでの交渉成立は極めて困難と考えるべきでしょう。
- 相場:
法律で明確な金額は定められていませんが、一般的には「家賃の6ヶ月分〜1年分」がひとつの目安とされています。
ただし、これはあくまで目安であり、物件の立地や入居者の状況によって大きく変動します。 - 内訳:
なぜその金額になるのか、根拠を示すことが誠意ある対応につながります。
立ち退き料の内訳として、主に以下の費用が考慮されます。①新居の契約初期費用:
敷金、礼金、仲介手数料、保証料など。
②引越し費用:
引越し業者に支払う実費。
③家賃差額補填:
現在の家賃と、同等レベルの新居の家賃との差額(1〜2年分程度)。
④迷惑料・慰謝料:
転居に伴う精神的・時間的な負担に対する補償。
これらの内訳を基に、入居者の不利益をできる限り補填できるような金額を検討することが、交渉の鍵となります。
【ケース別】立ち退き通知書の書き方と文例集
準備が整ったら、いよいよ通知書を作成します。
ここでは、通知書に必ず含めるべき基本項目と、理由別の文例をご紹介します。
立ち退き通知書に必ず盛り込むべき基本項目
どのケースであっても、以下の項目は必ず記載してください。
- タイトル: 「建物明渡請求通知書」「賃貸借契約解約の申し入れ」など
- 通知日: 書類を作成した日付
- 宛名: 入居者の氏名(フルネーム)
- 差出人: 大家の氏名、住所、連絡先、押印
- 対象物件の表示: 住所、建物名、部屋番号を正確に記載
- 契約解除の意思表示: 賃貸借契約を解約する旨を明確に記載
- 明け渡し期限: 通知日から6ヶ月以上先の日付を指定
- 立ち退きを求める理由: 具体的な正当事由を記載
- 立ち退き料の提案: 具体的な金額や支払い条件などを記載
- 今後の協議の申し出: 話し合いに応じる意思があることを示し、連絡先を記載
文例①:建物の老朽化・建て替えを理由とする場合
建物明渡請求通知書
令和〇年〇月〇日
(入居者様 住所)
〇〇 〇〇 様(大家 住所)
大家 〇〇 印
連絡先:xxx-xxxx-xxxx拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 さて、貴殿と当方との間で締結しております、下記物件に関する賃貸借契約(以下「本契約」といいます)につきまして、誠に勝手ながら、本通知書をもって解約を申し入れたく、ご通知申し上げます。
【対象物件】
所在地:東京都〇〇区〇〇一丁目二番三号
建物名:〇〇ハイツ 101号室本物件は築〇年を経過し、老朽化が著しく、耐震性にも重大な懸念が生じている状況です。専門家による診断の結果、大規模な修繕では安全性の確保が困難であり、倒壊の危険を回避するためには建物の建て替えが不可欠であるとの判断に至りました。
つきましては、借地借家法第26条第1項に基づき、本契約を解約させていただき、誠に恐縮ではございますが、令和〇年〇月〇日(※通知日から6ヶ月以上先の日付)をもって、本物件を明け渡していただきたくお願い申し上げます。
なお、長年にわたりご入居いただきました感謝の意と、今回の移転にご協力いただくことへの御礼といたしまして、立ち退き料として金〇〇万円をお支払いさせていただきたく存じます。
今後の具体的な手続きや立ち退き料のお支払い時期などにつきましては、別途ご相談の機会を設けさせていただきたいと存じますので、上記連絡先までご連絡いただけますと幸いです。
多大なるご迷惑をおかけしますことを深くお詫び申し上げるとともに、何卒こちらの事情をご賢察の上、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。 敬具
文例②:大家の自己使用を理由とする場合
賃貸借契約解約の申し入れ
(※冒頭の挨拶、物件情報などは文例①と同様)
さて、この度、当方のやむを得ない事情により、下記物件を自己使用する必要が生じました。 具体的には、当方の母親が高齢となり、常時介護が必要な状態となったため、実家を引き払い、親子で同居する家として本物件を使用せざるを得ない状況となりました。現在、他に居住可能な物件を所有しておらず、経済的な事情から新たな物件を購入することも困難です。
つきましては、借地借家法第26条第1項に基づき、本契約を解約させていただきたく、誠に恐縮ながら、令和〇年〇月〇日をもって本物件を明け渡していただきたく存じます。
