2019年09月14日
1 はじめに
建築・リフォーム契約において、建物に「瑕疵」(=契約で定められた性能・仕様を満たさない欠陥のこと)が発見された場合、注文者は請負人である建築・リフォーム業者に対して瑕疵担保責任を追及することができます(民法第634条)。
実際に、依頼した建築・リフォーム工事について、契約で定められた性能・仕様を満たさない欠陥など問題が生じた場合、具体的にどのような手段によって注文者は請負人に権利行使をし、本来想定していた性能・仕様を実現していくのか、以下、ご説明します。
2 リフォーム工事の「瑕疵」とは
⑴ 「瑕疵」の定義
瑕疵担保責任を請負人に追及する前提として、建物の瑕疵が存在しなければなりません。ここでいう「瑕疵」とは、一般に、建物・住宅が、契約で定められるなどした仕様に照らし、通常有すべき安全性あるいは性能及び仕様を欠いていることをいいますが、何をもってそれを認定するのか、実は法律的な判断を要する難しい問題です。
たとえば構造耐力上主要な部分(基礎、柱など)に欠陥があるような事案であれば、この論点で争いになることは少ないのですが、その程度に至らない不良状態については、そもそも「瑕疵」にあたるかどうかという入り口レベルでの争いも非常に多くなっています。
⑵ 契約や法令に定めた仕様、性能を満たしているか?
瑕疵の判断基準としては、契約で定めた仕様や性能を備えているかが参考になります。
当事者が特に契約で約定した性能に違反した場合(約定性能違反)、設計図面で記された仕様のとおり施工されていない場合(約定仕様違反)が瑕疵の典型例とされます。
また、建物・住宅が、建築基準法、都市計画法、安全条例などに定めた基準に満たない仕様・性能となった場合、原則として瑕疵があると考えられます。これらの法律等は、建物・住宅が建築物として、最低限の仕様・性能を定めた法規だからです。
他方、建築基準関係法令の仕様規定も参考とされることもあります。実際、建築基準法施行令、条例等において、建物の種別や地方の実情に合わせて細かな仕様を定めており、「何センチメートル」という精密さで仕様を規定しています。
もっとも、ここでいう「仕様」とは、本来建物が有すべき最低限の安全性や機能を維持するための「仕様」と必ずしも一致するものではないので注意が必要です。
後者における「仕様」とは、建築基準関係法令が定める基準を確実に実現できる具体的な仕様のことを指していますが、前者における「仕様」は建物の最低基準を定めたものとはいえない場合もあるからです。
そのため、細かな建築基準関係法令のどれかに仕様違反が認められれば、直ちに瑕疵ということはできません。
当該仕様違反が、建物の品質及び機能に対し、具体的にどのような影響を及ぼしているのか実質的検討を加えることが必要となります。
法令が定める仕様に違反していることからすれば、当該仕様違反が建物の品質及び機能に影響しないことの事実上の立証責任は請負人にあると考えられますので、法令が定める仕様に違反していることは積極的に主張するべきと思われます。
⑶ 仕上がり具合に不満がある場合も瑕疵といえるのか?
明確な性能違反・仕様違反が認められないが、仕事の満足度が不十分であるような場合、どのように考えるべきか問題となります。
ここで、たとえば「契約した仕様・性能の通りに施工はなされており、90点の仕事ではあるが100点ではないので、100点になるように直してほしい」という相談があったとします。
しかし、「瑕疵」とは、一般に、建物が通常有すべき安全性あるいは性能及び仕様を欠いていることをいうとすれば、90点の仕事であれば通常有する程度の性能・仕様を具備していると考えられますので、裁判所がこれを「瑕疵」と判断することは原則としてありません。
このような瑕疵の一例として、注文者側からよくあるご相談として、クロスの貼り方が気になるというものがあります。
壁のクロスが一部剥がれたり、フローリングが汚損されていたりする場合など、社会通念上、看過できない程度にまで出来栄えが劣る場合には、瑕疵に該当すると判断されます。そして、この判断にあたっては、行われた仕事内容と代金額とのバランスで決まると考えられます。
⑷ まとめ
以上のとおり、「瑕疵」のハードルは高く、「瑕疵」に該当するかどうか、争いとなっている当該性能・仕様によっては、明確な判断ができない事案では、注文者としては、建物・住宅の欠陥が通常の性能・仕様を下回ることを説得的に主張していくことが不可欠です。
なお、瑕疵担保責任は、建物・住宅に瑕疵があれば、過失があるかどうかを問わず請負人に責任を負わせる点で、非常に重い責任であることから、裁判所が「瑕疵」のハードルを高めに設定することもやむを得ないのかもしれません。
3 「瑕疵」があった場合、注文者は何ができるのか?
