被害届で信頼回復へ。不正アクセス被害から事業を守る法的措置ガイド

2026年04月23日

被害届で信頼回復へ。不正アクセス被害から事業を守る法的措置ガイド

企業を狙うサイバー攻撃が高度化する中、不正アクセスの被害はもはやどの企業にも起こり得る経営リスクです。

万が一被害に遭った際、企業の命運を分けるのは「証拠保全を含む正確な初動対応」と「迅速な法的措置」に他なりません。

本記事では、被害拡大を防ぐためのネットワーク隔離から、警察への被害届提出プロセス、個人情報保護委員会への報告義務、犯人への損害賠償請求まで、事業者がとるべき一連の対応を分かりやすく解説します。

法的・技術的な観点から企業を守り、抜本的な再発防止へと繋げるための必読コラムです。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
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目次

不正アクセス被害発覚!事業者がまずやるべき初動対応

自社のシステムやサーバーへの不正アクセスが発覚した際、最も重要なのは迅速かつ冷静な初動対応です。パニックに陥ってシステムをシャットダウンしてしまうと、重要な証拠が消えてしまう恐れがあります。まずは被害を最小限に食い止めつつ、後の法的措置や被害届の提出に向けた準備を整えましょう。

被害拡大の防止|ネットワークからの隔離

不正アクセスを検知したら、対象となるサーバーやPCを直ちにネットワークから物理的に切断してください。LANケーブルを抜く、またはWi-Fiの接続を切ることで、外部からの遠隔操作やマルウェアの他端末への感染拡大を防ぎます。この時、電源を落とすとメモリ上の重要なログが消えてしまうため、電源は入れたままネットワークのみを遮断するのが鉄則です。

証拠の保全|ログやスクリーンショットを確保する

被害届を提出する際や、後の犯人特定において証拠は不可欠です。アクセスログ、通信ログ、操作履歴などを安全な外部メディアにコピーして保存しましょう。また、改ざんされたWebサイトの画面や、不審なポップアップ、エラーメッセージなどはスクリーンショットや写真に撮って記録しておきます。証拠の保全は、サイバー警察が捜査を行うための最も重要な材料となります。

被害状況の整理と把握|いつ、誰が、何をされたか

証拠を保全したら、「いつ(日時の特定)」「誰が(不審なIPアドレスやアカウント)」「何をされたか(データの窃取、改ざん、システムの破壊など)」を時系列で整理します。この情報を「インシデント報告書」としてまとめておくことで、警察への被害届提出や、関係機関への報告がスムーズに進みます。

なぜ被害届を出すべき?信頼回復につながる3つのメリット

「警察に言っても犯人は捕まらないのでは」「公になると企業のイメージダウンに繋がる」と考え、被害届の提出をためらう事業者も少なくありません。しかし、被害届を出すことには、事業と顧客の信頼を守るための明確なメリットがあります。

公的な被害証明となり、対外的な信頼回復の第一歩になる

被害届を受理してもらうことで、自社が「被害者」であることを示すことができます。顧客や取引先に対して「警察と連携して適切に対応している」という事実を示すことができ、企業としての誠実な姿勢をアピールし、失墜した信頼の回復へと繋げることができます。

警察による捜査が開始され、犯人特定の可能性が生まれる

被害届が受理されると、警察のサイバー犯罪対策部門による本格的な捜査が開始されます。警察は民間企業では行えない強制力を持った捜査を行うことができるため、犯人特定に至る可能性が飛躍的に高まります。

損害賠償請求など、後の法的措置を有利に進められる

犯人が特定された場合、民事上の損害賠償請求を行うことになります。この際、警察の捜査資料や刑事事件としての立件事実が存在することは、裁判や示談交渉において事業者側を非常に有利な立場にしてくれます。

【実践】不正アクセスの被害届を警察に提出する全手順

実際に警察へ被害届を提出する際の手順と、事前に準備すべき事項を解説します。

提出前に準備すべきもの|証拠資料と情報の一覧

警察に被害状況を正確に伝えるため、以下の資料を準備しましょう。

・被害状況を時系列でまとめた報告書

・サーバーやシステムのアクセスログ(改ざんの痕跡がわかるもの)

・被害を受けた画面のスクリーンショット

・自社のネットワーク構成図

・情報セキュリティ管理体制に関する資料(利用規約など)

どこに相談すればいい?サイバー犯罪相談窓口と所轄の警察署

まずは、各都道府県警察に設置されている「サイバー犯罪相談窓口」に電話で事前相談を行うのがスムーズです。その後、指示に従って本社や被害を受けたサーバーの所在地を管轄する警察署へ出向き、被害届を提出します。

被害届の提出から受理までの流れ

管轄の警察署にて、準備した資料をもとに担当の捜査員へ状況を説明します。不正アクセス禁止法違反や電子計算機損壊等業務妨害罪などの要件を満たしていると判断されれば、被害届が受理されます。サイバー犯罪は専門性が高いため、一度の訪問で受理されないこともあります。粘り強く資料を補足することが求められます。

