リフォーム工事における債務不履行とは?専門の弁護士が解説します
最終更新日: 2023年11月03日
「予定していた工期になっても工事が完了していないから、債務不履行で損害賠償を請求できないか」
「リフォーム工事に問題があり、施主から債務不履行を理由に裁判を起こされたがどうすればいいのか」
リフォーム工事について請負人の債務不履行を理由に裁判が起きることがよくあります。
建築・リフォーム契約においては以下の法律があります。
建物に契約の内容に適合しない部分(=契約で定められた性能・仕様を満たさない欠陥のこと)が発見された場合、注文者は請負人である建築・リフォーム業者に対して請負人の担保責任を追及することができます(民法第636条)。
これが民法の規定する請負人の債務不履行であり、請負契約においては「契約不適合責任」と呼ばれる特殊な債務不履行として扱われています。
しかしながら、実際に、依頼した建築・リフォーム工事について、契約で定められた性能・仕様を満たさない欠陥など問題が生じた場合、どのように対応すればよいのか施主としては、途方に暮れてしまうこともあると思います。具体的にどのような手段により、施工業者に本来の性能や仕様を実現してもらうのか、具体的な方法を弁護士の視点からご説明します。
リフォーム工事における債務不履行とは?
債務不履行を施工業者に追及する前提として、完成したものが「契約の内容に適合しない」ことが必要となります。
ここでいう「契約の内容に適合しない」とは、一般に、建物・住宅が、契約で定められた仕様に照らし、通常有すべき安全性あるいは性能及び仕様を欠いていることをいいます。しかし、何をもって「契約の内容に適合しない」と認定するのか、実は法律的な判断を要する難しい問題です。
たとえば構造耐力上主要な部分(基礎、柱など)に欠陥があるような事案であれば、この論点で争いになることは少ないのですが、その程度に至らない不良状態については、そもそも「契約の内容に合致していない」にあたるかどうかという入り口レベルでの争いも非常に多くなっています。債務不履行について以下詳しく説明していきます。
- 請負契約における債務不履行とは「契約不適合責任」のこと
- 契約や法令に定めた仕様、性能を満たしているか
- 仕上がりに不満がある場合も債務不履行と言えるのか
請負契約における債務不履行とは「契約不適合責任」のこと
「契約不適合責任」は、債務不履行責任の一種であるとされています。「契約不適合責任」の具体的な条文は以下です。
民法第636条:請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は、注文者は、注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。
つまり「契約不適合責任」とは、売主や施工業者が施主側に引き渡した建物が、種類・品質に関して「契約内容に適合していない」と判断された場合、売主や施工業者が施主側に対して負う責任を指します。
契約や法令に定めた仕様、性能を満たしているか
債務不履行の判断基準としては、契約で定めた仕様や性能を備えているかが参考になります。
契約で約定した性能に違反した場合(約定性能違反)
設計図面で記された仕様のとおり施工されていない場合(約定仕様違反)
が債務不履行の典型例とされます。
また、建物・住宅が、建築基準法、都市計画法、安全条例などに定めた基準に満たない仕様・性能となった場合、原則として債務不履行があると考えられます。これらの法律等は、建物・住宅が建築物として、最低限の仕様・性能を定めた法規だからです。
他方、建築基準関係法令の仕様規定も参考とされることもあります。実際、建築基準法施行令、条例等において、建物の種別や地方の実情に合わせて細かな仕様を定めており、「何センチメートル」という精密さで仕様を規定しています。
もっとも、ここでいう「仕様」とは、本来建物が有すべき最低限の安全性や機能を維持するための「仕様」と必ずしも一致するものではないので注意が必要です。
後者における「仕様」とは、建築基準関係法令が定める基準を確実に実現できる具体的な仕様のことを指していますが、前者における「仕様」は建物の最低基準を定めたものとはいえない場合もあるからです。
そのため、細かな建築基準関係法令のどれかに仕様違反が認められれば、直ちに瑕疵ということはできません。
当該仕様違反が、建物の品質及び機能に対し、具体的にどのような影響を及ぼしているのか実質的検討を加えることが必要となります。
法令が定める仕様に違反していることからすれば、当該仕様違反が建物の品質及び機能に影響しないことの事実上の立証責任(※証拠によって適法な施工であることを証明する責任のことです。)は請負人にあると考えられますので、法令が定める仕様に違反していることは積極的に主張するべきと思われます。
仕上がりに不満がある場合も債務不履行と言えるのか
明確な性能違反・仕様違反が認められないものの、仕事の満足度が不十分であるようなケースがあります。むしろ、私たちが扱っている建築紛争の最も多い類型がこのようなケースなのです。仕事の満足度が不十分という場合、どのように考えるべきなのでしょうか。
ここで、たとえば「契約した仕様・性能の通りに施工はなされており、90点の仕事ではあるが100点ではないので、100点になるように直してほしい」という相談があったとします。
しかし、「債務不履行」とは、一般に、建物が通常有すべき安全性あるいは性能及び仕様を欠いていることをいうとすれば、90点の仕事であれば通常有する程度の性能・仕様を具備していると考えられますので、裁判所がこれを「債務不履行」と判断することは原則としてありません。
注文者側からよくあるご相談として、クロスの貼り方が気になるというものがあります。
壁のクロスが一部剥がれたり、フローリングが汚損されていたりする場合など、社会通念上、看過できない程度にまで出来栄えが劣る場合には、債務不履行に該当すると判断されます。そして、この判断にあたっては、行われた仕事内容と代金額とのバランスで決まると考えられます。
そのため、多くの場合、クロスの貼り方が気になるというだけでは、債務不履行に該当する可能性は低いでしょう。
以上のとおり、「債務不履行」のハードルは高く、「債務不履行」に該当するかどうか、争いとなっている当該性能・仕様によっては、明確な判断ができない事案では、施主としては、建物・住宅の欠陥が通常の性能・仕様を下回ることを説得的に主張していくことが不可欠です。
なお、契約不適合責任は、建物・住宅に債務不履行があれば、過失があるかどうかを問わず施工業者に責任を負わせる点で、非常に重い責任であることから、裁判所が「債務不履行」のハードルを高めに設定することもやむを得ないのかもしれません。
リフォーム工事を注文し債務不履行(欠陥)があった場合、注文者は何ができる?