次に、「瑕疵」が認められた場合、発注者は請負人に対して、
①瑕疵修補請求、または②瑕疵修補に代わる損害賠償請求をすることができます(民法第634条)。さらに、場合によっては③請負契約の解除もすることができます(民法第635条)。
⑴ 瑕疵修補請求
まず①の瑕疵修補請求とは、要するに、「契約した性能・仕様のとおりにやり直してください」「建物の悪いところを修繕してください」と求める権利です。
もっとも、「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない」(民法第634条1項但書)という規定が存在しますので、無制限の修繕が認められるものではなく、複数の修繕手段が存在する場合、最もコストの安い合理的な修繕方法が選択されることになります。さらに、瑕疵の修補が不能であれば、瑕疵修補請求が認められず、②の方法によるしかなくなります。
⑵ 瑕疵修補に代わる損害賠償請求
次に②瑕疵修補に代わる損害賠償請求とは、①を行使しない代わりに、注文者が被った損害を請負人に賠償請求する権利です(もっとも、①と②を併用することも可能です。)。例として、瑕疵を直すために他の業者に修繕させたところ、当該修繕作業に要した費用を請求する場合などが考えられます。
注意点としては、②の方法によった場合でも、全額の費用を請求することができるとは限りません。
瑕疵の修補を超えて本来の仕様または性能をグレードアップしたような場合が分かりやすいと思いますが、瑕疵修補に代わる損害賠償請求は、目的物を契約で決められた以上の仕様・性能に作り替え、不当な利益まで注文者に与える制度ではありませんので、瑕疵の修補に過剰な費用を支出した場合、過剰分の請求は認められない可能性が高いでしょう。
判断が難しいのは、比較的瑕疵が軽微で、かつ、高額な費用を支出しなければ瑕疵を修補できない場合です。法律の条文上明確に規定されていませんが、①の方法によった場合に「瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない」との規定があることのバランスを取ると、費用全額を請求することは難しいのではないかと思われます。
⑶ 契約の解除
さらに③は、仕事の目的物に瑕疵があるというだけでは解除することができず、瑕疵によって契約をした目的を達成することができないことが必要です。
もっとも、建物その他の工作物についてはこの限りでないとの規定があることから、原則として、瑕疵を理由とする契約の解除はできないことになっています。
とはいえ、工事業者が行った工事の瑕疵が重大であった場合、住宅の建替費用相当額を認める判例もあり、実質的には契約解除を認めたのと同じ運用をすることもあります。
なお、同じ解除でも、建物完成前の請負人の債務不履行により契約を解除する場合は、③の解除とは別の規定が適用されますので、建物の建築工事であっても原則として解除することが可能です。
⑷ 権利行使期間にご注意を
注文者が、請負人の瑕疵担保責任を追及するには、目的物の引渡し又は仕事終了時から1年内に権利行使をする必要があります(民法第637条)。
建物建築の請負契約の場合は5年間、コンクリート造の場合は10年間とそれぞれ期間が延長されているので、これらの場合はあまり問題がありませんが、リフォーム工事の請負契約の場合は原則1年間とされています。
とはいえ、一言にリフォーム工事といっても、ほとんど新築工事に近いものから、内装だけを変更するものなど様々な類型があるため、場合によっては建物建築に準じて権利行使期間が変わる可能性もあります。
いずれにしても、仕事終了時から1年経過後に瑕疵の存在を知って相談に来られる方も多いため、ご相談の時点で権利行使不可能となっている可能性もありますから、権利行使期間の制限については注意が必要です。
なお、実際に権利を行使する手段としては、口頭・書面のどちらでもかまいませんが、「言った・言わない」の問題を防止するため、内容証明郵便の方法によるのが望ましいでしょう。
4 民法改正による変更点
2020年4月に施工される改正民法では、「瑕疵」があった場合に注文者が請負人に請求できる権利の内容が少し変わってきます。
これまで説明してきた瑕疵担保責任の規定が削除され、「種類又は品質に関して契約内容に適合」しなければならないという契約不適合責任と呼び方が変わることになっています。
とはいえ、現行民法における瑕疵担保責任の制度の中で実現できていた権利行使が今後はできなくなるというわけではありません。これまでの瑕疵修補請求権は「追完請求権」として、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権は「報酬減額請求権」及び「損害賠償請求権」として、それぞれ変わるので、現行民法における基本的な考え方は改正民法も受け継いでいます。
これまで瑕疵が重要でなく、過分の費用がかかる場合には瑕疵修補請求が制限されていましたが、改正民法では修補が不能な場合に限定されたこと、目的物の引渡し又は仕事終了時から1年内に権利行使をする必要がありましたが、不適合を知ったときから1年以内の通知で足りることなど、注文者が権利行使しやすくなった部分もあるため、今後のリフォーム工事においては、むしろ注文者を保護する方向での改正であったともいえます。
5 専門訴訟について
建築の問題が交渉で解決せず、訴訟となった場合、専門訴訟として扱われるということはご存知でしょうか。
東京地裁では民事第22部が建築専門訴訟部となっており、建築関係の専門訴訟が一手に集められています。
専門訴訟と呼ばれているとおり、同部における訴訟の方式は、他の民事部において行われている訴訟の方式とは少し異なっています。
通常は用いられることのない瑕疵一覧表というエクセルシートを用いて当事者の主張立証を行ったり、建築の専門家を交えた話し合いのために裁判の途中でも調停に付すこともあります。
これらが専門訴訟と言われる所以でしょう。
6 最後に
以上ご説明してきましたように、建物・住宅の仕様や性能について問題となった事案においては、建築専門訴訟部があるように、内容も専門化及び高度化が進んでいるため、ご本人による対応は言わずもがな、経験の浅い弁護士での対応も難しくなっています。
専門訴訟に対しては、当該分野における専門訴訟の対応力がある弁護士に一度相談されるのが望ましいでしょう。
この記事を書いたのは
- 弁護士篠田 匡志
- 第一東京弁護士会 所属
- 経歴
- 立教大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
金沢市にて総合法律事務所勤務
春田法律事務所入所
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