被害届提出後の警察の捜査と事業者が協力すべきこと

受理後は、警察によるログの解析やサーバーの押収(またはデータ提供)が行われます。事業者は、捜査員からの質問への回答や、追加のログ提供など、捜査に全面的に協力する姿勢が不可欠です。

被害届と並行して進めるべき法的報告義務と対応

被害届の提出と並行して、事業者は法的に定められた各所への報告や、ステークホルダーへの対応を迅速に行う義務があります。

個人情報保護委員会への報告義務(速報・確報)

個人情報の漏えい、またはそのおそれがある場合、改正個人情報保護法に基づき、個人情報保護委員会への報告が義務付けられています。発覚から概ね3~5日以内に「速報」を提出し、その後30日以内(不正アクセスの場合は60日以内)に詳細な調査結果をまとめた「確報」を提出する必要があります。

IPA(情報処理推進機構)への情報提供

法的な義務ではありませんが、IPAへ不正アクセスの届出を行うことが推奨されています。提供した情報は匿名化され、サイバー攻撃の傾向分析や社会全体への注意喚起に活用され、二次被害の防止に貢献します。

顧客・取引先への通知と問い合わせ窓口の設置

被害の対象となった顧客や取引先への個別通知、および自社Webサイト等での事実の公表を迅速に行います。同時に、専用の問い合わせ窓口(コールセンターやメール窓口)を設置し、不安を抱える顧客に対して誠実に対応する体制を整えましょう。

犯人への法的措置|刑事責任と民事責任の追及

犯人が特定された場合、事業者は刑事と民事の両面から責任を追及することができます。

不正アクセス禁止法違反など刑事責任の追及

他人のID・パスワードを無断で使用してシステムに侵入する行為は、「不正アクセス禁止法違反」に問われます。また、データを破壊したり業務を停止させたりした場合は「電子計算機損壊等業務妨害罪」、データを盗んで脅迫した場合は「恐喝罪」など、複数の刑法犯罪として刑事処罰を求めることができます。

損害賠償請求など民事責任の追及

刑事責任とは別に、不正アクセスによって被った損害(調査費用、システム復旧費用、売上減少分、顧客への見舞金など)について、犯人に対して民事訴訟を起こし、損害賠償を請求することが可能です。

警察だけでは不十分?弁護士に相談するメリットとタイミング

サイバー犯罪の対応において、警察だけでなくIT分野に強い弁護士を介入させることで、より確実な解決を目指せます。

弁護士だからできること:犯人特定から損害賠償請求まで

警察は「刑事処罰」を目的として動きますが、被害者の「被害回復(お金の問題)」には介入しません。弁護士に依頼することで、警察と連携しながら犯人特定を進め、特定後には速やかに損害賠償請求や示談交渉など、民事上の被害回復を行うことができます。

警察との役割の違いと連携方法

警察は犯人の逮捕・処罰を担い、弁護士は被害企業の利益と権利を守る役割を担います。弁護士が介入することで、法的に整理された報告書を作成でき、警察が被害届を受理しやすくなるという連携のメリットもあります。

弁護士に相談すべき最適なタイミング

不正アクセスが発覚した直後、つまり初動対応の段階で相談するのが最適です。証拠保全の指示や、個人情報保護委員会への報告、公表文のリーガルチェックなど、初期段階から致命的なミスを防ぐための助言を得られます。

二度と繰り返さないための再発防止策

事後対応が一段落したら、同様の被害を防ぐための抜本的な対策を講じる必要があります。

技術的対策:ID・パスワード管理の見直しとセキュリティ強化

まずは侵入経路を特定し、システムの脆弱性を修正します。その上で、全従業員のパスワードの複雑化、多要素認証(MFA)の導入、アクセス権限の最小化、WAFやEDRなどのセキュリティシステムの導入を行い、技術面での防御力を高めます。

組織的対策:インシデント対応マニュアルの作成と従業員教育

今回の反省を活かし、インシデント対応マニュアルを策定・更新します。また、従業員に対して標的型攻撃メールの訓練や、情報セキュリティに関する定期的な研修を実施し、組織全体のセキュリティ意識を向上させることが不可欠です。

まとめ

不正アクセス被害に遭った際、事業存続の鍵を握るのは「初動対応の正確さ」と「警察への被害届提出を含む適切な法的措置」です。被害届の提出は、単なる犯人探しにとどまらず、顧客からの信頼回復や後の法的トラブルを防ぐための重要なステップとなります。発覚時には速やかにネットワークを遮断して証拠を保全し、警察やITに強い弁護士、関連機関と連携しながら、誠実かつ透明性のある対応を心がけましょう。そして、同じ過ちを繰り返さないよう、強固なセキュリティ体制を再構築することが企業の責務です。

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