次に、「債務不履行」が認められた場合、施主は施工業者に対して、以下の条文があります。
契約不適合責任として、履行の追完を請求するときは、「修補」「代替物の引渡し」「不足分の引渡し」のいずれかを請求することができる(民法562条)
履行の追完を請求したにもかかわらず、施工業者が対応してくれないときは、代金の減額を請求することができる(民法563条)
減額交渉
施主側としては、全く工事代金を支払わないとの対応をしてしまうと訴訟になってしまうので、ある程度、金銭を支払う意思を見せつつ、施工業者と減額交渉をすることが有効です。訴訟を回避できるギリギリの落としどころを探りながら交渉するべきでしょう。
減額では賄えない欠陥があれば債務不履行解除も可能
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。(民法541条)
つまり、施工業者が債務を履行しない場合は契約解除も可能です。但し、軽微な場合を除きます。
欠陥に対する補修請求
「契約した性能・仕様のとおりにやり直してください」「建物の悪いところを修繕してください」と求める権利です。
もっとも、無制限の修繕が認められるものではなく、複数の修繕手段が存在する場合最もコストの安い合理的な修繕方法が選択されることになります。
さらに、瑕疵の修補が不能であれば、瑕疵修補請求が認められず、以下の(4)の方法によるしかなくなります。
慰謝料請求できるのか
債務不履行の修補を超えて本来の仕様または性能をグレードアップしたような場合が分かりやすいと思いますが、瑕疵修補に代わる損害賠償請求は、目的物を契約で決められた以上の仕様・性能に作り替え、不当な利益まで注文者に与える制度ではありませんので、債務不履行の修補に過剰な費用を支出した場合、過剰分の請求は認められない可能性が高いでしょう。
判断が難しいのは、債務不履行の程度が軽微で、かつ、高額な費用を支出しなければ修補できない場合です。
修補に過分の費用を要する場合には、修補は取引上の社会通念に照らして履行不能であり、履行不能に関する民法412条の規定が適用されるものとされています。施主は施工業者に対して修補を求めることはできず、契約の解除や損害賠償請求により解決されることになります。
権利行使期間に注意
注文者が、請負人の瑕疵担保責任を追及するには、不適合を知った時から時から1年内に権利行使をする必要があります(民法第637条)。
建物建築の請負契約の場合は5年間、コンクリート造の場合は10年間とそれぞれ期間が延長されているので、これらの場合はあまり問題がありませんが、リフォーム工事の請負契約の場合は原則1年間とされています。
とはいえ、一言にリフォーム工事といっても、ほとんど新築工事に近いものから、内装だけを変更するものなど様々な類型があるため、場合によっては建物建築に準じて権利行使期間が変わる可能性もあります。
なお、実際に権利を行使する手段としては、口頭・書面のどちらでもかまいませんが、「言った・言わない」の問題を防止するため、内容証明郵便の方法によるのが望ましいでしょう。
リフォーム工事の債務不履行に関する民法改正による変更点
2020年4月に施工された改正民法では、「瑕疵」があった場合に注文者が請負人に請求できる権利の内容が少し変わってきます。
これまで説明してきた瑕疵担保責任の規定が削除され、「種類又は品質に関して契約内容に適合」しなければならないという契約不適合責任と呼び方が変わることになっています。
とはいえ、旧民法における瑕疵担保責任の制度の中で実現できていた権利行使が今後はできなくなるというわけではありません。これまでの瑕疵修補請求権は「追完請求権」として、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は「報酬減額請求権」及び「損害賠償請求権」として、それぞれ変わるので、旧民法における基本的な考え方は改正民法も受け継いでいます。
これまで瑕疵が重要でなく、過分の費用がかかる場合には瑕疵修補請求が制限されていましたが、改正民法では修補が不能な場合に限定されたこと、目的物の引渡し又は仕事終了時から1年内に権利行使をする必要がありましたが、不適合を知ったときから1年以内の通知で足りることなど、注文者が権利行使しやすくなった部分もあるため、今後のリフォーム工事においては、むしろ施主を保護する方向での改正であったともいえます。
専門訴訟について
建築の問題が交渉で解決せず、訴訟となった場合、専門訴訟として扱われるということはご存知でしょうか。
東京地裁では民事第22部が建築専門訴訟部となっており、建築関係の専門訴訟が一手に集められています。
専門訴訟と呼ばれているとおり、同部における訴訟の方式は、他の民事部において行われている訴訟の方式とは少し異なっています。
通常は用いられることのない瑕疵一覧表というエクセルシートを用いて当事者の主張立証を行ったり、建築の専門家を交えた話し合いのために裁判の途中でも調停に付すこともあります。これらが専門訴訟と言われる所以でしょう。
まとめ
以上ご説明してきましたように、建物・住宅の仕様や性能について問題となった事案においては、建築専門訴訟部があるように、内容も専門化及び高度化が進んでいるため、ご本人による対応は言わずもがな、経験の浅い弁護士での対応も難しくなっています。
専門訴訟に対しては、当該分野における専門訴訟の対応力がある弁護士に一度相談されるのが望ましいでしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。