トレントのIPアドレス特定方法と著作権者の開示請求の仕組み
2025年11月13日

「トレント(Torrent)を利用したところ、プロバイダから『発信者情報開示に係る意見照会書』の通知が届いた」――。
こうしたケースに直面し、不安を抱える方が近年増えています。匿名性が高いと思われがちなトレントですが、実際には利用状況が特定される仕組みが存在します。
本記事では、トレント利用がどのように発覚するのかという「IPアドレス特定の仕組み」から、「著作権者による開示請求の流れ」までを、弁護士が分かりやすく解説します。
不安を解消し、適切に対応するためにも、まずは現状を正しく理解していきましょう。
トレント利用者のIPアドレスが特定される仕組み
トレントは、ファイルをダウンロードしながら同時にアップロード(共有)も行う「P2P(ピア・トゥ・ピア)」技術を採用しています。ユーザー同士が直接ファイルを送受信することができ、大容量のデータを効率的にダウンロード・アップロードするために使用されます。 この構造によって、利用者同士の通信過程でIPアドレスが公開される仕組みになっています。
トレントの仕組みと「発信元リスト」
トレントを利用すると、コンピュータは「シーダー(Seeder)」または「ピア(Peer)」として他の利用者にファイルを提供します。
この通信の際、グローバルIPアドレスがネットワーク上に表示され、他の利用者からも確認可能な状態となります。
著作権を管理する団体(例えば、著作権者から依頼を受けた弁護士や調査会社)は、著作権侵害が行われているトレントのネットワーク(スワーム)に参加し、ファイルを共有しているすべてのPCのIPアドレスを自動的に記録・収集しています。
この記録が、「誰が、いつ、どのファイルを共有していたか」を示す「発信元リスト」となり、特定作業の第一歩となります。
ダウンロード後に削除しても残る記録
「ファイルを削除したから大丈夫」と考えても、アップロードが行われた時点でIPアドレスはすでに記録されています。
トレントソフトが起動している間に共有が行われていれば、その情報はリストに残るため、後から削除しても証拠が消えることはありません。
IPアドレスから個人情報が特定されるまでの法的手続き
もっとも、ファイルのダウンロードにより著作権者が取得できるのは「IPアドレス」と「通信日時」までであり、現時点では利用者個人の氏名までは分かりません。
個人を特定するには、「発信者情報開示請求」という正式な法的手続きを経る必要があります。
この手続きは次の2段階で行われます。
プロバイダへの一次請求
著作権者は、特定したIPアドレスを管理するインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)に対して、以下の情報の開示を求めます。
- 契約者の氏名
- 住所
- 連絡先
プロバイダには通信の秘密を守る義務があるため、開示前に契約者へ「意見照会書」が送付され、開示へ同意するか否かの意向を確認する手続きが取られます。
意見照会書が届いた場合
意見照会書が届いた時点で、著作権者側が法的手続きを進めている段階に入っていることを意味します。
書面を無視せず、早めに適切な対応を検討することが大切です。
裁判所を通じた二次請求
契約者が「開示に同意しない」と回答した場合、多くのケースでは著作権者がプロバイダを相手取り「発信者情報開示請求訴訟」を提起します。
裁判所が「著作権侵害が明らか」と判断すると、プロバイダに契約者情報の開示を命じます。
その結果、著作権者は氏名や住所などの個人情報を取得できる仕組みです。
個人情報が開示された後の流れ
開示が認められた場合、著作権者から直接連絡が届くことがあります。
その目的は主に次の2つです。
示談交渉の提案
裁判に至る前の段階で、金銭の支払い(示談金)と引き換えに訴訟を取り下げる提案です。多くの場合、開示請求通知後にこの示談交渉のプロセスに入ります。
損害賠償請求の訴訟
示談に応じなかった場合や、事案の悪質性が高いと判断された場合、著作権者が訴訟を提起することもあります。
まとめ:弁護士へ相談すべきタイミング
トレントの仕組み上、IPアドレスの特定を完全に避けることは難しいといえます。
重要なのは、プロバイダから「意見照会書」が届いた段階で、すぐに弁護士へ相談することです。
弁護士に相談することで、次のような対応が可能になります。
- 開示に同意すべきかの判断と意見書の作成
- 示談交渉を有利に進めるための準備
- 訴訟リスクの把握と対応策の検討
不安を抱えたまま放置せず、早めの専門相談をおすすめします。
よくある質問【FAQ】
Q:意見照会書はいつ頃届きますか?
A. 侵害行為から数か月〜1年ほどで届くことが多いとされています。
もっとも、手続きに時間を要することもあるため、時間が経っても油断は禁物です。
Q:IPアドレスが特定されているか確認する方法はありますか?
A. 事前に確認する方法はありません。特定された場合のみ、プロバイダから意見照会書が送付されます。
Q:意見照会書を無視しても問題ありませんか?
A. 回答を行わないのは非常に危険です。開示に同意したとみなされるおそれがあるため、期限内に弁護士へ相談し、適切に対応することが重要です。弁護士に依頼することで請求額が妥当かどうかを判断してもらうことで減額の可能性も高まります。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。