(※立ち退き料の提案、今後の相談に関する内容は文例①と同様)
貴殿の平穏な生活を乱すこととなり、大変心苦しい限りではございますが、当方の事情をご理解いただき、ご協力いただけますよう、重ねてお願い申し上げます。 敬具
文例③:入居者の契約違反(家賃滞納など)を理由とする場合
このケースは、大家の都合による立ち退き(正当事由が必要)とは異なり、入居者の債務不履行を理由とする契約解除です。
そのため、6ヶ月前の予告や立ち退き料は原則として不要です。
ただし、信頼関係が破壊されたと認められる程度の違反(一般的に3ヶ月以上の滞納など)が必要です。
手続きとしては、まず「催告書」で支払いを促し、それでも支払われない場合に「契約解除通知書」を送るのが一般的です。
【ステップ1:催告書の文例】
家賃お支払いのお願い(催告書)
(※冒頭の挨拶、物件情報などは文例①と同様)
貴殿にご入居いただいております上記物件の家賃につきまして、令和〇年〇月分から令和〇年〇月分まで、合計〇ヶ月分、金〇〇円が未納となっております。
つきましては、本状到着後、〇日以内に下記口座へお振り込みいただきますようお願い申し上げます。
(振込先口座情報)万一、上記期限内にお支払いいただけない場合は、誠に不本意ながら、賃貸借契約を解除せざるを得ませんので、ご承知おきください。
【ステップ2:契約解除通知書の文例】
賃貸借契約解除通知書
(※冒頭の挨拶、物件情報などは文例①と同様)
さて、令和〇年〇月〇日付の催告書にてお願いしておりました未払い家賃(合計金〇〇円)につきまして、本日現在、未だお支払いの確認ができておりません。
かかる貴殿の行為は、当方との賃貸借契約における重大な債務不履行に該当し、もはや両者の信頼関係を維持することは困難と判断いたしました。 つきましては、本通知書をもって、貴殿との間の賃貸借契約を本日付で解除いたします。
速やかに本物件を明け渡していただきますよう、ご請求申し上げます。
トラブルを避けるための立ち退きの伝え方・交渉のポイント
適切な書面を準備しても、伝え方一つで相手の受け取り方は大きく変わります。
円満な合意形成を目指すためのポイントを押さえましょう。
通知書を送る前に口頭で事情を説明する
最も重要なポイントです。何の前触れもなく内容証明郵便で通知書を送りつけるのは、相手に「宣戦布告」と受け取られかねません。
必ず書面を送る前に、電話でアポイントを取るか、直接訪問して、立ち退きをお願いしなければならない事情を丁寧に、誠意をもって口頭で説明しましょう。
「お願い」「ご相談」という低姿勢で切り出し、まずは相手の話を聞く姿勢を見せることが、信頼関係を築く上で非常に重要です。
通知書は「内容証明郵便」で送付するのがおすすめ
口頭での説明を行い、ある程度の理解を得られた後、正式な通知として書面を送付します。この際、「内容証明郵便」に「配達証明」を付けて送付することをおすすめします。
内容証明郵便のメリット:
- 「いつ、誰が、どのような内容の文書を、誰に送ったか」を郵便局が公的に証明してくれます。
- これにより、後日「そんな通知は受け取っていない」「内容が違った」といったトラブルを防ぐことができます。
- 法的な手続きを進める上での確実な証拠となります。
ただし、非常に強い効力を持つ反面、相手に心理的なプレッシャーを与えるため、必ず事前の口頭説明とセットで行うようにしてください。
交渉を円満に進めるための心構えとテクニック
交渉では、法律論だけでなく、相手の心情に寄り添う姿勢が不可欠です。
代替物件の提案など譲歩案を用意する
金銭的な補償だけでなく、入居者の負担を軽減するための具体的な協力姿勢を見せることが、交渉を大きく前進させます。
- 代替物件の情報提供:
近隣で、現在と同等かそれ以上の条件の物件を複数リストアップして情報提供する。 - 費用の肩代わり:
新居の仲介手数料や、提携する引越し業者の費用を大家側で負担する提案をする。 - 交渉の余地:
最初に提示する立ち退き料は、ある程度の増額交渉に応じられる余地を残しておく。
「お金を払うから出ていってほしい」ではなく、「新しい生活をスムーズに始められるよう、最大限お手伝いします」という姿勢を示すことが大切です。
高齢者や子育て世帯など入居者の状況に配慮する
