転落事故で会社の責任を問うには?弁護士が解説する損害賠償請求の流れ
2026年06月02日

建設現場や工場、倉庫などで発生しやすい転落事故。作業中に高いところから落ちてケガをした場合、「自分の不注意だった」「自分が気をつけていれば」とご自身を責めてしまう方が少なくありません。
しかし、仕事中の転落事故は決して労働者だけの責任ではありません。多くの場合、安全な労働環境を整えていなかった「会社の責任」が存在します。
本記事では、転落事故において会社の責任をどのように問い、適正な損害賠償を請求していくのか、その流れやポイントについて詳しく解説します。
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転落事故で会社に問える2つの法的責任
転落事故が発生した際、会社に対して追及できる法的責任は、大きく分けて以下の2つが存在します。会社の責任を問うための重要な根拠となります。
安全配慮義務違反:会社は労働者の安全を守る義務がある
労働契約法第5条により、会社には「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」という安全配慮義務が定められています。
転落事故において、会社が十分な足場を組んでいなかった、安全ネットを張っていなかった、安全帯の使用を指導・徹底していなかったなどの場合、この安全配慮義務違反に問うことができます。
転落事故と会社の責任を考える上で、最も重要な法的根拠です。
使用者責任:他の従業員の過失も会社の責任
民法第715条に定められている使用者責任は、従業員が仕事中に第三者(他の従業員も含む)に損害を与えた場合、その従業員を雇っている会社も損害賠償責任を負うというものです。
例えば、同僚が足場の固定を怠ったために足場が崩れて転落した場合や、クレーンの操作ミスで転落させられた場合など、他の従業員のミスが原因であっても、会社の責任として損害賠償を請求することが可能です。
会社の責任を追及する前にまず行うべきこと:労災(労働災害)の申請
会社の責任を問い、損害賠償請求を行う前に、まずは必ず労災保険の申請を行いましょう。労災申請は労働者の正当な権利です。
労災保険から受けられる補償の種類と内容
労災保険からは、労働者のケガや生活を支えるための様々な給付が行われます。
療養(補償)給付:治療費の補償
事故によるケガの治療にかかる費用(診察代、薬代、手術代など)が全額補償されます。労災指定病院であれば窓口での支払いは不要です。
休業(補償)給付:休んでいる間の収入補償
ケガの治療のために働くことができず、賃金を受け取れない場合、休業4日目から、給付基礎日額の約8割(特別支給金を含む)が支給されます。
障害(補償)給付:後遺障害が残った場合の補償
治療を続けてもこれ以上回復しない状態(症状固定)となり、後遺障害が残った場合、その等級に応じて年金または一時金が支給されます。
後遺障害等級ごとの補償金額の目安については、こちらの記事をご覧ください。
なぜ労災申請が重要なのか?事故が公的に認定される第一歩
労災申請を行い、労働基準監督署から労災認定を受けることは、その転落事故が「業務中」に起きたものであることを公的に証明することになります。
これは、後に会社の責任を問い、損害賠償請求を行う際の強力な証拠となります。
労災申請の手順や書類の準備については、以下の記事で図解つきでわかりやすく解説しています。
労災保険だけでは不十分な理由:慰謝料などは支払われない
労災保険は非常に重要な制度ですが、すべての損害をカバーできるわけではありません。
最大のポイントは、労災保険からは「慰謝料(精神的苦痛に対する補償)」が一切支払われないという点です。
また、休業損害も全額は補償されません。そのため、労災保険でカバーしきれない損害(慰謝料や休業損害の差額など)については、会社に責任を問い、直接損害賠償を請求する必要があります。
労災保険給付に上乗せできる損害賠償請求の方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
会社の責任を問い損害賠償を請求する具体的な流れ
労災の手続きと並行して、あるいは症状固定後に、会社に対して損害賠償を請求していく流れを解説します。
証拠を集める
会社の安全配慮義務違反などの責任を証明するためには、客観的な証拠が不可欠です。
事故直後の現場写真や図面
事故現場の状況(足場の状態、手すりの有無、安全ネットの設置状況など)がわかる写真や、作業現場の図面は極めて重要な証拠となります。
医師の診断書やカルテ
ケガの程度や治療の経過、後遺障害の状態を証明するために必要です。
同僚や目撃者の証言
事故当時の状況や、日常的な会社の安全管理体制(安全指導があったかなど)を知る同僚の証言も、会社の責任を裏付ける証拠となります。
会社の安全管理体制に関する資料