入居者が高齢者、障がい者、子育て世帯、病気療養中などの場合、転居のハードルが通常より格段に高くなります。
これらの社会的弱者に対しては、裁判所も立ち退きの判断をより慎重に行う傾向があります。
- 立ち退き期限の延長:
通常の6ヶ月より長い、1年程度の猶予期間を設ける。 - 立ち退き料の上乗せ:
転居先の選択肢が限られることを考慮し、相場より手厚い立ち退き料を提示する。 - 転居先の保証人:
大家が保証人になったり、保証会社利用料を負担したりする。
こうした特別な配慮は、法的な義務以上に、人道的な観点からも求められ、結果的に円満解決への近道となります。
もし立ち退き交渉が難航したら?トラブル対処法
誠意を尽くしても、交渉がうまくいかないケースもあります。その場合の対処法を知っておきましょう。
入居者から立ち退きを拒否された場合の対応
まずは感情的にならず、冷静に相手の主張を聞きましょう。
なぜ拒否するのか、その理由(立ち退き料の金額、時期、移転先が見つからないなど)を具体的にヒアリングすることが第一です。
その上で、再度譲歩できる点はないか検討し、粘り強く交渉を続けます。
ただし、腹を立てて「勝手に鍵を交換する」「無断で部屋に入り荷物を出す」といった行為は絶対にNGです。「自力救済の禁止」という法原則に反し、逆に大家側が損害賠償を請求される事態になりかねません。
交渉がまとまらない場合は弁護士に相談を
当事者同士での話し合いが行き詰まったら、不動産問題に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。専門家が介入することで、事態が好転する可能性が高まります。
弁護士に依頼するメリットと相談のタイミング
メリット:
- 法的に正確なアドバイスがもらえる(正当事由や立ち退き料の妥当性など)。
- 入居者との交渉窓口を全て任せられるため、精神的・時間的負担が大幅に軽減される。
- 弁護士名で通知を送ることで、こちらの本気度が伝わり、相手が交渉に応じやすくなる。
- 訴訟になった場合もスムーズに移行できる。
相談のタイミング:
- 立ち退きを考え始めた段階(計画の妥当性を確認するため)。
- 入居者から明確に立ち退きを拒否された時点。
- 交渉が数ヶ月間停滞し、進展が見られない時点。
早めに相談することで、選択肢が広がり、有利に交渉を進められる可能性が高まります。
最終手段としての法的手続き(調停・訴訟)の流れ
交渉が完全に決裂した場合、法的な手続きに移行します。
- 民事調停:
裁判所で、裁判官と調停委員を交えて話し合う手続きです。
非公開で行われ、訴訟よりも費用が安く、比較的短期間で解決できる可能性があります。
あくまで話し合いがベースなので、双方が合意しなければ成立しません。 - 建物明渡請求訴訟:
調停が不成立に終わった場合や、最初から訴訟を選択した場合の最終手段です。
裁判官が、正当事由の有無や立ち退き料の額など、全ての事情を考慮して「立ち退きを認めるか否か」の判決を下します。
時間も費用もかかりますが、判決が出れば法的な強制力(強制執行)を持つことになります。
まとめ:誠実な対応で円満な立ち退きを目指しましょう
賃貸物件の立ち退き交渉は、法律知識が求められるだけでなく、入居者の人生に深く関わる非常にデリケートな問題です。
大家の一方的な都合は通用せず、「正当事由」の存在が不可欠であること、そしてその正当事由を補うために「立ち退き料」と「丁寧なコミュニケーション」が事実上セットであることを、まずは深く理解してください。
成功の鍵は、以下の3点に集約されます。
- 入念な事前準備:
正当事由の整理、契約書の確認、立ち退き料の検討。 - 誠実なコミュニケーション:
口頭での事前説明、譲歩案の提示、入居者への配慮。 - 専門家の活用:
交渉が難航した場合は、ためらわずに弁護士に相談する。
法的な正しさを主張するだけでなく、相手の立場を尊重し、誠意ある姿勢で向き合うこと。
それが、無用なトラブルを避け、円満な立ち退きというゴールにたどり着くための最も確実な道筋です。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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