作業計画書、安全衛生委員会の議事録、リスクアセスメントの記録など、会社が安全対策をどのように行っていたかを示す資料を集めます。
請求できる損害額を計算する
収集した証拠と診断結果をもとに、会社に請求する損害賠償額を算出します。
治療費・通院交通費など
労災でカバーされなかった実費や、通院にかかった交通費などを計算します。
休業損害(労災の休業補償との差額)
労災保険の休業補償給付では本来の給与の約6割しかカバーされないため、残りの4割分を会社に請求します(特別支給金は損害賠償額から控除されません)。
入通院慰謝料・後遺障害慰謝料
ケガをして入院・通院を強いられた精神的苦痛に対する入通院慰謝料と、後遺障害が残ったことに対する後遺障害慰謝料を計算します。これらは会社の責任を問うことで初めて得られる補償です。
労災事故における慰謝料の相場や計算式については、以下の記事で詳しく解説しています。
逸失利益(後遺障害で将来得られなくなった収入)
後遺障害によって労働能力が低下し、将来にわたって得られるはずだった収入が減ってしまうことに対する補償です。
会社と交渉する(示談交渉)
損害額が確定したら、会社側(多くの場合、会社が加入している使用者賠償責任保険の担当者や顧問弁護士)と示談交渉を行います。
会社の責任の有無や過失割合、損害額について話し合います。
交渉で解決しない場合は法的手続きへ(労働審判・訴訟)
示談交渉で合意に至らない場合は、裁判所に労働審判を申し立てるか、民事訴訟(裁判)を起こして会社の責任を厳しく追及し、適正な賠償を求めていきます。
転落事故で損害賠償請求が認められやすいケース
会社の安全配慮義務違反が認められやすく、損害賠償請求が成功しやすい代表的なケースを紹介します。
十分な高さの足場や手すりがなかった
労働安全衛生規則に定められた基準を満たす足場や手すり、囲いなどが設置されていなかった場合、会社の責任は明白です。
安全帯(フルハーネス)の使用指示や点検が徹底されていなかった
高所作業において安全帯の着用を指示していなかった、あるいは劣化した安全帯を放置していたような場合、安全配慮義務違反が問われます。
悪天候など危険な状況で作業を強行させた
強風や大雨、大雪など、明らかに転落の危険性が高い状況で作業を中止させず、強行させた場合も会社の責任となります。
過去にも同様の事故が起きていた
過去に同じ現場や同じ作業で転落事故が起きていたにもかかわらず、安全対策を改善していなかった場合は、会社の過失が重く問われます。
損害賠償請求で注意すべき点
会社の責任を追及する上で、いくつか注意しておかなければならないポイントがあります。
過失相殺:労働者側の不注意も考慮される
労働者自身にも、安全帯をかけ忘れた、指定された手順を守らなかったなどの不注意(過失)があった場合、その割合に応じて請求できる損害賠償額が減額される「過失相殺」が行われることがあります。
過失相殺によって損害賠償額が減額される仕組みや割合の決まり方については、こちらの記事で解説しています。
損害賠償請求権の時効
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権は、原則として権利を行使できることを知った時から5年(または20年)、不法行為(使用者責任など)に基づく場合は損害および加害者を知った時から5年(または20年)で時効を迎えます。
早めの行動が重要です。
元請会社の責任を問えるケース(建設業など)
建設現場などで下請け業者の労働者が転落事故に遭った場合、直接の雇用主である下請け会社だけでなく、現場全体の安全管理を統括する元請会社に対しても責任を問い、損害賠償を請求できるケースが多くあります。
転落事故の損害賠償請求を弁護士に相談するメリット
転落事故で会社の責任を問い、適正な賠償を得るためには、専門的な知識が必要です。弁護士に依頼することで以下のメリットがあります。
会社との交渉をすべて任せられる
直接会社と交渉するストレスから解放されます。弁護士が窓口となることで、会社側も誠実に対応する可能性が高くなります。
適正な損害賠償額を算定・請求できる
裁判基準(弁護士基準)を用いて損害額を計算するため、会社側が提示する示談金よりも大幅に増額するケースがほとんどです。
法的根拠に基づき会社の責任を的確に主張できる
安全配慮義務違反などの法的根拠を的確に主張し、証拠に基づいて会社の責任を明確に証明することができます。
精神的な負担が軽減され、治療に専念できる
複雑な手続きや交渉をプロに任せることで、被害者ご自身はケガの治療やリハビリ、生活の再建に専念することができます。
労災・損害賠償請求を弁護士に依頼するメリットや費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ):転落事故と会社の責任について
Q:自分の不注意(過失)で転落した場合でも会社の責任を問えますか?
A:はい、問える可能性が十分にあります。
たとえ労働者自身に「足を滑らせた」「安全帯をかけ忘れた」といった不注意があったとしても、会社側が「滑りにくい足場を設置していなかった」「安全帯の確実な使用を徹底・監視していなかった」のであれば、会社の安全配慮義務違反(責任)が問われます。
ただし、労働者側の不注意の程度に応じて「過失相殺」が行われ、最終的に受け取れる損害賠償額が減額されるケースはあります。
ご自身の過失割合がどの程度になるかは事案によって大きく異なるため、専門家による判断が重要です。
Q:退職した後でも、転落事故の責任を会社に問う(損害賠償請求する)ことは可能ですか?
A:はい、退職後であっても損害賠償請求は可能です。
転落事故が原因で退職を余儀なくされた場合や、退職後に後遺障害が確定した場合でも、事故発生時に会社が負っていた安全配慮義務違反の責任が消滅するわけではありません。
ただし、損害賠償請求には時効(原則として安全配慮義務違反の場合は5年または10年、不法行為の場合は3年)があります。
時間が経つと現場の証拠や証言を集めるのが難しくなるため、退職後であっても早めに弁護士などの専門家に相談して手続きを進めることをお勧めします。
Q:会社が「労働者個人の責任だ」と言って労災申請に協力してくれません。どうすればよいですか?
A:会社が転落事故の責任を認めず、労災申請(事業主証明の署名・捺印)を拒否するケースは残念ながら存在します。
しかし、会社が協力してくれない場合でも、「事業主が証明を拒否している」という旨を記載した理由書を添付することで、労働者自身で労働基準監督署へ労災申請を行うことができます。
労災認定は会社ではなく労働基準監督署が客観的な事実に基づいて判断するものです。会社の非協力的な態度は、後々の損害賠償請求において会社の責任逃れとして不利に働くこともあります。
泣き寝入りせず、ご自身で申請手続きを進めましょう。
会社が労災申請に協力しない場合の相談先や対処法については、こちらの記事で詳しく解説しています。
Q:労災認定されなかった場合、会社の責任を問うことは一切できないのでしょうか?
A:労災認定が下りなかったからといって、直ちに会社の責任を問えなくなるわけではありません。
労災認定の基準と、裁判所が判断する安全配慮義務違反(会社の責任)の基準は全く同じではないため、労災が不支給であっても民事上の損害賠償請求が認められる可能性は残されています。
しかし、労災認定は「業務に起因する事故」であることの強力な公的証明となるため、認定されていない状態での損害賠償請求はハードルが高くなるのが現実です。
労災の不支給決定に対しては審査請求(不服申し立て)ができるため、まずは労災認定を覆すための手続きを含め、弁護士に対策を相談するのが最善の選択と言えます。
まとめ
仕事中の転落事故は、労働者だけの不注意で片付けられるものではありません。多くのケースで、安全な環境を提供しなかった「会社の責任」が存在します。
労災保険の申請を確実に行った上で、労災では賄いきれない慰謝料や休業損害の差額については、会社に対して損害賠償を請求することが重要です。
証拠集めや示談交渉など専門的な知識が求められるため、一人で悩まずに、まずは労働問題や交通事故に詳しい弁護士に相談し、適正な補償を獲得への第一歩を踏み出しましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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